追放されし者たちの話   作:J坊

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お待たせしました。新作です。


錬金術師の場合

 --悲劇の始まりはとある錬金術ギルドからだった。

 

「きみにはこの錬金術ギルドを抜けてもらう」

「な、なぜですか⁉ いったいなんの理由があって!?」

「そうです! 彼は頑張ってます‼ 十分、お仕事もしています‼」

 

 追放を宣言したギルドマスターに目の前の錬金術師が声を荒げて、抗議する。

 それに受付嬢も同意するが、しかし、ギルドマスターは「もう決まったことだ」と首を横に振りあきらめを促した。

 

「残念だが、キミの業務に問題があると判明してな。これ以上は錬金術師ギルドの看板に傷がつく可能性があるのだ」

「僕の業務に!? 僕はちゃんと仕事してます‼」

「そ、そうですよ‼」

「うん、仕事はしてるんだよ。仕事は。ただ……」

 

 肝心なのはその内容なのよ、とギルドマスターは業務日報を取り出す。

 その内容は……

 

 

 

 

 

〇月〇日

・メガネ500個作成

・メガネフレーム200個作成

・新作メガネのデザイン打ち合わせ

 

〇月×日

・メガネ1000個作成

・老眼鏡のズレの修正

・オーダーメイドメガネ作成の打ち合わせ

 

〇月△日

・メガネ2200個作成

・メガネの多様性に関する論文の意見討論会

・新しいメガネ洗浄剤の開発……

 

 

 

 

 

「メガネばっかじゃん」

 

 そうメガネばっかりだった。

 この男、メガネしか作ってないのである。

 その事実に受付嬢は、スッと気まずそうに眼を逸らした。バレてしまった。そう言わんばかりに。

 

「メガネしか作ってないじゃん」

「仕方ないじゃないですか! 僕のスキルは『メガネ錬成』なんですから‼ このように――」

 

 言うや否や、両手をパンッと合わせると、そこから大量のメガネが錬成される。

 

「メガネしか作れないんですから‼」

「メガネ屋になれ」

「メガネの錬金術師と呼んでください‼」

「だまらっしゃい」

「価格の違いを見せてやんよ‼」

「だまらっしゃいって。悪ノリするんじゃないよ」

 

 荒ぶる川より現れし御大に怒られかねないので、やめてほしい。

 二人そろって、なにやってんの?

 

「……ともかく、錬金術全般を扱うギルドでメガネしか錬成できないのは致命的なんだよ。知り合いのメガネ屋に紹介状を書いておいたから、うちを抜けてそこで腕を振るった方がきみのためだ」

 

 あと、他の錬金スキルが正直微妙だし。そのことも指摘すると、二人そろって目を逸らした。

 

「くっ……たしかに合理的に考えればそうかもしれません……わかりました……」

「私は反対です! 彼が辞めたら、いつイチャイチャしたらいいんですか⁉」

「家でやってくれ」

 

 受付嬢の訴えも一蹴。ギルドマスターは錬金術師を解雇した。

 解雇したのだが……

 

 

 ――後悔しても、もう遅いとはこう言うことか。

 

 

 異世界歴20××年。人類は滅びようとしていた。

 燃え盛る街に逃げ惑い、泣き叫ぶ人々を横目に、かつて錬金術ギルドのマスターと呼ばれた男は心の底から後悔する。

 

(まさか、あの時の選択がこのような事態を招くとは……わしの眼は節穴だった……)

 

 きっかけは後日、新たな錬金術師を加入させた時のこと。

 かの錬金術師を訪ねて眼鏡の修理を依頼された。

 

「いや、うち錬金術ギルドであって、メガネ屋じゃないんですけど」と言いつつも、お客様に断るできることはできず、新入りに修理を任せた。

 任せたのだが……

 

「ギルドマスター、大変です‼ 先日闇ギルドから押収し、封印していた人工賢者の石がありません‼」

「なにぃ!?」

「あ、さーせんwメガネ修理するのに使っちゃいましたぁ‼」

「なにやってんの!?」

 

 新入りは無能だった。えげつない位無能だった。

 なんせ人工賢者の石なんていわくつきのものを無断で使用するくらいに。

 

 人工賢者の石。それは錬金術師の生み出した禁忌の存在。

 生きた人間を素材とすることで、肉体情報を魔力・精神を演算用魔術式に変換することで、半永久的に錬成が可能となる。

 しかし、そんな人の道を踏み外したものが、まともに使えるわけがない。

 後に錬成した人間の魂が怨霊と化し使用者の精神を汚染することが判明した。

 故に錬金術師協会は人工賢者の石を第一級危険魔道具に認定。

 手に入れた場合は教会の司教や聖女の協力の下、分解することが義務付けられている。

 

 そんなものを使って修理したメガネがまともなものになるわけがない。

 異変はすぐに起こった。

 新入りのメガネを受け取った依頼人が、裸眼の人間に襲い掛かったのだ。

 襲われた人間はメガネを掛けられ、同じように裸眼の人間に襲い掛かり、襲われた人間はさらに……

 気づけばパンデミックのごとくメガネを掛けた人間は増え続け、結果、人類はメガネに支配されようといていた。

 

「あのメガネに触るなぁ‼ 乗っ取られるぞぉ‼」

「いや、どういう状況!?」

 

 前線で避難民を誘導しながら戦う受付嬢。

 ギルドマスターがツッコんでも、もう遅い。

 世界はメガネに支配されようとしていたのだ。

 

「人がメガネを掛けているのではない! メガネが人を掛けているのだ‼」

 

 先頭でメガネたちを先導している、かつて新入りと呼ばれていた元凶は演説を終えるとメガネからビームを放ち、街を破壊する。

 それに従い、周囲のメガネたちもビームを発射。

 人類の築いたバリケードを破壊し、兵士たちを蹂躙していく。

 

「くっ……こんなことになるんだったら、彼を追放するんじゃなかった」

「そうすれば、私もいちゃいちゃできたのに」

「キミは緊張感ないなぁ」

 

 思えば、彼の仕事は丁寧であり、真面目であった。

 彼がメガネしか作れないからと、教育もせずに追い出したのは間違いであった。

 そう。後悔しても、もう遅いのだ。

 

「ならば、私はこの事件を引き起こした責任を取るため、最後まで戦おう! みんな! 負傷者や一般市民を連れて安全なところまで逃げるのだ‼ 殿は私が勤める‼」

「ギルドマスターあああああ‼」

「行けぇぇぇぇぇ‼」

 

 迫りくるメガネ軍団から人々を逃がそうと、即座に土壁を錬成。

 自身はギルドマスターの責任を取るため殿を務め、彼らを逃がす。

 

「来るならこい! ここから先は一歩も通さないぞ‼」

 

 一人立ち向かうギルドマスター。

 そんな彼に無慈悲にもメガネに支配された者たちが一斉に攻撃を仕掛ける。

 

『沌暴ノ眼鏡(とんぼのめがね)』

 

 キィィィィィンとまるで回転のこぎりの如く回りだしたメガネを、一斉に投げつけるメガネたち。

 無数に投げつけられたメガネがギルドマスターに直撃しようとしたその時だった。

 

「盾眼鏡(たてめがね)ッ‼」

 

 ギルドマスターとメガネたちの間に割って入るように、巨大なメガネが降ってきた。

 

「き、きみは‼」

「遅くなってすいません! ギルドマスター‼」

 

 現れたのはあの日、ギルドを追放された錬金術師だった。

 

「な、なぜだ!? なぜ、キミがここに!?」

「確かに僕はギルドを追放されました……しかし、困っている人を助けたい想いまでなくしたわけじゃないんです‼」

「バカ! 早く来なさいよ‼」

「ここぞとばかりにヒロインムーヴするんじゃない」

 

 言って、錬金術師はギルドマスターを庇うように、メガネ軍団と向き合う。

 

「いい加減にしろ! メガネは掛けるためのもの! メガネはメガネだけでは生きていけないんだ‼」

「ほざけ! 人間に恭順したメガネになにが分かる!? 粗末扱われた、コンタクトへ鞍替えされた我々の気持ちが分かるか‼」

「いや、後者は別に個人の自由じゃない?」

「私はメガネの方がいいんですけどね。楽だし」

 

 新入りが掛けているメガネ――否、新入りを掛けたメガネの主張に冷静にツッコむギルドマスターを他所に、ここにメガネ頂上決戦の火ぶたが切って落とされた。

 

「破亡眼鏡(はなめがね)ッ‼」

「鼻伸びた!」

 

 メガネの力を応用し、鼻の瞬間的に伸ばしレイピアの如く、新入りに向かう。

 しかし、貫こうとした瞬間、新入りの姿は残像を残し消え、瞬時に錬金術師の背後に回り込んだ。

 

「眼鏡去流(めがねさる)」

「真顔でなにカッコよく言ってんの?」

 

 ネーミングセンスがアレすぎる技の応酬。

 一進一退の攻防の中、彼らは拳だけでなく己が主張を飛ばし合う‼

 

「貴様になにが分かる。客に対しちょっと『うっせぇな』『こっちは忙しいんだよ』とつぶやいただけでクレームを入れられた私の気持ちが‼」

「そりゃ入れられるだろ」

「仕事舐めてますね」

 

 カスハラしてくる奴ならともかく、普通のお客様にそんな態度取ったら、そりゃキレられるわ。

 

「それを言うなら、俺はいちゃいちゃしてただけで、注意されたぞ‼」

「そりゃ、注意するわ」

「仕方ないじゃないですか‼ 受付嬢さんが可愛いんだから‼」

「ば、バカ‼ こんなところでなに言ってんのよ⁉」

「はいはい、ごちそうさま」

 

 家でやってください。頼むから。

 

「狼牙鏡(ろうがんきょう)ッ‼」

「滅牙熱光(めがねっこ)ッ‼」

 

 そんなことしているうちに、戦いはヒートアップ。

 互いに狼の姿を模した氣の塊とレーザー光線を放ち、衝突。

 威力は拮抗しており、気を抜いた瞬間、己を飲み込むであろうエネルギー波の推し合い。

 あまりの熱量に地面や周辺の建物が溶け出していく。

 その中で尚、二人は譲らない想いをぶつける。

 

「貴様には聞こえないのか⁉ この世界のメガネたちの苦しむ声が‼ この世の歪みが!」

 

 瞬間、人々を乗っ取ったメガネの声がテレパシーのごとく、脳内に響き渡る。

 

『腹減った』『帰りたい』『転職したい』『なんでこいつ偉そうなの?』『爆発しろ』『今日はカレーにしよう』『エロ本読んでシコりてぇ』『宝くじ当ててニート生活送りてぇ』『書籍化して印税生活を』

 

「味方がロクでもなさすぎる」

「所詮、寄せ集めですからね」

 

 この程度の連中に苦しめられていたのかと軽く絶望した。

 一方で錬金術師も負けてない。

 

「だが、それでもこの世界には希望がある! 絆がある‼ 錬金術師ギルドのみんなとの絆が‼」

 

 その叫びに応えるように錬金術師ギルドの職員の思いが脳内にあふれ出す。

 

『そうだ! 退職しても俺と彼の絆は絶対だ! あと給料上げろ‼』

『彼の頑張りはよく知っているわ! あと給料上げろ‼』

『そんな奴さっさと倒して打ち上げしようぜ‼ あと給料上げろ‼』

『いつも受付嬢といちゃいちゃしやがって‼ 末永くお幸せに‼ あと給料上げろ‼』

『がんばれ! 負けるな‼ 給料上げろ‼』

「最後に余計な願望も溢れてる‼」

 

 ――いや、マジで給料上げて上げたいんだけど、こっちにも都合があるんだよ。ごめん。

 

 心の中で謝罪するギルドマスターを他所に、戦いは最終局面に。

 

「くっ! このままでは埒が明かない‼ こうなれば‼」

 

 新入りはビームを切り上げ、上空へと回避。

 そのまま大気圏から全身全霊の必殺技を放つ。

 

「太陽爆発眼鏡(サングラス)ッ‼」

「最早、技名がなりふり構わなくなってる」

 

 新入りは人工の太陽を生み出し、それを地球めがけて放とうとする。

 

「はーっはっはっは‼ これは貴様でも受けきれまい‼ 避ければ地球は一貫の終わりだぁぁぁぁぁ‼」

「くっ! ここまでか……ッ‼」

 

 最早、なりふり構わない新入りの行動に錬金術師は絶望するが――――

 

「あきら……めるなぁぁぁぁぁ‼」

『えぇッ‼』

 

 突如、受付嬢が新入りの顔面めがけて石を投げつけた。

 

「ぐあああああ‼ メガネがぁぁぁぁぁ‼」

 

 大気圏すら意にかいさない剛球は、見事直撃!

 メガネは粉々に砕け散り、フレームは折れ、血が舞い散る。

 その瞬間を狙い錬金術師は、渾身の必殺技を放った。

 

「喰らえぇぇぇぇぇ‼ 奥義・Ω眼鏡(オメガネ)‼」

「もうやりたい放題だよ」

 

 金色の光を纏ったメガネから放たれた強大な一撃は人工太陽を吹き飛ばし、新入りを打ち破る。

 

「ぐあああああああああああ‼」

 

 なすすべもなく、うち滅ぼされた新入りはそのまま、落下。

 同時にメガネを掛けた人々も正気に戻り、世界は平和に戻った。

 人類の勝利を祝福するように昇る朝日を前に、錬金術師は受付嬢を抱き寄せ、ギルドマスターに向き合い尋ねた。

 

「マスター、錬金術師ギルドに戻ってもいいですか?」

「だめ」

「ちぇー、後悔してたんじゃないのかよー」

「それはそれ。これはこれだから」

「ですよねー」

 

 まぁ、品質の良いメガネを提供してくれる錬金術師の工房は錬金術師ギルドが全面的にバックアップすることで、わだかまりはなくなるのだが。

 

 ちなみに、数日後、錬金術師ギルドの職員たちにギルドマスターより今回の一件の報酬で金一封送られた。

 代わりに数日、ギルドマスターの昼食は水だけになったが。

 

 

 

 




・登場人物
【錬金術師】
 人呼んで「メガネの錬金術師」
 様々なメガネを瞬時に作り出せるチートスキルを持つ。ちゃっかり受付嬢と付き合ってる。

【受付嬢】(96/58/99)
 ギルドのアイドル。錬金術師とは幼馴染で恋愛関係にある。元ソフトボール部で全国大会優勝チームを率いた猛者でもある。

【ギルドマスター】
 裏主人公。真っ当な感性と部下への想いと中間管理職の悲しみを兼ね揃えた上司。
 部下への給料を上げようと本部とバチバチにやり合ってる。
 頑張れ。

【新入り】
 人手不足だからと雇ってやらかした。モデルは職場で最近辞めた後輩(年上)
 平気で客の前で悪態をつく。言われたことをやらないどころか、自己流に改悪する。気が利かない上に挨拶もない。注意されると言い訳ばかり。
 ……など「人手不足だからいないよりはマシ……いや、やっぱりいない方がストレスなくなっていいなぁ」的存在。
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