追放されし者たちの話   作:J坊

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悪役令嬢の場合

 事件は王国のとある学園で開催された夜会で起きた。

 

「レイシア=アーク! 貴様との婚約を破棄する‼」

「な、なぜですか? 王子!?」

 

 各国の貴族が集まる中、第一王子・ハキスルトが唐突に言い放った。

 突然の婚約者の暴挙にレイシアは困惑しながらも理由を問うも、ハキスルトは一方的に理由を捲し上げる。

 

「うるさい、貴様は愛するネトリシアに嫌がらせを行った! それが理由だ‼」

「そ、そうなのです! レイシア様が私に嫌がらせを……」

 

 王子の糾弾に同意するように、それまで陰に隠れるようにしていた一人の令嬢が同意する。

 ――その令嬢の姿を見て、レイシアはなぜこのような事態に陥ったか察した。

 

 彼女の名前はネトリシア=ハルアグロイツ。

 とある男爵家の一人娘で、その愛らしい容姿とは裏腹に、男を誑かしてはとっかえひっかえしていると噂される学園では悪い意味での有名人だ。

 そして、そんな彼女の次のターゲットがハキスルトだったわけである。

 普通の王族だったら、腐った性根は即カンパされ不敬罪にでもなりそうなものだが、なにせ標的はハキスルト。

 第一王子にも関わらず、性格×・学力×・社交性×etc……のダメダメ王子。

 国王が直々に公爵であるレイシアの父に懇願し、仕方なく――本当に、本っっっっっ当に仕方なく、婚約を結んだのをすっかり忘れて、あっちこっちの令嬢にちょっかいをかけたり、浮気したりを繰り返し自信の立場と言うものを分かっていない。

 常日頃、生活態度を改めるように注意しようとも、効果はない。

 さらには王族としての教育もサボりまくり、その負担はもっぱらレイシアにのしかかる。

 そんなヘリウムガス並みの軽い頭の王子は、ネトリシアにとってはいいカモでしかないだろう。

 

 ……まぁ、類は友を呼ぶと言う奴で、ネトリシア自身も同じく軽い頭である(悪知恵が働く分水素並みだろうが)

 

 この国の防衛を担うアーク公爵の息女である自分を引き釣り降ろし、婚約者にとって代わろうとする気概は認めるが、工作も根回しもお粗末すぎる。

 あまりにも、浅い考えて起きた展開にレイシアがため息を吐く間にもハキスルトは、延々とレイシアを責め続ける。

 やれ「ネトリシアを階段から突き飛ばした」だの「ドレスや教科書を破いた」だの……

 よくもまぁ、このような程度の低い嘘を信じてしまうのか。

 挙句「普段から可愛げのない貴様よりも、ネトリシアの方が王妃に相応しい‼」と国王の苦労も知らずに言ってのける始末。遂には……

 

「貴様のような性悪は我が国の恥だ‼」

 

 こんなことまで言い出した。

 

(いや、流石にそれは不味いだろう)と夜会の参加者がドン引きする中、彼女たちは現れた。

 

「お待ちください‼」

「⁉ だれだ⁉」

 

 ハキスルトの横暴に待ったをかけたのは、白い百合の花のブローチをつけた数名の令嬢たちだった。

 

「レイシアさまの無実は私たちが証明いたしますわ!」

 

 そう言って代表者らしい少女が力強く宣言し、レイシアを守るようにハキスルトの前に立ちはだかる。

 

「あ、あなたちは?」

「私たちはレイシア様非公式ファンクラブ・白百合会‼」

「ファンクラブ!? そんなのあったの⁉」

「非公式ですからね。知らないのは当然です!」

 

 そう言って「ふんすっ」と胸を張る白百合会代表生徒。なぜ威張る?

 

「私たち白百合会は、常日頃からレイシア様をストーキング……もとい見守る活動を行っております」

「今、思いっきり、ストーキングって……」

「故にレイシア様の行動はすべて把握済みです」

「なにそれ怖い……」

(ホントそれ……)

 

 当人だけでなく、出席者全員がドン引きするのも気にも留めず、白百合会の会長は構わず話を続ける。

 

「レイシア様があなたに嫌がらせを行ったという時間帯は、私たち白百合会の面々がレイシア様を監視――もとい、一挙一動を網膜と脳裏に焼き付け記録するという活動を行っておりました」

「言い直した結果、より最悪になった」

「各会員の報告を精査した結果、レイシア様は一日一日を王妃となるための教育や各有力貴族とのお茶会に費やしており、ネトリシア様ごときに構う暇など一秒もありませんでした」

「な、なんだと⁉」

「素直に喜べない……」

 

 ヤバすぎる自身のファンクラブの面々に、ドン引きが加速する中、ハキスルトは白百合会に言い返す。

 

「ふ、ふざけるな‼ ネトリシアが嘘を言うわけないだろう‼」

「そ、そうです! 私、本当にレイシア様にいじめられたんです‼」

「事実です。これだけの証拠を前にとぼけるのですか?」

「そ、そんなものは偽造だ‼ 断じて信じないぞ‼」

「王子様……すてき‼ 」

 

 白百合会の提示した証拠を認めず、一蹴する王子とそんな王子に「惚れなおした」と抱き着くネトリシア。

 そんな茶番を見せられ、白百合会の面々が「チッ」「チッ」「チッ」と一斉に舌打ちする。

 

「これ以上、ネトリシアを不当に傷つけてみろ! 王族として貴様らもレイシアと同じ罰を与えてやる‼」

 

 さらには王族としての地位を持ち出し、脅す始末。その時であった。

 

『ほう、なら、言い逃れできない証拠を見せてやるよ‼』

「⁉ なにやつ!?」

 

 現れたの黒い制服に身を包み、剣や斧、槍やメイスで完全武装した女子生徒の集団が現れた。

 

「怖っ‼」

「あ、あなたたちは黒百合会!?」

「どちら様で!?」

「レイシア様のファンクラブの一派です‼ 全員が武闘派かつ過激派で、告白しようとする男子生徒を再起不能にし、婚約者であるハキスルト様に毎日、脅迫状を送るという蛮行を繰り返す危険集団です」

『初耳なんだが!?』

 

 水面下で行われていた血なまぐさいことこの上ない活動に、レイシアとハキスルトのツッコミがハモった。

 ちなみにハキスルトが脅迫状のことを知らないのは、単に王宮内で差し止められているからである。普通、馬鹿正直に本人に脅迫状なんて渡さないのだ。

 

「ふん、いいこちゃんばかりの白百合会に先を越されたと思ったが、詰めが甘いなぁ」

「相変わらず野蛮な連中ですね。あなた達のような蛮族がレイシア様に近寄らないでくださいません?」

「上辺だけ取り繕ってるお前らよりはマシさ。知ってるんだぜ? お前がこの間の体育の時間帯、更衣室に忍び込みレイシア様の制服を――」

「黙れぇぇぇぇぇ‼ お前たちこそ、入浴時間中、レイシア様の裸体を盗撮してることは知って――」

「あなたたち、五十歩百歩って知ってる!?」

 

 っていうか、何やってんのこいつら!? マジで怖い。

 

「まぁ、いいさ。こいつらは放っておいて、あたしたちの持ってきた証拠を見てもらおうか」

「あ、ずるい‼」

 

 隠し持っていたナイフで斬りかかる白百合会会長を軽くいなし、黒百合会会長は懐から、一枚の写真を取り出した。

 

「こいつはネトリシアの悪行の決定的証拠だ‼」

 

 バンッと、写真を突き付ける黒百合会会長。

 そこに写されていたのは、たわわに実った胸に、張りのある瑞々しい肌をさらけ出す一糸まとわぬレイシアの姿がッ‼

 

「あ、間違えた。こっちだ‼」

「いや、今の写真なに⁉」

「貴様ぁぁぁぁぁ‼ また懲りずに盗撮を‼」

「ふふ、なんだ欲しいのか? 欲しいのか? 白百合会? 知らない中じゃないから格安で貸してやるよ」

「おのれッ‼ いくらだ⁉」

「欲しいんかい!?」

 

 欲求には逆らえないかったようだ。両の鼻から乙女が流しちゃいけない赤い血潮を流しながら、そそくさと財布を取り出す白百合会会長に、黒百合会の会長は特別価格を提示。

 

「一枚2000ゴールドゥのところ、お友達価格10枚で20000ゴールドゥだ」

「や、やすい!」

「安くないわよ! ビタ一文まかってないわよ⁉」

「今なら王子から聞き出した国家機密をネトリシアが他国に売り渡してる動画もついてるぜ!」

「ファッ!?」

「ね、ネトリシア!? それはどういう……⁉」

 

 

 どさくさに紛れてとんでもない情報が公開され、ネトリシアは青ざめる。

「あのバカ王子、少し色目使えば楽勝だった」「これで隣国の王子様の寵愛を受けるのは私よ!」だのと好き放題言っている動画は会場のスクリーンに映し出され、もはや言い訳はできないだろう。

 

 まぁ、それはさておき……

 

「買った‼ 第三部完‼」と全財産はたく白百合会。

「それを渡しなさい‼ 訴えるわよ‼」と必死に奪おうとするレイシア。

「くそっ‼ 俺たちも買うぜ‼」「私も‼」「わっちも‼」と欲望に流される参加者たち。

 

 ……と、王子とネトリシアを放置して夜会は混沌に包まれていた。

 そこへ、さらに場をかき乱すかのように乱入者がエントリー。

 

「レイシアの無実なら妾も証明しよう‼」

「!? 誰だ⁉」

 

 高らかに宣言する声に驚き、王子が振り向くと……

 

『わっしょい‼ わっしょい‼ わっしょい‼ わっしょい‼』

「ぎゃあああああ⁉」

 

 なんと神輿を担いだ、益荒男たちがこちらに向かって突進してきた。

 進路方向にいたハキスルト王子は、哀れ踏みつぶされてしまう。

 

「王子さまぁぁぁぁぁ!?」

「やかましい」

「ひでぶ!?」

 

 さらに、悲鳴を上げるネトリシアに飛び蹴りを放ち、一人の少女が着地する。

 情熱的な赤い煽情的なドレスを着た、少女は帝国からの留学生の皇女・レッドリリィであった。

 

「レイシアの無実は帝国の姫である妾及び配下である赤百合会が保証しよう‼」

『わっしょい‼』

「また、おかしいのが増えた‼」

 

 蹴られた衝撃できりもみ回転してるネトリシアを放置し、赤百合会会長ことレッドリリィはレイシアの手を取る。

 

「あ、あのレッドリリィ様……?」

「怖い思いをさせたなレイシアよ。妾が来たからにはもう大丈夫だ」

 

 そう言って顔を近づけるレッドリリィ。そりゃあもう、近すぎてキスするんじゃない会ってくらいには。

 

「あの、レッドリリィ様? 近いんですけど?」

「今まで遠くにいたからそう感じるんだろう?」

「いや、普通に近いです。もう少し、適切な距離を考えてください!」

「むぅ……仕方ないのぉ……」

 

 そう言われ、レッドリリィはしびしぶと了承し、腕を体に回し、足を体に絡ませてきた。

 

「いやだから近いんですけど⁉ なに不満げな表情を装いつつも、より密着させてきてるんですか⁉」

「叙述トリックと言う奴だ」

「誰に対しての!?」

『わっしょい! わっしょい‼』

「うるさいのだけれど!?」

 

 そう言いながら怪しい手つきでレイシアに迫るレッドリリィ。

 二人のやり取りに歓声を上げる赤百合会と盛り上がる神輿を担ぐ漢たち。

 

「そもそも、あなた当初の目的を忘れてなくて!? 私の無実を証明するのではなかったのですか⁉」

「あぁ、そうだった。すっかり忘れていた」

「そ、そうだぞ‼ しょ、証拠を見せろ……」

 

 最早、虫の息の王子も抗議する。

 と言うか、あの映像を見せられても尚、非を認めないとは。

 頭が終わってるのか、ひっこみがつかないのか、それとも真剣にネトリシアを愛してるのか。

 どれにしろ、まず安静にしていた方がいいだろう。

 しかし、そんな王子の気概になにか感じるものがあったのか、レッドリリィは向き合い言い放った。

 

「ないっ‼」

「いや、なに言ってんだアンタ!?」

 

 今さっき「ある」と言っただろう。それを力強い一言でひっくり返してしまった。

 すさまじい掌返しである。

 

「まぁ、強いて言えば、妾の愛が証拠だ‼」

「いや、なに言ってんですか? あなた」

「こいつの愛が証拠なら妾の愛もOKだろ。」

『たしかに‼』

「お二人とも!?」

 

 情熱的すぎる皇女の一言に激しく同意する両会のトップ。

 

「くっ、盲点だった! 国のトップが『愛が証拠』と言うなら、私もOKということに」

「ならないわよ⁉」

「くっ! さすがは皇女! なんという発想力‼」

「あなたたち、一回、お医者様に見てもらった方がいいわよ⁉」

「えぇぇぇぇぇい‼ やかましいわ‼」

 

 そんな低レベルな争いをしているうちに、王子が復活。

 多分、骨も数本折れてるだろうけど、ヨロヨロと立ち上がり、まくしたてる。

 

「誰が何と言おうと、私とレイシアの婚約は破棄だ‼ そもそも、昔からそいつのことが気に入らなかったんだ‼ 女のくせに、武芸も学問も私より上で、いつも『王族らしくしろ』だのと小言ばかりだ‼ お前のような可愛げのない女、もううんざりなんだよ‼」

 

 散々な目に合い、我慢の限界を迎えたせいか、本音をぶちまける王子。

 ここが、貴族の夜会であることを忘れているのだろう。

 自身が醜態を晒していることにも気づかず、ついに致命的な一言を言い放った。

 

「貴様のような女は国外追放の刑に処す‼ 私の目の前から消え失せろ‼」

 

 ――終わった。

 

 

 その場にいた誰もがそう思った。

 いくら王太子とはいえ、公の場で自身の放蕩と愚かさ、浮気とその浮気相手の悪行を暴かれ、婚約者に対しての暴言の数々。

 あまつさえ、国王や相手の両親の同意もなく婚約破棄宣言からの国外追放発言。しかも相手は国の防衛を担う公爵と言うゴリッゴリッゴリラな超武闘派。

 内乱でも起こされたらたまったもんじゃない。

 もはや、手遅れ極まりない。この夜会に参加した貴族たちは、王子を見限りにかかり、王家と距離を置くことを決意した。

 王国の終焉である。

 

 

 

 

 ……同時に新たな戦いの幕開けでもあった。

 

『だったら私たちがもらったらぁぁぁぁぁ‼』

『!?』

 

 ガシャアアアアアン‼

 突如、窓を突き破り無数の令嬢の集団が乱入してきたのだ。

 

「えええええ!?」

「王家直々に国外追放されるのであれば、もはや彼女は無所属‼ 今こそ我が国に来てもらいそして、そして……グヘヘヘヘヘ‼」

「あ、あれは青百合会!?」

「またこのパターンなんですか⁉」

 

 自身の把握しない新たなFCの登場に恐怖しか感じない。

 

「おっと、そうはいかない‼ レイシア様は私たちのものだ‼ そして、一生、私たちを甘やかして、バブらせてもらうんだい‼」

「黄百合会‼」

「今も昔も甘やかした過去なんてありませんけど⁉」

 

 さらに願望をぶちまけるアレな連中にドン引きし……

 

「貴様ら好き勝手言いやがって……レイシア様と【自主規制】するのは我々だぁぁぁぁぁ‼」

「茶百合会‼」

「あなたたち、百合会ってつければそれっぽい組合になると思っているの⁉」

 

 シャバに出していい思想じゃない連中まで出てくる始末。

 かくして、夜会の会場は戦場と化した。

 

「おのれぇ! 出遅れてなるものか!」

「レイシア様は私たちのものだ‼」

「否! 断じて否! 妾のものである‼」

 

 白百合・黒百合・赤百合の三派閥も戦闘に参加。

 血を血で洗う、レイシア争奪戦の始まりである。

 

「ちょ! やめなさい、あなたたち‼ ここは夜会の場よ‼」

 

 レイシアが必死に止めようとするも、暴走した変態淑女たちは止まらない。

 仕舞いには、生徒間で賭けまで始まる始末だ。

 

「俺は白百合会に全財産ベットしたぜ‼」

「じゃあ、俺は赤百合かいな」

「死なないで茶百合会‼ あなたがここで負けたら、私の今月の生活費がなくなってしまう‼」

「あなたたち何やってるの⁉」

 

 傍観者と言う立ち位置から好き勝手やり出す参加者たち。

 内訳はその場のライブ感五割、傍観者気取りが二割、やけくそ二割、その他は諦観。

 そんな感じ。最早、会場は地獄と化した。

 

「死ねぇ‼ 斬魔滅殺剣‼」

「なんの! 奥義・デスインフェルノ‼」

『らっせらぁ! らっせらぁ‼』

 

 飛び交う魔法と鳴り響く剣戟と神輿を担ぐ益荒男たち。

 

「いけぇ! 新作ゴーレム‼ レイシア様を狙う連中を根こそぎ、ぶちのめせ!」

「なんの、出でよ! 我が国のタタリガミ‼ 返り討ちにしてやれい‼」

「だったらこっちはドラゴンよ‼ そのブレスで焼き尽くせ‼」

 

 ついには召喚されたゴーレムやら、使役された怨霊やら、テイムされたドラゴンやらまで持ち出され、止めようがない。

 その光景はさながら|神々の黄昏〈ラグナレク〉とでも言うべき凄まじさであった。

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃ! 大変なことになってしまった……‼」

 

 さすがにまずいと感じたのか、ハキスルトは我が身可愛さに逃げ出そうとする。

 しかし……

 

 

「え?」

 

 ドスッとなにか音がしたと思ったら、一人の令嬢がナイフで腹部を突き刺していた。

 

「ふふふ……これで邪魔者はいなくなった。これでレイシア御姉様は私たち紫百合会のもの……」

 

 ケタケタと不気味に笑いながら、血のついたナイフを舐める令嬢を最後に、ハキスルトはその場で意識を失い、倒れてしまった。

 

『お、王子ぃ―――――‼』

 

 周囲の動揺する声を聴きながら、血だまりに沈む王子。

 そんな王子を無視し、大乱闘はさらに白熱していった。

 

 

 

 ……そして、後日。

 

 

 

「……レイシア、お前との縁を切らねばならん」

「ですよねー……」

 

 とんでもないことになった。

 うっすら想像してたが、とんでもないことになった。

 想像以上にとんでもないことになった。

 泣きたい。

 

「ドウシテコウナッタ……」

「私が知りたいです……」

 

 生気のない表情で尋ねるレイシアの父親ことアーク公に、これまた質問で返すレイシア。

 各国の貴族も集う夜会で起こった大乱闘。

 死者こそ出なかったが、ケガ人多数の会場も損壊。

 王子に至っては肉体的にも精神的にも重症だった。

 公然の前での愚行、自分の醜態を暴露、愛しのネトリシアは売国奴。

 王室も擁護できずに、廃嫡を決意した。

 それだけならめでたしめでたしだったのが、そうは問屋が卸さない。

 

 今回の騒動、原因こそ王子の暴走だが、レイシアの方にも問題が発生した。

 

「王家や有力貴族から『アーク家の令嬢は派閥の管理もできないのか?』と苦情が来とるんじゃよ……」

「ですよねー……」

 

 正直、もらい事故である。言っておくが彼女を大体的に慕っている派閥の面々はきちんと管理できている。

 しかし、本人のあずかり知らぬところで運営された非公式ファンクラブをどうやって管理しろというのか。

 理不尽。実に理不尽。されど、公爵家の権力をフル活用しても、なんとか国外追放だけで済んだのは、不幸中の幸いである。

 

「……一応、国王と王妃は王子の奇行の謝罪と『まぁ、傾国の美人って、大抵無自覚だから』ってフォローしてくれたぞ」

 

 優しい声音でそんなこと言われても慰めにもならない。

 責任は責任。たとえ自分は無実でも、完全なる飛び火でも、関係者の暴走のしりぬぐいをせねばならぬのが、貴族の務めなのである。

 

「……空はあんなに青いのに、私の心は曇り空、フフフ」

 

 精神的にお労しいことになっているレイシアは、必要最低限の物だけ持って、生まれ育った我が家を出た。

 隣国に行ったら冒険者になろう。

 そんで気ままに生きていこう。

 いや、冒険者はそんな甘くないんだけどね。

 

 そんなことを思いながら、父の用意した馬車に乗ると……

 

『レイシア様ぁぁぁぁぁ‼』

「……」

 

 背後からこうなった原因が追っかけてきた。

 

「お姉さま‼ 罰なら私も受けます‼ ですので、何卒おそばに‼」

「ずりぃ! 抜け駆けすんな‼ 私たちも追放されるんだ‼」

「レイシアよ‼ このような愚かな失敗国家を捨てて、妾の下に来るがいい‼」

『わっしょい‼ わっしょい‼ わっしょい‼』

「いいや、ぜひとも私の下へ! そして、ぐへへへへへ‼」

「私たちのママに‼」

「【自主規制】と【自主規制】を‼」

「急いで馬車をッ‼」

 

 迫りくる、ヤベー女のフルセットのお届けに、戦慄しレイシアは業者に命じて馬車を走らせた。

 こうして一人の令嬢の婚約破棄による断罪劇は幕を閉じ、代わりに逃亡劇が始まったとさ。

 

 その後、一人のスパダリな青年と恋に落ち、婚約。

 クレイジーでサイコな淑女たち相手に無双するまで、彼女の戦いは続くのである。

 レイシアの戦いはこれからだ!

 

 




◆登場人物◆
・レイシア=アーク
 今回の被害者でる公爵家が誇る完璧令嬢。王子の婚約者になったものの、クズ王子だったため婚約破棄。おまけにヤベェフェロモンでもでてたのか、クレイジーサイコ淑女たちのFC争いに巻き込まれ、なんやかんやで、地位も名誉も失った。
 冒険者たちにあり、一人のスパダリと結ばれるまで、こんな感じで追い回される羽目に。
 スリーサイズは92・63・94

・レイシアファンクラブの皆様
 おもしろい思考のヤバい淑女たち。
 正統派の白百合会。ラフファイトの黒百合会。帝国が誇る自称時期女帝レッドリリィ(スリーサイズは99・64・97)率いる赤百合会と実に多種多様な淑女たちによって構成されているが、各派閥ごとにレイシアの解釈が違うために相容れることはない。

・ハキスルト王子。
 全治3か月で廃嫡され、女性不振になった。しかし、原因なので同情はできない。

・ネトリシア=ハルァグロイツ(スリーサイズ:残・念・でした)
 同じく全治3か月な上に、裏でやっていたことが洒落にならなかったため、お家ごと潰された。仕方ない。
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