追放されし者たちの話   作:J坊

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料理人たちの場合

 とある王国。ここで二人の若き料理人が雌雄を決っそうとしていた。

 

「ふん……逃げずに来たことは褒めてやるぞ、愚民。だが、貴様は今日、ここで敗北し、宮廷から追放される運命だ」

 

 一人は代々宮廷料理人を輩出してきたエリート一族の御曹司。

 料理界の貴公子・クーガー。

 伝統を重んじ、同時に柔軟な発想で数多の美食家を唸らせ、王家の覚えもめでたい。

 まさに時期料理長に相応しい人材だ。

 

「へっ‼ そのセリフ、そっくり返してやるぜ‼ 今日こそ、お前を厨房から追い出してやる‼」

 

 対するは城下町で評判の定食屋から国王直々にスカウトした天才少年。

 期待の星・アジール。

 型にはまらない斬新な調理方法により、いくつものオリジナルの料理を創造し、世間に衝撃を与えてきた。

 彼もまた宮廷料理人の未来を背負って立つに相応しい男。

 

 そんな二人だが、見ての通りすこぶる仲が悪い。

 顔を合わせれば、舌戦が繰り広げられ、時には掴み合いになるほどに。

 まさに火と油。犬と猿。キノコとタケノコの間柄。

 さらには彼らに触発され、平民出身者と貴族との間で派閥争いが勃発する始末。

 これはいただけない。

 そう思った、料理長はこの争いに終止符を打つために、国王に料理勝負を提案。

 勝てば次期料理長の座が約束され、敗者は即刻追放。

 どちらも提案に納得し、今に至ると言うわけだ。

 

『さて、始まりました。次期料理長を決める最終決戦‼ この戦い、勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうか⁉』

 

 司会のバニーガールが会場を沸かせ、料理界で名を馳せる美食家審査員を紹介し、今まさに戦いの幕が上がった。

 

『本日のテーマは最近話題の【魔物料理】です‼』

 

 運営が捕獲してきた魔物を見事調理し、先に三本先取した方の勝ち。

 会場が勝負の行方を見守る中、二人の料理人は火花を散らす。

 

「ふん、魔物料理など私にかかれば造作もない」

「へっ‼ どんな魔物でも美味く料理してやるぜ‼」

 

 気合いに満ち溢れた二人の前に、最初の魔物が出された。

 

『では第一試合‼ 数多の魔物の中でも最も有名にして、美味とされる存在‼

 火を吹けば大地を焼き払い、羽ばたけば竜巻を起こす、大空の支配者‼

 ドラゴンのお出ましだぁ‼」

 

 バニーガールの宣言と共に、巨大な布を被せられた檻を乗せた荷台が、屈強な兵士によって運ばれてくる。

 

「ふん、ドラゴンか、面白い」

「腕が鳴るぜ‼」

 

 やる気に満ち溢れた料理人二人の前で、ベールが剝ぎ取られ、第一の食材が姿を現す‼

 

「さぁ、第一のお題‼ モンスター・オブ・モンスター‼ ドラゴォォォォォン――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ゾンビですッ‼」

「「ちょっと待てや‼」」

 

 同時に二人のツッコミが炸裂した‼

 

『なんでしょうか⁉ クーガー選手、アジール選手‼ なにか不明の点が!?』

「いや、どう考えてもおかしいだろ!?」

「あの流れで、なんでこれが出てくんだよ⁉」

『なにを仰る‼ どう見てもこれは立派なドラゴンです‼』

「「ゾンビだけどな‼」」

 

 大体なんだ、あの溜めは!? あんなに溜める必要あったのか⁉

 字数稼ぎと思われかねないぞ!?

 

「だいたいドラゴンゾンビはドラゴンの魔物ではない。アンデットだ」

「まぁまぁ、普通のゾンビじゃないだけマシでしょ」

「そっちの方が問題だよ‼ お前の倫理観どうなってんだ⁉」

「せめてスカルドラゴンよこせよ‼ そっちの方がまだマシだから‼」

 

 減らず口を止めないバニーガールに、普段の仲の悪さを引っ込め、文句を炸裂させる二人。

 見れば、審査員も動揺してる。

 

「え? ドラゴンゾンビ?」

「マジで? あれ喰わされるの?」

「冗談……ですよね?」

 

 顔面蒼白である。

 そんな会場のどよめきを気にも留めず、バニーガールは構わず進行。

 

『では準備が整ったようで、バトルスタートッ‼』

『整ってないよ⁉』

 

 今ここに会場の心が一つになった。

 

『尚、食材であるドラゴンゾンビはまだ、生きておりますので、自力で仕留めて調理を始めてください‼』

『ふざけんなぁぁぁぁぁ‼』

 

 叫んだ瞬間、拘束を外され暴れ出すドラゴンゾンビを前に、会場は大混乱に陥った。

 

 

 

 その後、どうにかこうにか、ドラゴンゾンビを倒した二人は試行錯誤して調理を始めた。

 

(まずは、腐った肉をどうにかせねば……‼)

(臭いもだ……腐敗臭が酷くて、とても喰えたもんじゃない……)

(そもそも、これ調理して大丈夫なのか?)

(流石に審査員に出せるんだから、ギリギリ鮮度は……いや、どう見てもアウトだ)

 

 漂ってくる悪臭。

 ぐちゅぐちゅと腐りきった肉。

 デロンと飛び出た目玉に、あちこちから見える骨。

 とてもじゃないが衛生面で問題しかない。

 それでも彼らは料理人としてのプライドがある。

 

「くっ、だったらまずは腐敗した部分を錬金術で――」

「古くなった肉を時間回帰魔法で――」

「あとは瘴気を聖魔法で浄化して――」

「ならば点血を突いて――」

 

 今まで習った技術に加えて、専門外の魔法を駆使し、必死になって調理する二人。

 そうして料理を完成させた結果――

 

『審査員、全員食中毒でーす』

「「ですよねー‼」」

 

 案の定、審査員病院送りである。

 

「頑張ったよ‼ 頑張ったよ‼ 頑張ったけどさぁ‼」

「正直、料理人としての限界だった……」

 

 死んだ魚の目で、治療院に運ばれる審査員を見送る二人。

 しかし、バニーガールはそんな二人の様子を気にも留めず……

 

『では一回戦は引き分けなので、二回戦始めまーす』

「「正気か、コイツ!?」」

 

 まさかの続行。

 新しい審査員が補充され、新たな食材が運び込まれる。

 

『第二回戦の食材はこれ‼ 序盤の魔物でお馴染みのスライムです‼』

((す、スライム、だと⁉))

 

 一回戦との食材の落差に驚く二人。

 だが、これはチャンスでもあった。

 ドラゴンに比べれば、スライムは圧倒的に調理しやすい食材だ。

 なんなら魔物料理の基本とも言える。

 

(よっしゃ! 運が回ってきた‼ 奇抜な料理ばかりつくるコイツには、基本を前提にした料理は苦手なハズ。俺が有利だ!)

(……と、思うだろう? 残念だったな。スライム料理は魔物食がブームになる前から使ってた馴染み深い食材‼ 俺に一朝の差がある!)

 

 二人が互いに勝利を確信する中、食材が運ばれてきた。

 巨大なガラスの入れ物に入った毒々しい――否、もう毒っ毒っしい色のスライムが。

 

「「………………」」

『二回戦の食材は新種の有毒スライム! その名も毒ポイズンヴェノムスライムです‼』

「「毒ポイズンヴェノムスライム!?」」

 

 毒ポイズンヴェノムスライム。

 その名も通り、全身の九十九パーセントが毒で出来ており、幼生体一匹でも、村一つ壊滅させることが可能と恐れられている、一級危険生物である。

 余談だが、これを今から食わされると聞かされた審査員の表情は絶望に染まった。

 合唱。

 

『では調理スタート。先ほどと同じく、自身で仕留めて調理してください☆』

『じゃねーだろぉぉぉぉぉ‼』

 

 その一言で会場は阿鼻叫喚の渦に包まれた。

 

「いや、こんなん調理できるかぁぁぁぁぁ‼ なんだ成分の九十九パーセントが毒って‼ もう完全に毒じゃねぇかあああああ‼」

「名前もおかしいだろ!? 毒ポイズンヴェノムスライムってなに⁉ 直訳すると毒毒毒スライムだろうが‼ ゴリラの学名じゃねぇんだぞぉぉぉぉぉ!?」

 

 猛毒ガスをまき散らし、触れるものすべてを腐食させる毒ポイズンヴェノムスライムに追い回される若き料理人二人。

 それでもどうにかこうにか討伐。

 ツテで手に入れた聖女印の聖水で回復し、持てる知識をつぎ込み、唯一毒の入っていない核のみが食すことが可能と突き止め、そこから調理をした。

 そして――

 

『第二回戦の審査員が調理の間に毒素に犯されたので緊急搬送されました! 引き分けでーす‼』

「「でしょうね‼」」

 

 そりゃ、あんだけ毒ガスまき散らせば、アウトだろうよ。

 せっかくの苦労が水の泡である。

 

『では最終ラウンド‼ 最後の食材はこちら‼』

 

 絶賛大暴落中の二人のモチベーションなど気にも留めず、さっさと審査員を補充すると、新たな食材を運び込む。

 ちなみに、三回目になると審査員たちは覚悟を決めたのか、特攻兵のような顔をしていた。

 敬礼。

 

「最後の食材……いったい、なんなんだ?」

「もう、嫌な予感しかしねぇよ……」

 

 当然のように二人の嫌な予感は見事、的中。

 運ばれてきたのは全身鋼鉄製の巨人――フルメタルゴーレムである。

 

「「やっぱりな‼」」

『最後は難題! 最近発掘された隠しダンジョンの最奥の守護神‼ フルメタルゴーレムです‼ 彼を見事倒し、調理してください‼』

「「せめて食えるもの持ってこい‼」」

 

 至極真っ当なツッコミを入れるも、苦情は受け付けないとばかりにフルメタルゴーレムは解き放たれる。

 

『人類ヲ根絶スル』と叫びながら、ミサイルやレーザーをぶっ放し、痛恨の一撃を連発。

 二人の合体技を叩き込まれるまで、暴れまわった。

 

「や、やったなアジール……」

「いや、勝負はここからだ……これ、調理しなきゃ……」

 

 しかし、重油が流れ、バチバチとショートするフルメタルゴーレムを見て、二人の心は一つになった。

 

 

 

「「こんなの料理できるか」」

 

 

 

 結局二人揃って試合放棄。

 審査員は安堵の表情を浮かべるのだが……

 

『えー第三試合は二人とも試合放棄と言うことで、料理勝負は終了とさせていただきますー』

 

 バニーガールはそれだけ言うと、指をパチンとならした。

 直後、国王直属の騎士たちが、審査員を取り囲み武器を突きつけた。

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』

 

 突然の事態に戸惑っていると、バニーガールはにんまり笑い、話を続ける。

 

『さーて、負けた方が追放というこの勝負ですが、実はこの料理勝負の裏で、我々もまた勝負に出ていました――おい!』

「はっ‼」

 

 バニーガールの合図とともに騎士の一人が、一人の男を連行してきた。

 その男は、二人の料理人にとって見知った顔――

 

「「りょ、料理長!?」」

「く、くそぉ‼ 俺の計画がぁぁぁぁぁ‼」

 

 混乱する二人にここで種明かし。

 実はこの料理長、裏では実力のある新人を排除することで料理長の座を守り続けてきたのだ。

 しかし、今年になってアジールとクーガーと言う、片や名門の嫡男・片や王族お墨付きという、下手な策謀では却って勘ぐられそうな厄介な新星が入ってきた。

 そこで、二人の対立を煽り、共倒れさせようと画策したのが今回の料理勝負の発端となった訳である。

 

『ちなみに審査員の連中も、裏で色々やっていた不正貴族だったりしますので、別に罪悪感は抱かなくてもいいですよー』

「「ええー……」」

 

 ここまでの苦労はなんだったのか。

 二人は揃ってにへたり込んでしまった。

 

『まぁ、これもいい勉強になったでしょう。いくら才能があっても無理なものは無理と言うことも必要なのですよ』

「うむ、その通りじゃ」

 

 そう言ってバニーガールは国王の言葉を代弁し、このくだらない争いに終止符を打った。

 

 

 

 その後、二人の若き料理人は共同で料理長となり、王国の食の発展に尽くすことになったのであった。

 だが……

 

『今日のリクエストはアバドン。この悪魔を料理してくださーい♪』

「これ、料理人の仕事じゃないよな」

「なっ‼」

 

 料理のみならず戦闘力も身に着けた二人は、しょっちゅう魔物狩りを任されることになったそうな。

 

 

 

 




◆登場人物紹介◆
・クーガー LV50→7500万→1億2000万→2億400万
 代々宮廷料理人を輩出してきた名門出。
 王に対して1ミリも態度を変えないアジールに内心ムカついていたが、数々のバトルを通して認め合う仲に。

・アジール LV50→7500万→1億2000万→2億400万
 城下町の定食屋の一人息子。お忍びで来た王様にスカウトされる。
 礼儀知らずの料理馬鹿でクーガーが嫌いだったが、後にライバル関係に。
 ちなみに奥さん、一児の子持ちとは思えないくらい若くて美人

・バニーガール LV5億900万 99/61/101
 司会担当のお姉さん。しかし、裏の顔は【秘匿案件】
 過去【秘匿案件】で【秘匿案件】した【秘匿案件】
 その気になれば魔王も倒せる。

・ドラゴンゾンビ LV9800万
 第一の食材。腐敗ブレスであらゆるものを腐らせ、身体に纏う瘴気はすべての生命を駆逐させる。
 間違ってもLV50程度で挑んではいけない。

・毒ポイズンヴェノムスライム LV3億7千万
 とある大陸で見つかった新種のスライム。
 幼体だけでも一都市を壊滅させられる、まさに歩く災害。
 よい子のみんなは最低でもレベル1億を超えてから戦うように。

・フルメタルゴーレム LV4億
 古代文明を崩壊に導いた存在。
 人類を抹殺するようにプログラムされているヤベェやつ。
 間違っても以下略。

・料理長&審査員こと不正貴族のみなさん
 実はグルで、料理長から賄賂をもらっていたが、全員病院送りになった。
 当初の予定ではもうちょい難易度の低い魔物が用意されていたらしいが、国王が「それはそれとして二人とも喧嘩ばかりで厨房の空気が悪くなってるから、少し痛い目にあえ」という一言で、急遽、件の三体が選ばれたそうな。
 みんなは協調性を持って行動しよう。
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