追放されし者たちの話   作:J坊

55 / 55
初心に戻って書いてみました。


最初からクライマックスの場合

「ユウヤ=イサミ‼ 貴様を追放するッ‼」

 

 異世界召喚早々、追放宣言を喰らった。

 俺こと伊佐美裕也(いさみゆうや)は下校中に出現した魔法陣に吸い込まれ、気がつけば剣と魔法のファンタジーな世界に召喚された。

 目の前のおっさん――この国の王様の話では現在、この世界は大魔王率いる魔界の軍勢が人間界を支配しようと侵略戦争を仕掛けており、人類存亡の危機に瀕しているらしい。

 そこで、大魔王を倒すために俺が召喚された訳だが……

 

「勇者を召喚したかと思えば、スキルもなく、ステータスも貧弱! このような者が勇者であるはずがない‼ 召喚の儀式は失敗したのだ‼」

 

【悲報】勇者・俺、召喚されるも速攻で追放される。

 

 脳内にそんなスレが立った気がする。

 

「ディートリッヒよ‼ この役立たずを追放しろッ‼」

 

 散々罵り、傍らにいた騎士に命令し、俺をつまみ出そうとする。

 しかし、騎士――ディートリッヒはよく響く声でこう言った。

 

「お断りします‼」

「なん……だと⁉」

 

 なんと、俺の追放を拒絶したのだ。

 王の命令に背く騎士に、国王はわなわな震えながら怒鳴り声を上げた。

 

「貴様‼ 我が命令が聞けぬと言うか⁉ えぇい‼ 使えぬ奴め‼ 貴様など我が国に必要ない‼ 今日限りで騎士団より追放する‼」

 

 挙句、ディートリッヒにまで追放を宣告。

 するとディートリッヒは「かまいませぬ‼」とその追放を受け入れた。そして――

 

「ならば、このディートリッヒ、これより自由騎士として、共に死地を共にしましょう‼ 悪役を買ってまで、臣下を逃がそうと振舞う陛下の為にも‼」

 

 

 

 ……なんか、聞き捨てならない台詞が聞こえたんですけど?

 

「っく‼ 貴様‼ そこまでして……ッ‼」

「長い付き合いですからな。あなたの心うちなど理解して当然です。勇者様を追放させることで、私を国外に逃がし、国境を越え、目前まで迫る魔王軍を食い止める算段でしょうが、残念でしたな。既に、お見通しです!」

「え? 魔王軍、目前まで迫ってんの?」

 

 中々ショッキングな事実に、固まってしまった。

 いやいやいや、こういう勇者召喚って、もうちょっと余裕ある時にやらない⁉

 なに、最終防衛ライン突破されてから勇者を召喚してんの!?

 レベリングする暇ないじゃん!

 そんな俺の疑問を肯定するかのように、国王は観念したかのように深く息を吐くと、先ほどの怒りが嘘のような穏やかさで、語り始めた。

 

「……最早、我々に大魔王を討つ力はない。貴様の弟子である勇者フラグッハ卿も大魔王討伐の道半ば、配下である四十七体いる魔王の内四分の一を倒すも、第五・第十六・第三十二魔王らとの戦闘で相打ちとなり、消息不明となってしまった……」

「え? 魔王ってそんないたの?」

 

 日本だったら各都道府県に一体いる計算である。

 なんなら大魔王を入れたら魔王48である。アイドルグループじゃないんだから。

 

「各地で我が国の戦士たちが奮闘しておるも、最早、この国が亡ぶのも時間の問題。ならば、可能な限り、戦力を温存し、再起の時を伺うべきであろう」

「しかし、そのために王を失う訳には――‼」

「我の命一つで国が救えるなら、安いものであろうがッ‼ 貴様も騎士ならば、本当に守るべきものを見失うなッ‼」

「ですが――‼」

「くっ! ならば予定変更だ‼」

 

 そう言うと王は、腰に差した豪奢な剣を抜くと俺に近づいてきた。

 素人の俺にも見ただけで業物であると分かる剣。

 おそらく、人間など簡単にスライスできる切れ味だろう。

 

 ――え? 俺、殺されんの?

 

 話の流れ的に、なぜそうなると疑問を持ってしまうが、剣を抜くと言うことはそう言うことだろう。

 しかし、事実はいつも斜め上だった。

 

「ユウヤ=イサミ、介錯を頼む」

「なぜに!?」

 

【悲報】俺、追放から一転、まさかの国王の介錯を任された件

 

「我が首を魔王軍に捧げ、降伏を宣言しろ。その隙に、ディートリッヒは小隊を潜伏させ大魔王に奇襲をかけ、討ち取るのだ‼」

 

 つまり、自らの命を餌に一世一代の大芝居により、敵将を討ち取るという、ガンギマった作戦である。ヤベェ、この人。

 

「いやいやいやいや、まずいって‼ それは不味いって‼」

「安心せよ、ユウヤよ。この異世界召喚の術は、召喚者を殺害すれば、召喚された人間は元の世界に戻れるのだ。故に、貴様が被害を被ることはないっ!」

「後味が悪すぎる‼」

 

 ここまで高潔な王に手を下し、元の世界で血塗られた過去を背負って日常に戻れる未来が見えない。絶対、トラウマになります。陛下。

 前科持ちになってしまいます、陛下。

 

「陛下! お止めください‼ でなければ、私は勇者様を――」

 

 そう言ってディートリッヒは腰の剣に手を掛けた。

 素人目ながら、豪華な装飾などされてはいないながら、見ほれる程に研ぎ澄まされた業物であることが理解できる。

 多分だが、自分など一刀両断・八つ裂き・十六分割も思いのまま。

 最悪、サイコロステーキにされてしまう。

 

「やめて! やらないから‼ 絶対殺さないから‼」

 

 もし不穏な挙動を見せれば、即・斬されてしまいそうな雰囲気に、必死になって弁解する。

 そんな、二人のやりとりを見て、国王はまだるっこしいとばかりに怒鳴り声を上げた。

 

「ええい! ではどうすればよいと言うのだ‼ 最早、これしか人類救う方法はないのだぞッ‼」

「そんなことはありませぬッ‼ なにか方法があるはずです‼」

「ディートリッヒの言う通りですわ‼」

「誰!?」

 

 バンッと勢いよく扉を開けて、金髪を靡かせ、一人の美女が、胸元が大きく開いた白金の鎧を身に纏い、輝くランスを手にし、王室へ飛び込んできた。

 

「貴様はイリオナ‼ なぜ貴様がここにいる!? 貴様とは離縁し、生家へと返したはずだ!」

「離縁されたとはいえ、我が家は代々、この国に使えし騎士の家系‼ なれば、王妃ではなく一介の騎士として共に最後まで戦うのが騎士と言うもの‼」

 

 どうやら、このお方、この国の王妃様らしい。

 文脈から察するに、魔王軍の侵略により、王の配偶者として処刑されるのを防ぐため、あえて離縁したようだ。

 この辺りのドラマでおなかいっぱいである。

 

「父上‼」

「貴様はアルベルト!? なぜ、貴様がここにいる!? 辺境の開拓地に追放したハズだ‼」

「王都が危機と聞き、義勇軍を率い、馳せ参じました‼ 親子の縁が切られたならば、私は国と民を守るための義士となりましょう‼」

「くっ! 馬鹿者め……ッ‼」

 

 ……と思ったら王子も来た。

 どうやら辺境の地へ(わざと)追放されたようだが、国の危機に立ち上がったようだ。

 後継にも恵まれているじゃねーか。

 

「へっ、予想通り、テメェは大馬鹿野郎だったか」

「貴様は大魔導士・マリク‼ 宮廷から追放したはず‼」

「おう、先週付で宮廷魔導士の座は返上したぜ。だから、今ここにいるのはバカなダチを助けに来た無職の大魔導士様だよ!」

 

 さらに、なんか男前なおっさん魔導士も来た。

 やべぇ。この王様、慕われすぎ……

 

「国王陛下! 私も戦います‼」「私もです‼」「逃がそうとして追放したんでしょ!? 分かってますよ‼」「魔族との混血である私を拾い、分け隔てなく接してくれた恩義を今こそ返す時‼」「我が命は既に国王と共にあり‼」「オラも戦うべ‼」「あたいも‼」「わしも‼」「ボクモ最後マデ戦イマス‼」

「き、貴様ら‼」

 

 さらにさらに、ここぞとばかりに現れる一癖も二癖もありそうな実力者たちが、王室に押しかけてきた。

 すげぇ、人望だ。正直、召喚されたばかりの自分は完全に場違いだ。最早、空気扱いだ。

 多分、いなくなっても気づかれない。

 

「くっ……ならば、貴様らの想いを確かに受け取った‼ 皆のもの‼ 我と一緒に死んでくれ‼」

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼』

「え? 俺も?」

 

 己を慕う大勢の人間に心動かされた国王は、玉砕覚悟で大魔王を迎え撃つことを決めた、その時であった。

 

「で、伝令‼ 伝令です‼」

 

 一人のボロボロの伝令兵が飛び込んできた。

 

「なにごとだ⁉ 騒々しい‼ 今、我々は最後の決戦に備え――」

「大変です‼ 国王陛下‼ お伝えしなければならないことがッ‼」

 

 息も絶え絶えで、風前の灯火のような伝令兵は、それでも己が責務を貫こうと、信じられない言葉を口にした。

 

 

「大魔王が、討伐されましたッ‼」

 

 

 ……うん、本当に信じられなかった。

 

 一瞬で、王の間を静寂が支配する。

 あまりの衝撃に全員が言葉を忘れたのだ。

 だが、流石は一国の王と言うべきか、いち早く我に返った王が伝令兵に尋ねる。

 

「すまんが……もう一度、言ってくれるか?」

「はっ‼ 大魔王が討伐されましたッ‼」

「すまん、もう一度」

「大魔王が討伐されましたッ‼」

「本当にすまないが、もう一度――」

「信じられないのは分かります‼ 信じてもらえるまで何度でも言いましょう‼ 大魔王が‼ 討伐されましたッッッ‼」

 

 信じられないとばかりに、何度も同じ質問をしてしまう国王に、律儀に体力の限界にも関わらずに、何度も同じ内容の伝令を大声で叫ぶ。

 そう。彼は、力の限り叫ぶのだ。

 

「大魔王が‼ 討伐‼ されましたッッッッッ‼」と。

 

 その結果と言うべきか……

 

「え? マジで?」

 

 王のキャラが崩壊した。

 

「え? マジで? 嘘やん?」

「嘘ではありません‼ 偽りなき事実です」

「誤報とか、フェイクニュース……」

「私もこの目で確認しました‼」

「さっき、勇者召喚したばかりなんやけど?」

「はい! こっちの事情とか一切関係なく‼ 大魔王は討伐されました‼」

「……マジかー」

 

 こっちの台詞だよ。

 

 

 

 伝令兵の話では、魔王討伐に向かった勇者フラグッハ=ヘシィオール卿は、魔王軍の猛攻により敗れたはずだった。

 しかし、実はこっそり生き延びており、圧政に苦しむ善良な魔族たちの仲介を得て、魔王領内に存在する反大魔王組織と合流。

 彼らの協力の下、大魔王が前線に出る瞬間を狙い奇襲。死闘の末、見事、討ち取ったと言う。

 

「しかし、それでも魔王軍は健在‼ 至急、増援をいただきたく、ここに馳せ参じました‼」

 

 そう言って、伝令兵はすべての力を使い果たしたように、倒れてしまった。

 しかし、これで終わりではなかった。

 

「伝令‼ 伝令‼ 東の国の勇者が第三十魔王を撃破‼」

「伝令‼ とある村の若者が第二十五魔王を撃破‼」

「伝令‼ 古代の勇者が長き眠りから目覚め、第四十七魔王を撃破‼」

「伝令‼ 魔王領近くの村の村長が、死闘の末、第二十九魔王を撃破‼」

「伝令‼ 近所のおばちゃんが――」

 

 ここにきて、まさかの魔王撃破・人類優勢の伝令の数々。

 なだれ込み、伝令を伝え、満足げに力尽きていく兵たちを見て「この者たちに治療と休息を」と衛兵に命じ、国王は宙を仰ぐと「ふー……」と深く息を吐いた。

 

 ――そして、反撃の狼煙を上げた。

 

「皆のもの、今が好機‼ 至急、勇者の増援に向かうぞぉぉぉぉぉ‼」

『うおおおおおおおおおお‼』

 

 国王の号令の下、騎士たちの戦意は急上昇。

 士気は天元突破し、全員が勢いよく戦場へと向かう。

 

「アリオナよ‼ 今すぐに同盟国に援軍の要請‼ ならびに帝国と聖教国との国境を閉鎖せよ‼ やつら、どさくさに紛れて侵略を仕掛けてくるやもしれん‼」

「かしこまりましたわ、あなた‼」

「アルベルト‼ 精鋭を半分残していく‼ 城の護りは任せた‼」

「お任せください‼ 父上‼」

「マリク‼ 背中は任せるぞ‼ ディートリッヒ‼ 先陣を頼むッ‼」

「へっ‼ あたぼうよ‼」

「この時を、この時を待っておりました‼」

 

 てきぱきと指示を飛ばし、剣を抜き、戦場に向かわんとする国王たち。

 そんな中、一人手持ち無沙汰になった俺は、おそるおそる手を上げた。

 

「あの……俺はなにをするといいでしょうか?」

 

 王はよく通る声できっぱりと言った。

 

「勇者殿は待機‼」

「待機!?」

「待機‼」

 

 力強く断言し、国王は覇気に満ち溢れた、漢気溢れる背中を見せながら、騎士たちを率いて出て行ってしまった。

 残された俺は気まずそうに王太子・アルベルトに視線を向けると……

 

「あ、お茶でも」

「あ、すいません」

 

 丁重にもてなしてくれた。ありがたい。

 

 

 

 その後、人類の反撃により魔王軍の残党は全滅。

 残された魔族も大部分が友好的な存在だったために、停戦条約に速やかに応じ、戦争は終了。

 無事に帰還した勇者フラッグハが俺に「異世界の勇者殿、私の代わりに国を守っていただき誠にありがとうございました‼」と礼を言ってきて、いたたまれなくなった。

 

 こうして、俺の異世界召喚は召喚されて即刻終わったのだった。

 数年後、社会人になった俺は、召喚してしまったせめてもの謝罪の証に渡された金貨の一枚を見るたびに、かの国王の背中を思い出す。

 

「……俺も昔より、あの背中に近づいてるのかね?」

「ヘイ! イサミ‼ そろそろ、フライトの時間だ‼ 気を抜くなよ⁉」

「分かってるよ」

 

 今の相棒に声を掛けられ、感傷から我に返り、俺は操縦桿を握った。

 ここから先は、人類未踏の地、外宇宙。

 果たして何が待ち受けているか。

 国王の背中を思い浮かべ、無力だった自分に別れを告げるように、ロケットは銀河を飛び出していった。

 

 

 





◆登場人物◆
・国王 レベル50億6千万
 かつて、国を追われるも、現在の妻との出会いを経て、王の座を奪い返した国王。
 子にも恵まれ、穏やかな時を過ごすも、大魔王率いる魔王軍との戦いに巻き込まれる。
 当初は「見ず知らずの者を異世界の戦争に巻き込むわけにはいかない‼」と勇者召喚を断固拒否していたが、日に日に悪化する戦況と、周辺諸国からの圧力により、勇者召喚を決意するが結果は御覧の通り。
 尚、最前線で家臣が止めるのも聞かず、大暴れした。

・ディートリッヒ レベル39億250万
 ダルタニアンに使えし騎士団長。
 普段は明朗快活な好男子だが、戦場では狂戦士もかくやと言う戦いを見せ、敵を恐れおののかせる。別名【血塗れディートリッヒ】
 止める立場にありながら国王と大暴れしたので、後日、大臣からめっちゃ怒られた。

・イリオナ王妃 レベル47億6132万 100/63/102
 かつて、婚約破棄され辺境の地に追放され、途方に暮れていた公爵令嬢。
 国を追われた国王との運命的な出会いを経て、結ばれる。
 剣術の腕も確かだが、魔術も使える戦乙女。

・アルベルト王子 レベル50億
 第三王子。上に二人いる兄は別の地で奮闘中。
 王子の中で、最も未熟故、辺境の開拓を命じられるも、爆速で領地開拓。
 国の危機に馳せ参じました。
 いずれ、父を超えると心の中で誓うも、その背中は未だ遠い。

・大魔導士マリク レベル48億2794万
 国一番の魔導士。前時代的なパワハラとセクハラで追放とされるが、全関係者曰く「あんなん許容の範囲内」
 国王とは昔ながらの悪友で、今は隠遁してたが、現場復帰を果たす。

・フラグッハ=ヘシィオール レベル71億1600万→90億7500万
 今回の功労者。行方不明になる前日――
「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」
「早く帰って、あつあつのステーキが喰いたいぜ」
「今宵は星がキレイだ。特に北斗七星、その隣で輝く星までも――」
 ……などなど、数々のフラグを立てるも、無事生存。
 大魔王を討ち破り、勇者として名を遺す。

・伝令兵 レベル1億
 極めて平均的な伝令兵。それ以上でも以下でもない。

 伊佐美裕也 レベル1→レベル60億3998万
 異世界召喚されるも、すぐ返された平凡な高校生。
 見事、王に脳を焼かれ、帰還後に奮起。
 宇宙飛行士になり外宇宙へと飛び出した。
 彼の冒険は、また別の話。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。