《完結》テイルズ オブ デスティニー〜七人目のソーディアンマスター〜 作:灰猫ジジ
更新は気長にお待ちくださいませ!
数話の短編で終わると思います。
第一話 リリス、頑張ります!
「……え? えぇぇぇええ!?」
リリス・エルロンはいきなりのことにまだ頭が追いついていないようであった。
兄であるスタン・エルロンからは「ディムロスは世界を救うために犠牲になったんだ……」と言われて俯かれてしまったため、それ以上何があったのかを聞くことは出来ていなかった。
だから彼女の中ではディムロス達とは二度と会えないものだと思っていたのだ。
『おい、聞こえているのか? スタンの妹よ』
「え、あ、うん。聞こえてるけど……本当にディムロスなの?」
『もちろんだ! こんな姿になってしまったが、我は間違いなくディムロスだ』
ディムロスとリリスは、スタンがリーネ村に寄った際に少しだけ一緒にいたことがあったため、顔見知りであった。
その際、リリスにもソーディアンマスターとしての才能があると知り、スタンは「マスター選びを早まったか……」とディムロスに言われてしまうというエピソードもあった。
「ねえねえ、なんでこんなところにいるの?」
リリスは至極当然の質問をした。ダイクロフトでソーディアンが犠牲になったというところまでは知っていたが、それがなぜこんなところにいるのか皆目検討もつかなかったためである。
ディムロスは事の経緯を彼女に詳しく説明した。
「……なるほどねぇ。で、どの子が
『どの子って……俺だけど、どうしたんだ?』
全員コアクリスタルのため、判別が付きにくい見た目をしている。そのため
『お、おっと……』
「あなたが
『な、なんだって!?』
そしてその声に反応したのは
『なんと! それはめでたいのう!』
『思ったよりも早い結婚だったわね』
フィリアのソーディアンであるクレメンテと、エドワードの母親であるハロルド──現在はソーディアン・ベルセリオスである。
「まぁその辺はおいおい本人達から聞いてもらうとして、みんなはこれからそれぞれのマスターに会いに行くってことでいいの?」
リリスは当然のようにこれからの予定を決めていく。彼女の人の良さはここにも表れており、この場で出会った以上、責任を持って全員のところまで届けるつもりであった。
そこはエルロン家固有の人の良さなのであろう。しかし、それに難色を示すソーディアンがいた。
『あの
『そうですね。僕もこんな姿で坊っちゃんに会ったらなんて言われるか……』
『私なんてルーティに売られてしまう可能性だってあるわよ……』
ディムロスはスタンにコアクリスタルだけの姿を見られるのが恥ずかしい、シャルティエはリオンに馬鹿にされる、アトワイトはルーティに売られる恐れがあるということをそれぞれ考えていた。
「え、別に気にしなくていいじゃない。会ったらきっと喜んでくれるよ!」
『む……だがな……』
リリスの説得にもなかなか応じようとしないディムロス。
そこに
『リリス、勘弁してやってくれ。ディムロスはスタンに格好つけたいだけなんだよ』
『
「あら、そうだったの? んー、だったら
だが、ディムロスからは暗い声が返ってくる。
『……それは出来ない』
「え、なんで?」
『今のこの世界の技術力ではソーディアンを鍛えることが出来ないのだ……』
そして、この世界には必要な〝鉱石〟も設備もないと伝えるとリリスは「そっかぁ〜」と落ち込む。
だが、それに反論をしたのが
『え? 〝鉱石〟が無いなんて誰が言ったんだ?』
『え? 〝設備〟や技術力が無いなんて誰から聞いたの?』
さすが人間のときに夫婦だったこともあり、息がピッタリであった。
『またか……』
『もう慣れっこですよね』
『仕方ないわよね』
『ふぉっふぉっふぉ』
二人の言葉にディムロス以外のソーディアンが半ば諦めたかのような声を出す。
『
『こんなこともあろうかと人間だったときに内緒で〝鉱石〟をちょちょいっとね♪』
『こんなこともあろうかと人間だったときに内緒で〝設備〟をちょちょいっとね♪』
詳しく説明を聞くと、天地戦争時代に
ディムロスはその言葉を聞いて、怒りを爆発させそうになったが、すぐにため息をついて諦めてしまう。
『はあ……もういい。じゃああとはそこまでどうやって行くかだな』
必要な〝鉱石〟もある。〝設備〟もある。技術もベルセリオスがいれば問題ない。だが、彼らには最も重要なものが欠けていた。
それは
そのことに気付いたソーディアン達からは暗いの雰囲気が漂っていた。
「…………良いこと思い付いた! それ、私が手伝うよ!」
『……な、なんだと?』
なんともしがたい現実を突きつけられたところに、突然明るい声が届く。それは彼らにとってはまさに救世主のような声だったのだが、ディムロスだけは頓珍漢な話をしたと思い、そんなリリスに戸惑っていた。
「だから──私がディムロス達を直してあげる♪ あはっ、我ながら素晴らしい思いつき〜♪」
『ば、馬鹿なことを言うな! そんなことさせられるか!』
「なんでよぉー!?」
ディムロスはリリスの提案を即座に否定する。自身の思い付いた良案を否定されたリリスは、ディムロスに詰め寄る。
『当たり前だろう!』
「大丈夫よ、私強いもん」
『信用できるか!』
「本当だよー! 私、お兄ちゃんと喧嘩して一度も負けたことないんだからぁ!」
『兄妹喧嘩を比較に出すな!!』
「ふーんだ、もう決めたもん! 絶対、絶対! 一緒に行く!!」
『……お、おい──』
「──行くからね」
リリスの言葉にディムロスも
最終的にはリリスが勝手に結論を出し、それに反論しようとしたディムロスに真剣な眼差しで行くとだけ伝える。
『はぁ……リリス、なぜだ? そこまでお前がする理由はないだろう……これ以上我らが迷惑を掛けるわけにはいかない』
「…………迷惑なんかじゃないよ」
真剣な顔になったリリスに理由を問うディムロス。彼としては、何が起こるか分からないことに大切な相棒の妹を巻き込むわけにはいかないと思っていた。
そこから来る親切心で話していたのだが、リリスとは考え方が違っていた。
「それに、私にも理由はあるんだから……」
「……なんだと? どういうことだ?」
ボソッと呟くリリスの声を聞き取ったディムロスはどういうことなのかの説明を求める。
しかし、彼女は顎に人差し指を当てて、一言だけ「ないしょ♪」と満面の笑みを見せるだけであった。
『〜〜〜! 言わないのであれば却下だ。お前に何かがあれば、俺はスタンに顔向けができない。』
「ディムロスには絶対に迷惑を掛けないからぁ! 約束する! だから……ね?」
『……しつこいな』
「ね! お願い! リリス、一生のお願いだよぉ〜!!」
理由を言わなければ同行は認めないし、もし言ったとしても連れていくつもりはないと伝えるディムロスに、今度は甘えるような声でお願いを始めるリリス。
そこにリリスお得意の〝一生のお願い〟も加わると、断れる人のほうが少ない。もちろん違う意味で。
(な、なんだ……? リリスはただ笑っているだけなのに、この凄まじいまでの圧迫感はなんだ……? ぐっ、だ、だめだ……跳ね返すことが出来ない……)
ソーディアンであるディムロスもそれに漏れなかったようで、〝一生のお願い〟という
彼女の「ね?」という一言ですら、威圧感が含まれており、これ以上は耐えきれないとディムロスが判断したところで助け舟が入る。
『くっくっく……ディムロスよ、これだけお願いしてるんだし認めてあげればいいだろ? 第一、リリスがいなくなったら、俺らの声を聞いてくれる人が通るまでどれくらい待たないといけないんだよ?』
「あ!
そろそろディムロスが耐えきれなくなると判断した
実際にリリスの提案を断るとして、誰にお願いをするのだという話になる。ソーディアンは自分から動くことが出来ない以上、ここを偶然通る誰かに声を掛けるしかない。
しかし、素質がある人間がいつ通るかも分からないし、偶然通ったとしても、喋るレンズの言うことを聞いてくれるお人好しがどこにいるのだという話である。
エドワードやフィリアであれば喜んで助けてくれるだろうが、今度はそこまで運ぶのは誰が行うのかという話になってくるのである。
リリスに頼るか、また別の素質のある人が通るまで待つのか。結局堂々巡りになってしまうのであった。
『む、むうう…………わ、分かった! 仕方があるまい……』
「えっ、本当!? やったぁぁぁ!!」
ついにディムロスが同行を許可したことで、リリスは飛び跳ねて喜ぶ。彼女には彼女なりの思惑があれど、それでお互いが損をしないのであれば良いのだろうと無理やり納得したディムロス。
(うむ、そうなのだ。我がリリスのお願いを聞いてあげたのだ。決して、決して……あの圧力に負けたわけではないのだ!)
〝地上軍中将〟ディムロス・ティンバー。歴戦の戦士である彼ですらも、リリスは追い詰めるだけの素質を持っているのであった。
◇
リリスとソーディアン一行は、フィッツガルド大陸中央部にある場所に来ていた。
こうなることが分かっていたエドワードはフィッツガルド大陸に必要な〝鉱石〟や秘密裏に作っていた〝設備〟を隠していた。
『あれ? あれれ?』
「
施設はすぐに見つかったのだが、ソーディアンを再生させるために必要な〝鉱石〟はいくら探しても見つからなかった。
『何が俺に任せておけだ!
『あ、あれれ〜?』
『あれれ〜? とか言っている場合じゃないだろ! これからどうするんだ!!』
『本当よね』
『本当じゃな』
『本当だな』
『本当ですよ』
『さすがにこれはあたしも庇えないわね』
どこかで聞いたようなやり取りがされているのを聞いたリリスは、ソーディアン内での
そして結局修復に必要な〝鉱石〟は見つからず、途方に暮れるのであった。
「これじゃあ手詰まりよね」
『う……ご、ごめんなさい』
『
『
『今回は結構期待していただけに、ちょっと残念ね』
『ほっほっほ。
『まぁ仕方がないだろう。イザークとウッドロウに会うのが少し遅れたが、俺はコアクリスタルのままでも構わないしな』
『……まぁこんなこともあろうかと、別の方法もあるんだけどね♪』
一行はソーディアンの修復を諦めていた。施設があっても必要な〝鉱石〟がない以上、ソーディアンの修復は不可能なのである。
直らないと分かった以上、元の姿になったまま再会するのは諦めるしかない。
「じゃあ……帰ろっか。今日はお兄ちゃんうちにいないから、来ても問題ないだろうし」
『……そうだな。リリス、面倒を掛けてすまない』
「気にしないでよ♪ 剣じゃなくなっても、お兄ちゃん達はきっと喜んでくれるだろうし!」
申し訳無さそうな声を発するディムロスに、慰めるリリス。
全員は少し落ち込んだまま、リーネ村へと帰っていくのであった。
◇
リーネ村に到着すると、すでに日が暮れかかっていた。
リリスは夕飯の支度をしないといけないと、家に戻ってディムロス達を部屋に置いた後、台所へと向かっていってしまった。
『むうう……この姿でスタンと会わないといけないのか……』
『私もルーティに会うのが憂鬱だわ』
『僕もですよ……
『まあ、あたしのマスターはこの時代にはいないから、エドのところに帰るだけだし』
『エドは驚くが、喜んでくれそうだしな』
『ほっほっほ』
『俺も同じだ。イザークとウッドロウであれば、問題なく受け入れてくれ…………ちょっと待て……』
イクティノスは何かの違和感に気付く。
『イクティノス、どうしたんですか?』
『いや……俺達は
正しくは
『さっきも似たようなやり取りがあって…………ベルセリオス、お前何か言ってなかったか?』
『え? 何かってなによ?』
『俺達が修復を諦めるという話になったとき……たしか
イクティノスが徐々に思い出していく。それに対して、ベルセリオスはさらりと認める。
『ええ、言ったわよ』
『そうだよな、俺の気のせい……って本当に言ったのか!?』
『だから言ったって言ったじゃない』
まさか本当に自身の記憶が正しかったと思っていなかったイクティノスは、思わず叫んでしまう。
ベルセリオスはそれを冷静に返すだけだった。
『お前……なぜすぐに我らに言わないんだ!』
『え、あたしは言ったわよ? だけど流したのはあんた達じゃない』
『じゃからと言って、そのまま何もなかったことにするとは……』
『それでも元に戻る気があるのか!』
ディムロスとクレメンテに詰められるが、ベルセリオスには何も響いておらず、むしろ話を流したディムロス達が悪いと開き直る。
その様子に
『まぁベルセリオスは元々こういう性格だから仕方ないだろ?』
『あら? 〝鉱石〟の隠し場所を忘れた
『うっ……』
『そうだ! 元はお前がきちんと覚えていればこんなことには──』
ここでソーディアン達による言い合いが始まる。
言い合いというよりは、
その声を聞いたリリスが慌てたように部屋に入ってくる。
「ちょ、ちょっとどうしたの? 台所にまで声が聞こえてきたわよ?」
リリスに仲裁され大人しくなったソーディアン達。そして彼女にはディムロスが代表して説明をするのであった。
『……というわけでな。修復する方法が他にあることがわかった』
「あら、良かったじゃない♪」
話を聞いたリリスは嬉しそうな顔になる。
『それで詳しい方法はベルセリオスが知っているのだが……』
『ええ、説明するわね。まず前提としてソーディアンを直す〝鉱石〟は
『それは面目ない……』
『そこはもういいわよ。大事なのはその〝鉱石〟をどこで見つける必要があるかということなんだけど……この世界に無いのであれば、
この世界には〝鉱石〟が無いため、単純に別世界へ行けば良いという結論に至った過去のハロルド。ソーディアン達が封印される前にハロルドはベルセリオスと一緒に別世界へ渡る装置を開発していたのであった。
天地戦争時代。今よりも更に高度な技術があったときですら、ハロルドの天才ぶりは群を抜いていた。
理論として出来ていたものを、実際に利用できる装置として開発したのは彼女の叡智の賜物なのであろう。
「あら、〝別世界〟とか面白そうね♪」
リリスは面白そうなことが起こりそうだと感じ、嬉しそうな声を出す。
『それで……その装置がある場所はまさか……』
『ええ、さっき行った施設よ』
『〜〜〜〜!!』
二度手間を食らったと思ったディムロスは声にならない怒りを出していた。
しかし、これ以上揉めていても仕方がないと判断し、冷静に今後の予定を立てることにした。
『はぁ……とりあえず今後の予定を考える必要があるな』
『ええ、まずは〝鉱石〟がある世界に移動しなくてはいけないのだけれど……』
〝鉱石〟を確保するにはその世界に移動する必要がある。しかし、どの世界にあるのかが分からないため、なるべく無駄足にならないようにする必要があった。
そこでベルセリオスから提案が出た。
『私達が生きている世界には〝精霊〟という精神体が存在しているの。それは火や水、土や風など色々なものに含まれているのよ。そして別世界にはそれを司る〝高位精霊〟というのが存在していて、その更に上の〝最高位精霊〟なんてのもいるわ。
人間達の前には滅多に姿を現さないって話だけど、もし会えれば〝鉱石〟がある場所を教えてくれるかもしれないわ』
ベルセリオスの提案で、まずは別世界の〝精霊〟に会いに行くことに決まった一同。
なぜベルセリオスはここまで別世界について詳しいことを知っているのかは、誰も聞くことはなかった。
「おっけー! じゃあ明日の朝から早速出発ね! 今のうちに明日以降のご飯の用意しておかなきゃ♪」
そのまま部屋から出ていくリリス。ディムロス達も修復する目処が立ったことで和やかな雰囲気に戻っていた。
そこでベルセリオスが
『さっきはありがと……』
『ん、ああ、気にすんな』
ベルセリオスが責められそうになっていたとき、自身が身代わりになることでそれを避けた
ソーディアンになっても二人の間には温かい特別な感情があるのであった。
なんか
リリスはヴェスペリアの世界に行ってほしい?
-
はい
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いいえ