《完結》テイルズ オブ デスティニー〜七人目のソーディアンマスター〜   作:ねここねこねこ

63 / 65
エターニア編が13,000字超えって……ボリュームがありすぎて読み疲れてしまうと思うので、じっくりゆっくり読んでくださると嬉しいです。

また、これだけ文字数が多いと、誤字脱字も多くなっているかもしれません。
その時は優しく誤字報告をしてくださると嬉しいです。



第四話 リリス、料理します!

 インフェリア世界、熱砂の町シャンバール──砂漠地帯に囲まれている場所にありながら、食材の品揃えが非常に良い場所。

 なぜならそこには〝ビストロシャンバール〟という世界で有名なレストランがあるからだ。そこには〝味マスター〟と呼ばれる三人の猛者がおり、世界中の料理人が〝味マスター〟と対決して勝利し、その称号を手にすることを望んでいた。

 

「はぁ〜」

「……どうしました? 味マスター一号(いちごう)?」

 

 ため息をつく女性に、弟子である見習いシェフが話し掛ける。

 しかし、味マスター一号と呼ばれた女性は落ち込みを隠さずに〝味マスター〟という言葉を繰り返す。

 

「味マスター……なんて麗しい言葉の響き……。でももうだめ。もはやその称号は私の物ではない……」

「あの勝負のことなら、お気になさる必要はございません! 自分はマスターが負けたなど、これっぽっちも思っていません。あくまで──」

「裏付けのない慰めはよして。ますます自分が情けなくなる……」

「マスター……」

 

 慰めの言葉を掛ける見習いシェフに、味マスター一号は無用な慰めをしてほしくないと冷たく応える。

 

「……下がりなさい。今は一人にしてほしいの……」

 

 今は一人になりたいという味マスター一号の言葉を尊重し、見習いシェフは無言で頭を下げてその場から立ち去った。

 落ち込みながら一人考えごとをする味マスター一号。

 

(分からない……分からないわ……あの味の秘密がどうしても。味マスターとなって三年。料理界にこの人ありと言われた私が、あんな田舎者丸出しの野蛮な娘に負けるだなんて……!)

 

 考え事をしながら、そのことをブツブツと口に出していた味マスター一号。

 あまりの悔しさから泣き出しそうになったそのとき、前方の上の方に光が発せられる。そしてその光の中からピンク色のワンピースにエプロン姿の女の子が現れた。

 

「な、なに……!? なんな──」

「え? えぇぇぇえええ!?」

 

 光の中から現れた少女にただでさえ狼狽えていた味マスター一号であったが、その少女が地面にそのまま落ちてきたのだ。

 彼女の頭の中は混乱しすぎて、目をパチパチと瞬かせていた。

 

「……いったたたた〜! もうっ! ()()ってなんで毎回転移先が上空なのよっ!」

 

 少女はお尻をさすりながら、何かに対しての不満を漏らしていた。「とりあえず空間移動には成功したのね」と訳の分からないことを言っており、味マスター一号はキョトンとしていた。

 しかし冷静になった味マスター一号は、この場で一番疑問に思っていたことを口にした。

 

「あ、あなたどこから出てきたのよ!? それに一人でぶつぶつ喋って……」

「──ひっ!?」

 

 後ろから急に大声で話しかけられた少女は驚いたような声を上げる。そして、隠し事が見つかった時のような慌てぶりを見せるのだった。

 

「わ、私達……怪しい者じゃないでぇ〜すぅ!」

『……思いっきり怪しいと思うが?』

「あんたは黙ってなさいよ」

 

 少女は猫なで声で怪しくないと言い張るが、それがまた怪しさを醸し出す。

 そして少女は誰も話していないにも関わらず、急に黙れと言い出すのであった。

 

()……()……?」

『リリス、あの女にソーディアン(我ら)の声は聞こえないぞ』

『儂らの声が聞こえるのはリリス(お主)やスタンのように一定の才能を持つものだけじゃよ』

 

 味マスター一号は、少女の()()という言葉にある種の恐怖を感じ始める。

 

「わ、私! 私だけですぅ〜! 私、リリス・エルロン以外は他に誰もいやしませぇ〜ん!」

「──見りゃ分かるわよ! ……はっ!?」

 

 誤魔化そうとするリリスに味マスター一号は突っ込むが、その直後にリリスの腰に目が行く。

 

「ちょっと……その腰に差している刃物は……なに……?」

「え……? あ、その、これですかぁ?」

 

 リリスは動揺しているのか、おもむろに腰に差していた包丁を抜く。

 味マスター一号は急に刃物を抜いたリリスに対し、「ひっ!」と恐怖の声を上げる。

 リリスのその行動にさすがの時雨(しぐれ)も呆れた声を出していた。

 

『いや、なぜにそこで包丁を抜くんだよ……』

「え、えへへっ! 大したものじゃないですよぉ? 包丁(これ)使って、何かしようだなんてぜぇ〜んぜん考えてませんからぁ〜!」

 

 笑い声を上げながら包丁を振り回す様は、異常者そのものである。

 あのベルセリオスですらも、このときのリリスの異常さには驚きを隠せなかったとのちに語っていた。

 急に現れて包丁を振り回す。どう見ても強盗にしか見えなかった。

 

 しかし、味マスター一号もある意味同じくらい異常だったのであろう。

 リリスが抜いた包丁を食い入るように見つめていたのであった。

 

「あは! あは! あははははっ!」

『お、おい! いい加減包丁を振り回すのを止めんか!』

「そ……その手つき……! あ、あなたさては……!」

 

 確実に強盗に間違われてしまった。リリスとソーディアン達はそう確信する。

 そしてこの状況から逃げる方法は唯一(ただひと)つしかないとリリス達が思ったそのとき、味マスター一号は誰もが予想しない言葉を口にした。

 

「味マスターであるこの私に……()()()()()()()()のね!?」

「……………………へ?」

 

 リリスは味マスター一号が発した言葉がどういう意味なのか理解するのにかなりの時間が掛かった。

 いや、理解はしていたのだが、言葉の意味を飲み込むことが出来ていなかったのだ。

 それはソーディアン達も同じであった。しかし、味マスター一号は勝手に納得し、自分の世界で(えつ)()っていた。

 

「分かる。分かるわ、あなたの気持ち……どうしても味マスターになりたかったのね。きっと今まで私を目標にさぞ血の滲むような努力を重ねたのでしょう……」

「いや、別にそんなことないですよ?」

 

 リリスは自分の世界に入っている味マスター一号の言葉を否定する。

 しかし、その言葉は彼女には一切届いていなかった。

 

「でも……ごめんなさい。私も本当は勝負をしてあげたいけど……でも、出来ないの! なぜなら私はもう味マスターではないから!」

「あじ……ますたぁ? なにそれ?」

 

 味マスターという言葉の意味が分からないリリス。

 しかし、その言葉は彼女には一切届いていなかった。

 

「はぁぁ……あのオムライスが分からない……どうやって作ればいいのかしら?」

「オムライスぅぅ? あんなもの作るのなんて簡単じゃない?」

「──ッ! 簡単ですってぇ……!」

 

 オムライスを作ることが出来ないという味マスター一号。

 それを簡単に作れるというリリスの言葉がようやく届くが、それは悪い意味に受け取られていた。

 忌々しそうにリリスを睨みつける味マスター一号。しかしリリスはそのことに気付いていなかった。

 

「だって、オムライスでしょ?」

『リリス、ちょっと待て。なんだか相手を刺激しているようだぞ?』

 

 更に味マスター一号を挑発するような言葉を発するリリス。あまりのことに味マスター一号は怒りで震えていた。

 ディムロスはリリスの言葉が相手を刺激していると伝えるが、それでもリリスはぽかんとしていた。

 

「あなたのその物言い、料理を舐めているわ! 私の前で許せない……! 大口を叩くのなら、実力の程を教えてもらおうじゃないの!」

 

 味マスター一号はリリスの態度についに我慢の限界に達する。

 そしてリリスがその大口を叩くに相応しい実力を持っているのかを確かめるようとする。

 

「しからば問う。オムライスを作るとき、最初に炒める材料は?」

「……え? そんなの玉ねぎに決まってるじゃない!」

 

 何を聞かれるのか身構えていたリリスであったが、あまりの初歩的な質問だったため拍子抜けをしてしまう。

 そのあとの味マスター一号の「むぅ……やるわね……」という言葉に、彼女が何をしたいのかが分からなくなっていた。

 

「ねぇねぇ。あの人、私にオムライスの作り方を聞きたいのかしら?」

『ん〜……』

「その割に態度が偉そうねぇ。この世界ではあれが普通なのかしら?」

 

 実はオムライスの作り方をリリスに聞きたいのではないかと考えたリリス。ソーディアン達に小さな声で問い掛けるも、全員が答えあぐねていた。

 リリスはこの世界の住人が何かを聞きたいときは、ここまで偉そうにするのが普通なのかと疑問に思っていた。

 

「何をごちゃごちゃ言ってるの? 次、行くわよ!」

「え……まだ続けるのぉ!?」

 

 リリスは続けて質問してくる味マスター一号に、やはりオムライスの作り方を聞きたいのだと確信する。

 仕方がないので丁寧にオムライスの作り方を教えてあげることにするのであった。

 

「むぅぅぅ……やるわね……。はぁ……そうよね。これが普通のオムライスの作り方よね……」

「なによぉ! せっかく教えたのに、知ってたのぉ!? だったらわざわざ聞かなくったってぇ──」

 

 作り方を懇切丁寧に教えてあげたリリス。しかし味マスター一号の返答は、「それが普通のオムライスの作り方よね」というものであった。

 作り方を知っているにも関わらず、わざわざ聞いてきた味マスター一号に文句を言おうとしたリリス。

 しかしその言葉は彼女には一切届いておらず、言葉を遮られるのであった。

 

「でも! ダメなの! これだけじゃ()()()は出ないのよ! ()()()()()はこのレシピに更に秘術を加えている。それが分からないことには悔しくて夜も眠れないわ……」

「へぇ! 誰かの作ったオムライスがそんなに美味しかったんだ?」

 

 また自分の世界へと入り、まるで劇を演じているかのようなパフォーマンスで語る味マスター一号。

 自身の言葉を遮られたリリスは更に文句を言おうとしたが、田舎娘が作ったとされるオムライスに興味を持つ。

 その言葉は味マスター一号に届いたようで、「……試しに食べてみる?」と指を鳴らすと、外で待機していた見習いシェフが食べかけのオムライスを持ってくる。

 

「こちらでございます」

「どれどれぇ?」

 

 リリスは添えられていたスプーンでオムライスを掬い、口の中に入れる。目を瞑り、その味を確かめるようにもぐもぐと噛み続ける。

 

「……どう?」

「……うん! 確かに美味しいわ! ()()()が効いていて、全体的にさっぱりしてる!」

「レ、レモン!? レモンが入っているの!?」

 

 リリスでは分からないだろうと思いつつも、淡い期待を持って問い掛ける味マスター一号。

 しかしその期待は良い方向に裏切られ、オムライスに入った隠し味を言い当てたリリス。

 まさかと思い、リリスからスプーンを奪い取る味マスター一号。そして彼女と同じようにオムライスを口に入れる。

 

「た、たしかにレモンが入っているわね。まさかレモンが秘密の正体だったなんて……全然気付かなかったわ。

あの田舎娘、大したものね。私の、私の完敗だわ……はぁ、なんだか肩の荷が下りた気分よ。今はむしろ清々しさすら感じるわ……」

「あ、そうですかぁ……」

 

 オムライスの隠し味の正体が分かった味マスター一号は、再び自分の世界へと入っていく。

 この世界に来てからまだ少ししか経っていないのだが、リリスはこのやり取りに慣れ始めていた。

 味マスター一号は考える素振りを見せた後、何かを決心したような顔でリリスを見つめた。

 

「……決めたわ! 私は今から山に籠もって料理の何たるかを根本から見直すことにするわ! だからあなた……今日から私の代わりに新たな味マスターを名乗りなさい!」

「……え? 何のこと?」

「あなたにはその資格がある。ビストロシャンバールの未来はあなたの手に掛かっ──」

 

 勝手に新しい味マスターを名乗るようにリリスに言う。そしてリリスの言葉を一切聞くことなく話を続けようとしたとき、同じ建物内の別の場所から大きな歓声が聞こえてくる。

 

「え……何かしら?」

 

 これにはさすがの味マスター一号も気付き、話を止める。

 そこにビストロシャンバールのスタッフと思しき人間が慌てながら走ってくる。

 

「た、たたたたたたた大変だっ! 味マスター二号が破れた! 」

 

 スタッフは味マスター一号の前に立つと、息を切らしながら味マスター二号が敗北したことを伝える。

 

「──ッ! な、なんですってぇ!? 相手は!?」

「君のときと同じだ! ラシュアンからやってきた……あの……!」

「な、なんてこと……またあの娘なの……? ()()()()がまたしても勝ったというの……?」

 

 緑の悪魔と形容された娘。先程のオムライスを作った田舎娘と同一人物であろうと察したリリス。

 味マスター一号達はショックのあまり、震えていた。

 

「このままではあの()()()()にビストロシャンバールの名誉と誇りが踏み(にじ)られてしまうわ……一体どうすれば……」

 

 話についていけず、リリスはそろそろ退散しようと思い、最後に一声だけ掛けようと味マスター一号に近寄る。

 

「あの〜……私、そろそろお(いとま)しますね。それでは失礼しま──」

「そうよ! そうだわ! こうなったらあなたしかいないわ! オムライスの秘密に気付いたあなたなら、あの緑の悪魔にも勝てるわ! さぁ行きましょう、味マスター三号!」

「……え? ちょ、ちょっと! 私にはやらなきゃいけないことがあるの!」

「ええ! そうよね! あなたには緑の悪魔を倒さなきゃいけない宿命があるのよ!」

「ちがっ! ちょっと待ってってばーーーっ!!」

 

 リリスは話を聞かない味マスター一号に引きずられながら、その場を後にするのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

〈料理は剣よりも強し。料理を制する者、世界を制す。紳士淑女の皆様、こんにちは。ビストロシャンバールへようこそ! 今日も史上最高の料理対決。たっぷり堪能していただきます!〉

 

 照明が落とされて暗くなった会場の中、司会にスポットライトが当たっていた。

 司会の挨拶の後、会場がライトアップされ、観客からの歓声が響き渡る。

 

〈それでは料理対決をするに当たって、出場者の紹介をさせていただきます! まずは挑戦者! 最果ての村、ラシュアンからやってきた家庭料理の達人! 誰が呼んだか付けられた異名は〝緑の悪魔〟! ファラ・エルステッドさんです!〉

「私に任せなさーい!」

 

 ファラは歓声に手を振ることで応える。観客には知り合いなのかファラの名前を呼ぶ赤髪と青髪の青少年、そして紫髪の少女がいた。

 

〈続きまして、今回の挑戦を受けるのはこの方! 出身も腕前も全てが謎に包まれた美少女! 味マスター三号、リリス・エルロンさんです!〉

「……はぁ。私、なんでここにいるのかしら……?」

『本当だな。というか、そう思うなら断れば良かっただろう』

「仕方がないでしょ! あれだけ頼まれたら断れないじゃない」

『まったくお人好しにも程がある! それがエルロン家の伝統なのか?』

 

 リリスは笑顔で周りに手を振っていたが、陰ではため息を吐きつつ、小さな声でディムロスと話していた。

 無理やり味マスター一号に連れて行かれたリリスだったが、味マスター三号としてファラと対戦をすることが分かった段階で、全力で拒否をしていた。

 しかし、ファラに負けた味マスター一号、二号、そして元三号含むビストロシャンバールスタッフ陣に懇願され、押し切られる形で対決を引き受けることとなった。

 

 ディムロス達を直すという役割がある以上、頑なに断ることも出来た。

 しかしそれが出来ないのがエルロン家の血筋。お人好しの彼女は引き受けるしか選択肢がなかったのであった。

 そしてゲストの紹介後──アナウンサーが質問するも、結局聖職者という職業しか教えてもらえなかった──に、対決する料理名が決められた。

 

〈オーダー入ります! 〝()()()()()()()()()()()〟!!〉

「ペスカ……トーレ……」

 

 リリスは料理名を繰り返す。作ったことがないわけではなく、必要な材料と料理の工程を思い出していたのだった。

 

〈それでは両選手にはこれから食材集めを開始してもらいます。レディー…………ゴー!!〉

 

 司会のスタートの合図で、リリスは会場から飛び出す。

 ファラは先程応援していた青少年達のところへ合流していた。

 

「ペスカトーレかぁ……美味そうだなぁ」

「相手は強敵そうだが大丈夫なのか?」

「ファラ、大丈夫か?」

 

 三人は心配そうな顔をしていた。否、赤髪の青少年だけは自分も食べたいと思っていただけだった。

 

「キールもメルディもなぁに心配そうな顔してんのよ。大丈夫だって! ね、リッド?」

「おうよ! ファラの料理は天下一品だからな! 俺も食いてぇぜ!」

 

 キールと呼ばれた青髪の青少年とメルディと呼ばれた少女はファラの言葉を聞いても少し不安そうだったが、リッドと呼ばれた赤髪の青少年だけは何の心配もしておらず、やはり自分も食べたいと思っていただけであった。

 

「とりあえず材料を揃えに向かいましょ!」

 

 ファラはそう言いながら、四人で会場から外に出るのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 シャンバールの町の食材屋にて、リリスはペスカトーレの材料を探していた。

 

「ペスカトーレ……ペスカトーレ〜♪」

『勝算はあるのか?』

「どうだろ? ま、なんとかなるでしょ! 何度も作ったことあるし。多分特定の食材の選び方が勝敗を左右することになると思うの」

『ほう……』

 

 勝算を聞かれたリリスは少し言葉を濁したが、彼女の話し方からは自信が垣間見えていた。

 そして、今回の勝負は単純にペスカトーレを作ればいいというわけではないとリリスは感じていた。

 

「特に大事なのは……そうね、()()()かしら? ふんだんに入れた海産物の調和を取り、味を整える役割を果たすトマトが一番大切だと思うわ」

『ここに並んだトマトではダメなのか?』

「そうね〜……あら、あなたは……!」

 

 料理対決の勝負を左右する食材をトマトに絞ったリリス。

 ディムロスは料理や食材のことが分かっていないのか、ここにあるトマトで大丈夫なのではないかというのを暗に含ませた質問をする。

 彼からすると、この勝負は自身の身体を取り戻すのに何の意味も持たないため、そこまで拘る必要もないと考えていたために出た言葉であった。

 リリスが店に並んでいるトマトを確かめようとしたところで、店に入ってきたファラに気付く。

 

「あ! 味マスターさん……あの、その、こ、こんにちは」

 

 ファラもリリスに気が付き、お互いに目が合ってしまう。

 無視するわけにもいかず、ファラが挨拶をする。

 

「こ、こんにちは……。お、お買い物、ですか?」

「あ、はい。味マスターさんも……お買い物ですか?」

「……え、ええ」

「そ、そうですか……」

 

 リリスも挨拶を返すも、何から話していいか分からない。

 世間話がてら質問するが、気まずいのはファラも同じだったようで大した返事は来なかった。

 

「…………」

「…………」

「そ、それじゃあ私、この辺で。ご、ごきげんよう〜」

 

 すぐに話すことが無くなり、お互いに黙ってしまう。

 なんとも言えない空気が食材屋を支配し、その空気に耐えられなくなったリリスが店を飛び出していくのだった。

 

「はぁぁぁぁ! 緊張したぁぁ!!」

『あの場で喧嘩しやしないかとヒヤヒヤしたぞ』

「そんなことしないよぉ! 勝負は()()()()で付けるわ!」

 

 店を飛び出したリリスは、食材屋の壁に背をもたれさせて息を吐く。

 ディムロスは冗談交じりで話すが、リリスはそんなことはしないと真面目に答える。

 すると、店の開いた窓からファラ達の声が聞こえてくる。

 

「やはり今度の相手はなんだか手強そうだ……なぁファラ、本当に勝算はあるのか?」

「大丈夫! 自信あるよ! 私には切り札があるんだから! 〝セレスティア〟の()()を使えば、きっと美味しいペスカトーレが作れるよ」

 

 キールが自信満々のファラに勝算はあるのか問い掛けると、〝セレスティア〟のアレを使えば大丈夫だと話す。

 その言葉にリッド、キール、メルディの三人はピンときたのか納得の声を上げる。

 

「……切り札ぁ? 何かしら……気になるわね」

『それで、トマトをどこで調達するつもりだ?』

 

 外から盗み聞きしていたリリスはファラの切り札が何なのか気になっていたが、ディムロスは早くこの勝負を終えて目的を達したいと思っているのか勝負の鍵となるトマトをどこで手に入れるのかをリリスに問う。

 リリスは少し悩んだ後、ソーディアン達に相談を始める。

 

「えっと、みんな。一旦()()()()()に戻ってもいい?」

『どうしたんですか?』

 

 リリスがリーネの村に戻りたいと言い出したことにシャルティエは疑問に思う。

 

「あのね、今回の対決なんだけど、私だけの味で勝負したいの。そのために村で採れた材料が必要なのよ」

『……そこまでして勝負に拘る理由があるのか?』

 

 シャルティエの問いにリリスは自分だけが出せる味で勝負がしたいと話し、そのためにはリーネの村で採れた食材が必要とのことだった。

 しかし、ディムロスはわざわざリーネの村に戻ってまで材料を調達する必要性を感じていなかった。

 それに対し、彼女は息を荒くして答える。

 

「あるわよ! これは名誉の問題よ! リーネいちの料理上手としての……ね! 自分自身、そして村のためにもこの勝負、絶対に負けられないわ!」

『俺は戻っても別にいいと思うがな。やるからには全力を尽くすというのは良い心掛けだと思うぞ』

『ええ、私もそう思うわ。同じ女性として料理対決で負けたくない気持ちは分かるもの』

『イクティノス……アトワイトまで……ええい、仕方がない! それでは一旦リーネの村に戻るぞ!』

 

 リリスの啖呵(たんか)にイクティノスとアトワイトも賛成をし、その二人に賛成をされたディムロスは諦めたかのようにリーネの村に戻ることを了承する。

 

「みんな、ありがと! じゃあ一旦町の外へ行くわね!」

 

 リリスは町の外で〝異世界渡り君DX(デラックス)〟を使い、リーネの村に戻るのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

〈両選手が戦いの場に戻ってまいりました! いよいよ勝負は待ったなし! お二人とも……準備はよろしいですね?〉

「はい!!」

 

 リリスとファラは会場に戻り、会場に設置された調理台の前に立っていた。

 司会から準備は大丈夫かと聞かれ、声を揃えて返事をする。

 

〈それでは! 〝なつかしのペスカトーレ〟対決、始めさせていただきます! 両選手、調理を始めてください!〉

 

 二人は試合開始の鐘の音が鳴り響くと、一斉に材料を取りに行く。

 リリスは最初にアサリの砂抜きを始める。砂抜きをしている間にムール貝の殻の汚れをきちんと取り、その後トマトソース作りを始める。

 

〈ゲストの方にお話をお伺いいたします。なぜ昔の味でなくてはならないのですか?〉

「これだから最近の若いもんは困る! まったく、食べ物に対する敬意が欠けとるから味覚までマヒしてしまうのだ──」

 

 女性アナウンサーが調理の時間を使ってゲストにインタビューを開始するが、初めから怒鳴り口調で説教を始めてしまうゲスト。

 まさか怒られると思っていなかったアナウンサーは、少しビクッとしながらも話に相槌を打つ。

 リリスはまず玉ねぎとにんにくのみじん切りを始めた。そのスピードには、観客も驚きの声を上げるのであった。

 

「あの女……すげーなぁ! あんな速いみじん切り、見たことねぇよぉ!」

「ファラも負けていないぞ! 気合いの入り方は今までで一番だ! それでいて動きには全く無駄がない。紛うごとなき優雅な包丁(さば)きだ!」

「バイバ! ファラ〜、頑張るよ!」

 

 リッドもリリスの包丁(さば)きに驚き、キールはファラも負けていないと冷静に分析する。

 メルディは大声でファラの応援をしていた。

 

 リリスはみじん切りを終えたにんにくとオリーブオイルをフライパンに入れて火を付ける。

 にんにくが少し色付いてきたら、玉ねぎと塩小さじ一杯を入れて弱火から中火で細かく火の調整をしながらも飴色になるまで炒めていく。

 

「のっけから目まぐるしい攻防だぜ……」

 

 リッドは二人の対決に真剣な言葉を放ちながらも会場内に漂ってきた匂いに、垂れそうなよだれを(すす)っていた。

 会場全体が同じような空気になっているとは知らないリリスは玉ねぎを飴色まで炒めたあと、皮を剥いたトマト、水、塩小さじ一杯、バジルを入れて、弱火から中火で煮込み始める。

 

〈ペスカトーレにはどのような思い出があるのですか?〉

「そんなことを知ってどうするつもりだ?」

〈ひっ!〉

「……まぁよい。実は私もこの町の出身なのでな。子供の頃は毎日のように食べておったのだ──」

 

 女性アナウンサーはゲストに次の質問をするも、睨みながら返事をするゲストに対して、泣きそうな顔になる。

 しかしゲスト本人も話したかったのか、はたまた用意していたのか思い出話を流暢に話し始めるのであった。

 

〈ハイレベルの戦いが繰り広げられています! 両選手とも全く引く構えなしです!〉

 

 リリスだけでなく、ファラの手際もかなり良く、二人とも田舎出身で家庭料理をしていただけとは到底思えないほどの腕前をしていた。

 その調理の様子に味マスター一号、二号、元三号も見惚れていた。

 

「これは凄い! 間違いなく歴史に残る一戦だ!」

「どっちが作る料理も美味えんだろうなぁ……想像しただけで腹が鳴りそうだぁ」

 

 トマトソースを煮込んでいる間に、リリスは具材の調理を開始する。イカの胴を約8mm、足は約2cm幅に切り、エビは殻を剥いて背わたを取る。

 そしてトマトソースが煮込み終わったら、荒めのザルで濾していく。

 

「キール、気付いたか? いつの間にか会場内がシーンと静まり返っている」

「ああ。みんなが固唾を飲んで見守っているんだ。()()()()とは、まさにこのことだな」

「いよいよクライマックスか……」

 

 会場内が静まり返る中、リッドとキールは小さな声で話していた。メルディも空気を感じ取っているのか、静かに見守っていた。

 沸かしたお湯にパスタを入れて茹で始めるリリス。その間に再度フライパンにみじん切りにしたにんにくとオリーブオイルを入れ、にんにくが色付いてきた段階で魚介を入れて軽く炒める。

 その後、白ワインを入れてフライパンに蓋をし、アサリが開くまで弱火から中火で蒸す。

 

〈まもなく終了となります! 果たして二人とも間に合うのかぁ!?〉

 

 調理終了時間が迫っていたが、まだ両者は最後の仕上げのために手を動かしていた。

 フライパンの蓋を取ったリリスは、トマトソースを加え、その後茹で上がったパスタとバターを入れて和える。

 最後に塩と胡椒で味を整え、用意されていた皿に盛り付けてパセリを振ったところで終了の鐘が鳴り響いた。

 

〈終了の鐘が鳴らされました! これより試食に移ります!〉

 

 ギリギリ作り終えることが出来たリリスは汗を拭って一息つく。

 スタッフが二人が作った料理をゲストのところへと運んでいく。

 

「どっちが勝ったと思う?」

「分からない。接戦であることは確かだが……」

 

 どっちが勝ったのかを予想して話していたのは、リッドとキールだけではない。

 会場内にいた観客全員が予想を立て、しかし接戦になるであろうと考えていた。

 

〈果たして……栄光を掴むのはどちらか? 味マスターか、それとも挑戦者か? それでは試食をお願いします!!〉

 

 ゲストは先にリリスのペスカトーレから食べ始める。

 フォークでパスタを巻き、ソースの絡みついたそれを恐る恐る口へと含む。

 

〈さあ……どうでしょうか……!?〉

 

 司会がゲストに味はどうかと聞くと、「お……」とだけ呟く。

 よく聞こえなかった司会がもう一度聞こうとしたとき、ゲストが大声で叫びだした。

 

「お…………おおおおおおおいいいいいしぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

 

 ゲストは目を見開いて叫んだ後、一口、もう一口と食べ進めていく。

 

「……む、昔のままの味だ! あの頃の味だ! 私の母の味だ! いや……それ、以上かも、しれない……ううう……」

 

 ゲストは昔懐かしい母の味を思い出したのか、涙を流しながらリリスの作ったペスカトーレを食べ進めていく。

 二度と味わうことが出来ないと思っていた母の味。それを年老いた自身がまた食べられる日が来るとは思ってもいなかった。

 泣きながら食べるゲストを見て、誰もが勝者を確信した。

 

〈勝者! 味マスタぁぁぁぁぁ!!!!〉

 

 司会者が勝者を宣言する。ファラの料理を食べる前に勝敗を付けて良いのかと思ったリリスが横を向くと、ファラが両手を上げて降参のポーズを取っていた。

 リリスはその瞬間、自身が勝ったことを自覚した。

 

「いやっっっったぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 嬉しさのあまり喜びの声を上げて飛び上がるリリス。それは闘技場でクレスに勝利したときよりも興奮していた。

 会場内は歓声と拍手が響き渡っていた。

 

〈激闘を制したのは味マスター! 味マスターの勝ちです! ビストロシャンバールの最後の牙城が意地を見せました!〉

『やったな、リリス!』

『さすがね』

『すごいですよ』

『ふぉっふぉっふぉ』

『完勝だったな』

『やるわね』

『た……食べてみたかった……』

「ボブおじさんが丹精込めて作ってくれたあのトマトのお陰だよ!」

 

 ソーディアン達もそれぞれリリスに祝福の言葉──時雨(しぐれ)だけは欲望の言葉──を送る。

 リリスが話したとおり、決め手は()()()だった。リーネの村に住んでいるボブから自慢のトマトを貰い受けたお陰で勝つことが出来たのだった。

 喜ぶリリスにファラが近付いてくる。

 

「味マスターさん」

「えっと……たしか、ファラ……さん?」

「おめでとう! 私も自信あったんですけど、敵わなかったみたいです」

 

 ファラは素直に負けを認めて、リリスに祝福の言葉を述べる。

 

「いい勝負だったわ。こんな事言うのはなんだけど……楽しかったわ」

「味マスターさんもそう思いましたか! 実は私もなんです! 奇遇ですね♪」

「そうなんだ! 私達……結構気が合うかもね!」

「うん、そうね! 私もそう思う!」

「私のことはリリスって呼んで♪」

「分かったわ、リリス。また勝負しようね♪」

 

 リリスとファラは意気投合し、握手を交わす。その姿を見て会場内も更に盛り上がる。

 

〈おおっとぉぉ! 戦いを終えた二人の間にどうやら友情が芽生えた模様! なんと美しい光景でしょう! 皆様、どうかこの二人に盛大な拍手を!!〉

 

 拍手が響き渡る会場内。このあと勝利したリリスにスピーチをしてもらおうと司会者が話し始めるのだが──

 

〈それではこれより勝者の栄誉を祝して──〉

「あああ!!!」

 

 司会者の言葉を何かを思い出したリリスが遮る。

 

「そういえばボブおじさんにトマトソースを作って持っていく約束をしていたんだった! 今日のご飯に使うって言っていたから、早く持っていってあげないと! みんな、鉱石のある場所まで急ぐわよ!」

『……それはいいのだが、鉱石がある場所は分かるのか?』

 

 リリスはボブからトマトを貰った際にトマトソースにして渡すと話していたのだった。

 それを今日の食事に使いたいと言っていたことを思い出し、こうしちゃいられないとばかりに会場を出ていくのであった。

 慌てているリリスに、ディムロスの言葉は届いていなかった。

 

〈マ、マスター……? ど、どこへ行くんですか!? 味マスター!!!〉

 

 司会者が呼び止めるも聞かずに去っていったリリス。

 負けてしまったファラは、その様子をリッド達と一緒に見ていたのであった。

 

「……なんだぁ、あの女? まるで台風だな」

「あはは! それいいね! 本当に気持ちの良い人だったな! また会いたいよ!」

 

 リッドが台風と称し、ファラがまた会いたいと思った彼女(リリス)────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あのぉ」

「……へ?」

「私、特殊な鉱石を探しているんだけど……心当たり……ある?」

 

 二人の再会は、思いの(ほか)すぐに訪れるのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 最果ての村、ラシュアンの近くにあるレグルスの丘。

 リリスはファラ達に場所を教えてもらい、その地下洞窟の奥深くまで潜っていた。

 

「ここが一番奥ね……あ! あそこになにか光ってるわ!」

 

 リリスは奥深くに光っている鉱石を発見する。

 

『……うん、これで間違いないわね。来る途中にあった純度の低いものとは違って、これは高純度の鉱石ね』

「オリジンに教わったとおり、この世界にあったのね♪」

 

 鉱石の名前が分からなかったのだが、リッド達は特殊な鉱石だと聞いてすぐに〝リヴァヴィウス鉱石〟だと気付く。

 危険な場所にあるため、ついていこうかと言うファラの提案を断ったリリスは一人で向かっていたのであった。

 

「じゃあこれを持って……って皆を直すのにはどれくらい必要なの?」

時雨(しぐれ)、ベルセリオス。量的にはどうなんだ?』

『うーん、俺には分からん! ベルセリオス、任せた!』

『まったくあんたは……まぁいいわ。正直言うとここにある分だけじゃ足りないわね。やはりオリジンが話していたもう一つの世界(テルカ・リュミレース)に行くしかなさそうね』

 

 〝インフェリア〟で手に入れた分では足りないことが分かり、オリジンが話していた〝テルカ・リュミレース〟という世界へ行く必要があるとベルセリオスは話す。

 

「それじゃあ先にリーネの村に帰りましょ! 忘れないうちにボブおじさんにトマトソースを作ってあげたいもの♪」

『まったく……本当にそそっかしい娘だな……』

 

 ディムロスがリリスのことを()()()()()()と言ったのには理由があった。

 ボブにトマトソースを作る時間が無いと焦っていたリリスだったが、〝異世界渡り君DX(デラックス)〟があれば、使い手の想像次第で()()()()()()()()()()()なのだ。

 そのことをレグルスの丘に向かう途中でベルセリオスから聞かされ、先ほどビストロシャンバールで慌てて飛び出したことを思い出し、それを笑って誤魔化していたリリス。

 

「じゃあ今日はリーネの村に帰って、また明日から行動を開始しましょ♪」

 

 〝異世界渡り君DX(デラックス)〟は光を放ち、リリス達をリーネの村へと運ぶのであった。

 




先程アンケートを締め切りました!
結果は本話のラストに書いたとおり、ヴェスペリア編を書きます!
ファンタジアやエターニアほど長くはならないと思いますが、今しばらくお待ちくださいますようよろしくお願いいたします。

ペスカトーレ。実は本話の通りに作ると、ちゃんと作ることが出来ます。
ただ、材料や調味料の量、トマトソースを煮込む時間などで書いていないものもあるので、そこは注意が必要です。

リリスはヴェスペリアの世界に行ってほしい?

  • はい
  • いいえ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。