一通りボードゲームで遊び終わった私は、わーわープレー後の感想を言い合っているポピパの人達を他所に隣で眠そうに船を漕いでいたこころに声をかける。
「こころ、そういえばそろそろ寝る時間だったよね」
「そう……よ……でも、まだ……遊び足りない……わぁ……みさ……」
きと言い終わる前にこころは私の肩を借りて眠りについてしまった。それを見て周りにいたポピパの人達が微笑んできた。それからお風呂から戻って来てボードゲームを見ていた市ヶ谷さんが落とした声で聞いてくる。
「そっか、弦巻さん寝る時間決まってるんだけか」
そうですねっと市ヶ谷さんに返す。それにわかったっと市ヶ谷さんが返してくる。
「なら、少しだけ私の寝床貸してやるから寝かしてきな、私が寝る時に奥沢さんが下まで持ってくれば良い話だしな」
私達でしょ!っと彼女に抱きついていた戸山さんが言って来るが、うるせぇよ、香澄としか彼女は返さなかった。それに少しばかり苦笑しているとジロっと市ヶ谷さんが見てくる。
「なんか、変か?」
「いいや、どこも変じゃないですよ」
そう返して私は座ったまま横を向いて、こころの太腿と背中に手を回す。それから、いつぞやの丸山先輩を持ち上げた時のようにこころを持ち上げる。
「じゃ、市ヶ谷さん、お借りしますね」
「あぁ、いいぞ」
居間の入り口から廊下に出て、階段の所まで行き、二階に上がる。階段を踏み外さないように二階に行き、市ヶ谷さんの部屋に入る。それから暗闇の中を進み、どうにかしてこころを市ヶ谷さんのベットの上に置く事に成功する。
「…………先に謝っておくわ、ごめんね、こころ」
横になっているこころの隣に座り、彼女の髪を掻き分けて、そして私はその先にあった額にキスをする。
「こんな事、こんな物じゃ……許されないよね……」
それから立ち上がりクククッと自笑する。
「そもそもこれ自体が許されないよね」
それから、ため息をつくとこころから背を向ける。そして、私は部屋を出る。二階の廊下を通り、階段から一階に降りでポピパの人達と合流する。
「市ヶ谷さん、寝床ありがとうございます」
「いいって事よ」
またお礼を言うと市ヶ谷さんはにっこりとした笑みで返してくる。そう言えば、乾いてはいるけどこころに濡らされたし着替えますか、この後日菜先輩に会う予定もあるしね……時間的には少し余裕はあるけど
「すみません、こころに濡らされてたの忘れてたのでちょっと着替えてきまーす」
「大変だなぁ、奥沢さんも」
そんな言葉を聞きつつも、私は自身の荷物を回収し、洗面台に向かう。お風呂場につながっている洗面台に入った私は替えの普段着を荷物から取り出し地面に置いた後、濡れてしまった服を脱ぎ捨てバックにしまう。そして、普段着を着る。
「これで、よしっと」
特に持ち物とかは無いはずだったからこのまま行けばいい筈と思い、荷物を置きに居間まで戻る。
「ごめんなさい、ポピパの皆さん、私これから用事があるから外出してきます」
そう言ってポピパの人達の反応が返ってくる前に私は玄関の方に向かう。ちょい待てっと私の後をついて来た市ヶ谷さんに呼び止められる。靴を履いた私は土間に立ったまま市ヶ谷さんの方を見る。
「なんですか」
「また、弦巻さんを置いて行くか、つーか、こんな時間にどこに行くんだ!」
答えると行くな!とか言って来そうだったので無視していこうとすると、市ヶ谷さんも土間に降りて、先程の縁側での出来事の様に私の両腕を掴んでくる。それからまた私の事を見てくる。
「なぁ、なんで私がさっき、縁側であんなこと言ったのか理解してないのか!」
その言葉に対して私はやっぱり答える術を持っておらず、曖昧にうん、まぁとしか返す事はできなかった。なにせ、私が居ない時のこころなんて私には分からないし、無言で行かなかったのは申し訳ないと思っている。だけど、それ以上に私はこころの奥底で蠢いているあの黒い何かが怖くて、それを言葉にできない以上私は市ヶ谷さんのコレにはちゃんとした回答を出す事はできないと思う。するとまた市ヶ谷さんは私の事を前後に振って目を合わしてくる。市ヶ谷さんの目はどこか情熱的な輝きを持っていた。
「奥沢さん……」
「……正直に言うと、私にそれを答える術は今持ってないし、なんて市ヶ谷さんに言えばいいのかまだわかってないの」
その目に根負けした私は正直に言うとそっかと一言だけ言って、満足したように笑い頷いてくる。
「それとは別にさ、弦巻さんを置いていこうとしている理由はなんだ」
「それは……この後、日菜先輩と会ってこころには聞かれて欲しく無い話をするからです」
正直に答えると市ヶ谷さんはそうかと短く返してくる。
「わかった、帰ってくる時多分、玄関の鍵は閉まってると思うから……」
腕から手を離した市ヶ谷さんは一度、土間から上に上がり、そのまま二階に行った後、少ししてから片手に鍵を持っていた。そして、私の目の前に来て鍵を私に向かって
「これ、この家の鍵だから帰って来たらそいつを使って勝手に開けてくれ、あ、勿論入ったら鍵は閉めてくれよな」
「了解です」
「あと、変に警察に捕まるなよ、後処理が大変だぞ」
はいはい、わかりましたよと返すと、わかってるのかとおかしそうに市ヶ谷さんは笑う。それに笑い返した私はポケットに鍵を入れて暗くなった街に繰り出す。そして、暫くの長い間、一人無言で夜中の街を歩いていた私はふと、一人になると考えている事に対して素直になれる気がした。市ヶ谷さんの家の縁側で市ヶ谷さんが言ったあの言葉、そしてその言葉を聞いて私の中で蠢き始めた黒い物体。それが何なのかは今の私にはやっぱりわからなかった。暗い中、ポツリとあった街灯の下に立った私はその黒い物体も何なのか照らしてくれないかなと願ったが、その黒い物は晴れなかった。
「…………」
そう考えれば考える程、息が少し上がる気がした。街灯の下からまた暗い方へと私は歩き始めた。
「……ッ!」
ぶるっと何故か寒気を感じる。一体私は何に怯えているんだろう、その黒い物体はなんなんだろうと解けない謎を解かされる様な感覚に陥っていた。ただ、怖い、それを知ってしまう事を脳が根本的な部分から拒絶している様に感じがしてくる。それは、そうまるで私の人格を否定してくる様なそんな……
「みーさーきーちゃーん!」
「うぉあ!?」
耳元で急に大きな声が聞こえて驚いてそっちの方を見ると、そこには日菜先輩が立っていた。考え事に夢中になっている間に日菜先輩との待ち合わせ場所……まぁ、日菜先輩が在学している高校についていたのである。
「まったくー何考えてたの、みさきちゃん」
「あーいや、そこまで重要な事じゃ無いので気にしないでください」
本当かなーっと目をキラキラ輝かせながら聞いてくる日菜先輩に私は目を逸らすことしかできなかった。