無事に、警察にも見つからず市ヶ谷さんの家に帰宅した私は、私を探すより睡魔に負けて、居間に引かれていた布団の上で寝ていたこころを見て少しばかり安心感を得る。借りていた鍵はダイニングルームの机の上に置いて、私も重りを外してこころの隣で眠った。そして、次の日の朝、私はいつも黒服さんと走る為に起きてる時間に勝手に目が覚める。
「……んっみさき……」
いつの間にか私の腕に抱きついていたこころの頭を撫でる。寝ているのにも関わらず嬉しそうにこころはんっんっと喉を鳴らす。
「猫っぽいなぁ……」
空いてる方の手で髪をときつつ私はそう呟く。そうとは言ったものの、黒服さんとの約束を破る訳にもいかずこころを無理やり離そうとするとグイッとこころの方に引き寄せられる。
「……どこに……行こうとしてるの……みさき……」
起きたのかこころが寝ぼけた可愛い顔で言ってくる。それには何処か寂しげな響きも含まれており私は……
「……どこにも行かないよ、こころ」
結局、こころに負けて二度寝をすることにしたのだった。その後、二度寝した私は、黒服さんとのランニングをドタキャンし、市ヶ谷さんの家とは言え昼前まで寝てしまっていた。人の家のリビングでそんな時間まで寝るのは流石に失礼ではあったが、起きた後に市ヶ谷さんの話によると、私の裏の事情を知って、多忙だと知ってしまっている以上起こすのは忍びないなと思って、私達二人が自然に起きるまでそっとして置いてくれたらしい……正直に言うとありがた迷惑です。
「……それに加えてな、相当二人とも安心した様にぐっすり寝てたから起こさなかったんだよ」
居間にあった布団を片付けた後、出した机に頬杖を付き、戸山さんに相変わらず戯れつかれていた市ヶ谷さんがそう言ってくる。こころはこころで、今、布団を片付けをするという名目上でポピパの他のメンバーと上に行ってもらっている。まぁ、終わったしその内帰ってくるでしょう。
「ご、ごめんなさい」
それはそうといくら好意で寝かせてもらっているとは言えど居間を占領していたのは忍びなかったので改めて謝る。それに対して市ヶ谷さんがこちらに向かって、手の甲を見せる様にして手首を使い手を振ってくる。
「謝るなっての、あと寝癖ついているから顔洗ってこい」
あ、はい……っと言い立ち上がる。廊下に出て携帯を確認すると一通の送り主不明のメッセージが来ていた。
『美咲様、明日の朝、河川敷でお話を聞かせてもらいます』
あ、黒服さんからだ……まぁそうなりますよね……てか、何であの人私の携帯のアカウント知ってるんだ……あ、弦巻家だからか……
「個人情報でも何でも調べれるって弦巻家って本当にすごいなー」
そんな感想を述べつつ洗面所に入り鏡で自分の顔を見る。だが、寝癖は何処にもついてなかった。あれ?っと思っていると黒い袋を重たそうに持った市ヶ谷さんが入ってきて洗面所のドアを閉め、鍵をかける。
「なぁ……奥沢さん、まだ隠し事してたろ」
あ、これ、誘導されたパターンですね、はい。そう言えば今日まだ重り着けてないの忘れてた。
「い、いやぁ、何のことですかね……」
「変に偽らなくてもいいから正直なことを言え」
嘘は言わせねーぞと目線で訴えてくる市ヶ谷さんに対して私は、黒服さんに言われた事を全て包み隠さず言うって言うか最近私、日菜先輩と市ヶ谷さんに対してもの正直に言う事が多いな……
「……っという事なんです」
一通り話終えると、市ヶ谷さんが深くため息をつく。
「両手にリストバンドしてる時点で疑うべきだったな……奥沢さん、アンタ……アンタってやつは……」
呆れ返っている市ヶ谷さんを他所に重りの回収をしようとすると、市ヶ谷さんは重りの入った袋を体の後ろに持っていってしまう。
「まて、ミッシェルの改造で補え無い所を補うのはわかった、だからと言ってアンタが無茶する必要は無いんだぞ、何でそこまでする必要があるんだ」
ジッと見つめてくる市ヶ谷さんに対して私は一度目を瞑る。それから金髪の少女の横顔、私に向かって満面な笑みを浮かべている少女……こころの事を思いながら目を開ける。
「それは……こころの隣に立って、こころと一緒に、世界を笑顔にしたいから」
頭の中の笑顔は私に笑顔をくれると共に、チクリと私の胸の奥底を突いた。それはまるで昨日、市ヶ谷さんと話した時に感じた、心の奥底で蠢いているあの黒い何かを、一瞬照らしたような気もした。
「……それが、アンタの本心なんだな」
少し目を開いた市ヶ谷さんに対して、はいともう一度言うと、分かったと言われ重りの入っている袋を引きずりながら私の前に持ってくる。それを受け取り、引こうとした私の手首を市ヶ谷さんが掴んでくる。
「ただ、本当に無茶な事し始めたら強引にでも止めに入らせてもらうからな」
「本来は赤の他人の私を?」
そう言うと市ヶ谷さんがバシンっと言う音共に私の頰を引っ叩いてくる。それと同時に私の手首を握っていた力が強くなる。
「馬鹿っ!アンタは、そうやって一人で勝手に走って……って、そうだったな、私らは本来別のバンドだもんな……」
強く握られていた手が緩む。市ヶ谷さんは悔しそうに少し俯く。なんやかんや、思い返してみれば市ヶ谷さんを頼ってたり、迷惑かけてるよねって思うと私は笑った。
「……でも、そうやって心配してくれてありがとうございます」
えっ……と顔を上げた市ヶ谷さんは一拍あけてから、いや、どっちなんだよ!っとツッコミをするのであった。