その後市ヶ谷さんから重りを回収し装着した私は、こころと共に荷物を持って市ヶ谷さんの家から出る。
「まったねー!かすみ!!」
「じゃぁね!こころん!」
私と手を繋ぎながら、手を大きく振るこころと土間まで降りてきて同じく戸山さんが大きく手を振った。
「お邪魔しました」
「おう、じゃ、また学校でな」
そう言って私は一礼すると、にっこりと笑った市ヶ谷さんが返してくる。その他のポピパの皆さんともそこで別れ、私とこころは弦巻邸に戻った。
「じゃーねー!みさき!」
手を振ってきたこころに対し私も小さく手を振り返す。
「また明日」
弦巻邸の玄関の扉が閉まり、手を振っているこころの姿が見えなくなる。それから私は帰路に着くが、ちょうど弦巻邸の門を出た所で携帯が鳴る。携帯を開くと見知らぬ電話番号で恐る恐る電話に出ると見知った声が聞こえてくる。
『奥沢さんの携帯でしょうか』
その声は紗夜先輩の声だった。多分、日菜先輩辺りが教えたんだろうと思いつつはいっと答えると、少し安堵したようなため息が聞こえてくる。
『少し話したい事があるので、急な話になりますが、駅前のファミレスに来てもらっても構いませんか?』
構いませんよっと答えて、私の足先は帰路では無く、駅前のファミレスに向くのであった。そして、歩いて数十分後ファミレスに着くと私はロゼリアの皆さんがいる席まで連れて行かされる。
「あ、きたきた!奥沢さーん!」
「どうもー」
ブンブン手を振っていた宇田川さんに対して手を振り返しつつ席の近くまで行く。
「やっほー、みさきちゃん」
「あ、お久しぶりです、リサさん」
着くなりリサさんと宇田川さんが声をかけてくる。誕生日席の所に立った私から見て右側に奥から白金さん、宇田川さんが、左側に奥から湊先輩、リサさん、紗夜先輩が座っていた。
「新年会以来かしら、久しぶりね、奥沢さん」
作曲をしていたのか何かを書いていたのをやめて湊先輩がこちらをみる。
「あ、どうもお久しぶりです、湊先輩」
それに会釈するとふふっと湊先輩が笑う。
「新年会の時のジャグリング凄かったわよ」
友希那にしては珍しいなぁと言ったリサの隣で湊先輩が笑みを無くし、いいじゃない偶にはっとツンっとなる。それにリサさんがにゃははっと笑いを浮かべていた。
「まぁ、確かにあの時の芸当は凄かったよ」
「いや、その、アレはこころの無茶振りに付き合わされていただけなんです」
こころに関してしまえば天性の賜物というか何というか、いつも通り才能を発揮してあっという間に上手くなってたし、私は足を引っ張ってたような物だし、それに隠し芸なのに芸を習得するという荒技をしてしまったという事もあり思わず苦笑いしてしまう。すると、一人ファミレスのポテトを食べていた紗夜先輩が手を止めて目線だけ私の方に向ける。
「私は新年会には行きませんでしたが、湊さんと今井さんが褒めたと言う事はとても良かった物として捉えていいと思います」
「あ、はい、わかりました」
そう言うとそれではそこに座ってくださいっと紗夜先輩は空いてる席を指でさす。私は持っていた荷物を机の下に邪魔にならないように置く。
「しかし、なんでそんなに荷物が多いんですか」
確実に量の多い荷物を見て紗夜先輩が聞いてくる。それに対してあーあの、実はですね……と言いながら昨日市ヶ谷さんの家にこころと一緒に泊まった旨を話す。
「…………うちの日菜がまたご迷惑をかけてすみません……」
一通り話すと、昨日の夜、日菜先輩が私と星を見に行くと聞いていたらしい紗夜先輩がいつぞやのハンバーガーチェーンの時のように頭を下げてくる。
「いや、謝らなくていいですよ!今回のに関しては私も用があって時間割いて行って来たんですし、誰にも迷惑はかけてませんよ!」
それにそもそもの話こころがドタキャンしたせいなんですよ!頭上げてください!っと言うと紗夜先輩は渋々と頭を上げる。それを見てまたもにゃははっとリサさんが笑う。
「美咲ちゃんも大変だねぇ」
「えぇまぁ、こころに振り回されるよりかは幾分かマシですけどね」
まだ、何をしたいのか前もっていってくれる分だけ日菜先輩の方がマシだなぁ、でもこころみたいに天真爛漫で何にでも突っ込んでいく方が最近の私的には好きだったりする。そう思っているとリサさんは目を細めてこちらを見てくる。
「今の美咲ちゃん、だいぶ顔が緩んでるよ」
「え、ちょ、急に何言うんですか!」
嫌味を混ぜつつ刺繍と詩集間違えた人に言われたくないですっと私が返すと、ちょ、それはやめてって……と言うか今の話の流れ的におかしくない!っとリサさんが返してくる。それになになに!その話!っと宇田川さんが、それは気になるわと湊先輩が会話に紛れ込んでくる。そんな感じで会話に花を咲かせていると、コホンと紗夜先輩が咳払いをし全員の目線が彼女に向かう。
「話が咲いている所申し訳ないのですが、今日奥沢さんを呼んだ理由をお話ししますと……」
紗夜先輩によると、こうやってロゼリアが集まれる日はそこまで無いという事と、そしてその為の予定を組みたいので予定を教えて欲しいから呼んだという旨を話される。
「それで、いつなら空いてますか」
紗夜先輩に聞かれるが私はうーんと悩む。正直な話、今の私の予定は黒服さんが管理しており、いつどのタイミングでパスパレの仕事が入るかなんて聞いてないし……ねぇ……
「……申し訳ないんですが、予定の方は全て黒服さんの方が管理しているので私からはなんとも言えないんですよね……」
そう正直に答えるとそうですか、なら早めに聞いて私に教えて下さいっと紗夜先輩が返答しその場から会話がなくなる。すると、この会話の間黙って聞いていた湊先輩が立ち上がる。
「……少しいいかしら」
机に少し乗る形になりながらも近づいて来た湊先輩の方を見ると、湊先輩が片方の手で私の頰を軽く添えて来た。そして、私は湊先輩のその金色に近い、それでいて何処か一本の太い意思が感じられる目と視線が合う。
「………………」
「………………」
その不思議な目をジッと見ていると、まるで私の心の奥底を覗かれそうな気分になって思わず目を逸らしてしまう。目を逸らすと湊先輩は目を閉じ元の場所に戻った。そして目を開けた湊先輩がこちらを見る。
「貴方、心に迷いがあるでしょ」
そうはっきりと言われ私は思わず驚いてしまう。
「え、なんでそれを……」
「なんとなくよ……でも、貴方の目が私に何かを隠そうとして、いや、何かに怯えてるように見えたわ」
ズバリと言われてしまい、私は一度息を吸って吐く。それから昨日の市ヶ谷さんとの会話とその会話中に生じた黒い何かが蠢いていると伝えるとどこかスッキリした顔で湊先輩が言葉を紡いだ。
「……そう、その黒い何かと言うのがわからないって事なのね」
「はい、そういう事になります」
そう答えるとその場が静かになる。そして何故か笑顔のリサさんの顔とどこか安堵したような雰囲気の紗夜先輩に私は首を傾げる事しかできなかった。