大魔導師「聖杯戦争やろうと思うんだが」   作:アメリカ兎

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第十夜 ファースト・オーダー:アヴェンジャー

 

 

 

 ――ワイバーンを率いて去ったアヴェンジャーが向かった先は北方の山間部。なぜ北を目指したのか。

 それは、空から見た地理であれば一目瞭然だった。

 この異世界に自分を召喚した魔術師は存在しなかった。眼を開いた瞬間に、聖杯の欠片が其処にあったから手にしたまでのこと。

 これは天の恵み。無慈悲な神の行い。

 本来であれば存在しない英霊である自分がこの場にいるということ。それが他ならない奇跡。しかし、それだけでなく万物の願望機である聖杯の破片を手にしている。ならばこれ以上のことは望まない。

 ここが何処だかわからないが、人類の歴史からかけ離れた世界であることは承知している。

 異世界。異世界――ああ、悪くない。

 

「ふふ……まぁ、アヴェンジャーらしく振る舞うとしますか」

 この異世界には何の恨みもないけれど。

 この異世界には何の怒りもないけれど。

 私は復讐者。ならば、この異世界に理由もなく復讐しなければならない。

 掌に乗せた聖杯の欠片に願うのは――復讐を。この異世界に復讐を。

 

「さぁ、聖杯よ――我が望みを叶え給え」

 まずは領地の確保。そして手駒の召喚。

 奇跡の欠片と言えど、その程度は許容してくれるだろう。

 魔力の増大を確認。これならばサーヴァント一騎くらいは召喚できるはずだ。

 

 率いているワイバーンがにわかに騒がしくなる。無数に召喚できる手駒と言えど、その優位性は空中を自在に移動できる点にあった。

 足として使う分には申し分ない。この異世界で戦力面としてはあまり期待できないようだが、それでも活用できる。

 

「……ええい、うるさいわね。どうしたっていうのよ」

 自分を運んでいる黒い鱗のワイバーンを、旗の石突で軽く小突いた。ギャアギャアと泣き喚く翼竜達の視線の先。

 

「……?」

 目を凝らす。

 

 見渡す限りの大自然。

 その山中に――二人組が立っている。

 

 白いスーツを着こなした赤い髪の男性。

 そして、隣に立つのは長槍を手にした老齢の男性。

 両者の目は鋭く、穂先のようにアヴェンジャーを捉えている。驚くべきことに、翼竜達の眼よりも鮮明に相手の姿を見つけていた。

 

「さて、サーヴァント。あれを撃ち落とせるか?」

「無茶を言う。儂が手にしているのは見ての通り、槍だ。一頭くらいが精々よ」

「あの数全部は無理か」

「無理も無茶もなにも、道理というものよ。違うか?」

「それもそうだな」

「してどうする、我がマスター。竜狩りでも始めるか?」

「数の不利は覆せん。それに……流石に面倒だ」

「奇遇だな。儂もそう思っておるよ」

 槍の柄で肩を叩きながら、傍らのサーヴァントが無数のワイバーンを数えることも億劫そうにしている。戦力差を推し量れぬほど愚かな男でもない。

 

「……ワイバーンを率いているサーヴァントは、あれか?」

「そのようだ。血色の悪そうな女だな。顔に覚えは?」

「いいや、無いな。武に通じているならば或いはと思うが……あれは旗だな」

「大仰なことだ。まずは話し合いから始める、殺し合いはその後でもよいか」

「采配は任せる。ワシの槍が必要とあれば、声をかけよ」

「ああ」

「任せるぞ、マスター……いやそれとも名前で呼ぶべきかな?」

「好きに呼べ。俺もお前をサーヴァントではなく、李書文と呼ぼう」

「敵地ではそう呼んでくれるなよ、ドラグレイス殿」

 ワイバーンを降下させていき、アヴェンジャーが二人に接近してきた。

 

「さて、もう一つ悲報だ。李書文」

「なにか?」

「あのサーヴァント、聖杯の欠片を手にしている」

「なるほど厄介だ」

 

「――夜分遅くに、失礼? マスターと、そのサーヴァントとお見受けしますが、いかがか?」

「その通りだ。ワイバーンの族長」

「誰が族長ですか。確かに、ワイバーンを連れていますけれど」

「北上してきた目的は?」

「この世界では、ここが一番安全そうでしたので」

「……なるほど確かにな。他に比べれば、ここらは静かだ」

 俗っぽく言えば、田舎だ。

 そしてそれは、アヴェンジャーにとっても不思議と居心地が良い。それはこの霊基の元になった忌々しい聖女の記憶だ。あのルーラーはまだ現界していないようだ。ざまぁみろ、ほくそ笑むアヴェンジャーは内心であざ笑う。

 目の前にいる二人も、今はこちらと争うつもりはないように見える。

 

「さて、一応聞いておきますが――こちらと争うつもりはありますか?」

「今のところはないな。この数の翼竜は、相手が面倒だ。それはサーヴァントも、マスターである俺も意見が一致している」

「面倒って……どいつもこいつも、竜種をなんだと思ってるのよ」

「割とそこらにいるぞ?」

「うむ、儂も驚かん。人類史の埒外にあっての召喚だ。ま、此度の聖杯戦争。よほど異質と見た」

 このランサー、順応力高過ぎない?

 それとも、マスターの性格と相性のおかげだろうか。

 

「あー、もう。いいわ。まともに聖杯戦争っぽいことしようとしていた私がバカみたいじゃない」

「…………」

「…………」

「……何よその眼は」

 バカなのか女は。変に律儀というかなんというか。

 

「それで? 接触を図ってきた理由はなんだ?」

「コホン。異界の現地人である貴方に、情報交換を求めます。もちろんタダとは言いません。私の手には聖杯の欠片があります。ある程度の要求であれば、情報と引き換えにこの魔力を分けて差し上げます」

「ほう」

「今は私が、この欠片へのアクセス権を有していますので……このように」

 聖杯が起動する。その魔力によって、ワイバーン達が増殖していく。そうすることで、更に二人が包囲されていく。

 どうやらただのサーヴァントではないらしい。

 

「どう見る、マスター?」

「敵対ならまだしも。交渉を持ちかけてくるというなら、こちらも助かる。見ての通り、一人と一騎だ」

「そちらのクラスは? 私はアヴェンジャー、エクストラクラスです」

「……、こちらはランサーだ。見ての通りな」

「見れば分かります、その程度」

「アヴェンジャーはみな大層な旗を掲げるのか?」

「っ……いけ好かない奴ですが、まぁいいでしょう。ではまず、こちらの陣地を決めたいと思います。どこか良い場所を知りませんか?」

「なにか条件はあるか? こちらで見繕う。この辺り一帯は土地勘もある」

「この辺り一帯って……どこまで?」

「全部だ。ついてこい」

「――――」

「行くぞ、()()()()

 その言葉には、ランサーも流石に驚いていた。

 

「マスター。確かに儂はアサシンとしてのクラス適性もあるが……()()、ランサーだ。見ての通り、な?」

「ああ、そうだった。ややこしくてな」

「それより儂は先程の言葉の方が驚きだ。度肝を抜かれたぞ」

「田舎者でな。山を歩くぐらいしか楽しみがない」

 

 

 

 アヴェンジャーの襲撃から、一夜明けた朝。

 ユノスダス教会で一泊した剣姫は起きるなり、教会職員達が引き止めるのも聞かずに厨房へ突撃していた。

 その騒ぎがネロの耳に届くなり、秘書官は慌てて着替える。そして同様に厨房へ急いだ。

 だが誰よりも先に朝食の用意を始めていたユウコが突入してきた全員を叩き出す。

 

「オメーら朝から私の聖域を踏み荒らすんじゃねぇえええっ!!!」

「余は悪くないはずだがぁぁぁあああっ!?」

「許可なく! 厨房に入んなぁあっ!!」

 誰よりも先に起きて、誰よりも早く朝食の支度を始めて、誰よりもその時間を楽しみにしているからこそ、ユウコは食堂ではなく会議室に朝食を運んでいた。

 ユノスダス教会に泊まっていたソラと刑部姫が起こされ、眠たげにしながら入室する。

 剣姫もサーヴァントを引き連れて既に待機していた。だが朝食に手を付けた様子はない。それでも武蔵は生唾を飲み込んでいた。まるで待ての命令を受けている飼い犬状態だ。

 

「……えっとー、マスター。味見だけでも」

「待て」

「はい、待ちます……」

「……お酒とかだめですかね?」

「欠片を手に入れた後でならいくらでも祝宴を開いてやるぞ」

「お、いいですねぇ。是非、肴は塩でお願いしますね」

 刑部姫が会議室を見渡して目立つ空席を気にかけている。

 

「はーい、あのー。そこの席……座る人来てないんですけど……」

 扉がノックされ、入ってきたのはユゥユゥとメイド服姿のアビー。それにスピカとカルネがついてくる。室内を見渡して、不思議そうな顔を見せていた。

 

「失礼いたします。おや、皆様お揃いでしたか」

「良い朝だな。それで、そちらの可愛らしい給仕はどうした?」

「アビー様のメイド服ですか? とてもお似合いでしょう?」

 ロングスカートの裾を持ち上げて、アビゲイルがその場で一回転する。

 

「私が仕立てました」

「私が見繕ってきました、どうよどやぁよ!」

「あたしは見てました!」

「私、着こなせてるかしら……マスター、喜んでくれるといいのだけれど」

 女三人寄れば姦しいとは言うが。四人も集まると流石にやかましい。

 肝心のエヌラスだけが起きてこないことに居心地の悪さを覚えてソラが口を開いた。

 

「で? エヌラスはまだ起きてこないの?」

「はい。起こしに行ったところ、気持ちよさそうに爆睡こいてましたので。ええ、寝顔がかわいらしかったのでそのままに」

「起こせよ。君のご主人様だろうが」

「昨夜の睡眠からまだ四時間程度でしたので、もうしばし寝かせておこうかと。本日は出陣のご予定でしたし、万全のコンディションで送り出そうと思いまして」

 ……四時間?

 

「いっそカルネちゃんが朝から寝込み襲って起こそうかなと思いまして! ところがスピカ姉に止められてユゥユゥさんに焼かれそうになってアビーちゃんのなんかわかんないものでボコボコに叩かれたので断念しました! 残念!」

「それでピンピンしてる君の耐久性、絶対にサーヴァントとか目じゃないと思うんだけど……」

「ご安心ください、物理強度と魔術強度の双方ともにご主人様の最高傑作ですとも! なんならご所望とあれば三日三晩耐久レースでもお付き合いいたしまぁんっ!!」

 会議室の扉が蹴破られ、カルネを直撃して壁とサンドイッチにした。

 欠伸しながら入ってきたエヌラスが、ぐらついた分厚い扉を更に蹴ってカルネを押し潰す。

 

「朝からうっせぇぞ、クソメイド。寝起きくらい静かにしろ」

「おはようございます、マスター。あの、どうかしら……?」

「んー? ……これはまたかわいらしい新人のメイドさんだ。似合う、似合う」

 お団子ヘアアレンジのされたアビーの頭を撫でると、頬を赤らめながら笑顔を見せた。

 

「ごすずんさま! なんならカルネちゃんもかわいい熟練のメイドなんでっぷぅ!!」

 顔を見せた瞬間、再三、扉でカルネが潰される。しかもノールックによる後ろ蹴りで。

 

「扉直しとけ、カルネ。朝飯食ったらすぐに出る」

「ふぁいっ!! 任しといてくださいご主人様!」

「君等の信頼関係ついてけねぇよ……」

 どうなってんだよそのコミュニケーション。

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