大魔導師「聖杯戦争やろうと思うんだが」   作:アメリカ兎

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第十二夜 作戦内容:夜襲

 

 

 

 ――ヒナグラシの住人に案内された空き家で休憩を挟み、ユゥユゥがスピカ達から渡されていた食事を広げる。軽食ではあるが、三段バスケット一杯に詰め込まれたサンドイッチに、武蔵が食べ慣れた握り飯は無いかと少し残念そうな顔を見せた。

 顔を知られているエヌラスと剣姫のもとに、村人達が飲み物や食料を運んでくる。天然の農作物や山菜を見て景虎が感心していた。

 

「ほほぉ。これはまた見事なものですね。これなら今日の食事は問題なさそうですね」

「とは言っても、あんまり長居する気はねぇしな。飯食ってる間にクソメガネから連絡のひとつでも来ればこっちも動けるんだが」

 噂をすればなんとやら。早速ソラからの着信がきた。

 外部マイクに切り替えてエヌラスが携帯で通話を始める。

 

「おー、待ってたぞクソメガネ」

《はいはいゴメンね待たせたみたいで》

「どうせ喫茶店の開店準備に追われてたんだろ?」

《それもあるけど、姫が早速お皿を割ったせいでね……》

「サーヴァントってクーリングオフ効くのか?」

 残念ながら対象外。

 

「今こっちはヒナグラシに滞在中だ。ついでにドラグレイスの足取りを追いかけるつもりだったんだが、どうもアヴェンジャーと接触したらしい。そっちで観測できてるか?」

《無理言うなよ。話した通り、聖杯周辺は衛星による観測不可。肉眼で確認してもらわないと》

「だよなぁ」

《ただ、山を越えた先で起きている異変はこちらでも確認できているよ》

「…………異変?」

 ワイバーンが飛び交っているだけでなく?

 

「トカゲパーティーだけじゃなくて?」

《君はワイバーンを何だと思ってるんだ……》

「空を飛ぶ食料」

《さては君、腹減ってるな? こちらで辛うじて確認できているのは、山に囲まれた城塞が出現していることくらいだよ。詳細は不明。ま、そのアヴェンジャーとやらが聖杯使って作ったんだろうけどさ》

「環境破壊甚だしいな」

《君には負けると思うよ? 仮説としては、生前の記憶を頼りに聖杯を通して陣地作成ってところかな。こちらでも色々と聖杯について調べてるから、情報は随時更新中だ》

「なるほど、了解。サーヴァントの反応はあるか?」

《ひとつ、ふたつ……アヴェンジャーと、ドラグレイスのサーヴァントかな? ただ、聖杯が近いせいかこちらでも捕捉が難しい。全部で三体、かな》

「わかった、留意しておく」

 こちらはサーヴァントが四人。相手が三人、とはいえ油断はできない。なにせ敵にドラグレイスが回っているのだから。決して一筋縄ではいかないだろう。

 

《それじゃ頑張ってね。朗報を期待しているよ。できればこっちに面倒事持ってこない方向で》

 エヌラスが通話を切って、ソラからの情報を伝達する。

 ワイバーンはともかく、サーヴァントの数でこちらは有利だ。加えて、マスター当人達も戦闘能力が無いわけではない。

 

「これはもう、こちらの勝利は揺るぎないですね」

「いえ、武蔵さん。それは早計に過ぎます。先程の話を聞くと、どうやら相手はサーヴァントを召喚して陣営を強化している模様。となれば、これ以上相手に猶予を与えると戦力が増える物と見て間違いないでしょう」

「ただ、その頻度は決して多くないな」

「その確証は?」

「いくら聖杯の欠片って言っても、それを扱うのはアヴェンジャーだ。サーヴァントが使う以上、どうしても自分を現界させ続けるのには限度がある」

 自分を維持しつつ、聖杯を用いて戦力を強化するにしても、召喚する相手との相性もある。喚び出したその場でサーヴァント同士が戦闘してもおかしくない。生前、自分に縁のある相手を自在に召喚できるならまだしも、今回の聖杯は不完全な代物だ。どのような欠陥を抱えているか解ったものではない。

 

「サーヴァント同士の契約なんて考えたくねぇしな」

「おれはそういう、魔術だなんだはまったくわからん! だが問題は、ドラグレイスがあちらの陣営に居座っているということだ」

「そう。それが俺たちにとって一番の難題だ。アヴェンジャーにどんな入れ知恵するかもわからないしな」

「ねぇマスター。もし、そのドラグレイスさんがアヴェンジャーさんと契約したら……」

「「それはないな」」

 エヌラスと剣姫が断言する。まず間違いなくそれは有り得ない。

 相手が信用に足るかどうか判断し、それで不合格ならば手を切る。しかし――ドラグレイスが聖杯の欠片を手に入れてどうする気なのか。そこもまだ判断しかねるところだ。

 いずれにせよ、エヌラス達としては一刻も早く聖杯の欠片を回収したい。

 

 サンドイッチに手を伸ばして小腹を満たしていると、眠気に襲われてエヌラスが欠伸をこぼしていた。それを見ていたユゥユゥが自分の膝を叩く。

 

「エヌラスさん、どーぞっ」

「ん? いいのか。んじゃ、お言葉に甘えて……よいせっ」

 早速横になって膝に頭を預ける。すると、頭を撫でられた。太ももの弾力と、寝心地の良さに眠気が増してくる。眠りに落ちそうになったエヌラスを、アビーが袖で叩いてきた。

 

「マスター、だめよ。ご飯を食べて横になったら牛さんになってしまうわ」

「そうは言われてもなー。この古い家屋に居ると心落ち着くというか」

「この青臭さが穏やかな心地にさせてくれますね」

「でもそれ、日本人特有の感覚ではありません? あなたやはり日本人では?」

「んなわけあるかぁ!!」

「うむ、しかしそれにはおれも同意する! ごろーん!」

 軍服のまま、剣姫もまた大の字に寝転がる。

 本当に大丈夫なのだろうか、この二人で――景虎と武蔵が呆れてため息をつく。

 

「二人とも? 戦の策も用意せずにゴロゴロと時間を無駄にしている暇はないんですよ? 攻めるのならば、枯れ草に燃え広がる炎の如く。これ以上相手に時間を与えずに向かうはずだったのではないのですか?」

「夜まで待つ」

「……はい?」

 エヌラスが天井を指差した。

 

「このまま攻め入っても、空を飛んでいるワイバーンの監視に引っかかる。そうなればこっちが戦力を消耗した挙げ句、足止めを食らって相手に迎撃されるのを待つだけだ」

「森に紛れて向かったらいいんじゃないの? 流石にワイバーンでも見えないでしょ」

「相手のホームグラウンドに攻め入る。こっちは土地勘無し。加えて、そこいらの野生動物も襲いかかってくる可能性がある。となりゃあ完全に不利なのはこちらだ」

 この一帯の生態系を完全に把握しているのはドラグレイスただ一人だ。下手をしたらアヴェンジャーですら身動きが取れない。毒蛇同士が睨み合っている戦況に、こちらから飛び込もうというのだから。

 数の不利を地の利と頭数で補っている。

 これだからアイツの相手は嫌なんだ――エヌラスはユゥユゥの膝に頭を預けながら深く息を吐き出した。

 

「夜になれば、監視の目も少しは緩まるだろう。そうなりゃ、こっちは野生動物を蹴散らして突入するだけだ」

 食事も睡眠も本来必要としないサーヴァント相手に夜襲など無意味だが、他はそうと限らない。少しでもこちらの消耗を抑えた上で攻め入るべきだ。

 

「……何も考え無しというわけではないようですね。その昼行灯は演技ですか? もしそうであるならば大したものですね。見抜ける人間はそう居ないでしょう」

「そう見えるか? 俺はこれでも真面目だ」

「ならば、そういうことにしておきましょう」

 剣姫も寝転がったまま腕を組んでいる。

 

「おいエヌラス。いつものお前ならば他の誰もが引き止めるのを聞かずに単身で突入するだろう? なぜお前は今回に限りそんな慎重なんだ。サーヴァントを引き連れているからか? それとも相手があのドラグレイスだからか?」

「そのどっちも、だな。最悪なことに、アイツもサーヴァントを引き連れていると見て間違いないからな。コイツらをどう上手く使えるかが勝敗の分け目ってところだ」

「なるほどなー」

 寝転がっている二人のマスターを見つめて、景虎は笑みを崩さないまま観察していた。

 

(……この方は、どうにも油断なりませんね。剣姫さんに関しては、裏表のない快活な御方ですので信頼に足る方ですし)

「そんなわけで、俺は仮眠する。まずは陽が傾くまで休憩。慣れ親しんだ環境に近い場所とはいえ身体を休めて馴染ませておいたほうがいい。うちの二人も慣れているとは限らないしな」

「――ちゃんとあたし達のこと気遣ってくれているんですね、エヌラスさん」

「なにか体調に異変は?」

「無問題です」

「気遣ってくれてありがとう、マスター。私も大丈夫よ」

「俺は“戦うな”とは言われてるが、最悪暴れてもいいわけだしな」

「おれは何も言われていないから存分に暴れまわっていいわけだ! 腕が鳴るな!」

 

 ヒナグラシの遥か上空を、ワイバーンが飛び回る。

 哨戒中の翼竜が眼下の景色を舐めるように見渡していた。

 

 

 

 ――その視界に映る景色を、魔術によって自分の網膜に投影していたドラグレイスが中断する。

 

 アヴェンジャーの居城。それは聖杯の魔力によって作られた領地であり、その作成だけでなくサーヴァントの追加召喚によって疲弊した様子のアヴェンジャーが椅子に座って身体を休めていた。

 その傍ら、テーブルの上には酒と食事が置かれている。ドラグレイスが用意したものだ。

 壁際には槍を携えたままのランサー、李書文が待機している。

 

 そして、それとは逆側の壁。

 ドラグレイスとアヴェンジャーのテーブルを挟み、睨み合う形でサーヴァントが立っていた。

 

「ちょっと、ドラグレイスだったかしら? アイツ等本当に追ってきているわけ?」

「ああ。今は村で時間を潰しているようだ」

「徒歩で追ってくるとかバカなわけ? こっちは空飛んで移動できるっていうのに」

「そう思うのも無理はないな。だが、徒歩の利点というのは目立たないことだ」

「どこまでも愚かなこと。こちらに勝つつもりだなんて」

「……負けることを考えていないようだな?」

「当然でしょう、こちらには聖杯。加えて現地の協力者、のみならずサーヴァントがもうひとり。それも――()()()()を引き当てることが出来たのはとても大きいわ」

 誇らしげに笑みを浮かべるアヴェンジャーがテーブルに置かれているグラスを揺らす。

 微量とはいえ食事にも魔力を含ませているため、多少なりとも足しになるはずだ。

 

「さて、それならこちらから出迎えてやるとしますか」

「やめておけ。お前は疲弊した魔力の回復に努めるべきだ。聖杯を用いたとはいえ、多少は脆くなっているんだろう?」

「魔術にある程度精通しているというのは嘘ではないようですね?」

「こちらは焦らずとも、出迎えてやればいいだけのことだ」

 探知魔術によって周囲の動物達の目を借りているドラグレイスにとってしてみれば、この環境は非常に有利と言える。

 

 丸グラスの奥から李書文はセイバーを見ていた。

 偉丈夫とも言える、恵まれた体格。背負った大剣は鞘に收められ、鎧を纏っている。

 見たことのない姿格好に、それが西洋の騎士であることがわかった。人間を相手に武勇を誇ったのではない。それは怪物との戦いによって得たものであることは、得物でわかる。

 例えば、自分の身の丈を遥かに凌駕する巨獣――。

 

 “竜殺しの英雄”が、威風堂々と立っていた。

 

「仕掛けてくるのなら夜だろうな」

「ふふ。今日は長い夜になりそうね――そうは思わないかしら、セイバー」

 グラスを差し出して、ジャンヌ・ダルク・オルタがサーヴァントに声を掛ける。

 

「どのような相手であれ。それが敵として立ちはだかるのなら俺が屠ろう」

「貴方が聖杯にかける望みは?」

「……望み、か。すまない、俺にはそういったものはない。俺を頼りにしてくれた、アヴェンジャーの力になること。今はそれだけだ」

「それは心強いこと」

 少なくとも、いつこちらの寝首を掻こうと機を伺っている気に食わない二人組よりかはマシだ。

 

「私達に勝てると思ったら大間違いよ。目に物を見せてやるわ」

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