大魔導師「聖杯戦争やろうと思うんだが」   作:アメリカ兎

2 / 13
第二夜 サーヴァント召喚:ユウコの場合

 

 

 ――商業国家ユノスダス。その国王であるユウコに一通の郵便が届いていた。

 差出人は『犯罪国家国王・大魔導師』とだけ。

 内容物に記載されているのは『招待状』と。それだったら封筒でよくない?

 

「…………」

 一国の主である、ユウコはその箱を持ち上げて。軽く揺すって。カラカラと中身が動く音の重さと振動で大体のサイズを把握する。

 国民の皆様に大人気だからか、こうした贈り物は数多い。当然、厳重なセキュリティによって危険物がないかどうかチェックはしているが……差出人の名前だけでお祓いと封印を施して永久に土葬したい。とはいえ、相手も一国の主。そうそう変な物を送り込んでこないと思う。

 招待状を箱で送りつけている時点で十分に変人なのだが。

 

「てい」

 箱を開けてみれば、一通の手紙と金の札。

 

「……なにこれ? どっかから出土した値打ち物? 鑑定眼は持ってないし……そーだ」

 執務机に置かれている電話から、長い知人であり恩師でもある相手へ連絡する。ちょうど一段落ついたことで、すぐに国家中枢機関である教会へ赴いてくれるらしい。

 

 それからしばらくして、職員に案内されて訪れたのはとある喫茶店の店主であるシルヴィオだった。老齢の男性ながら、その過去は波乱の人生に満ちている。鳴りを潜めて今や穏やかな老紳士となっているが、昔はあの大魔導師ですら一目置いていたというのだから復讐心というのは恐ろしいものだ。

 

「私のような御老体に用向きとは、何事ですかな。国王様」

「お、来てくれた。これなんですけどー、なんか知りませんか?」

「はて?」

 ズボンにシャツにベストと、まるでバーテンダーのような出で立ちではあるがその服の下には頑強にして屈強な肉体が静かに潜んでいる。あらゆる不測の事態にも肉体一つで打ち砕かんとしてきた意思の強さすら感じさせた。

 

「差出人が大魔導師だから」

「なるほど……」

 元犯罪国家の出身としては何か思うところがあるのだろう。だがこのとき、二人の脳内には高笑いをする大魔導師の姿が浮かんでいた。

 

 ――アレ、だしなぁ……。

 

「招待状と」

「うん。こっちの手紙も内容はものすっごく簡素」

「どれどれ……ふーむ……」

 

 『催し物をするので参加しろ。使用方法:お前なら気合でなんとかなるだろう』

 

「……もう少しこう。なにか書き方があったと思われますが」

「ですよねぇ」

 指で金の札を叩き、シルヴィオは思案する。

 はて。これに似たものが確か昔あったような気が……。

 

「ああ。思い出しました、これは使い魔を呼び出す為の道具です」

「使い魔?」

「はい。魔術師が使用する物として、何度か拝見したことが。使用方法についても、確かこの札の中に籠められている術式を起動させるために魔力が必要とか」

「そんなこと言われても私魔術師じゃないし。吸血鬼だし。んー……血液で代用できるかな」

「おそらくは可能でしょう。つまりは魔力を含んだ何かを用いれば良いのですから」

「なるほどなるほど。やー、私お金稼ぎと料理くらいしか取り柄がないもので。そういうのからっきしでして、ありがとうございます。あ、よかったらお茶とかどうです? いーのがあるんですよー、旦那ー」

「そういうことでしたら、たまにはお付き合いしましょう。足労を労っていただくと思って」

 親子のようで、師弟のようで。そのどちらでもなく、宿敵同士であった。しかし、一度も拳を交えたことはない。

 吸血鬼ながら、太陽に勝る眩しい笑顔を見せてユウコはすぐにお茶の席を設けた。

 

 

 

 ――商業国家ユノスダス・教会敷地にて。

 

 国営を担う中枢機関である教会は、商業国家の特性上膨大な敷地を有する。その一部を直営店として開放し、自由に国民が出入りできる。もちろん純国産品であり、加工場も教会の敷地の中にある。土産物としても名高く、日々大盛況ぶりを誇っている。

 ユウコが監修した『国王印の柚子饅頭』は完売御礼。売れ残りなど見たことがないほどの絶品として知れ渡っていた。あと、べまモン饅頭。

 教会市場とは別に、催事場として国を挙げての催し物を開く際の場所もあるが、こちらは基本的に国民の出入りは禁止されている。だが、今は商業国家の式典に向けての準備中だ。

 ユウコが商業国家を治めるにあたっての記念日を祝うために職人たちが慌ただしく出入りしている。

 そこへ、国王本人とシルヴィオが現れた。作業の手を一旦止めて頭を下げる人々を労いつつ休憩時間にでもつまんでくれればと山のようなクッキーとお茶を運んでくる。

 

「皆ーお疲れ様ー! 甘いものと飲み物持ってきたので休憩にでもどうぞー!」

「きゃー国王様ばんざーい!」

「ありがてぇ……ありがてぇ……もぐもぐ」

「素敵! 抱いて!」

「マッマ!!!!」

「あっはっは、泣いて喜ぶほどのことなんてしてないんだけど……あと今わたしのことお母さん呼ばわりした奴は減給ね」

「オギャーーーー!!!」

 一部阿鼻叫喚と化しながら、ユウコは設営の進行具合を現場監督と話し合う。

 監督と、そこから担当部署ごとに班長。さらに従業員と報連相の速度重視。ミスのリカバリーは早いほど良い。そのため、監視役として教会の職員も配備されていた。だが決して重苦しい雰囲気はなく、むしろアットホームで和やかな空気が流れている。

 

「進捗状況は?」

「はい。全体的な進行度で言えば、折返しを過ぎたところでしょうか。形はできていますが、やはり細部の資材調達が難航してますね」

「輸入品で代用とかしないと間に合わない感じ?」

「納期は間に合うと先方から連絡はきていますね」

「具体的な日時の指定はされてる?」

「三日以内と」

「うん、それならよし。じゃあそれまではこの調子でよろしく!」

「はい!」

「あ。そうだ、もし納品が間に合わないって連絡がきたらアゴウの輸入品で花束とか代用するから、そうなったらすぐ連絡してね。念の為向こうには用意してもらってるし」

「わかりました! よーし皆、作業に戻るぞー! 国王様の手前、全力で!」

 気合を入れ直しながら、作業班が仕事に戻る。その勤労意欲を見てしきりに頷きながら、ユウコは満足げに催事場を見渡していた。

 

「いやー、汗水垂らして私の為に働いてくれているってものすごい気分がいいなぁ」

「確か、その呼符、とやらを使うために来たのでは?」

「そのつもりですけども、第一に国の用事優先! 私事と私情は二の次! 国が潤えば皆ハッピー! オッケェ!」

「……相変わらずお金が絡むと途端に目の色が変わる方だ」

 金銭絡みになると、魔術師どころかあの大魔導師ですら口を閉ざす勢いで吠え立てるのが商業国家国王のユウコだ。金と胃袋を鷲掴みにして生活力を握る。末恐ろしい相手で別な意味で敵に回したくない。

 

「おほん。というわけで、これを使うためにちょっと場所を借りようと思って此処に来たわけなんだけども――どこかいい場所ないかな」

「ふーむ……あの辺り。ちょうど作業が一段落したのでは? 手が止まっております」

「ごめーん、ちょっとその辺り借りてもいいかなー?」

「勿論です国王様! ささ、どうぞどうぞ。ちょうどこちらも一通りの作業が終わったところでしたので!」

 ユウコとシルヴィオが向かったのは、贈呈品の祝花を置くために取った場所だった。スタンドもすでに発注済みで、あとはこれらを見栄え良くセットするだけとなる。一部はすでに納品済みで、仮置をしてどうなるかを確認しようとしていたらしい。

 

「んー、確か納品済みの祝花って……バラだっけ? 確かアゴウから」

「はい。アゴウの帝都より納品されています。こちらへ今運搬中ですね」

「そうだなー。赤いやつだと目立つし、でも中央はやっぱうちので確保しておきたいから、その横辺り? この辺に置いてみてもらえない?」

「わかりました」

「さて。それじゃ、ちょっと使ってみよっかなーっと。あ、カッター借りるね」

 ユウコが指の先を軽く切って血を流す。それを呼符に付着させると、その血液に含まれる魔力を動力に内部の召喚術式が起動した。

 召喚円が展開され、籠められていた魔術が発動する。

 そこへ、段ボール箱を台車で運んでいた職員が戻ってきた。

 

「すいませーん、頼まれていた納品物の薔薇の祝花ですが――うひゃあっ!」

 途中、段差に引っかかって段ボール箱が宙に舞う。それを目の端で捉えていたユウコが咄嗟に受け止め、召喚サークルの中に大量の薔薇が混じる。

 それを触媒と誤認した聖杯が、一騎のサーヴァントを呼び寄せて現界した。

 

 舞い散る薔薇の花弁にも勝る赤いドレス。胸のすくような青い空のただ下にあって、尚も凛然とした様で胸を張る。

 召喚の衝撃で吹き飛んだ一輪の薔薇を手にして、そのサーヴァントは声高らかに宣誓した。

 

「――うむ! 余を喚んだからには此度の聖杯戦争、勝利を約束しようではないか!

 セイバー、ネロ・クラウディウスである! このように華やかな歓迎とは、わかっておるではないか! よろしく頼むぞ、マスター」

「…………」

「ほう、これはこれは。また麗しい騎士様だ」

 驚きのあまり、段ボール箱を抱えたままのユウコと整えた顎髭を撫でるシルヴィオ。その前に立つサーヴァント、セイバー。ネロ・クラウディウスと名乗った少女は手にしている真紅の剣に手を置いて薔薇の香りを嗅いでいた。

 

「これはまた芳醇な薔薇の香り。よほど恵まれた土地で伸び伸びと育まれたものだな、これは余への貢物としてありがたく受け取ろうではないか!」

「…………」

 ユウコが自分の抱えているダンボール箱を見下ろす。そこに挿されていた薔薇は、衝撃で吹き飛んでしまっていた。まず箱を下ろし、腕を組み、考え込む素振りを見せる。状況を整理していた。

 

「す、すいませんユウコ様! お怪我の方は!?」

「私は大丈夫! それよりも追加発注よろしく! 手の空いている人は掃除お願い! ごめん手間増やしちゃって! 残業代は上乗せしとくから!」

「むぅ、聞いておるのかマスター?」

「ちゃんと聞いてるけどちょっと待ってセイバー!」

「失礼。私はシルヴィオ。喫茶店のオーナーをしている者だ。まず君のマスターと場が落ち着くまでは私の方で話を聞こう。お茶でも飲みながら如何か?」

「うむ、苦しゅうないぞ! ではそのようにもてなすがよい」

 

 

 

 ――応接室にて、シルヴィオがネロと名乗ったセイバーと紅茶を嗜みつつ待つこと数十分。ようやくユウコが戻ってきた。

 

「はぁ。まさかこんなことになるなんて、作業の前倒しと人員増加しないとなー。それに教会市場の方も騒ぎになったらしいし、えーとあと他になにかあったっけ……あー、御姫に連絡しないと……むー、仕事が増えた……」

「遅いではないか、マスター!」

「ごめんねー。慌ただしくて。お茶のお代わりとかいる? 茶菓子も用意するよ?」

「む……ならば余の舌を唸らせる極上の品を要求する!」

「オッケー、任せて!」

 

 ユウコが焼きたてのスコーンとパンケーキを持ってくる。ナイフで切り分け、一口。

 

「――美味い! これは余も太鼓判を押そう!」

「よし!」

 ネロ・クラウディウス、陥落。落ちそうな頬を支えるように手を当てながら三段重ねのパンケーキはあっという間に消えてしまった。紅茶を含み、すっきりとした後味の余韻に浸る。

 

「ほぅ……♪ 極上の茶葉に、菓子でもてなされて余は大変に気分が良いぞ」

「さて、薔薇の皇帝様の機嫌も直して頂けたところで、老体は御暇させていただきます」

「助かりました、おししょー様」

「はは、師匠は止してください。今や貴方がこの国の王であり、私はその寛大な統治によって生活を保障されている一国民に過ぎないのですから。また何か御用の際は、このような老体であれば微力ながら手を貸しましょう」

「ありがとうございます。今度そちらに茶葉を送っておきますね」

「それは助かります。ありがたいことに、老いぼれの経営する小さな店も繁盛しているものでそろそろ在庫が危うく思っていたところでした。ええ、有り難く頂戴しましょう」

 シルヴィオが頭を下げて退室すると、案内役の教会職員と共に去っていく。

 残された二人はテーブルを挟んで向かい合っていた。真紅の剣は壁に立てかけられている。

 

「改めて、ご挨拶を。私は商業国家ユノスダス国王、ユウコ。それで、貴方のマスター……? ってことでいいんだよね」

「うむ! 余の自己紹介はいらぬな」

「セイバー、ネロちゃんだよね」

「偉大なるローマを治めた皇帝である余を、ちゃん付けだとぉ!? 気に入った! 料理も美味く、先程の器量良し、経済手腕もまた眼を見張るものがある! なによりこの国は繁栄の象徴とも言うべき発展を遂げている! しかも留まらぬと見た、これは余も負けておられんな」

「私、なんかこー、そういうマスターとか戦場に立つことに関しては全然ダメダメだけど大丈夫? どっちかって言うと国の運営に忙しいんだけど」

「なんと!?」

「あ、でもこれはこれでチャンスかも……? 顔良し、スタイル良し、ドレスを見た限りではセンス良し。愛嬌あるし性格もちょっと子供っぽいところはそれはそれで魅力だし。ちょうど式典も近いし……」

「む? どうした、マスターよ? 余の顔をじっと見て。悪い気はせぬ。なにせこの美貌ゆえ見惚れるのも致し方ないこと。罪深いものよな」

「――よし! 決めた! ネロちゃん!」

 両手をネロの肩に置いて、まっすぐに見つめる。

 

「なんだ、マスター!」

「私の秘書やらない!」

「よかろう!」

「よっしゃ!」

「……――よかろう!? 秘書、秘書だと!? まさか余が、ユウコの片腕になれと言うのか!? 仮にもこちらはローマ皇帝だぞ! むしろ我が経済手腕で唸らせるくらいではないと釣り合わん!」

「やかましい此処では私が国王で私がルールだ! 皇帝とか知らんし! 私の国ローマじゃねぇし! 私が国王で私がマスターで私のサーヴァントなんだから私の命令には従ってもらおうか! そもそもキミ召喚した余波で色々作業滞った挙げ句に人件費清掃費追加発注分の代金諸々どう調達してくれるってのさぁ耳揃えてきっかりみっちり言ってもらおうかぁネロちゃん!!」

「ふ、ふぇぇ……!」

 シルヴィオとの語らいの中で、出てきた話題はだいぶマイルドに表現されていたらしい。

 

 ――セイバー。君のマスターは、お金が絡んだ瞬間にこの世の何より恐ろしくなる。肝に銘じておきたまえ。

 

 此処は素直に従うのが吉と見た。

 

「むぅ、そこまで余を頼るというのなら仕方がない。マスターの意向に従おう」

「うん。ありがとう! よかったー、助かるー。今ちょうど国を挙げての式典の準備の真っ只中で私も通常業務立て込んでてさ。この時期は人手不足なんだよね。まさに猫の手も借りたいくらいで」

「だが相応の待遇は求めてもバチは当たらんだろう」

「衣食住、保険に年金支払いに三食付き。週休二日に祝日休み。残業代と深夜割当別途給与上乗せ。ボーナス年二回。有給有り。申請次第では国内のサービス利用割引。一日六時間勤務」

「………………」

 ネロは絶句していた。聖杯から一応、知識はインストールされている。だがそれはあくまでも一般常識や、元となった世界の知識だ。この異世界においてそれがどこまで適応されるかはわからないが、その無条件で差し出された雇用条件があまりに破格のホワイトぶりに言葉を失っている。

 

「これ以上に好待遇の席ある?」

「ない!! 断じて!!」

 偉大なるローマ皇帝もこの通り。

 わずか一日足らずでセイバー、ネロ・クラウディウスはユウコにサーヴァントとしてだけでなく雇用形態においても圧倒的忠誠を誓った。




サーヴァント:ユウコ

セイバー:ネロ・クラウディウス(担当部署、国王秘書)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。