――前略。フォーリナーを二体召喚することに成功したエヌラスは腕を組んで考え込んでいた。
この二人、まるで戦闘能力があるようには思えない。二人仲良くお茶会でもしていてくれた方がよっぽど馴染む。しかし、内包する魔力は桁違いだ。並の魔術師などとは比べ物にならないほど高い。
「…………」
保有魔力が高いのも、分かる。そこから実力が導き出されるのも、まだわかる。だが今現在エヌラスの眼前で繰り広げられている光景は――。
「美味しいわ、美味しいわ! とってもふわふわで、とっても甘くて、とろけるようなバターに蜂蜜のパンケーキ! こんなに美味しいものがあっていいのかしら!」
「ん~~! この果物おいひぃ~!」
「お気に召したようで何よりです。おかわりもございますよ?」
「「是非! お願い(するわ)!」」
最高傑作のメイド一号、姉の方。スピカが提供するパンケーキとフルーツの盛り合わせを頬張ってご満悦だ。
俺、なんのためにサーヴァント召喚したんだっけ? そんな気持ちでいっぱいになる。
「おやおやおやおやおや、ご主人様ぁ? お茶が進んでいないようですがどうかしましたかご主人様ぁ? はっ、もしやこのカルネのゴールデンなティータイムをご所望ですか! そうとは気づかずもうしわけありませんご主人さま! 少々お待ち下さい! 例え仮に出なくてもひねり出してみせます! なんならもうご主人様のドロリ濃厚愛情たっぷりな蜜液でもこのカルネはいつだって準備万端で受け入れますとも! さぁご主人さま! さぁ!」
「とりあえずぶっ飛ばしとくわ」
「ごぉぉぉ主人サンバああああぁぁぁぁ――――!!!」
窓ガラスを突き破り、フェードアウトしながら遠ざかっていく最高傑作のメイド二号、ポンコツな方のカルネが消えていく。そんなんだからお前はダメイドとか言われるんだぞ。
一連の流れを見ていた二人が驚いているが、毎度のことなのでスピカはお茶のおかわりを用意しながら淡々と作業を進めていた。
「それではお二人とも。ご用意いたしますので、お寛ぎながらお待ち下さいませ」
「え、ええ……」
「ではエヌラス様。少々失礼いたします」
「ああ。ついでに中庭にカルネ転がってたら焼却炉に放り込んどけ」
「かしこまりました」
瀟洒淑女ここに極まれり、スピカが会釈してロングスカートを翻しながら応接室から退室すると、ヒールを鳴らしながら去っていく。その後姿を見つめていたアビゲイルが目を輝かせていた。理想のお姉さんでも見つけたかのように。
「とっても綺麗なメイドさんだったわ。白銀の髪、まるでカーテンのようにヒラヒラとしていたわ。それにあの身のこなしも、まるでそよ風みたいにとても物腰柔らかで……私も大きくなったらあんな風になれるかしら?」
「きっとアビーちゃんなら素敵なお姉さんになれると思うよ」
「本当? 楊貴妃……ユゥユゥさん」
「うん。なれるなれる。あたしだって皇帝のお嫁さんに行く前はただの町娘だったんだから」
「お前のような美貌を持つただの町娘がいるかっつーの」
「……褒めてる?」
「褒めてる」
「えへー、ありがと~」
“ふにゃ~”とした笑みを向けてくる楊貴妃の顔を見つめながら、エヌラスは頬杖をついて二人を見比べる。
サーヴァント、フォーリナー。
「服。アビゲイルはそのままでもいいかもしれないが、ユゥユゥは少し目立つな。珍しい服装だし、こっちで生活をするならこちらの文化圏に合わせた衣装に着替えた方が良さそうだ」
「あたしはこの服結構気に入ってるんだけど……」
「サーヴァントなんだから、こう……魔力でなんとかなるだろう? その服が聖杯の座に登録されているんだから。そうでもなければ全裸で召喚されてるだろうしな」
個人的にそれが見たくないと言えば、嘘になる。エヌラスの言葉には二人が顔を赤くしていた。大魔導師は公務に取り掛かるといって既に逃げている。あの野郎ぜってぇ高みの見物に徹して笑うつもりだな?
「ユゥユゥ。なんか好きな服のリクエストとかあるか? なかったら俺の方で似合いそうな衣装を見繕っておくが」
「えっとー……今あたしが着ている感じの!」
椅子から立ち上がり、テーブルからやや離れてふわりと一回転する。自分の肩に手を置きながら、穏やかな笑みを浮かべていた。
エヌラスがうなりながら、ユゥユゥの格好を観察する。
肩を出したワンピースドレス、腹掛けは、どこか伝統的な趣がある。おそらく召喚元となった世界の衣装だろう。エヌラスとしても似たものを見た事があるのでさほど違和感はないが、大きく露出した背中と脇、のみならず豊満な肉付きの足腰の白さについつい目を奪われてしまうのも無理のない話だ。気を取り直して。
「これ、着やすくてお気に入りなのですっ♪」
「なるほど。んー……となると、タンクトップが良さそうだな。寒いのは大丈夫か?」
「むしろあたしは暑がりなので少しくらいは薄着な方が……」
「そんなことしたらこの国じゃ暴漢に襲われ放題だぞ」
「あ、あの。マスター」
「ん?」
くいくい、と。エヌラスのコートの裾をつつましく引っ張るアビゲイルが何か言いたげにしているが、なんとなく言いたいことは察している。
「私も……」
「アビーもオシャレしてみたい?」
「! ええ、そうなの。ダメかしら……?」
「いいや。そんなことはない。後で二人に似合いそうな召し物を用意させるから、今のうちにリクエストを聞いておこうと思うが、いいか?」
二人が快諾すると、エヌラスが好みな服を聞き取る。そこへ、パンケーキと追加の茶菓子を用意したスピカが戻ってきた。
「お待たせいたしました。アビゲイル様、ユゥユゥ様。ご注文の品は、以上でよろしかったでしょうか? お熱いのでお気をつけください」
「まぁ! ありがとう、スピカさん」
「ユゥユゥ様はこちらをどうぞ」
「わ~。
「? いえ、杏仁豆腐と呼ばれる異国のデザートでございます。ご主人様が以前お持ちした料理本に載っていました」
「杏仁豆腐……そっか、此処じゃその方が知られてるんだ。まぁいいや、いただきま~す――はぁ~、美味しい~、頬が落ちそうなほど甘くて美味しい~、蕩けそう……」
「んな惚けきった顔で言われてもな……そうだ。スピカ、これに近い召し物をメイド達に用意させてくれ」
「こちらは?」
「二人の変装用の服。このままじゃ目立つからな」
「確かに。連れて歩く分には過分ありませんが、目立ちますね。ご主人さまの人相も相まってしまって、はて困りました」
「はっ倒されてぇかお前は?」
「御冗談を。愚妹と違いますので」
「最後のガラスをぶち破って天っ才美少女メイドカルネちゃん再臨! とやーぁ!!」
ガシャンパリーングキッ!
窓ガラスを粉砕しながら戻ってきたカルネだが、着地を盛大にしくじって床に顔から倒れた。しかしこの程度でめげない泣かない挫けない鋼を通り越した狂人メンタルがカルネの取り柄のひとつでもある。折れろ。めげろ。ちょっとは懲りろこのバカ。
犬のしっぽのようなポニーテールをブンブン振りながらミニスカートがめくれてパンツ丸出しでもまったく気にせずにカルネが立ち上がり、スピカとエヌラスがアイコンタクト。
「ご主人様がスピカ姉を押し倒すと聞いて居ても勃ってもいられずウェイクアップ!」
「テイクダウン!」
「ブレイクアウトぉぉぉんっ!!!」
スピカの足払いとエヌラスのハイキックが同時に叩き込まれ、回転するカルネ目掛けて更に電磁加速蹴撃が顔面を捉えて再び窓ガラスが犠牲となった。これで三枚目である。
「カルネの賃金から差し引いておきますね。その窓ガラス」
「頼んだ。まったく、ただのガラスじゃねぇんだから高く付くんだぞコレ……」
「ところで今、窓枠蹴り壊しませんでした?」
「カルネが悪い。差っ引いとけ」
「かしこまりました。それではごゆっくりどうぞ」
スピカがスカートを持ち上げながら深々と頭を下げて、カーテシーを最後に部屋を後にしていった。入れ替わるように教会で雇用している自動人形達がガラス片の掃除をするために入室してくる。テキパキとした動きで掃除を終えると、何事もなかったかのように頭を下げて去っていった。
まるでそれが日常的に行われている業務であるかのように。
「さて。二人の服が用意できたら、まずはこの国のことから説明しないとな。それから、知り合いのところに出向こうと思っている。近々、建国記念日ってことで国を挙げての式典も控えてるから、まぁお祭りに行くと思って気楽に構えてくれ」
「……聖杯戦争は?」
「今のところ、手がかりも情報も手元にない。その情報収集も兼ねて、だ」
どうせ監督役の大魔導師は「それぐらいの調査もできんのかお前は?」とか言い出すに決まっている。そしてそんな顔をするに決まっている。哀れに哀れんだ顔で見下すに違いない。考えたら腹立ってきた。
「戦争をするにしてもまずは第一に情報だ。それにそういった点に関しては優秀な奴も、ちょうどそこにいることだし」
「あの、マスター」
「どうした、アビー」
「えっと……霊体化、ということも私達は出来るわ。それじゃダメなのかしら?」
端的に言ってしまえば、サーヴァントの低電力化だ。実体化し続けていられるのは、マスターから魔力を送ってもらっている状態だからだ。電化製品を思い浮かべてもらえれば分かりやすいかもしれない。
「俺はこのままでもいい。別に俺の魔力消費を気にしなくていいぞ」
「でも、大変じゃないかしら?」
「あー、詳細は省くが。俺は普通じゃない。無限の魔力貯蔵庫を身体に移植してるから、理論上ほぼ無限の魔力を扱える。もちろん肉体の過負荷はあるが」
絶句していた。そんな夢のような話が、そう都合よくあるわけでもない。あくまでも、発電量の話だ。それを放出するための肉体が耐えられるかどうか――当然だが無理である。そのための安全弁はエヌラスが設定しているため、節度を弁えれば問題ではない。
尤も、この男に限って言えば戦闘時を除いての話だが。
「二人を実体化させる分には、特に問題ないな。まずい時はちゃんと俺の方から指示する」
「そ、そう……そういうことならお言葉に甘えさせてもらうわ」
「それに、ちゃんと自分の目で見て、自分の足で歩いて。手で触れた方が実感あるだろ? 案内するならそばに居てくれた方が俺も嬉しいし」
エヌラスなりの配慮が嬉しいのか、二人が頬を染めていた。
「どうした?」
「マスターの気遣いが、とっても嬉しいのですっ」
「ええ。どうなることかと思っていたけれど、貴方のように優しいマスターなら私も頑張れそうだわ」
「それは心強い。だが、ひとつだけ注意してほしいんだが……俺が戦闘する時は、できれば離れていてくれると助かる」
「どうして?」
「話せば長いが、一言で言うと俺は滅茶苦茶暴れまわる。巻き込まれないようにだけ、気をつけてくれ」
「その時はあたし達がちゃんとお守りしますので、どうかご安心を。マスター」
「あと戦闘中の俺はバーサーカーだ。できれば止めてくれ、多少力づくでもいいから」
「……それ、戦闘狂って言うんじゃあ」
当たらずも遠からず。
エヌラスは戦闘に関してのみ、異常なまでの執念を見せる。例えそこに勝算がなかったとしても、血路を開く。とにかく戦闘続行スキルと仕切り直しと狂化が合わさっている化物だ。
その点を肝に銘じておきながら、二人が頷いた。
――犯罪国家、九龍アマルガムという国は、とにかく滅茶苦茶な国だ。
徹底された法整備が為された上層都市と、地下帝国の二層から成り立っている。地下は犯罪者の温床であると同時に、合法違法問わず繁栄と発展と衰退を目まぐるしく繰り返す大黄金にして大暗黒時代。真昼間から銃撃戦など日常茶飯事、道路を見れば暴走車両、機能しない警察機関、ありふれた超常災害などなど。一歩間違えれば人が消える、そんな無法地帯が国内全域に広がっている。
それらを抑制するのが、超常災害対策部隊――通称を「人狼局」と呼ぶ。シルヴィオの古巣でもあり、様々な技術を駆使して人智を超えた現象に対応している。
上層都市では公安局と呼ばれる警察機構が大量のドローンと教会のメイド達が目を光らせており、犯罪係数と呼ばれる心象ストレスと脳波による潜在意識を解析して事前に処置することで抑えているが、これも完全ではない。
国の発展と技術の進歩が国と犯罪者側でいたちごっこを繰り返している。その利益がどうあれ、国益となっているのが、此処が犯罪国家と呼ばれている所以でもあった。
そんな国の王様が、大魔導師。その次席が、エヌラスだ。
――なお、九龍アマルガムにおいて“国王”という言葉の意味は「この国で一番やべー奴」という意味である。お前のような国王がいてたまるか。
……そこまでの説明を聞いてから、ようやくユゥユゥとアビーは気づいた。
自分達がとんでもない国の、とんでもない人の、とんでもない場所に召喚されたということに。こんな地獄の釜の蓋を開けて煮詰めた肥溜めのような国で過ごしている奴が、まともなはずもなく、一皮剥けたエヌラスの本性がどれほどの危険性かは後々嫌というほど思い知ることとなる。
自動人形:スピカ&カルネ
エヌラスが手掛けた最高傑作のメイド。スピカが姉。
共通して白銀の髪だが、スピカの瞳は青く、カルネが琥珀色をしている。
髪型もスピカはツインテール、カルネはポニーテール。
メイド服もクラシックスタイルながら、カルネの方がミニスカートである。パンチラし放題だが当人は特に気にしていないどころか聞いてもいないのに見せてくる始末。羞恥心とか無いのかお前は(当然スピカとエヌラスには怒られる。もしやそれ目当てか?)
性格も対照的で、スピカは冷静沈着かつ瀟洒にして淑女だが、カルネは真逆で、ノリと勢いと元気の塊。なお性的指向もソフトSとドMであるが、ご主人様限定。