ユノスダス式典当日。
エヌラスとアビー、ユゥユゥの三人は昨日と同じく教会へ向けて移動をしていた。
その道中でソラと刑部姫と合流し、互いに愚痴りながら肩を並べて歩く。
「今朝から国中騒がしくて寝れたもんじゃねぇ」
「君は基本的には夜行性だし。もやしと一緒だよね」
「お前のほうがもやしだろうが貧弱眼鏡」
「うるさいな、サバイバル能力カンストしてるような野生児に言われたくない」
「俺は文化圏の人間だぞ」
「ゴリラに謝れ」
「イエティになら謝罪してもいい。俺の命の恩人だからな」
「うっさいよ野蛮人。三週間も裸一貫で雪山に放置されて生還したやつはこれだから」
朝から取っ組み合いを始める二人を眺めながら、やや後ろからサーヴァント達は様子を見守っていた。
「仲良いよね~、あの二人」
「刑部姫さん、少し眠そうね?」
「んー。まぁねー。まさか私みたいなサーヴァントが喚び出されるなんて思わなかったし、ここは人類史とは別な世界で、慣れない環境に戸惑うことばかりで……昨日は緊張で眠れなかったよ」
「あたしとアビーさんは昨日はぐーっすり眠れたよー」
「ええ。ふかふかのベッドで、エヌラスさんと一緒に――」
「……エヌラス、おまえ……いや確かにそういうやつだとは知っていたけどドン引きだよ」
「何もしてねぇよ!?」
「召喚して間もないサーヴァントに手を出すとか」
「むしろ俺は襲われた側なんだが? そして何もしてねぇからな?」
「だって君、ロリコンだろ」
「ははは、よーし準備運動がてらテメェのこと教会まで引きずり回してやる」
ソラの首根っこを掴み、エヌラスが走り出した。
「おま、おまえぇえええあああああぁぁぁああ!!?」
朝のユノスダスの大通りに、ソラの悲鳴が響く。何事かと商人たちが顔を見せるが、見慣れた顔が土煙を挙げながら駆け出している姿を見かけて何事もなかったかのようにしていた。
「あー……」
「追いかけた方がいいのかしら?」
「目的地同じだし、走ると疲れるから私達はのんびり行こう……」
「エヌラスさん、朝から元気だねぇ」
「いいなぁ、二人のマスター。顔は怖いし乱暴だけど、色々気を利かせてくれるし……」
でもあの人に召喚されてたらと思うと、何をされるのかわからないので遠慮したい。
「うむ! よく来てくれた! 歓迎しようではないか! ところで、なぜそこの眼鏡は既に負傷しているのだ?」
「準備運動で音を上げた」
「テメェのせいだよクソ野郎! 成人男性一人片手にして走り回るか普通! いや普通じゃねぇか! この異常者め!」
「俺の師匠に言えよ」
「死ねと!?」
教会の入り口ではネロがスーツ姿で客人を迎える用意をしていた。恐らくはユウコの指示なのだろう。二人の後からアビー達が来るのを見て、しきりに頷いている。
「サーヴァント達も来ておるな。ユウコが朝食を作っているから、案内しよう!」
「いや結構。勝手知ったる人の教会だし」
「ああ。自分の家みたいなもんだ」
「いいから案内させんか、秘書官である余の仕事なのだから」
「……その腕章、わざわざ作ったのか」
左腕に「秘書官」と書かれた赤い腕章を着けたネロが、自慢するように見せた。
「ふふん、どうだ。余の手作りだ!」
「似合ってるのがなんとも言えないな」
「そうだろう? こう見えて道具作成も得手としているのだ! おっと、それで思い出した。先程メイドが二人ほど来ていたぞ」
「ああ、うちのだな」
「色々と話を聞きたかったところだが、何やら大荷物だったのでな。それに仕事も手伝ってくれておるぞ」
「今はどこに?」
「厨房でユウコと朝食を作っているぞ。余も楽しみだ」
朝食が出来上がるまでの間ネロの案内でいつもの客間に通され、雑談をしながらサーヴァント達と親睦を深める。
ソラの方でも調査は一晩中進められていたようで、その成果は他の聖杯戦争参加者が集合してからということになった。
「今日の式典、ドラグレイスは来るのか?」
「さぁ? アイツはこういう行事に呼んでも来ないことが多いからね。ほんと人付き合いの悪いやつ。その点、君はこういう行事にはしっかり出るよなー」
「俺の代わりに師匠が来たらどうなると思う?」
「大惨事なんだよなぁ……」
そのため、代理人としてエヌラスがほとんどの行事に出席している。とはいえエヌラスも「大魔導師に比べればまだマシ」という程度で、危険人物に変わりない。
客間の扉が開けられて、スピカとカルネ。そしてユウコが食事を運んできた。
「はい、お待たせー! 朝ごはん出来たから食べながら話を聞いてー、配膳よろしく」
「ご主人さま、どうぞ」
「サーヴァントの皆様もできたて熱々をどうぞ!」
全員で食卓を囲みながら、ユウコが今日の式典の流れを説明する。エヌラスとソラは何度か出席しているので大体覚えているが、ネロ達は今回が初参加。おさらいも兼ねて、という事でエヌラスは聞き流しながら話に耳を傾けていた。
「――という感じで、サーヴァントの皆は教会周辺の警備! エヌラスとソラ、御姫は来賓ってことで出席」
「来賓席ってやることなくて暇なんだよな」
「そうなんだよねー。しかも国王って体だから下手な真似できないし。君はたまに暴走してこういう行事台無しにしてるよな」
「暴れる連中が悪い」
「そういう開き直りの早さは嫌いじゃないが直した方が良いと思うよ」
「俺の打たれ強さをなめるなよ」
「お前のメンタルおかしいんだよ……」
「そういや、御姫まだ来てないのか? 一番に到着してそうなもんだったが」
「アゴウから連絡があって、こっちへの到着が少し遅れるってさ」
「なんかあったのか?」
「なんか襲撃?みたいなのがあったらしいよ」
その言葉に緊張が走るものの、気にせずに食事を続けている。
「よりにもよってアゴウに?」
「命知らずもいたもんだ。どこの馬鹿だよ、アレに喧嘩売るとか」
「ははははは、君とその師匠くらいじゃないかな?」
「うるせぇぞ、クソメガネ。ゆで卵ねじ込むぞ」
「口に?」
「鼻」
「入るかよ!? こえーよ!」
「食い物で遊ぶな! とにかく、そういう感じで今日はよろしく。勿論、何事もなく終われば夜のパーティーでもご馳走出るからお楽しみに!」
「こんな状況下で何事もなく行事が終わるとは思わねぇけどなー、もぐ」
「ご主人様。そういった言葉は控えたほうが良いかと。フラグというのですよ」
こんな状況下で何事もなく平穏無事に行事が終わるとは露ほども考えていない。
そもそも普段でもこういった行事がまともに終わった試しがなかった。何かしらの妨害や破壊工作などが行われ、その対処に追われる始末。
終わる頃には疲労困憊。行事の思い出らしい思い出なんて邪魔者を蹴散らしている思い出ぐらいしかなかった。
「以上、なにか質問ある人!」
「……はーい」
「はい、おっきーちゃん早かった! なに?」
「そのー、御姫って人。どんな人なのかなーって。いや、姫って呼ばれてるくらいだから気になってるだけで……」
同じ姫属性として刑部姫が気になるようだが、想像の斜め上をロケットエンジンで突き抜けていく。
「物理的にサークルクラッシャーの姫」
「軍事国家最強の女神」
「君の想像しているであろう、蝶よ花よと愛でられるようなお淑やかさの欠片もない、常在戦場。自分が最前線に突撃していくタイプの、姫様」
「それ姫って言わなくない!?」
「言うんだよ眼鏡姫」
「名前覚えてる!? ねぇ、ちょっと! 私の名前言ってみて!」
「
「おーさーかーべーひーめー!! 人の名前と顔覚えるの苦手なの!?」
「そんなわけねぇだろ。わざとだよ」
「私やっぱこの人嫌いー! マーちゃーん!」
「今食事中だから静かにしてもらえないか君等……」
なんでそんなに元気なのかと疑問に思いながら、ソラは朝食を摂っていた。
商業国家ユノスダスの国際式典が開催されると、一斉に教会の商店も解禁される。
教会でユウコの演説が始まるが、来賓席に空席が目立った。そこは本来、アゴウの女神である
現在はソラがユノスダス国境全域へ監視の目を光らせている。アゴウの機人達も国内の指導者が不在であることに疑問を抱いているのか、落ち着かない様子を見せていた。
エヌラスはと言うと――欠伸を噛み殺している。それを横目で見ていたソラが肘で小突いて注意した。
「一応、犯罪国家の代表で来ているんだから真面目にしなよ」
「何もせずに椅子に座るってのは退屈なんだよなー。お前と違って」
「僕は今もインタースカイのサーバーからの情報処理中だ。ただ黙って座ってるわけじゃないからな?」
「教会の敷地も、スピカとカルネ。それとサーヴァントで警備してるし、俺達が出る幕ないだろこれ」
「さりげなく僕まで数に入れるな。君に全部ぶん投げるに決まってるだろ」
「ユウコはネロが護衛しているから、今回は御姫がトラブル持ってくるんだろうな」
「はは、だろうねー。これから台無しになるのが目に見えるよ」
ソラが眼鏡のレンズに投影されたデータを視線で追っていると、急速に増大する生体反応に落胆する。案の定といった様子で。
「エヌラス、悲報。現在アゴウ方面からとんでもない量の生体反応増大中。そんでもって接近中だよ」
「どうせ御姫だろ」
「だろうけどさ。困ったことに――現在国境近辺まで来てる」
「あー迎撃準備するかー? どうせアゴウの連中がなんとかするだろうし」
「出来ると思う? サーヴァントも混じってたとして」
「無理だわなぁ……」
アゴウの機人達は物理的強度に優れているが、魔術的強度はお世辞にも強いとは言えない。サーヴァントを相手にした場合、足止めが精々といったところだろう。
そうなるとやはり、サーヴァントの相手はサーヴァントが務めるに越したことはない。
「それで、生体反応の詳細は?」
「翼竜。まぁ、ワイバーンの群れと、サーヴァントの反応が三つ。あと御姫かな」
「アルシュベイトは」
「残念、国内で待機中。国王が不在でオッケーなんて国早々ないよ」
「うちぐれぇだわ。さーて、そんじゃ教会まで乗り込まれる前に打って出るかー」
エヌラスが立ち上がり、ソラは眼鏡を直して手を挙げた。
「ユウコ! ちょっと緊急事態発生! エヌラスが離席するけど気にせず続けて!」
『おっけー! 今年くらいは無事に終わらせたいからぜってぇ教会まで来んなよ!』
「だってさ」
「へいへい、わかったよ。ユゥユゥ! アビー! 一緒に来てくれ! スピカとカルネは教会近辺の警備! ネロと刑部姫、ソラは待機だ! こっちで対処しきれなくなった場合は応援要請する! 可能なら援護してくれ!」
「了解。こっちから観測したデータは随時知らせるよ」
「んじゃまー、早速サーヴァント戦の初陣と行くか」
「ぐだぐだになる前に、速攻で終わらせてくれるように頼むよ。僕は面倒なの嫌いだから」
「馬鹿言いやがれ、俺も嫌いだっつーの」