ユノスダスへ接近してくる大量の生体反応。翼竜の群れに向けて身長二メートルを超える人型機械が手にした小銃で迎撃していた。
そのサイズも機人に合わせた調整がされている。豆鉄砲のように思えて、その実は機関銃を振り回しているのと大差ない。
突っ込んでくるワイバーンの頭部めがけて、リサイズされた徹甲弾が真っ直ぐに迎撃した。
眼孔から脳幹、内部を破壊して一匹が絶命する。そのまま黒い霧となって姿が消えた。
《ダウン!》
《一匹ずつ数えていたら日が暮れるどころの騒ぎじゃねぇぞ! ったく、人間だった頃ならドラゴンステーキでバーベキューパーティーでもしてたってのによぉ!》
両手に持った大型片刃刀で噛みつこうと首を曲げるワイバーンを、刃を交差させるように断ち切る。その死骸が消える前に足場にして空へ向かって更に飛び上がった。
《どぉりゃっせぇぇぇいっ! っしゃぁ、ダウン!》
更にもう一頭。頭部を蹴りつけると、脳を揺らされたワイバーンが姿勢を崩した。その頭部に跳躍ユニットで姿勢を変えて刃を叩きつける。
その背後から接近してくるもう一匹が小銃の掃射を受けて蜂の巣となった。
《群れに突っ込むとか馬鹿なのかお前は!?》
《おう、隊長殿! 悪いがコレしか能がなくってな、あっはっは! うぉわぁ!?》
《空戦機動はあちらが一枚上手だ、地上で迎撃するぞ! 防衛部隊、
互いの足裏を合わせて、同時に蹴り放つ。その勢いで空中から離脱すると、遅れて機銃が掃射されて群れを撃退した。――アゴウ国王親衛隊による指揮でワイバーンは迎撃可能だが、それを率いるのはサーヴァントだ。
超常の原理と現象、人類の歴史に名を残した英雄達。だが必ずしもそれが善性とは限らない。
中には、悪事によって名を馳せた英雄も存在する。そして、此度の聖杯戦争は人類史とは限りなく離れた世界線で行われているだけでなく、聖杯自体が不完全なものだ。
その召喚儀式もまた、完全ではない。
そして、それらに追われているのは軍事国家アゴウを守護する女神。
国家を象徴する存在として敬われているはずの剣姫は現在、サーヴァントを引き連れてユノスダスへ続く街道を駆け抜けていた。
驚異的なことに、アゴウを出て即座に襲撃を受けてから此処までの道中。その追撃を凌ぎながら走り抜いている。生まれ持った、自前の脚でサーヴァントと共に。
頭巾をかぶった白服のサーヴァントは、必要最低限のワイバーンだけを相手にしている。
そしてもうひとり。
両手にした二刀流が閃けば、瞬く間に三枚おろしにされる翼竜を尻目に足を止めない。
「おう、
「ほほう、あそこが……」
「先程から見えているのは、アゴウの人たちよね?」
「頼もしい限りだが、サーヴァントが相手では敵わんだろう。せいぜいがワイバーンを蹴散らす程度だ。援護射撃があるうちに突入するぞ!」
「ですが本当にそれでなんとかなります? いくらなんでも多勢に無勢が過ぎるのでは?」
「あれに挑むのは命知らず、あるいは蛮勇の猛者くらいかと」
「心当たりが一人いる、心配するな!」
いるんだ――。剣姫のサーヴァントは同時に思った。
《御姫! こちらです、お二方も急いで!》
「おう、警備ご苦労! 被害状況は!」
《弾薬の消耗のみ!》
《サーヴァント確認! 迎撃用意! こちらはお任せください!》
機人達の横を抜けて、剣姫とセイバーとランサーがユノスダスへ到着する。そして、それと入れ替わるようにしてエヌラスが顔を見せた。
「エヌラス、今日も良い日和だな!」
「テメェは相変わらず前しか見てねぇな……まぁいい、とっとと行け」
「しばし任せるぞ! おれはまずユウコへ挨拶に向かう!」
挨拶も程々に、全力で駆け出している。
「あの野郎は人に悪びれもしねぇのかよ。こんなトラブル持ってきておきながら」
エヌラスの後ろを付いてくるユゥユゥとアビーは戦場さながらの場所を物珍しそうに見渡していた。
《出たな破壊神! こういうのはテメェの仕事だろうが!》
「うっせぇ、テメェ等は自分の持ち場で仕事してろ。ワイバーンは任せるぞ」
《あいよ! 聞いたなオメー等! 羽トカゲは俺らの獲物だ、撃ちまくれぇぇぇぇ!!》
「……ワイバーンだっつうの」
国王親衛隊三番機の言葉にエヌラスが呆れた顔をする。人の話を聞かない奴め。
「さーて、なんだこの大惨事……とんでもねぇ量のワイバーンだな」
「わー……空が真っ黒。なんだか蝗害みたい」
「今回は初戦ってことで様子見も兼ねてる。危なかったらすぐ下がってくれよ?」
「ねぇマスター。破壊神って呼ばれてるの?」
「あー……まぁな……いいから、戦闘準備だ」
「ええ。マスターが言うなら、頑張るわ」
くまのぬいぐるみを大事そうに小脇に抱えたアビーを気にかけながら、エヌラスはユゥユゥに視線を向ける。
その手には、身の丈ほどの琵琶。
「ヨシ! マスターのために、がんばりますね」
「……それ、武器?」
「はい。……はい? いえ、琵琶です」
「弾けるのか?」
「こう見えて、得意なんです。琵琶も笛も、あと舞も!」
「へぇ……」
「エヌラスさんは?」
「俺? ま、見ての通り。殴ったり蹴ったりするのが得意だな」
《ワイバーン迫ってるのに平然と女の子と会話すんなよスケコマシ! ダウン!》
狙撃銃の弾倉を交換しながら、横から二番機が口を挟んだ。
サーヴァントが全部で三騎、と聞いていたが――剣姫が連れていたのが二騎。となると、追っていたのは一騎。それがこの翼竜達の主と見ていいだろう。
街道にその姿はなく、エヌラスが見上げれば青空を埋め尽くさんとする翼竜の数々。
目を凝らせば、一匹だけやたら魔力反応が高い。
その頭上には、黒い外套を羽織った色白のサーヴァントが立っていた。誇らしげにこちらを見下している。
「あー……あれか。おい、二番機。あれにちょっかい出してくれ」
《馬鹿言うな、サーヴァントにこちらの武器が通用すると思っているのか》
「欠片も思ってない。だから、翼竜の腹をぶち抜け」
《弾代奢れよ、破壊神!》
圧力を再設定して、強装弾で一回り巨体の翼竜の腹部を撃ち抜く。苦悶の声を挙げながらぐらりと体勢を崩し、サーヴァントが翼竜をけしかけてきた。
けたたましい威嚇の声の中、ユゥユゥが爪弾く。軽やかな、だが芯の通った琴の音から青い炎が吹き上がる。
「マスターには指一本として触れさせませんよ」
頭から尻尾の先まで蒼炎に飲み込まれた翼竜は黒焦げどころか炭も残らなかった。
アビーが手をかざす。すると、白い影のようなものがのたうち、ワイバーンをはたき落とした。地面へ墜落したところを、さらに包囲するなり滅多打ちにして倒している。
「こ、これでいいのかしら……?」
不安げにしているアビーの頭を撫でながら、エヌラスが一歩前に出た。
高度を下げて、黒い鱗のワイバーンから飛び降りたサーヴァントがマントをはためかせる。
「ハァ? なに、アンタ。そんなサーヴァントでこの私を倒そうっていうの?」
「こんなトカゲで俺たちをどうにかしようってんならお前の頭のほうがどうかしてんだろうな、可哀相なことに」
売り言葉に買い言葉、そしてその煽り文句はエヌラスの方が上手だった。
「――どうも死にたいみたいね。いいわ、好きな死に方を選ばせてあげます。串刺しでも、丸焼きでも好きな方を」
「殺し方のレパートリーが少ない、出直せ。なんだその開店したばかりのラーメン屋みてーなメニューの少なさは。商業国家の屋台のほうがまだメニューが豊富だぞ」
「何なのよアンタ!? さっきから人にケチつけてばかりで! ほんっと腹立つわね!」
「うるせぇな血色悪いんだよお前。ちゃんと食ってんのか」
「人の顔色窺うような奴に言われたくないんだけど!?」
「で? お前が聖杯の欠片持ってると見ていいんだな? どこの英霊で誰だか知らんが、今日に限って挑んでくるとか命知らずもいいところだ」
「ふふ、この私を知らないとはこの世界の魔術師もたかが知れていると見ました。いいでしょう、冥土の土産に私が誰だか名乗ってあげましょう――私はアヴェンジャー、ジャンヌ・ダルク・オルタ。竜の魔女よ」
「……ユゥユゥ、知ってるか?」
「えっとー、いえ……残念ながら」
「アビーは?」
「……ごめんなさい。わたしも、そういったのには疎くて」
「だそうだ。ごめんな、誰も知らねぇわお前のこと」
「~~~~、もういいわ! アイツを食い殺しなさい!」
アヴェンジャー……ジャンヌ・ダルク・オルタと名乗ったサーヴァントが剣を抜いてワイバーンたちを一斉にエヌラスへ仕掛ける。
その迎撃にアゴウの機人達が一斉に火砲を放つが、物量に押されて撃ち漏らしていた。だが、それでもユゥユゥとアビーが残っている相手をエヌラスに近づけまいとしている。
火球を吐き出して、怯んだアビーの隙を突いてワイバーンの一匹がエヌラスに接近した。
「エヌラスさん!」
「ん?」
大きく顎を開けて、凶悪な牙を剥く。ワイバーンの頭部目掛けて、ゆらりと手を動かした。
――真っ先に狙ったのは、眼球だった。貫手で眼孔から脳目掛けて突っ込む。片腕を頭に添えて頭をどかし、返り血で顔の半分を真っ赤にしながら、まるでゴミのように力なくもたれかかるワイバーンを捨てた。足元で黒い霧となって消えていく。
「――――――」
躊躇のない、即殺だった。
アヴェンジャーも開いた口が塞がらない様子で硬直している。
大型肉食獣。捕食者に牙を向けられて、尻込みするどころか即座に殺しに来る胆力には流石のユゥユゥ達も度肝を抜かれていた。
肩を回して、エヌラスは無造作にアヴェンジャーへと一歩近づく。
「で? お前はどう死にたいんだ? 言ってみろ、好きなように殺してやる」
《下がれ下がれ下がれ! アレの視界に入るな! 巻き込まれるぞ!》
「え、あの、ちょっと!?」
機人達が一歩下がり、さりげなくユゥユゥとアビーの二人の肩を掴んで下がらせた。
更にもう一匹、爪を立てて空中から襲いかかる。
震脚――地面を打ち鳴らし、発勁から足首を掴んで地面に叩きつけた。更に持ち上げて頭部を強烈に打ち据えて撲殺する。
魔術師。魔術師……魔術、師……? そのはずだ。確かに、そうだ。そのはずである。だが、今目の前で行われたものは、野蛮極まる原始的な殺害方法だった。
殴って、殺す。辛うじて生きていたワイバーンの頭蓋目掛けて、再び足を振り下ろして殺した。
「……アンタ、魔術師じゃないの?」
「魔術師だが?」
「いやおかしいでしょうが! 魔術師の殺し方じゃないでしょソレ! そもそもワイバーン素手で殺すとか聞いたことないんですけど!」
「生きてるんだから素手で殺せるだろ。別に触っても死ぬわけじゃねぇんだし」
「頭おかしいわけ!?」
「お前に言われたくねぇわトカゲ女」
とか言っている間に、懐から取り出した
「今日の式典はテメェのはらわたでバーベキューだ」
「アンタ魔術師じゃなくてバーサーカーの間違いなんじゃないの!? ええい、今回のところは引いてやるわよ! せいぜい首を洗って待ってなさい!」
アヴェンジャーが捨て台詞と共にワイバーンの群れを引き連れて飛び去っていった。
遠ざかる姿に、エヌラスが舌打ちをしている。追撃しようかとも思ったが、来賓の手前、此処で深追いすべきではないと判断した。
「チッ、命拾いしやがって……」
《お前殺したいだけじゃないのか……》
一番機の言葉に、ローキックで答える。
「ユゥユゥ、アビー。大丈夫か?」
「……ひゃい」
「ごめんなさい、マスター。わたしのせいで危険な目に遭わせてしまって……」
「気にするな。怪我してねぇし、慣れてる。いつものことだ」
今回は様子見も兼ねての遭遇戦だ。戦果は上々と言ってもいいだろう。二人がどういった戦い方をするのかも知りたかったエヌラスは今回の成果に満足していた。
ただ、アヴェンジャー。聖杯の欠片を持ったまま姿を消したジャンヌ・ダルク・オルタのことだけは不満そうにしていた。
上手くいけば聖杯の欠片を早速回収できただけに、惜しいものだと思いながらユノスダス教会へと引き返す。