イナズマイレブンRTA 雷門ルート   作:nrnr

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 ちょっとした箸休め回なので初投稿です。
 いつもに比べてかなり短いですが、あくまで第二部に突入するまでの幕間なので許してクレメンス!
 


幕間:いつか、一緒に

 

 いつもと違って見慣れない病院の中を、知らされた病室に向かって一人で歩く。

 僕は今、兄さんが入院している稲妻総合病院ではなく、そこから少し離れた地域にある帝国学園近くの総合病院を訪れていた。そう、世宇子中との試合で負傷して入院することになった帝国学園の人達がいる病院に。

 

 

 本来であれば、もっと早くに来るべきだった場所だ。帝国の人達と知り合いで、影山との因縁もあり、世宇子のことも知っていた以上、自分にはそうすべき理由がいくらでもあった。それでも足を向けようと思えなかったのは、偏に不甲斐なさと後ろめたさ、罪悪感や憎しみでがんじがらめになっていた自分の弱さのせい。

 けれどそれに折り合いをつけ、影山が再び逮捕された今、自分はちゃんと向き合って、話さなければならない。それが、前に進むということだから。

 

 鬼道先輩から病室は聞いてあるし、事前に話も通してもらってある。花はきっと他の人達が持って行っているだろうからお見舞い品は果物にして、空いている方の手で軽く扉をノックする。

 

「失礼します、佐久間さん。星崎です」

「ああ、入ってくれ」

 

 それなりに元気そうな声が帰ってきて、こっそりと安堵の息を零す。

 扉を開けて入った室内には、事前に源田さんと相部屋だと聞いていたにも関わらず佐久間さんしかいなかった。リハビリに行っているのか、あるいはもしかしたら僕に気を遣って席を外しているのかもしれない。後者だとしたら申し訳ないけれど、多少気が楽になったのも事実、後で別にお礼をしようと頭に入れておくことにした。

 

「今日は時間をもらってしまってすみません。これ、お見舞いの品なので、源田さんと食べてください」

「ありがとう。それから……優勝おめでとう。40年ぶりの決勝、それも勝利となると色々と周りが騒がしいんじゃないか?」

「それはそうですけど、前に影山について話すと約束したのもあるので。フットボールフロンティアが終わったらという話でしたから」

「ああ……鬼道さんから星崎のことも含めて大体は聞いてるから、それについては大丈夫だ。それに、用はそれだけじゃないんだろ?」

 

 佐久間さんのリハビリは順調らしく、体が少し細くなった以外に問題は無さそうに見える。浮かべている笑顔にも、特に無理をしている様子は無い。この分ならそう遠くないうちに復帰できるはずだ。

 ……勿論、だからといってこの入院期間分の遅れはどうにもならない。それを取り戻すと言うのは簡単だが、周りはその間にも先に進んでいく。折り合いをつけたとはいえ、改めて目の前に自分の至らなさを突きつけられると、少しどころでなく苦しくなる。

 

「退院、そこまで遠くはないんですか?」

「ああ、流石に復帰の方はすぐにとはいかないけどな。来年のフットボールフロンティアまでには元のレベルに……いや、それ以上に強くなってみせる。次に優勝するのは俺達だ」

 

 佐久間さんは、既にその現実を乗り越えているんだろう。その言葉が、強い光を湛えた瞳が、何よりも雄弁に語っている。

 だからこそ、これだけサッカーを愛している人から一時的にでもサッカーを奪った影山のことが許せない。影山の悪事を食い止めることができなかった僕自身に対する悔しさだって消えはしない。

 この傷はきっといつまでも消えることはなく、棘のように突き刺さったまま、これからもじくじくとした痛みを訴え続けるんだろう。それほどのことを、あの男は、そして僕もやってしまったのだ。

 

 ──でも、もうそれに心を覆われることはない。あの頃の僕なら謝罪を伝えに来ていただろうけれど、今の僕は違う。

 

「それで? 鬼道さんからは話があるって聞いたが、影山に関してってだけじゃないんだろ」

「はい。……佐久間さんに、感謝を伝えなければと思って」

 

 真っ直ぐに前を向いて、佐久間さんの瞳を正面から見つめる。きっと心配をかけたであろうこの人に、今の僕の答えを示すために。

 

「鬼道先輩に、僕のことを話したんですね」

「……ああ。お前には口止めされてたが、帝国が負けてしまった以上は話さなければならないと思った。お前のためなんて言い訳をするつもりはないが……」

「いえ、責めているわけではないんです。さっきも言った通り、僕はあなたにお礼を言いにきたんですから」

 

 自分なりに精一杯の笑みを浮かべる。あの日円堂先輩達と話して思い出した、昔はずっと浮かべていたはずの笑顔。

 

「ありがとうございます。あなたがそうしてくれなかったら、きっと僕は前に進めなかった。僕があの日決勝のフィールドに立てたのは、あなたのお陰でもあるんです」

 

 あの頃の自分がギリギリの橋を渡っていた自覚はある。あのままなら、僕は引き返せない所まで堕ちてしまっていたかもしれない。影山への憎しみに囚われて、それだけに向かって突き進んで、大好きなサッカーすらも道具になり果てて……想像しただけで吐き気がする、そんな人間に。

 それでも踏みとどまれたのは、勿論円堂先輩達をはじめとした雷門の仲間の存在もあるけれど、それと同じくらいに佐久間さんの存在が大きい。鬼道先輩は佐久間さんから話を聞いたと言っていた、つまりそれまでは僕についてさほど詳しい事情を知らなかったということだ。あのタイミングで鬼道先輩が動いてくれたのは、間違いなく佐久間さんのお陰だったはず。

 

 一方的に嬲られるだけの試合をよりによって影山の配下であった世宇子中にされて、僕達との再戦の約束を果たすこともできず、どれだけ悔しかっただろう。どんな想いで鬼道先輩を送り出したんだろう。

 きっと誰よりも悔しさを抱えていただろうに、それでも僕のことを想って行動してくれたこの人のことを、どうして責めることができるだろうか。佐久間さんは、僕にとっての恩人と言っても過言ではない存在だった。

 

「──そうか」

 

 心からの言葉だと、きっと佐久間さんもわかってくれたんだろう。彼は同じく穏やかな笑みでもって、その三つの音に万感の思いを込めて返してくれた。

 

「もう、大丈夫だな」

「はい。もしまた間違えそうになっても、僕には止めてくれる仲間がいますから」

 

 さあ、佐久間さんに伝えるべきことは伝えた。

 あともうひとつ、向き合わなければならないモノの元へと向かわなければ。

 

「それでは、僕はこれで。まだ行かないといけないところがあるので」

「行かないといけないところ?」

「はい。────兄さんに、優勝の報告をしないといけないですから」

 

 

 

 

 

 

 すっかり見慣れたリノリウムの床を進み、コンコン、と軽く病室をノックする。

 佐久間さんがいた病室とは異なり、扉の向こうからはほんの僅かな物音すら聞こえてこず、ただ静寂のみがそこに横たわっている。沸き上がる暗い感情に唇を噛み、返事を待たずしてドアノブをそっと掴むのはいつものこと。

 

「兄さん、入るよ」

 

 呼び掛けに対して病室の中から返事があったことは一度もない。それに慣れてしまったことに悲しみを覚えるけれど、だからといって現実が変わるわけでもないから、その悲しみをそっと飲み込む。

 扉を開けて中に入れば、いつも通り眠ったままの兄さんの姿が目に入る。悪化はしていないものの良くなる気配もない、そんな“いつも通り”。今日も、それは変わらない。

 

 ……わかっていたことだった。

 影山は逮捕された。その悪事に加担していた者も芋蔓式に捕まったと鬼瓦刑事から聞いている。これでもう、兄さんや帝国の人達、雷門のみんなが危ない目に遭うことはない。

 けれど、例え影山に裁きが下されたとしても、あの男がやったことが消えてなくなるわけじゃない。帝国を始めとして世宇子と試合をした選手が受けた傷はそのままで、死んだ円堂大介さんは生き返らず──当然、兄さんの意識が戻ることもなかった。

 

「今日は趣向を変えてプリザーブドフラワーにしてみたんだ。これなら、兄さんが寝ている間に枯れることはないから」

 

 兄さんに話しかけながらプリザーブドフラワーを机に置き、花瓶から枯れた花を抜き、水を入れ替える。この作業にもすっかり慣れてしまった。

 その作業の傍ら、ちらりと視線を向けた机の上に、真新しいノートのコピーが積まれていることに気付く。どうやら、佐久間さんが入院してお見舞いに来れなくなった今でも帝国の誰かが来てくれているらしい。

 兄さんのことを今でも思ってくれている人は多くいる。それだけ慕われている兄さんが目覚める気配がない現実にまた気持ちが沈んで……それを振り払うように頭を振って作業に戻るのも、いつものことだ。

 

 そして、作業が終われば、後は兄さんの傍に座ってひたすらに話しかける。

 返事の帰ってこない会話を、根気強く、ゆっくりと。いつか目覚めてくれることを信じて、この会話に返事が返ってくることを夢見て、ただひたすらに言葉を紡ぐ。

 

「昨日、ついに全国大会の決勝で勝ったんだ。最初は11人すら揃ってなかったのに、いつの間にかすごく遠くまで来ていた気分。……兄さんにも、雷門イレブンのみんなを知ってもらいたいな」

 

 もし兄さんがいる帝国学園と僕がいる雷門中で試合をしたら、きっと素晴らしい試合になる。

 佐久間さん達も怪我から復帰して、鬼道先輩は……どちらに所属することになるんだろう。こちらにいれば心強い仲間になるし、帝国に戻ったのであれば僕が久しぶりに司令塔としての腕前を試されることになって、良い刺激になるはずだ。

 司令塔なら、やっぱりMFにいるのが一番。兄さんはFW……ギアドライブの習得に専念していた頃の僕しか知らないから、今の成長した僕の姿を見せて驚かせてあげたい。そして、兄さんのシュートを、今度はライバルとして受け止めてみせたい。円堂先輩のマジン・ザ・ハンド、豪炎寺先輩や染岡先輩の鋭いシュート、他にも沢山の必殺技を繰り出して、この最高のチームと最高のライバルとで最高の試合をしたい。

 

 あんなことがしたい、こんなことがしたい。今はただの夢でしかないそれらを、ひたすらに口にし続ける。

 いつか叶うことを願って、信じて。この想いが、少しでも兄さんに届くように。

 

「……だから、早く起きてね。ずっと、ずっと、待ってるから」

 

 兄さんが痛くない程度にその手を握り込む。

 当然、返事は返ってこない。その瞼が開くことも、その手が動くことも、その日はついぞ見ることはできなかった。

 




 
・ホモくん

 流石にいい加減に佐久間に会いにいかなければならないと思い立った。
 知っての通り影山については吹っ切れたわけではないので、まだ思い出すと色々としおしおしてしまう。

 
・佐久間

 ホモくんが他に気を取られている間に鬼道からあらかた説明を受けている。
 リハビリが順調なこと、ホモくんのメンタルが回復したこともあり、精神的な問題はほとんど解消されている模様。
 
 
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