ようこそ藍越学園へ   作:TAKUMAKI?

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プロローグ
第一話 織斑一夏、今日から高校生です


春である。

桜は咲き誇り、温かな春風がそれらを穏やかに揺らし、陽はうららかに大地を照らす。

誰もが言う気持ちの良い春である。

 

『ピピピピ、ピピピピ』

この部屋の主である織斑一夏(おりむらいちか)の目覚まし時計が鳴り響く。モゾモゾと布団が動きそこから伸びた手が目覚まし時計に伸び目覚ましを止めた。一夏は布団から起き上がり若干寝癖のついた髪をぽりぽりと掻きながら呟く。

 

「朝か・・・、起きるか」

 

ベッドから起き上がると背伸び一つして窓を開ける。

 

「今日から高校生か」

 

今日は彼が入学する私立藍越学園の入学式。新しい世界の幕開け、その初日だ。誰しもが胸を躍らせるものだ。

天気も雲一つ無い快晴で春独特の風がそよそよと一夏の髪を撫でた。

 

「さて、朝飯の準備するか」

 

一夏は自室をあとにした。

 

 

 

歯を磨き、寝癖を直し、スッキリしたところで一夏は朝食を用意する。

朝食の準備はこの家で一番寝起きがいい一夏が担当する事が多い。織斑家の今日の朝食はトーストにベーコンエッグ、簡単なサラダにコーヒーと洋食で揃えられていた。そこへ1人の男性と1人の女性がリビングに姿を現す。

 

「「おはよう一夏」」

 

「ああ、おはよう百春兄と十秋姉」

 

男性の方は織斑百春(ももはる)。一夏の兄で織斑家の長男だ。スーツ姿で鞄を手にして仕事に行く準備も万全だ。

女性の方は織斑十秋(とあき)。一夏の姉で織斑家の次女。まだ起きたばかりなのか服はまだパジャマのままだ。

兄弟3人が朝の挨拶を交わしテーブルに着く。

 

千冬(ちふゆ)姉はやっぱりまだ?」

 

「うん」

 

一夏の問いに笑顔で答える十秋。

 

「あの姉が自力で起きるとおもうか?」

 

と苦笑いを浮かべた百春はコーヒーを啜る。

 

「じゃぁ、着替えもあるし俺が起こしてくる」

 

「任せる」

 

「よろしくね~」

 

そう言って一夏はリビングをあとにして2階に上がる。

自室に戻ると真新しい私立藍越学園の制服に着替えるとそのまま長女である織斑千冬の部屋へ向かう。

 

『コンコン』

部屋をノックしてから声を掛ける。

 

「千冬姉、朝飯できたから起きてくれ。そろそろ起きないと時間もマズイぞ~」

 

「ん~」

 

部屋の中から寝惚けた声が聞こえた。声は千冬のものだった。

 

「起きた?朝飯できてるから早く準備して来てくれよ」

 

「あ~」

 

どうやらまだ半覚醒状態らしい千冬だが一夏は部屋には入らない。入ったら千冬に怒られるからだ。

とりあえず千冬が返答をしたので一夏はリビングへ降りていった。

 

 

朝の準備を終えた千冬も合流し兄弟4人がテーブルを囲み一緒に朝食を取る。この家の住人である織斑家はこれで全て集合だ。

 

彼らには両親がいない。

何故いないのか?

一言で言うなら『死別』である。

 

父の名前は「織斑萬月(まんげつ)

 

母の名前は「織斑四季(しき)

 

織斑兄弟の両親は外交官をしていた。仕事で家を空けることが多かったが家にいるときは家族の時間を大事にしてくれた。時には仕事で海外に行くときに子供達を連れていくこともあった。仕事を放り出して家族で海外観光を楽しんだりもした。公私混同とも取れることしていた両親だったが仕事をするときはきちんとこなす人たちだったので信頼もされていた。そんな両親の愛情をしっかり感じて育った4人は幸せだった。

 

しかし5年前に事件が起きた。

 

両親は仕事の為に4人を家に残して海外へ向かった。その飛行機が事故に遭い墜落した。乗客数百人の命が失われた。その中に織斑夫妻がいたのだ。

 

突然の両親との死別。

両親はもしものときの為にとかなりの額の遺産を残していたため4人が生きていくための資金は充分だった。親戚関係者が4人を引き取るという話もあったが4人一緒というのは難しく、それぞれ別々に引き取られることになったのだがそんなのは4人とも嫌だった。親戚関係者には無理を言って4人は両親の残してくれた家で暮らすことになった。

それから5年間、辛いこともあったが4人は負けなかった。4人は互いに支え合って生きてきた。

 

家族の、兄弟の愛であった。

 

 

朝食を食べ終えた4人はそれぞれの行動を開始する。千冬と百春は仕事に行き、十秋は学校の準備で一夏は食器の片付けだ。

 

「悪いな一夏。入学式見に行けなくて」

 

「いいよ百春兄、千冬姉も来れないらしいけど俺ももう子供じゃないんだし」

 

「何を言っている?お前なんぞまだ子供だ」

 

「千冬姉、もうちょっと優しい言葉はないのかよ・・・」

 

「そういう所が子供だと言ってるんだ」

 

「まぁまぁ姉さん、あまり一夏をいじめないであげてよ。いくら本当の事だからって」

 

「十秋、お前も充分ヒドイぞ」

 

「姉2人の優しさに涙出るよホントに!!」

 

「一夏、そこで怒るから子供だと言われる」

 

「も、百春兄まで!!」

 

「では、私はもう行くぞ」

 

「俺ももう行く。今日はちょっと早めに着きたいからな」

 

「二人共、いってらしゃ~い」

 

「・・・、いってらっしゃい」

 

千冬と百春は家を出た。それを見送る十秋と一夏。一夏はまだ少し不貞腐れている。

 

「ほらほら~、いつまでも拗ねてないで私達も行こう」

 

十秋が一夏を促す。十秋は一夏と同じ私立藍越学園に通っているので行き先は同じだ。

 

「わかったよ。俺も入学式遅れるのは勘弁だからな」

 

鞄を手に取り靴を履いて2人は玄関を出る。

 

「忘れ物は無い?」

 

「ああ、大丈夫だよ十秋姉」

 

「じゃ、行こうか」

 

「おう」

 

一夏と十秋は並んで歩き出す。藍越学園は織斑家からは徒歩で10分ほどのところにあるので余裕を持って行動すれば時間を気にする必要はさほどない。

これから始まる高校生活に一夏は胸を躍らせるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アイキャッチしりとり

 

一夏「ようこそ藍越学園へ!!」

 

 

 

十秋「えーっと、今日は入学式の日だね!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

私立藍越学園。

私立でありながら学費が格段に安くその上、卒業生の進学率と就職率も高く一夏にとっては正に理想の学校であった。

 

本来なら一夏は中学を出たら就職するつもりでいたのだ。親が残してくれた遺産と姉達の稼ぎのお蔭で生活が苦しいということはないがやはり姉達ばかりに負担をかけるのは心苦しいものがあった。

 

ならば自分はその負担を少しでも減らすために早めに働こうと考えたのだが姉達がそれを認めなかった。

そのことを千冬に話したときも

「何を言っている大馬鹿者!ここでその選択をするのは尚早というものだ。お前には未来への無数の可能性があるのだぞ。それを中学を卒業した時点で決めてしまうやつがあるか。」

と怒ったのだ。

 

百春も

「お前がそれを気にする必要はない。俺達は迷惑だとは思っていない」

といって諭してきた。

 

上の2人とは違いまだ高校生の十秋も

「とりあえず進学してみたら?あたしも同じような事考えてたけど進学してみてよかったと思ってるよ。一夏もそこから新しくやりたい事が見つかるかもしれないし高校生活は楽しいよ」

と進学を勧めてきた。

 

一夏の目には姉2人と兄の3人はいつも大人っぽく見えていた。だから自分も早く大人になりたくて中学を出たら就職するつもりでいた。少しでも早く姉達や兄に追いつきたくて。

口では『もう子供じゃない』と言うがでもやはり自分はまだ子供だと一夏は思った。就職の話を終えたとき一夏はそれを凄く実感したのだった。

 

そんなこともあり一夏は進学を決断した。

 

藍越学園を選んだのは上記にもある学費が安く卒業生の進学率と就職率も高いというのもあるが千冬と百春はここの卒業生で十秋は今在学中であるというのがこの学校を選んだのが理由だ。

 

 

ここで自分の新たな可能性を見つけ自分だけの未来を切り開くために。

 

 

 

 

「一夏と一緒に学校に行くのも2年ぶりだね」

 

「そうだな。俺が中1で十秋姉が中3のとき以来だから2年ぶりかな?」

 

「うんうん、可愛い弟と登校できてお姉さんは嬉しいよ」

 

そう言って十秋は上機嫌で一夏の頭を撫でる。

子供扱いされてるみたいで一夏は少しムスッとしたが振り払おうとはしない。

 

「十秋姉、もうすぐ学校に着くからやめてくれ」

 

「あら、恥ずかしいの?」

 

「俺はもう子供じゃない」

 

「それさっきも言ってたよね」

 

大人っぽい笑みを浮かべながら十秋は頭を撫でるのを止める。

 

「十秋姉は今年で3年生だろ?これから大変じゃないのか?」

 

「まぁね。でもまだ時間はあるし進路はもう決めてあるから心配はいらないよ」

 

「進路って進学?就職?」

 

「内緒♪」

 

「内緒って・・・」

 

「ほらほら、校門に着いたよ」

 

「あ、ホントだ」

 

そこで一夏は校門に到着したのに気付いた。十秋と話しながら歩いていたので気付かなかったようだ。

 

「じゃ、クラス分け見てくるね」

 

「ああ、じゃぁ俺も見てくるよ」

 

「うん、またあとでね」

 

十秋は3年生のクラス発表が掲示されている掲示板の方へ歩いて行った。

1人校門に残された一夏はふっと空を見上げた。雲一つ無い快晴で絶好の入学式日和だ。

見上げた視界には校門に掲げられた大きな看板がありそこにはこう書かれていた。

 

 

『ようこそ藍越学園へ』

 

 

「俺も行こうかな♪」

 

一夏はクラス分が掲示されている掲示板へと歩き出した。

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