男子がハンドボールの試合を行っているその裏では女子がソフトボールを行っていた。
チーム決めは男子と同じで適当に分かれて2チーム作るといったものだった。
女子の場合は1組と2組の生徒が入り混じった混合チームを作っている形になっていて、シャルロットと箒が同じチームで鈴は別チームになっていた。
鈴が別チームになった理由は「アンタ達と戦った方が面白そうだから」という理由からだ。
「では試合始めるぞー。守りのチームは守備につけー」
体育教師がアンパイアとなって号令を出す。
1回表はシャルロットと箒がいるチームの攻撃だ。こっちのチームをAチームと位置づけよう。
対するBチームの投手としてマウンドに上がったのは鈴であった。
パンパンッとボールを2回ほどグローブに叩きつけて馴染ませる。小柄な体格ながらとても大きな威圧感を放っていた。
勝負事に関しては結構ムキになるのが鈴なのである。
「プレイボール」
アンパイアの一声で試合開始だ。
「ふっ、打てるモンなら打ってみなさいよ!」
(ズバンッ)
「ストラーイク!」
ウインドミル投法と呼ばれる投げ方で鈴は1球目を見事ど真ん中ストライクを奪う。
ウインドミル投法とは、投球腕の回る様が風車 (windmil) に似ていることからこの名前がついたソフトボールでは最もポピュラーで球速の早い投げ方だ。
あまりの速さにバッターは手が出せなかったようだった。
「この調子でドンドン行くわよ!」
そのあとも1番バッターは全部ど真ん中で勝負して三振を奪った。バッターも振りにいったのだがまったくタイミングが合わずに三球三振だ。
続く2番もコースを散らして的を絞らせずにまたしても三球三振だ。
小さくガッツポーズを見せる鈴。先ほども言いましたが勝負事に関しては結構ムキになるのが鈴なのである。
3番バッターはシャルロット。ヘルメットを被って右打席に立つ。
「ふっふっふー、シャルロットか。相手にとって不足なしね」
「うん。鈴、勝負だよ」
火花を散らす両者。珍しくシャルロットも熱くなっているようだ。
シャルロットはバットを構え、鈴も投球の体勢に入る。
「はぁぁぁ!!」
第1球目を鈴が投げる。
(ズバンッ)
「ストラーイク!」
真ん中の低めに決まった投球はストライクとなった。
様子見で手を出さなかったシャルロットは球速に少しビックリしていた。
「速いね。ざっと90km/hくらいは出てるかな」
「あら、褒めても何も出ないわよ」
ソフトボールは女子で100km/h前後が一流選手の一般的な球速であるので鈴の90km/hは女子高生としてはなかなか速い方である。これも鈴の身体能力の高さ故の球速なのだ。
2球目は内角の低め。これを打ち損じてファールになり追い込まれる。3球目は外角の高め。ここは微妙なコースだったので振ってくると思っていた鈴だったがシャルロットは冷静に見極めてボールを見送ってボール。
「やるじゃないシャルロット。今のを見極めるなんて」
「でもちょっと手を出しそうになったよ。僕の勘が正しかったようだね」
「でもね、追い込まれてるのは変わらないわよ!」
両者が火花を散らす中、4球目が放たれた。
コースは真ん中の少し低め。
シャルロットは打ちに行った。
しかし、打つ損じとなりボテボテのセカンドゴロ。
セカンドが問題なくさばいて一塁へ送球しスリーアウトとなりチェンジとなった。
「残念だったわねシャルロット」
「次は負けないよ」
言葉を交わす両者は宿敵と書いて『とも』と言った感じであった。
1回裏Bチームの攻撃。
Aチームの投手はソフトボール部員である女子生徒で、1番バッターを三球三振に仕留めて見せた。
しかし2番3番は味方のエラーが続き1アウト一二塁となってしまう。
此処に来てバッターは4番。しかも鈴だ。
「ふふふっ、早くも見せ場がやって来たわね」
不敵な笑みを浮かべてバッターボックスに立つ。
しかし相手ピッチャーもさすがはソフトボール部なだけあってこのピンチの状況でも冷静だった。
息を整えて鈴に第1球目を投げた。
コースは真ん中の高め。鈴はバットを振り抜いた。
「はぁぁぁぁ!!」
(カキーン!)
金属バットがボールを叩く音がして、ボールはピッチャーの足元をバウンドし、二遊間へ向かう。
ややセカンドよりに打球が駆け抜け、二遊間を貫かんとするがそうはさせまいと走る影があった。
「抜かせないよ!」
セカンドを守っていたシャルロットが打球に追いつき捕球した。が、捕った頃にはその身体の反動でセカンドベースを通り過ぎてしまう。
「箒!」
「任せろ!」
ショートを守っていた箒がすかさずセカンドのベースカバーに入った。シャルロットは箒にバックトスでボールを渡し、箒はセカンドベースを踏みつけすぐさまファーストへ送球。一塁手がそれをしっかり受け止めた。
「ダ、ダブルプレー!?」
一塁に間に合わなかった鈴が叫んだ。
セカンドとショートの、シャルロットと箒の見事なゲッツーだった。
これでスリーアウトチェンジだ。
「やったね!」
「うむ、いいコンビネーションだったな!」
ハイタッチを交わすシャルロットと箒。他の女子ともハイタッチを交わす。チームの士気が一気に高まった。
「やってくれるじゃない。そうこなくちゃ面白くないわよね」
ダブルプレーを喰らった鈴は相手のスーパープレイにより闘志を滾らせるのであった。
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アイキャッチしりとり
鈴「ライズボールなんてどう?」
箒「打ち損じなければどうということはない」
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「あっちは盛り上がってるねぇ」
「なかなかの接戦みたいだな」
試合を終えた一夏と数馬が女子の試合を眺めていた。男子の方も別チームが熱戦を繰り広げているがはっきり言って女子の試合を眺めていた方が楽しかったのだ。
「鈴の奴、なかなかいい球放るよなぁ。直球のみだけど速いし的確に上手いコースをついてる」
「鈴の運動能力は凄まじく高いからな。アレとまともに勝負できるやつはそういないだろ」
「シャル達のチームのピッチャーもなかなかいいピッチャーだぜ。上手い事手が出しにくいコーナーをついてきてるし」
「ソフトボール部の部員らしいからな。スポーツ推薦で入ってきたやつらしいぞ」
接戦が続いていて両チームともまだ得点は入っていない。いわゆる投手戦というやつで両チームのピッチャーが牙城を崩されていない状態なのでこれをどう崩すかが勝負の分かれ目だ。鈴は先ほど箒にヒットを許したがそれ以外はすべて討ち取っているし、Aチームのピッチャーもうまくコーナーをついてバッターを凡打に打ち取っている。
打順は2順目に入っていて今はAチームが攻撃中だ。
「お、次のバッターはデュノアさんみたいだな」
「さて、シャルは鈴を打ち崩せるかな?」
先ほどはセカンドゴロに終わったシャルロットが再び鈴と対峙する。
「今度も打ち取ってやるわよ!」
「それはどうかな?」
キャッチャーに返された球をミットの中で遊び、鈴は投球フォームに入る。シャルロットも構える。
「はぁぁぁ!!」
鈴が第1球目を投げた。
コースは内角やや高め。
普通なら手は出さないようなコースだった。
しかし
「ここ!」
(カキーン!)
シャルロットが振ったバットはボールを真芯で捕らえた。ジャストミートした打球はライナーとなって三遊間を貫いた。
レフトが捕球したときにはシャルロットはもう一塁にたどり着いていた。
「えへへ♪」
チームメイトにピースサインを送るシャルロット。
そんなシャルロットをマウンドから少し悔しそうに睨んでいる鈴だった。
続くバッターは4番の箒だ。先ほどはセンター前にヒットを打っている。チームメイトの期待が集まる。
「さっきはよくもあたしの打席をダブルプレーにしてくれたわね。借りは返させてもらうわよ」
「ふん、そんなも返してもらわずともお前にくれてやる」
「さっきはヒット打たれたけどいい気にならない事ね。今度はあっけなく打ち取ってやるわ」
「御託はいらん。早く来い」
熱い舌戦を繰り広げる両者。軽い挑発も何のそのだ。
「・・・」
「・・・」
暫しの沈黙のあとに投球モーションに入る鈴。箒も構える。
「おらぁ!」
華の10代女子とは思えない気合のこもった声で鈴は投球した。
今日1番の剛速球。球速は100km/h以上は出ているだろう。
コースはど真ん中だ。
「はぁぁぁぁ!!」
箒は迷わず振りに行った。
剛速球とスイングしたバットが交錯する。
(カキーン!)
球はバットに当たった。
真芯を捕らえて打球は痛烈なライナーとなってある箇所へ一直線に向かって行った。
一夏達のいる方へと。
「おーい、一夏、数馬」
「ん?おう弾、戻ってきたか」
振り向くと弾が手を振って一夏達の方へ向かってきていた。どうやら先ほどのダメージから回復したようだ。
「何処行ってたんだよ?もうすぐ授業終わる時間だぞ」
「悪い悪い。でももう大丈夫だ。俺も回復したからさ」
「そうか?それはよかったけど―――」
「一夏っ!危ないっ!伏せろっ!!」
「へ?」
突然数馬が叫んだので後ろを振り向くと箒の打った打球が一直線に一夏に向けて飛んできていた。
「うおわっ!!」
慌てて伏せると脳天の先1cmほどの所をボールが過ぎ去っていった。
間一髪で一夏は避けた。
しかし
「へ?何―――どうぁっ!!」
「「あ」」
避けた先には弾がいたのだ。
しかも一夏が影になっていて迫り来るボールが見えていなかったようで避ける間もなくボールは弾の顔面に直撃した。
そのまま派手に転がってぶっ倒れる弾。
「お、おい!弾!」
「弾!大丈夫か!?」
慌てて駆け寄る一夏と数馬。
しかし弾は鼻血を出して漫画のように目をグルグル回してノビてしまっていた。
「こいつ、せっかく回復したのに・・・」
「またダメージ受けちまったな・・・」
「しかもこれは」
「重症だな」
ソフトボールが鼻っ柱を直撃したのだ。下手をすれば鼻が折れているかもしれない。そうなっては一大事だ。弾はそのまま保健室の百春の元へ運ばれていった。
結局これが騒ぎとなって女子のソフトボールは雌雄を決しないまま引き分けとなったのであった。