「おそ~いっ!」
購買から戻ってきた一夏は鈴のその一言で出迎えられた。
「購買行って帰ってくるにしちゃ時間掛かり過ぎよ、何してたのよアンタ?」
「確かに時間が掛かり過ぎだ。何をしていたのだ?」
「一夏、何かあったの?」
帰ってくるのが遅かった理由が気になるのか3人はその理由を尋ねてきた。
「購買行く途中で山田先生に会ったんだけどさ、何か大きなダンボール抱えてフラフラしながら歩いてたから放っておけなくて手伝ってたんだよ。だから少し遅くなった」
一夏は遅くなった理由を説明した。そうすると鈴は少し呆れた顔になる。
「アンタってホントにお人好しよねぇ。人助けしてたから遅くなったって、そんな事してたら購買売り切れちゃうじゃない」
「売り切れはしなかったがこれしか買えなかったけどな」
そう言って一夏は購買で買ったあんぱん1個とラスク1枚を全員に見せた。
「ショボッ!何だこれ?碌なものじゃないな」
「こんなものじゃ成長期の男子の腹なんか膨れねぇだろ?」
「これしか残ってなかったんだからしょうがないだろ」
弾と数馬も一夏が買ってきたパンを見て驚いている。確かにこれでは腹は膨れない。
「食わないよりマシだろ?午後の授業だってあるんだし」
一夏は椅子に座ってグループの輪に合流する。
「ん?シャル、箒、何でお前ら弁当に手を付けてないんだ?」
シャルロットと箒の弁当は一切手が付けらていない状態で机の上に置かれていた。
「僕は一夏を待ってたんだよ」
シャルロットはにっこりと笑って一夏に言った。
「わ、私は、アレだ。シャルロットが待つと言うから・・・」
箒は少しそっぽ向いて言った。
「でも別に先に食べてくれててもよかったのに」
真耶の事は放っておけなかったので後悔はしていないが健気に待っていてくれた2人に一夏は嬉しさと同時にちょっと罪悪感も覚える。
「私はシャルロットがひとりだけ待つと言って聞かないから私が付き合っただけだ!ひとりで待つのは可哀想だろ!別にお前の為じゃない!か、勘違いするなっ!」
本当は箒も一夏を待っていたのだがやっぱり素直になれず一気にまくし立てる。何やら言い訳じみて聞こえるのは気のせいではない。
「それでも待っててくれたんだろ?ありがとうな箒」
「ふ、ふんっ!」
箒は顔を赤くして再びそっぽ向く。それ見て一夏は「箒も可愛いところあるよなぁ」と思うのだった。
「それにくらべて・・・」
一夏は鈴、弾、数馬の方を見る。
「むぐ?」
「あ?」
「何よ?」
弾はやきそばパンを頬張って、数馬はジュースを飲みながら、鈴は弁当のチャーハンをスプーンで掬いながら一夏に視線をやる。
「お前らは少しでも待とうという気はないのか?」
「「「ない」」」
即答する3人。
「即答すんなよ・・・。薄情な奴らだな」
「昼休みは有限なんだよ」
「そうそう」
「遅れてきたアンタが悪い」
「はいはい、俺が悪かったよ」
薄情な友人を半目で睨むも非は自分にあるので一夏はそれ以上何も言わなかった。
「コホン。与太話はこのくらいにして我々も昼食にしよう。もう昼休みも半分ほど過ぎている」
「うん」
「おう」
藍越学園の昼休みは40分と少し長めだが、もう15分は経過してしまっているので残り時間は半分ほどしかない。そんな時間まで自分を待っていてくれたシャルロットと箒の2人に心の中で感謝をしつつ一夏はあんぱんを口にするのだった。
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アイキャッチしりとり
一夏「つまらんものを食ってしまったな」
箒「泣かぬなら殺してしまえホトトギス」
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(さて、どーしたものか・・・)
食べ始めてから5分もしないうちにあんぱんとラスクを食べ終えてしまった一夏は手持ち無沙汰になっていた。他のメンバーはそれぞれの昼食を食べながら談笑に華を咲かせている。一夏は中途半端に食べ物を口にしたせいか胃袋が活性化し、ぐぅ~という音を立て「もっと食い物寄こせ~」と言ってくる。
「むぅ」
一夏の腹の虫は治まってはくれずしきりに食べ物を要求するように暴れている。
「一夏、すごいお腹鳴ってるね?」
「そりゃぁ、空腹な上にこれだけ美味そうな弁当が目の前にあればなぁ・・・」
一夏の目の前にあるのはシャルロットの弁当。シャルロット自身は小食なので量はそれほど多くないがグリンピースご飯にミニハンバーグ、玉子焼きにプチトマトにブロッコリーなど見た目に美味しそうな弁当が一夏の腹を刺激する。
それに視線を巡らせれば箒の弁当にも目がつく。箒の弁当はシャルロットより豪華で鶏肉の唐揚げに鮭の塩焼き、蒟蒻と牛蒡の唐辛子炒め、ほうれん草の胡麻和えとなんともバランスの取れた献立の数々がそこにはあった。
今の一夏にとってこの状況は生殺しもいいところだった。
「い、一夏、何だったらおかずを少し分けてやるがどうだ?」
「マジか!?」
箒の申し出に一夏キラキラした眼をして飛びつく。いきなり一夏の顔が真近に迫って箒は驚く。
「なぁ!こ、コラ!顔が近い!」
「ああ悪い悪い。つい嬉しくってさ」
怒られたので顔を離す一夏。すると箒は一夏には気付かれぬように少し残念そうな顔をする。
「べ、別にイヤだったわけじゃ・・・」(ボソッ)
「ん?何か言ったか?」
「な、何でもない!」
「そうか?ならいいけど。しかしこれはすごいな!どれも手が込んでそうだ」
「これぐらいはできて当然だ」
「そっか。でも本当に貰ってもいいのか?」
「いいと言っている。ほら好きなやつを取れ」
箒は弁当箱を差し出してきた。一夏はどれにするか悩んだが鶏の唐揚げを貰うことにした。
「じゃあまあ、いただきます」
貰った唐揚げを頬張った。
「おお、美味い!」
「そ、そうか?ならよかった。おいしかったなら、いい」
一夏は正直に感想を言った。箒も褒められて嬉しかったのか少し表情をゆるませる。
「味付けは生姜と醤油とおろしニンニクだな。あとちょっと胡椒も混ぜてあるな。あとは何だ?何か隠し味みたいなものが入ってそうんだが?」
「隠し味は大根おろしが適量だ。そうすることで冷めても衣がベタつかない」
「おお、それはいいな。今度俺もやってみよう」
にこにこしながら唐揚げの味付け確認をする一夏。ひとしきりうんうん唸ってから一夏は箒に向かって言った。
「これなら金が取れるぞ」
「そんなに感動するほどのものじゃない。大げさだ」
「いやいや、それほど美味しかったんだって。しかしあれだな。箒はいい嫁さんになるな」
「なっ!よ、嫁!!」
いきなりのトンデモ発言に顔をボッと赤くする。
「これだけ料理上手なんだしな。お前の手料理を毎日食えるなんて男としては幸せだぞ」
「そ、そうなのか?う、うん、そうかそうか」
「おう。自信持っていいぞ」
何かブツブツと言っている箒に一夏は首を傾げるが料理の腕は間違いないので自信を持つように言葉を投げかけた。
「・・・・・」
「ん?どうしたシャル?そんなふくれっ面で俺を睨んで?」
「ふえっ!?な、何でもないよ、気にしないで!」
ふくれっ面になって一夏を睨んでいたシャルロットだったが一夏に指摘されると慌てた様子で手をブンブンと振った。
彼女がふくれっ面になっていた理由は簡単だ。
しかし一夏が気付くはずはない。
「ね、ねぇ一夏!」
「ん?」
意を決したような顔をしてシャルロットが一夏を呼んだ。
「よ、よかったら僕のおかずも食べる?」
「マジか!?それは助かる!あっ、でも量がかなり少ないぞ。本当にいいのか?」
「僕は平気だよ。うん。そ、それじゃね・・・」
「?」
何やら緊張した面持ち弁当箱から玉子焼きを箸でつまんでおもむろに一夏の方へ差し出す。
「はい、あーん」
「・・・・・・・・・・、へ?」
あまりに唐突に起こった事態に一夏は呆けてしまう。
「むっ」
「あらあら」
「ほぅ」
「へぇ~」
4対の視線が一夏に突き刺さる。箒はムスッと、鈴、弾、数馬の3人はニヤニヤしている。
「え、えーっとっ・・・」
「はい、食べて一夏」
どうしていいかわからないで若干パニック状態の一夏に、少し頬を染めてにっこりしながらシャルロットが玉子焼きを差し出す。
(こ、これはいったいどうした事だ!?何故シャルは俺に玉子焼きを差し出して「はい、あーん」なんて!?)
心の中もパニック状態の一夏。
一方、シャルロットは
(さ、さすがにこれは恥ずかしいなぁ。で、でも僕だって頑張ってお料理してるんだしこれくらいしてもバチは当たらないよね)
勇気を総動員して一夏に『はい、あーん』を実行したのであった。
そして絶賛パニック中の一夏は
(べ、別にシャルにこうされるのがイヤとかそういうことはないんだが、横で見てる4人の視線が果てしなく痛い・・・。しかも昼休みもそろそろ終わりが近いからクラスにも人が溢れかえっているわけで、・・・って見られてる!クラスメイト全員から見られてる!!)
「うぅぅぅ・・・」
「どうしたの一夏?」
「いや、どうしたのって、そのぉ・・・」
「もしかして、迷惑だったかな?」
「え?イヤそういうわけじゃ・・・」
「一夏が迷惑だっていうなら・・・、やめるね?」
勇気を振り絞ったシャルロットだったなかなか一夏が食べてくれないので不安に陥ってしまい箸を引っ込めようとする。その表情は少し陰りが映っていた。
「うわ、一夏サイテー」
「女の敵だな」
「一夏がこんなやつだったとは」
「失望したな」
4人がよってたかって一夏を非難する。そしてそれをみていたクラスメイトも一夏に非難の眼差しを向けている。
(えーっ!?俺が悪いのか!?俺にどうしろってんだ!?ああ、なんだかシャルがすげぇ落ち込んでる!シャルにこんな顔させたくないし、ええーい!ままよ!!)
「シャ、シャル!た、食べるから。そんな顔しないでくれって!なぁ。そのぉ、あ、あーん」
シャルロットに向かって口を開ける。
「うん!はい、あーん♪」
「パクッ」
差し出された玉子焼きを一夏は口にした。
「ど、どうかな?おいしいかな?」
「う、うん、美味しいよ」
実際一夏は恥ずかしさのせいで味なんかわかっていなかった。
何だかわからないけど恥ずかしさの中にも嬉しさがあってそれがまた一夏の味覚を狂わせていた。
「そう、よかった!」
「あ、ああ」
シャルロットの明るいスマイルに一夏は羞恥に顔を赤くする。
「ねぇ、これってさぁ」
「ああ、アレだな」
「うん。アレだ」
「「「間接キス」」」
さきほどから気になっていた事を鈴、弾、数馬が口にした。
シャルロットが使っていた箸で「はい、あーん」をしたのだからそれを一夏が口にした時点で間接キスの成立だ。
「「!!」」
ようやくそのことを理解したのか2人はバッと自分の口に手を当てる。顔なんかもう完熟トマトですら真っ青に見えるくらいに真っ赤になっていてしまっていた。
口に手を当てたままお互いに少し距離を取る。まるで本当にキスしてたところを誰かに見られたかのような動揺しっぷりだった。
離れたあとはお互いを見る事が出来なくなってしまい背中合わせの状態だ。
「・・・・・」
「・・・・・」
沈黙が2人を支配していた。相手の顔を見る事もできずただ真っ赤になっているだけだ。
「お、俺ちょっとトイレ行って来るよ!!」
「ぼ、僕もちょっと頭を冷やして来るね!!」
居た堪れなくなった一夏とシャルロットはビューッと教室から出て行ってしまった。
「って、もうすぐ昼休み終わりの時間じゃない」
「あいつら時間までに戻ってくんのか?」
「さぁな。多分戻ってこないんじゃね?」
結局2人が戻ってきたのは昼休みが終わって5分を過ぎた頃で2人揃って5限目の担当教師に怒られたのであった。
「何故いつもシャルロットばかり・・・」
2人が去ったあとにそう箒が呟いていたのであった。