午後の授業もつつがなく終わり、時刻は生徒たちの待ち望んだ放課後を迎えた。
ある者は帰宅をし、ある者は友人と駄弁り、ある者は部活に向かう。
そして今回は部活についてのお話だ。
ここ私立藍越学園は自由な校風をモットーとしており、部活動も割かし自由にさせてくれている。
学校によっては絶対どこかの部に入部しないといけなかったりするがこの学園ではそういうことは無く帰宅部となる生徒もいたりする。
しかし、帰宅部になる生徒は生徒全体からみると10%をきっている。これはこの学園が部活動に対する力の入れ方が半端ではないからだ。支援が大きく、部費は破格の高さで各部活動にはちゃんと専用の部室がある。
例えば吹奏楽部には音楽室、美術部には美術室といった特別教室で活動を行ったりするのが一般的だろう。
しかし、それはあくまで一般的な学校の話だ。
運動系の部活動にはグラウンドや体育館のそばに第一部室棟というものがあり、そこに運動系の部活動の専用の部室がある。
部室には各部屋にシャワーやトイレが備え付いていていつでも生徒が使用できるようにしてある。
部活によってはクーラーや冷蔵庫といった家電までもが完備されていたりもする。
文化系の部活動は校舎の裏側にあり渡り廊下を渡って行く第二部室棟というのがある。
こちらの部室棟には美術部が活動するのには充分な広ーい美術部専用の美術室があったり、茶道部にはこれまた広ーい和室が設備され、演劇部にはちょっとしたステージが設備されていつでも舞台に立つ練習ができたりする。入学式のあとに行われた部活勧誘も文化系の部活はこの部室棟で様々な催しを行っていたのだ。
何故この学園がこうにも部活動に対して大盤振る舞いをするのかというと、理事長である轡木十蔵氏による力が大きい。
齢80になろうという彼は学生時代に戦争を経験しており時代と言う波に翻弄され満足な学生生活を送る事ができなかったのだ。
彼はそのことから生徒達にはそんな時代と言う波に翻弄された自分のようにはならずに自由に楽しく学園生活を送ってもらおうという考えを持って部活動に対する支援を行っているのだ。その一環として例があげられるのが部活勧誘であろう。出展やゲームや簡易試合など生徒のやりたいようにやらせてみる。そうすることによって新入生は部活動に興味を持ちより部活動が活性化するといったところだ。
これでいて学校の偏差値もそれなりに高い方だが決してお堅い進学校というわけではなく、卒業生の進学率、就職率の高さも半端ではないのがこの学園の売りなのだ。
まさに理想の学園と言ってもいいかもしれない。
五反田弾&御手洗数馬の場合
彼ら2人は軽音楽部に所属している。部長がいうにはこの日は『学園祭に向けて』のミーティングを行うとのことだ。
何故まだ一学期の4月なのにもう学園祭の話をするのかといえば、二学期になってから学園祭をどうするよ的な話をしてそこからスタートしていいては遅いすぎるのだ。軽音楽部は演奏をしっかりとアピールできる場がそうそうなく、部活勧誘と学園祭が唯一のお披露目の場と言っていい。
学園祭はその数少ない場の中でも最も軽音楽部がスポットライトを浴びることのできる時と言えるだろう。加えて軽音楽部に対する期待も大きく生徒達からは毎年毎年楽しみにされているほどである。
「軽音はイベントの華といってもいい。その期待に応えるようにより多くのミュージックを届けようと自分は思う」
軽音楽部部長の言う事に部員誰もが納得をし部員全員が学園祭に向けて走り出したのである。
「今日はそれぞれの担当楽器とグループ分けを決めるって部長が言ってたな」
「そうそう。担当が重複したりもするから結構早く決めないと後々切羽詰ってくるみたいだぜ」
弾と数馬が部室へ向かいながら今日のミーティングについて話している。
「俺はやっぱりエレキギターをやりたいな。あのビックウェーブが来るような衝撃を是非とも披露したい」
数馬のギターの腕はプロ級で中学時代にも軽音楽部に所属していおりその演奏は中学の文化祭のときも冴え渡りステージを熱狂の渦と化したのだった。
「俺もベースに立候補するけど俺の場合は腕がなぁ・・・」
弾も一応ベース弾きが趣味だが腕が立つわけではなくまだまだ趣味の領域だ。
「これからうまくなるんだろ?なりたいから軽音楽部に入ったんだろ?そう気落ちすんなって!」
「そうだな。これからうまくなっていけばいいよな!」
弾を励まし奮い立たせる数馬。それに後押しされるようにやる気を出す弾。といっても音楽への情熱を滾らせる数馬とは違い、弾はただ楽器が弾ければ女にモテルだろうという不純な考えを持っているのだ。数馬も薄々気付いてはいるが上手くなりたいのは本気らしいので弾を後押しすることにしたのだ。
「よし!ならさっさと行こうぜ!」
「おう!」
そして2人は部室へと急いだ。
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アイキャッチしりとり
弾&数馬「すばらしき新世界!!」
箒「一心不乱に、打つべし!」
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篠ノ之箒の場合
箒は剣道部に所属している。実家が剣道場であり中学では全国大会で準優勝をした経験をしているので剣道部にとってはまさに逸材であろう。だが、箒自身はあまり剣道部には顔を出しておらず週に2回ほどだ。実家が剣道場なので鍛錬をするなら実家でする方がいいので剣道部にはあまり実用性を感じていないのだ。週2で出ているのはより多くの人と試合をしたりした方が身になるからである。
そして今日はその週2で出ている1日だった。
「めぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
(ズバ――――ン!!)
甲高い音が空間にこだました。
「面あり一本! それまで!」
正眼に竹刀を構えた箒の前には、尻餅をつくようにして倒れる人物がいた。剣道部の2年生で剣道部の中では実力者と呼べる男子(・・)だ。その男子を箒はものの見事に打ち倒したのだった。
そうして互いに姿勢を正し中央で竹刀を納め数歩下がると、互いに礼をして白線から出た。
面を取るとふぁさりとまとめていた長い黒髪が落ち、珠のような汗が箒から零れ落ちる。その様子は惚れ惚れするほど様になっており、箒の顔立ちの良さもあってか見ている周りの部員達にはとても神々しくみえた。
「篠ノ之さん、お疲れ」
「ああ、部長。どうも」
「はい、これタオル」
「ありがとうございます」
部長からタオルを受けてって顔をうずめる。
「さすがは全国大会で準優勝しただけのことはあるわね。うちの男子の実力者をこうもあっさり倒すなんて」
「いえ、実家が剣道場ですからね。幼い頃から剣道に触れていたというだけですよ」
「そう謙遜しないの。それだけの人が全国大会で準優勝なんかできないでしょ?」
「は、はぁ」
全国大会準優勝というのはなかなか凄い肩書きなのだが箒にとっては少し違うのだ。
中学3年の秋に行われた全国大会。実は箒はこの大会で優勝したらあることをしようと誓っていた。
そう。それは『優勝したら一夏に告白する』だった。鈴も応援してくれていた。弾も数馬も、そして一夏も
実家が剣道場である箒はそのキャリアから優勝を有力視されていた。事実、実力的にも箒はズバ抜けていて、優勝は間違いないとも言われていた。
が、現実はそうはいかなかった。
決勝戦、相手は無名の女子だったがストレートで決勝まで勝ちあがってきておりその太刀筋は箒も一目を置くほどで立ち振る舞いも剣士と呼ぶに相応しいと箒は思っていた。最高の舞台で最高の好敵手との戦い、そしてそれを越えてこの想いを一夏に伝えようと箒も燃えていた。
しかし、試合は呆気なく終わりを告げた。
試合形式は三本勝負。一本目は開始と同時に素早い動きで突進してきた相手に面を貰ってしまい一本を取られてしまう。二本目は自分から攻めに行き、渾身の一撃を面に放とうとしたが相手の竹刀がそれを弾き返した。身体が反れて箒の胴ががら空きになり相手がすれ違うように足を踏み出し、その胴に竹刀を叩き込み二本目を取られて敗北した。
惨敗だった。何も出来ずに終わってしまった。
一夏は「残念だったな。でも準優勝だって凄いぞ。よくやったぞ箒」と言ってくれたが箒の心は晴れなかった。
優勝できなかったから一夏への告白も断念しなければならなかった。でも、落ち込んだ理由はそのことだけではなかった。
箒はこう思っていた。
(自分は心の何処かで優勝するのは当たり前だと思っていたのではないか?幼い頃から剣道を嗜んでいて実家も剣道場だからと。それが慢心となり心に隙が出来ていたからあんな無様な試合になってしまったのではないか?私は今まで何をしていたんだ・・・)
思考に埋没していた箒は頭を振るった。
あれからの箒は変わった。己の慢心に踊らされぬように鍛錬を積み、今では父であり師匠でもある篠ノ之柳韻(りゅういん)をあいてにしても食い下がるところまで腕を磨いたのだ。
(今度こそ、私は・・・、己の慢心に打ち勝ってみせる!次に行われる全国高等学校総合体育大会剣道競技大会(インターハイ)の個人戦に出場し優勝してみせる!そして、そのときはこの想いを一夏に!)
箒はまた己の慢心と向き合うため、再び一夏への想いを貫き通すために走り出すのだった。