ようこそ藍越学園へ   作:TAKUMAKI?

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第十五話 部活をやろう 中編

凰 鈴音の場合

 

家の中華料理屋の手伝いなどで特定の部活に所属していない鈴だが、この日は校庭でソフトボール部の練習に参加していた。

何故鈴がそんなものに参加しているかというと、先日の体育の授業で行われたソフトボールの試合で鈴と激しい投手戦を見せた女子生徒がいたのを覚えているだろうか?その女子が鈴の投球を見てその投手のセンスに惚れ込みソフトボール部への入部を勧めてきたのだ。

最初は放課後は実家の手伝いがあるからと断っていたがそれでも熱心に入部を勧めてくるので鈴はある条件を出した。

それはこういったものだった。

 

「あたしとアンタでソフトボール部のメンバーを相手にして打ち取った人数が多い方が勝ち、あたしがアンタより打ち取った人数が少なければ入部してやるわよ。」

 

かくして鈴はソフトボール部の1年生ルーキーの『奈良原遼子』と投手戦をすることになったのだ。

鈴としてもあの時の決着をつけることができると思い闘志を滾らせていた。

負けず嫌いで勝負事にはムキになるのが鈴なのだ。この勝負を申し込まれたのはある意味僥倖だったと言えるだろう。

 

「それでは、はじめますよー」

 

勝負形式は簡単だ。投手は9人のバッターを相手にしてバッターを打ち取った数の多い方が勝ちだ。先に投手を務めるのは奈良原だ。

鈴は三塁側のベンチに座って相手の投球練習を眺めている。

 

「ねぇ一夏、あの奈良原って娘どう思う?」

 

「ん?そうだなぁ」

 

鈴の隣には一夏が座っていた。彼も部活には所属していないので鈴の応援に駆けつけたという訳だ。鈴に意見を求められたので一夏は自分の意見を述べた。

 

「体育の授業で少し見た程度だけどなかなかいいピッチャーだと思うぜ。投球ホームにも一切乱れが無いし、球速もざっと85~90km/hくらいは出てるだろ。この前の授業ではあまり本気を出していなかったようだし出塁を許したのも味方のエラーだったしな」

 

「そう。真っ当な意見ね」

 

一夏の述べた意見は鈴も同意見だった。体育の授業でしかも素人相手に本気で投げるほど相手も馬鹿ではないということだ。

 

「プレイボール!」

 

審判が試合開始を告げる。

鈴と奈良原の投手戦が幕を開けた

 

(ズバンッ)

 

「ストラーイク、バッターアウト!」

 

「上手い事手が出しにくいコーナーをついてきてるわね。あれじゃバッターも的が絞りきれないわね」

 

「ストレートとチェンジアップの使い分けも上手いし球種も豊富だな。カーブ、ライズ、ドロップもすべて1級品だな」

 

やはりスポーツ推薦で入学してきたのは伊達ではない。相手ピッチャーは次々とバッターを打ち取り、8人目が終わった時点で被安打は0だ。

次は最後の9人目。バッターはソフトボール部の主将の『松本栄子』だ。

相手も主将の登場に緊張感が増しており何と言えない空気感が漂う。

結果主将は甘いコースに来たストレートを見逃さずに打ち返し三遊間を破るヒットを放ったのだった。

奈良原の結果は被安打1だ。

 

続いては鈴が投手を務める番だ。鈴は今投球練習をしている。

 

(ズバンッ)

 

ウインドミル投法で鈴の腕から放たれたボールは90km/hほどの球速でキャッチャーのミットに吸い込まれた。

 

「うーむ、調子は上々ね」

 

そう言いながら鈴はキャッチャーから返球された球をグローブの中で遊ばせる。

鈴は先ほどの奈良原のように豊富な球種を持っているわけではなく投げる球は殆どがストレートだ。しかしストレートだけと言って侮ってはいけない。鈴は速球派なので調子が乗ってくれば100km/h以上の球速を叩き出すことが出来る。おまけにそれだけの速球を放る鈴だがこれでいてコントロールがいいのだ。これは女子高生レベルとは言いがたいレベルだ。

 

「さて、はじめますか」

 

グローブの中で遊ばせていた球を鈴が握り締める。その瞳には闘志が湧き上がっていた。

 

「りーん!頑張れよ!!」

 

一夏の激励に鈴は手を上げて応える。

 

「わーかってるわよ!全員打ち取ってやるわ!!」

 

相手方は被安打が1だったので全員打ち取れば鈴の勝ちという事になる。

鈴の試合が幕を開けた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アイキャッチしりとり

 

奈良原「シュートってどう投げるの?」

 

 

 

松本「のんびりと考えればわかるわよ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ふっふっふー、遂に此処まで来たわね」

 

不敵な笑みを浮かべて鈴が目をキランと光らせる。

球速にものをいわせてここまで8人をすべて三振に打ち取るという快進撃で鈴はここまで来た。

これにはソフトボール部員達も驚きの表情を隠せないでいた。

それはそうだ。8連続奪三振なんてそうそうにできることではないのだ。

日本プロ野球の1試合最多連続奪三振記録は9と記録されている。それに迫る勢いなのだ。

そして最後のバッターはあのソフトボール部主将の松本だ。

 

「あなた、物凄い良いピッチャーね」

 

主将がバッターボックスに立ちながら鈴に話しかけてきた。

 

「それはどうも」

 

「それだけの才能を持て余すのは勿体無いでしょう?勝負に関係無しで本気でうちの部に入ってくれないかしら」

 

「褒めてくれるのは嬉しいけどそれはお断りするわ」

 

「そう、残念ね。でも、こっちもこのまま引き下がるつもりは無いわ。9連続奪三振を奪われるなんてこっちのプライドが許さないからね!」

 

「さすがは主将。言うじゃない。ならこっちもそのプライドへし折ってやるわ!」

 

鈴が投球フォームに入る。主将もバットを構えて応戦の構えだ。

 

 

「らっ!」

 

鈴が第一球目を投げた。コースは外角高めで僅かに外れてボール。

 

「良いコースね。ちょっと手を出しそうになったわ」

 

「褒めたって何もでないし入部もしないわよ」

 

「そうね。じゃぁ次どうぞ」

 

「言われなくても!」

 

第二球目。真ん中低め。相手はバッドをスイングしたが、ファール。

第三球目。内角やや高め。冷静に見極めてボール。

第四球目。内角低め。これも見送ってボール。

第五球目。外角やや高め。バットがボールを捕らえたがレフト線にボールがきれてファール。

追い込んでカウントはツーエンドスリー。

 

「これで最後ね」

 

「ええ、これで最後よ」

 

「最後に一言だけ言っておくわ」

 

「何かしら?」

 

「楽しかったわよ!」

 

「こっちもね!」

 

鈴が投球フォームに入り、主将もバットを構え

 

「オラァァァッ!!」

 

渾身の一投を鈴が投げた。

コースはど真ん中。球速は100km/h以上は出ているだろう。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

主将も振りにいった。

球が高速なら、そのバットのスイングもまた高速。

剛速球とスイングしたバットが交錯する。

 

その一瞬前に

 

ボールが落ちた。

 

(ズバンッ)

 

ボールはキャッチャーのミットに吸い込まれた。

鈴が最後に投げたのはドロップボールだった。

今までストレートのみ投げていた鈴だったがこの局面で隠していた球種であるドロップボールを投げたのだ。所謂「切り札は最後まで取っておく」よいうやつだ。

 

「ストラーイク!バッターアウト!」

 

「っしゃぁぁぁ!!!」

 

鈴がガッツポーズと共に歓喜の声を上げる。勝負結果は鈴の勝利。しかもソフトボール部員を相手にバッター全員を三振に打ち取るという快挙だった。

 

「「「「「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」」」」

 

いつの間にかできていたギャラリーが沸き立った。見るとサッカー部や野球部やバスケ部といった他の部活の生徒達までもがギャラリーに混じっていた。

 

「凄い!」「本当に勝ったぞ!」「9連続三振だって!!」

 

ギャラリーからそんな声が聞こえてくる。鈴の活躍に興奮を隠しきれていないようだ。

 

「鈴!」

 

一夏が駆け寄ってきた。

 

「やったな!凄かったぜ!!」

 

「ふっ、当然よ!」

 

「「イエーイ!!」」

 

ハイタッチを交わす2人。

 

「それにしても、いつの間にか凄いギャラリー数になったわね」

 

「ああ、お前が6人目を打ち取った辺りからすげぇ増え始めたぜ。お前明日から学校中から注目の的になるぞ」

 

「それはちょっと勘弁願いたいわね。疲れるしさぁ」

 

「そんときゃ箒やシャルや俺がお前を守ってやるって」

 

「へぇー、カッコイイこと言っちゃってるけどアンタは頼りになるのかしらねぇ?箒やシャルロットは頼りになるからいいけどさぁ」

 

「何を!馬鹿にすんなよ!」

 

「はいはい」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「「プッ」」

 

「「あはははははっ!!」」

 

爆笑する2人の声が夕焼けに染まったグラウンドに響いたのだった。

そして鈴は主将の松本と奈良原の元へ歩み寄った。

 

「ありがとう。楽しい時間だったわ!」

 

「こちらこそ。いい経験になったわ」

 

「負けたのは悔しいけど、受け止めなきゃね」

 

「まぁ、入部はしないけど、あなた達を応援はするからね。大会とかあったら観に行くから頑張ってね」

 

「ええ、そのときは応援よろしくね」

 

「絶対に勝ってみせるから」

 

「うん!」

 

鈴は2人と握手を交わす。するとギャラリーから盛大な拍手が起こった。健闘を称える気持ちのいい拍手だった。鳴り止まぬ拍手が暫くの間グラウンドに響いていたのだった。

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