ようこそ藍越学園へ   作:TAKUMAKI?

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第十六話 部活をやろう 後編

シャルロット・デュノアの場合

 

シャルロットが所属する部活は料理部である。

入学式の日に行われた部活勧誘の際に彼女の興味を最も引いたのが料理部なのであった。

幼い頃から織斑家を通じて日本の料理に触れたことはあったので全く無知という訳ではなかったのだが自分で作ってみるというのは今までしたことがなかった。彼女自身はフランスにいた頃から母親の手伝いなどで料理はしていたし幼いころに一夏に自分の手料理をご馳走した事だってある。

このことがキッカケでシャルロットは料理に目覚め、今現在はフランス料理は母親からお墨付きを貰うほどまでに上達していた。が、日本料理はまだ手付かずであった。

織斑家に遊びに来ていた時は四季や十秋や一夏が料理をしていて「シャルロットはお客様だから」という理由で手伝わせてはもらえなかったし、フランスに戻って勉強しようにも情報が少なかったり材料が日本にいるときほど充分に用意できなかったりしたのであまり手出しができなかったのが現実だった。

部活勧誘時に料理部の出店で肉じゃがを食べたときにシャルロットはこんなことを考えていた。

 

(確か肉じゃがって昔の日本では女性の必須スキルだったって小さい頃に聞いたことがあったっけ。肉じゃがを作るのがうまい女性と結婚すれば男性は幸せとなるだったかな。あの時はよくわからなかったけどなんだかわかる気がするなぁ。僕がこれをうまく作れたら一夏は食べてくれるかな?ポトフの時みたいに笑顔で美味しいって言ってくれるのかな?)

 

自分が肉じゃがを作ったら一夏はどんな反応をするのだろうかとそれだけを考えていた。

あの日の下校の際にも一夏から日本料理に挑戦することを薦められたし作ったら食べさせるという約束もした。箒から師事を受けることにもなったが彼女はそれだけで満足はせず、もっと色んな料理を勉強するために料理部への入部を決めたのだった。

すべては一夏のために。

一夏に自分が作った料理を食べて欲しいために。

一夏に笑顔で美味しいと言ってもらうために。

 

 

 

「では、今日は肉じゃがを作るに当たって色々役に立つ豆知識を紹介します。皆さんよろしいですか?」

 

「「「「は~い」」」」

 

料理部の顧問である山田真耶教諭が部員達を相手に教鞭を振るっていた。部員の中にはもちろんシャルロットの姿もある。

 

「まずジャガイモの選び方についてですが、日本では一般的に男爵薯(だんしゃくいも)とメークインの二種類が使われるのがポピュラーです。丸形でゴロッとした男爵を使うのと丸みを帯びた俵形のメイクイーンを使うのとでは仕上がりに大きな差ができます。まず初心者には煮崩れの心配がないメークインを使用することをお勧めします。メークインは男爵に比べて長い形状で、でこぼこもそれほどひどくなく、皮はむきやすいということもあって初心者には最適です。煮崩れを起こしにくいのは男爵よりも少しねっとりしているためでカレーやシチューなど煮込み料理にはメークインが使用されることが多いです」

 

見事な知識を疲労する真耶にシャルロットは質問を投げかけた。

 

「先生、質問いいですか?」

 

「はい、デュノアさん。質問をどうぞ」

 

「肉じゃがを作る時ジャガイモは男爵薯よりもメークインを選んだ方が美味しく作れると言う事ですか?」

 

シャルロットの質問に真耶が丁寧に答える。

 

「いいえ、決してそういう訳ではないですよ。メークインはあくまで初心者には最適と言うだけで男爵を使っても美味しい肉じゃがを作る事はできます。男爵の場合はちょっと煮すぎたり、乱暴に鍋返しをしたりすると煮くずれる危険性が大きいので初心者にはちょっと難しいんですよ。だから慣れていないうちはメークインを使用することをお勧めします。もちろん両者には違った魅力があります。男爵はなんといってもホクホクした食感が得られるが最大の魅力で、このホクホク感が肉じゃがを美味しく感じさせます。一方メークインにも男爵に比べて少しねっとりした歯ざわりがあってこの歯ざわりが好きだと言う人も多いので日本人には好まれています。初めはメークイン、上達したら男爵、そこからは自分の好みでどちらを使うか決めるのがいいでしょう」

 

にっこり笑顔で真耶が説明をする。その姿はいつもバタバタとした子犬のような雰囲気とは違っていつもの5倍くらいは頼りになる先生の姿だった。新米とはいえやはり真耶も教師で料理部の顧問なのだ。これくらいの知識は当然持っているのだ。

 

「山ちゃん詳しい!」

 

「山ピー見直した!」

 

「一応先生ですし、顧問ですから。・・・って、や、山ちゃん?や、山ピー?」

 

少し照れた仕草を見せながらずれた眼鏡を両手で直していた真耶だったが突然あだ名で呼ばれて雰囲気が元に戻る。

 

「あのー、教師をあだ名で呼ぶのはちょっと・・・」

 

「えー、いいじゃんいいじゃん」

 

「まーやんは真面目っ子だなぁ」

 

「ま、まーやんって・・・」

 

「あれ?マヤマヤの方が良かった?マヤマヤ」

 

「そ、それもちょっと・・・」

 

「もー、じゃあ呼びやすいからヤマヤなんてどう?」

 

「そ、それだけはやめてください!」

 

珍しく語尾を強くして拒絶の意思を示す。彼女の反応を見るにそのあだ名にはトラウマがあるのかもしれない。

ちょっと真耶が可哀想になってきたシャルロットは救いの一声をかける。

 

 

「先生、説明の続きをお願いします」

 

「は、はいっ、そうですね!ではお話の続きを――――、って、わきゃぁぁ!!」

 

真耶は慌てて教壇戻ったが途中でこけた。

 

「うー、いたたた・・・」

 

「「「「「あははははははははっ!!!!」」」」」

 

こけた真耶を見て部員達が一斉に笑い始める。真耶は羞恥に顔を赤くする。

 

「はぅぅぅ~っ」

 

「山ちゃん可愛いっ!」

 

「天性のドジっ娘ね!」

 

「涙目で真っ赤になる山ピー萌え~!」

 

「も、もうやめてください~」

 

次々と囃し立てる部員達に弱々しく訴える真耶。

さすがにシャルロットももうフォローできずに苦笑いをするしかなかったのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アイキャッチしりとり

 

真耶「よってたかっていじめないで~」

 

 

 

シャル「デフォルトでそういうキャラなんですね・・・」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「美味しい肉じゃがを作るには野菜の保存法も重要っと」

 

部活も終わりシャルロットは下駄箱に向かいながら今日習った知識を復習していた。

 

「ジャガイモは芽が出てしまうとグンと味が落ちてしまう。通常5℃以下の冷暗所で保存するといつまでも芽は伸びないので、そのような場所で保存することが最も重要で、一度高温にさらして芽が伸び始めたものは長い期間の保存には適さないので、もともと芽が伸びていないジャガイモを選ぶことがこつである。この保存法はジャガイモだけでなく、牛蒡や葱、玉葱なども冷暗所すで保存するのが最適である。それにしても、僕も結構料理はしてきたけどこんな知識があるなんて知らなかったなぁ」

 

顧問の真耶からご教授を受けた内容を余すところ無く復習する。

この料理に対する姿勢が彼女の本気と一夏への想いを感じさせる。

「料理は愛だ!」という言葉があるように彼女の料理は一夏への愛がたっぷり詰まっているいることであろう。

 

「料理部での活動と箒からの教えがあれば絶対に美味しい肉じゃがが作れるようになるよね。来週に実習があるって先生も言ってたし。一夏にも美味しいって言って欲しい!よし、頑張ろう!」

 

確固たる決意を胸にシャルロットは校舎をあとにした。

 

 

 

 

 

織斑一夏の場合

 

一夏は鈴と同様に何か部活に所属している訳ではない。

放課後は姉の十秋と分担している買い物やら夕飯作りやらがあったりするので部活をやる時間があまり取れないのが理由だ。だから一夏の放課後は少しの間クラスメイトと談笑してシャルロット達が部活がない日は彼女達と一緒に帰るというのが日常的だ。

しかし、買い物や夕飯作りが無い日の彼は結構フリーダムに行動することが多く、ある時は箒の家の道場まで赴いて剣道や体術の鍛錬を行い、ある時は鈴や弾や数馬と共に街のゲーセンに行ったり、ある時はシャルロットと肩を並べて一緒に帰ったりしている。まあ帰宅部というのはそういうものであろう。

彼自身も現状に不満なんて無いのだ。やりたい事も今はまだ見つかっていないが焦る必要もない。シャルロットや箒、鈴、弾、数馬達と学園生活を楽しむ。それが今の彼にとって居心地の良い時間なのだ。

 

「ふぅ、鈴の奴、上手く逃げ延びたかねぇ」

 

ソフトボール部との投手戦が終わると詰め掛けたギャラリー達が騒ぎ出して生活指導の先生が怒鳴り込んで来たので散り散りに逃げるギャラリー達に紛れて鈴と一夏も退散を決め込んだ。

鈴とは途中の逃げ道で分かれたのでその安否を確認することはできないがフットワークが軽い鈴のことだからうまく逃げ延びただろうと一夏は確信していた。

 

「さて、俺もそろそろ帰るとしますか」

 

騒ぎから逃げ延びたので家に帰ることにした一夏は一旦鞄を取りに教室に戻った。

鈴の机を確認すると鈴の鞄はもうなかった。

 

「あいつもう帰ったのか。相変わらず身軽な奴だなぁ」

 

ひと笑いしながら一夏は誰もいない教室をあとにして下駄箱に向かった。

 

「それにしても明日から鈴の奴大変だなぁ。この分じゃ明日には学校中の噂になってるの間違いないぞ」

 

上履きから登下校用の革靴に履き替えて外に出る。

 

「ちょっと対策考えておくか」

 

明日は噂の張本人である鈴の元に生徒達が殺到するだろう。鈴は別に人気取りのためにやったわけではないので周りに騒がれるのは結構キツイだろう。何か手を打っておくべきであろうと一夏は思ったのであった。

 

「お、あの後ろ姿は?」

 

下駄箱を出ると先の方に綺麗な金髪を首の後ろで束ねている見覚えのある女子生徒がいた。間違いなくシャルロットだった。

 

「お~い、シャル~!」

 

その背中に声をかけた。

 

「あ、一夏っ♪」

 

一夏の姿を見つけたシャルロットが手を振る。一夏それに軽く手を上げて応えながらシャルロットの元へ走り寄った。

 

「料理部はもう終わったのか?」

 

「うん。今日は実習がないからちょっとした座学をやって終わったんだ。5月には実習があるって聞いてるけど」

 

「そっか。今度の実習って何作るんだ?」

 

「肉じゃがだよ。だから今日はジャガイモの選び方を教わったんだけど。ジャガイモの品種で結構好みが分かれるものなんだね」

 

さきほど真耶から教えられた内容を歩きながら一夏にも掻い摘んで教えるシャルロット。

一夏も料理ができるので一夏の意見も聞いておこうとシャルロットは思ったのだ。

 

「ホクホク感を出したいなら男爵で、ねっとり感を出したいならメークインか。山田先生もなかなか分かってるなぁ」

 

「一夏は肉じゃがを作るときはどっちにしてるの?」

 

「俺は結構まちまちに作るぞ。男爵は煮崩れしやすいけど味が染み込んだときのあのホクホク感はもうたまらないし、メークインのあの歯ざわりも捨てがたいからな。だからうちの肉じゃがは作るときの気分とか買い物したときの値段とかで決めるから結構まちまちだぜ」

 

「そうなんだ。ちなみに一夏はどっちの方が好みかな?」

 

「俺はどっちも好きだけど、どっちかっていうと男爵の方が好きかなぁ?やっぱあのホクホク感は何にも変えがたい味わいがあるしなぁ。ああ、そういえば箒が作ってたのも男爵だったなぁ」

 

「そっかぁ。今度箒にも教えてもらうし、実習は男爵でいってみようかな?」

 

「煮崩れさせないで作るのは結構大変だけど頑張れよ!シャルならきっとできるからさ!」

 

「うん!僕頑張ってみるよ!応援ありがとう一夏!」

 

親指をグッと立てて見せる一夏にシャルロットも同じように親指をグッと立ててにっこり笑ってみせる。

そして夕焼けの空の下、一夏とシャルロットは他愛のない会話をしながら一緒に下校するのであった。

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