ようこそ藍越学園へ   作:TAKUMAKI?

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第十七話 噂を鎮め方

「はぁ~、ちょっと鬱ね~・・・」

 

凰鈴音は自室で制服に着替えながら溜め息を漏らしていた。

4月も終わりにに差し掛かったある日。

外は相変わらずの快晴で天気予報でも降水確率は0%と報じられていたが、鈴の周囲だけは曇天とも言っていいほどどんよりしていた。

その理由はこの日の前日に行ったソフトボール部との投手戦が原因であった。

試合自体は鈴も楽しめたし9連続奪三振という気持ちの良い達成感もあって彼女は満足だった。

 

問題はその後だ。

試合終了の直後に何処からか詰め掛けたギャラリー達が鈴の勝利に大騒ぎをしてグラウンドが騒然となった。

騒ぎを聞きつけた生活指導の教師が怒鳴り込んできてもう大パニックになった。

その場にいた鈴は逃げるギャラリーに混じって逃げ延びたのだが、あれだけギャラリーが出ていたのだからきっと今日には学園中に噂が広まっているだろう。

噂の対象となる自分に降りかかるであろう事態が彼女の気持ちを沈ませる。

 

「沈んでても仕方ないし、学校行こっ」

 

鞄を手にして家の裏手にある両親が経営する『中華料理店・鳳凰(フォンファン)』で仕込をしていた両親に一言告げて鈴は家も玄関を潜った。

すると、そこにはちょっとした驚きが鈴を待っていた。

 

「鈴、おはよう」

 

「おはよう、鈴」

 

「うむ、おはよう」

 

「よぉ、鈴」

 

「ういっす、おはよーさん」

 

玄関の外には一夏、シャルロット、箒、弾、数馬の5人が待っていた。

 

「へ?あ、うん、おはよー」

 

何故こんな朝っぱらからいつものメンバーが自分の家の前にいるのかわからなかったので鈴はちょっとポカンとしてしまう。

 

「アンタ達、何でこんなとこに?」

 

「ほら、昨日の騒ぎがあっただろ。今日はお前の周りには野次馬が群がって大変だろうから俺達がお前を守れるようにと思ってな」

 

鈴の問いに一夏が答える。

 

「僕も昨日一夏から聞いたよ。鈴凄かったんだってね。でも鈴が困る事になるなら友達として助けないとね」

 

「私は昨日剣道部に顔を出していたのだが話だけは聞いていた。親友を困らせる輩は見逃せないのでな。今日はこうして参上した訳だ」

 

「お前相当派手にやらかしたみたいだな。俺も手を貸せるなら貸すぜ」

 

「うちの部も練習放り出して見に行った先輩とかいたくらいだしな。まぁ何はともあれ、友人のピンチには駆けつけないとな」

 

5人からの温かい言葉を貰った鈴は感激しているのかちょっと瞳を潤ませている。

が、箒ほどではないにしろ彼女も性格が若干素直じゃないところがあるので

 

「ふ、ふんだ。アンタ達も暇ね・・・」

 

そっぽ向きながら鈴は素っ気無く言うが、頬を赤らめていて顔も少し嬉しそうにしているので5人に感謝しているのが丸わかりだった。

5人も鈴の反応を見て顔を見合わせて笑う。

 

「では、そろそろ行こう。時間もあまり無い」

 

「そうだね。ほら鈴、行こう!」

 

女子2名が側によって鈴を促す。

 

「う、うん。みんな、その・・・」

 

シャルロットは鈴の手を引き、箒が鈴の背中を押すと鈴は何やらぼそぼそと声を出したが最後は全員に聞こえるように言った。

 

「あ、ありがと・・・」

 

 

 

 

学校周辺に着くと噂を知った生徒達が声をかけてきたり、遠巻きから興味あり気な視線を向けてきたりとなかなか鬱陶しい状況になりつつあった。

声をかけてきた者には人当たりのいいシャルロットがやんわりと断りを入れてその場は引いてもらい、遠巻きから不躾な視線を向けてくる者には箒が睨みをきかせ、男子3人は鈴の周りを固めていた。

校門にたどり着く頃には声をかけてくる者はだいぶ減ったが遠巻きからアイドルでも見るかのような視線を送ってくる者は増えていった。

昇降口で下駄箱を開けると大量の手紙が詰め込まれている事態になっていた。昨日の投手戦を見た生徒からのファンレターや部活勧誘の手紙、あげくにはラブレターまで入っていたりした。

 

「こりゃぁ予想以上の大人気だな」

 

「はぁ~・・・、鬱陶しいな~、もう~・・・」

 

鈴は少し苛立たしげに声を漏らした。

あまりにも好奇の視線やら何やらを向けられて登校時も何度か鈴はキレそうになったりもしたが5人がなんとか宥めていた状態だった。

こんな状態が続けば心が辟易としてしまうのは必然であろう。

 

「今回は心配かけてごめん。けど、乗り切って見せるから心配しないで」

 

さっきまで苛立ちのせいか疲れた顔をしていた鈴だったが力強く5人に答えて見せた。5人もそんな鈴を見てわかったと頷いてみせた。

 

教室に入る頃にはもう本鈴がなる5分前でクラスの周りには野次馬はいなかったが、クラスメイトの何名かは鈴の元へ詰め掛ける。

 

「凰さん昨日凄かったんだってね!」

「私も見たかった!」

「結構やるんだなお前!」

「詳しく説明してくれ!」

 

そこに意外な救世主が登場した。

 

「諸君、おはよう!」

 

本鈴が鳴る少し前だが担任の千冬が教室に入ってきた。

 

「「「「「お、おはようございます!」」」」」

 

千冬の登場で生徒達は慌てて席に着く。

さすがに千冬がいる前では騒げないので大人しく席に着くしかないのであった。

 

(サンキュー、千冬姉)

 

一夏は心の中で千冬に感謝した。

昨日の事は一夏から千冬に話してあったので多分気を回してくれたのだろう。

 

(キーンコーンカーンコーン)

 

本鈴が鳴り響いた。

 

「では、朝のSHRを開始する」

 

SHRは簡単な連絡事項を告げられて終わりだった。

 

「ではSHRを終わる。各人、今日もしっかりと勉学に励めよ」

 

そして最後に千冬はこうクラスに言った。

 

「あと、つまらぬ噂に現など抜かさぬようにな。ではな」

 

クラスに一言釘を刺してから教室を後にした。

 

 

その後、クラス内では千冬の言葉と一夏達の尽力もあってクラスメイト達は鈴にあの話題は振らずに普通に接するようになったが、クラス外はまだそうもいかなかった。

休み時間ごとにクラス外の生徒が引っ切り無しに鈴に昨日の事を聞きに来るので鈴は休み時間になると何処かで適当に時間を潰すと言って教室を出て行ってしまう。シャルロットと箒も付き添っている。

 

(まったく連中のあのエネルギーはどこから来るんだ?)

 

減らない野次馬に内心毒づく一夏。

しかしこのままではあまりにも鈴が気の毒で仕方が無い。

何か手はうたないととは思っているが妙案は浮かんでは来ない

どうしたもんかと思案していると

 

(ピリリリリ~♪)

 

突然一夏の携帯が鳴った。

 

「メールか?」

 

メールの受信画面を開く。

そこにはある人物から、この騒ぎを鎮める策が記されていた。

 

「これはありがたい。皆にも伝えておこう」

 

 

 

 

 

時は進み、昼休み。

授業から一時解放され教師が教室を出たのを合図に生徒たちは各々格好を崩していく。

待ちに待った者もいるだろう、昼食タイムだ。

そしてそれは鈴にとっては今日の峠であろう時間だった。

 

「さて、と」

 

鈴は弁当を持って早々に教室を出ようとする。

 

「鈴、ちょっと」

「ん?」

 

一夏が鈴を呼び止めた。

 

「何よ?早くしないと野次馬が押し寄せてきちゃうんだけど?」

 

「わかってるって。静かに昼飯食えるところに案内してやるから付いて来い」

 

「え?それって何処よ?」

 

「説明は後だ。とにかく急ぐぞ!」

 

「へ?あ、ちょっと!」

 

説明してる暇はないと目で言いながら一夏は鈴の手を取るとそのまま走って教室を出た。

 

「他の奴らは後から合流するから俺達は先に隠れ場所に急ぐぞ」

 

「わ、わかったわよ。だから手ぇ放しなさいよ!」

 

「ああ、悪い悪い」

 

一夏は鈴の手を放す。

すると鈴は少しだけ顔を赤くする。

 

(い、いきなり手を握ってくるじゃないわよ!ちょっとドキッとしたじゃない!)

 

どうやらいきなり手を握られた事で恥ずかしさと驚きの両方が鈴を襲っていたようだ。

鈴は普段は自分から男子にちょっかいを出す事が多い。一夏の背中にタックルをかましたり、弾の頭をグーで殴ったり、数馬に蹴りを入れたりと結構男子との接触は多い。

しかし、それはあくまで自分からやっていることで男子の方から接触された事はほとんどないので先ほど一夏に手を握られて変にドキドキしてしまったのだ。

そして、そんな事など露ほどにも知らない一夏は

 

「どうしたソワソワして、トイレか?」

 

「なっ!違うわよバカッ!!」

 

突然のデリカシーの無い問いに鈴は怒って一夏の肩をグーで殴った。

 

「痛ぇ!肩殴るなよ!」

 

「うるさい!女の子に変な質問するな!!」

 

「わ、わかったよ。謝るから怒るなよ」

 

「フンッ!!」

 

「はぁ~、とにかく今は急ごう」

 

「う、うん」

 

2人は一夏の言う『隠れ場所』へと急いだ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アイキャッチしりとり

 

鈴「猫」

 

 

 

一夏「子犬」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「う~む、どうやら追手はいないみたいだな」

 

廊下の柱の影に隠れながら少し顔を出して一夏が追手がいないかどうかを確認する。確認したところいないようだった。

 

「で、アンタの言う隠れ場所っていうのは何処よ?」

 

「もう少しで着くよ。ほれ、ここだ」

 

2人はある一つの部屋の前に立った。

 

「ここって・・・」

 

「そう、生徒会室だ」

 

そう言うと一夏は生徒会室の扉を開けた。

 

「やあ、一夏、鈴ちゃん♪」

 

笑顔で2人を出迎えたのは藍越学園生徒会長で一夏の姉の十秋だった。

 

「と、十秋さん?」

 

「うん、いらっしゃい鈴ちゃん♪」

 

笑顔のまま十秋は鈴に近づいて彼女の頭を撫でる。

鈴も一瞬擽(くすぐ)ったそうな態度をしたがそのまま大人しく撫でられていた。

が、やはり訳がわからないといった顔をしているので

 

「さっきの休み時間に十秋姉からメールが来たんだよ。野次馬に困ってるんだったら昼休みは生徒会室使っていいよってな」

 

「うん。ここなら一般生徒は滅多に寄り付かないからね。静かにご飯を食べるには最適でしょ」

 

生徒会室はまず生徒会役員でもないかぎり立ち寄る事はまずないので一般生徒が来る事はまずない。ゆえに隠れ場所にはもってこいなのだ。これも生徒会長の姉を持つ者とその友人の特権なのであった。

 

「十秋さん、ありがとうございます」

 

「いえいえ、どういたしまして♪」

 

鈴のお礼に十秋も笑顔のまま答える。

 

「失礼しまーす」

 

「待たせてしまったな」

 

「ちわーっす」

 

「こ、こんにちは!」

 

シャルロット、箒、弾、数馬の4人が生徒会室に入ってきた。

 

「はい、シャルロットちゃん、箒ちゃん、弾くん、数馬くん、いらっしゃい♪」

 

遅れてきた4人にも笑顔でお出迎えする十秋。

この人当たりの良さが生徒会長となった理由のひとつであろう。

 

「と、十秋さん!!この度は昼食にお招きいただいてありがとうございます!」

 

数馬が何やら緊張した面持ちで十秋に挨拶をする。

 

※キャラ紹介に書きましたが数馬は十秋に惚れています

 

「弟の友人達のためだからね。これぐらいはお安い御用だよ♪」

 

「は、はい!ありがとうございます!!」

 

この場で数馬がお礼を言うのは何か少し変ではあるが全員気にしない。

 

「お腹空いちゃったね。さ、ご飯にしよっか?」

 

「「「「は~い」」」」

「は、はい!」←数馬です

 

この日は十秋を交えて昼食となったのだった。

 

 

 

今日の騒ぎが嘘だったかのように平穏に昼食が進み、食事中の会話も弾んでいた。今日の弁当の話、部活の話、授業の話など話題も絶えず生徒会室には笑い声が響いていた。

 

(コンコン)

 

すると全員が食べ終わったのを見計らったかのようなタイミングでドアがノックされた。

一瞬、一夏達がハッと身を固くする。

 

「ああ、大丈夫だよ。は~い、どうぞ~」

 

「失礼しま~す」

 

十秋は来客を招き入れた。入ってきたのは2年生の女子だった。胸の黄色いリボンがその証だ。ちなみに一夏達1年生は緑、十秋は3年生なので赤だ。

 

「はいはーい、はじめまして。私は2年の黛薫子。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。はいこれ名刺」

 

現れたのは新聞部副部長でエースの黛薫子だった。彼女は自己紹介を済ますと素早く全員に名刺を配った。

 

「で、その新聞部副部長が何でここに?」

 

「あたしが呼んだんだよ。噂の鈴ちゃんを取材したいなら生徒会室に来てってね」

 

「そういうこと。噂の凰さんにインタビューしに来ました~」

 

皆が「えっ!?」という顔で十秋を見る。

それはそうだ。匿ってくれたのに何故か新聞部を呼んだのだから行動が理解できないのだ。これでは鈴を新聞部に売るようなものだ。

 

「いやね、この手の噂って変に隠そうとすると尾ひれが付いたりして長引くんだよ。だったら新聞部の力を使って記事にしてもらった方が収拾も早いと思うだよね。鈴ちゃんも変に逃げ回るより早めに収拾してくれた方がいいでしょ?だから今日は薫子ちゃんに来てもらったんだよ」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「そうそう、それにもうすぐゴールデンウィークだからその前に記事を作って掲示すればゴールデンウィークが明ける頃にはもう収拾してると思うよ。ね、薫子ちゃん」

 

「はい。生徒達がゴールデンウィーク明けで浮かれていると思うからその頃にはもうすっかり落ち着いていると思います」

 

そう言われるとなんだかそんな気がしてきた鈴は取材を受けることを了承した。

この事態が早めに収拾するならこうした方が得策と判断したからだ。

しかし、鈴にはひとつ気になることがあった。

 

「あ、あのー、取材受けるのはいいんだけど、ソフトボール部の事でちょっと・・・」

 

「あー、その辺は心配しないで。ソフトボール部の沽券に係わるような事は書かないし、そもそも私が書きたい記事はあの投手戦のことだけじゃなくて凰さんがどういう人物なのかって事だけだから」

 

「そ、それだったらいいわ」

 

「じゃぁ、インタビュー始めまーす」

 

こうしてインタビューは始まった。

インタビューの内容はシンプルで名前や生年月日、好きな教科や好きな食べ物や趣味と言った簡単なプロフィールを紹介するようなものだ。

あとは件の投手戦に関してはどうして勝負をすることになったのかとか勝負の感想はとか簡単な質問で終わりを告げた。

 

「最後に写真を1枚撮らせてもらいまーす。ああ、どうせだから君達も一緒に入ってくれるかな?」

 

薫子はカメラを取り出すと一夏達に写真に写ってくれと言ってきた。

 

「え?俺達もですか?」

 

「そうそう、凰さんとその友人達という名目で記事に載せるから。ね、お願い」

 

一夏達は顔を合わせてどうしたものかと思考するが、鈴ひとりで写るよりは皆で写った方が鈴も喜ぶだろうと全員OKした。

 

「はーい、じゃあ並んで並んで」

 

薫子はテキパキと立ち位置を指示してカメラを構える。

 

「みんな、ありがとう!」

 

鈴が全員を見渡して笑顔でお礼を言った。

そんな鈴に全員も笑顔を返す。

そして全員カメラの方を向いた。

 

「それじゃあ撮りまーす。はい、1+1は~?」

 

「「「「「に~」」」」」

 

パシャッとデジカメのシャッターが切られた。

 

「ご協力感謝します。いい記事が書けそうだわ。では、私はこれで~」

 

そういうと薫子は生徒会室から出て行った。

やたらとテンションが高くてまるで嵐のようだったと一夏達は思った。

 

「ご苦労様。薫子ちゃんが変な記事を書かないって事はあたしが保証するから。心配しないでね」

 

「十秋姉がこう言ってるなら大丈夫だろ」

 

「そうね。十秋さんが言うなら」

 

そして十秋と薫子の言うとおり記事はその日の翌日にはもう出来上がって学校のあらゆる掲示板に掲示されていた。

掲示された記事を見た生徒達は鈴の元へ殺到する事はなくなり鈴の周りは平穏となった。

そしてゴールデンウィークが明けるころには本当に噂が鎮火することになるのであった。

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