ようこそ藍越学園へ   作:TAKUMAKI?

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ゴールデンウィーク
第十八話 シャルロットの膝枕 前編


ゴールデンウィーク。

それは誰もが待ち望んでいたほのかな連休。

パーっと買い物に行くも良し。友人や恋人と遊ぶのも良し。何もせずのんびりするも良し。

 

5月3日。憲法記念日。

現在の時刻はもうすぐ太陽が真上に立とうかという午前11時。

主人公たる織斑一夏はこの大型連休を心行くまで満喫―――

 

「やっぱ天気の良い休みの日は掃除と洗濯が気持ち良くできていいなぁ♪」

 

訂正。

いつも通りの休日だった。

朝は6時半に起床して朝食の用意。朝食の片付けが終わったら掃除と洗濯という完全に主婦の行動であった。

 

「毎度毎度思うが、お前は手を抜くって事を知らないのか?」

 

リビングでソファーに座って苦笑いしながら百春が一夏に尋ねた。

 

「お前もたまには家事とか忘れてのんびりしてもいいんじゃないか。お前だってまだ15の若者なんだしな」

 

「何言ってんだよ百春兄、こんな天気の良い日に掃除と洗濯が出来る気持ち良さが何とも言えないんじゃないか。それ以外に何があるってんだ?」

 

「まぁ・・・、お前がそれでいいんだったらそれでいいがな・・・」

 

15の健康な男子の発想とは思えない発言に百春は少し引きつった顔で笑う。

別にそれが悪い事とは思わないがまだ15歳という年齢でこんな発想が出る時点ですでに変である。

といってもこれが昔からの一夏の役割であり趣味といっても良い。

年長者の千冬は家事がまるでダメで、百春自身も医者になる為に勉強一筋だったためにそこまで家事はできないし、十秋は朝がダメなので休日の午前中はやっぱり一夏任せになってしまいがちなのだ。

 

「ふー、掃除と洗濯終了~」

 

いつも通り掃除と洗濯を終わらせた一夏はちょっと一息。

 

「この間外務省の佐々木さんから送られてきた玉露があったからそれを入れようかな。百春兄も飲むか?」

 

「ああ、じゃあ貰おう」

 

そう言って一夏は玉露を入れ始める。

百春も結局こうやって一夏に甘えてしまうのは一夏の人柄ゆえか。一夏自身も別に苦には思っていないので良しとしておこう。

ちなみに外務省の佐々木さんとは生前の両親にお世話になったという方でよく織斑家の贈り物をくれる人の1人だ。

 

「ん~む、やっぱ玉露はこの甘みがいいなぁ」

 

目を細めて玉露を啜る一夏。

先ほど家事をしていた姿は主婦然としていたがお茶を飲む姿はとても爺くさい。

 

「そういえば、うちの女性陣はまだ寝てるのか?」

 

「ああ、さっき掃除してるときにちょっと確認したけどまだ寝てた」

 

千冬と十秋はまだ起きてきていない。

寝起きが悪い織斑家の女性陣はすっかりゴールデンウィークの魔力にやられている。

 

「十秋姉はドアをノックしたら返事してたからまどろみタイムを絶賛延長中だと思う。千冬姉はノックしても返事なかったからまだぐっすりみたいけど」

 

十秋はもう半覚醒状態なのであろうがベッドの中でまどろみを享受しているようで、千冬は休みの日という事で前日は酒盛りしていたので未だぐっすりと惰眠を貪っている。

普段ならだらしないと叩き起こすのだが今はGWだ。それも許してやってもいいだろう。

 

「百春兄、昼飯なんだけど、うどんにしようかと思うんだけどいいかな?」

 

「ああ、俺はそれでいいぞ。麺類ならそれほど手間は掛からないし作り終わったらお前は今日はゆっくりしろ」

 

「でも午後は買い物に行くつもりなんだけど。今日は3丁目のスーパーで特売やってるんからそれに行こうかと思ってる。あと風呂掃除と庭の草むしりも」

 

「そんなものは後で俺と十秋でやっておくからお前は今日はのんびりしてろ。いいな」

 

「う、うん。わかったよ」

 

ちょっと納得がいかなそうに一夏が頷く。

家事は彼の趣味と言ってもいいものだからいきなりそれを禁止されてもやることがないのだ。

のんびりしようにも何をしたらいいのかわからない。

 

「ふぁ~、おはよ~」

 

そこに十秋が起きてきた。

 

「十秋姉、おはよう」

 

「おはようと言ってももう昼前だがな」

 

「千冬姉さんは?」

 

「千冬姉はまだ寝てる。昨日酒飲んでたみたいだからさ」

 

「そうなんだ。じゃあまだ起きてこないね。ああ一夏、掃除と洗濯やっておいてくれてありがとうね。お昼の用意はあたしがするから」

 

「え、いいの?でも十秋姉今起きたばかりだろ?」

 

「目はずいぶん前に覚めてたから平気だよ。ちょっと布団の誘惑に負けて起きられなかっただけだから」

 

「十秋もこう言ってる。お前はゆっくりしてろ」

 

「お、おう」

 

キッチンから追い出されてしまった。

ポツンと突っ立ていてもしょうがないので一夏はリビングで百春と一緒にテレビを見ながら昼食が出来上がるのを待つことにした。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アイキャッチしりとり

 

百春「糠付けうまー」

 

 

 

十秋「真心こめて漬けましたから♪」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

時間はお昼を過ぎた。

昼食の冷やしうどんを食べ終えてやることがなくなってしまった一夏は一旦自室に戻ってきた。

 

「のんびりしろって言われてもなぁ」

 

途方に暮れてしまっていた。

普段の休日は家事をする事で時間が潰れていたし、気が向いたらお菓子作りとかしていたくらいだった。この間も一夏は自分でブラウニー(ナッツ入りチョコレートケーキ)を作って夕食のデザートに出したほどで味も兄弟達を唸らせるほどの出来だった。

千冬にも「これならいつでもパティシエになれるな」と言われたが一夏は別にパティシエになりたいわけではなくあくまで趣味で作っただけだ。

が、それも先ほど百春に禁止を言い渡されてしまい本当に手持ち無沙汰だ。 

 

「どうしたもんかなぁ」

 

することもないので絨毯の上に寝そべっていると来客を告げるチャイムが鳴った。一瞬起き上がって客を出迎えようとするが1階には百春と十秋がいるのでどちらかが出るだろうと思って一夏は再び寝そべった。

すると、なんだか眠気が湧いてきてしまう。

 

(そういえば、こんな風に寝そべってボーっとするのって結構久しぶりだなぁ。天気も良くてなんだか気持ち良い風が窓から入ってくるし。もうこのまま寝てしまおう。うん、それがいい)

 

というわけで一夏はこのまま昼寝を決め込んだ。もうベットに行くことすら億劫になり近くにあったクッションを頭の下に持ってきてそのまま一夏は夢の中へ落ちていった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「なぁ、シャルロット」

 

「ん?なぁにイチカ?」

 

「僕たちが知り合ってもう1年近くになるだろ。そろそろおまえのことをあだ名で呼びたいんだけどいいかな?」

 

「ん?アダナ?」

 

「ニックネームっていうやつかな。すごく仲良しの人にはそういうのをつけるんだって十秋姉が言ってたんだ。ほら、シャルロットってちょっと長いから何か別の呼び方を考えてもいいかなと思ったんだ。どうかな?」

 

「う、うんっ。イチカがそうしたいならいいよ。」

 

「そうか!じゃあちょっと待って。今考えるから」

 

「う、うん」

 

「そうだなぁ。『シャル』なんてどうだ?呼びやすいし、こう呼ぶと仲良さそうじゃないか?」

 

「シャル、しゃる、char,――――Oui!C'est tres bon!(うん!凄く良いよ!)」

 

「お、その反応はOKかな?」

 

「うん、これからイチカはそう呼んで!」

 

「わかったよ、シャル!」

 

「うん!イチカ!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

懐かしい夢を見ていた気がする。

それはまだ一夏がシャルロットと出会ってまだ1年くらいの事。

シャルロットを『シャル』という愛称で呼びはじめた頃の夢。

 

「う・・・?」

 

ふと差し込んだ光が目に入り顔をしかめる。

そしてうっすら目を開けると

 

「一夏、目が覚めた?」

「シャ・・・ル・・・?」

 

シャルロットが窓から差し込んだ光を遮るように一夏の顔を覗き込んでいた。

 

「どうしてシャルがここに?」

 

「せっかく遊びに来たのに一夏ったら寝ちゃってたんだよ」

 

少し頬を膨らませるシャルロット。

 

「そ、そっか。それはスマン」

 

「いいよ。許してあげる。えへへ」

 

イタズラが成功した子供のようにシャルロットが笑う。

一夏の目にはそれが逆光越しになってなんだかとても美しく見えてしまう。

 

「ん?どうしたの?」

 

「い、いや、別に」

 

まさか見惚れてたなんて恥ずかしく言えないので一夏は目を逸らす。

 

(ん?待てよ・・・)

 

そこで一夏はある事に気付く。

 

(なぜこんなにもシャルの顔が近い?しかも何か頭の下に妙に柔らかくて心地良くて良い匂いする何かが・・・。―――――って!!!!!)

 

ふと体勢に気付いた一夏はがばりと起き上がった。

 

「シャ、シャル!お前、何してんだ!?」

 

「何って、膝枕だよ?」

 

「いやいや、そんな『おかしなことを訊くね』って顔されても・・・」

 

「一夏は嫌だったかな?僕の膝枕?」

 

ちょっとだけ顔を赤くして上目使いでシャルロットが聞いてくる。

一夏はうっと言って言葉に詰まる。

先ほどの逆光越しの顔を見た所為か一夏の目にはシャルロットがいつも以上に可愛く見えてしまいドキドキしてしまう。

膝枕自体は柔らかくて心地よかったし、おまけに良い匂いもしたので嫌とは思わなかった。むしろもうちょっとして欲しいとすら思えてきた一夏だが今は恥ずかしさが先行していてそれを口にはできない。

 

「嫌って訳じゃないさ。そのぉ・・・、き、気持ち良かったし・・・」

 

「そっか、良かった。えへへ」

 

邪気のない笑顔だった。

その笑顔を見て一夏の胸は高鳴った。

初めてフランスで出会った頃のように一夏はシャルロットから目が離せずに見つめる。

 

「ねぇ一夏。もうちょっとしてあげよっか?膝枕」

 

「へ?」

 

笑顔に見惚れていると不意にシャルロットがそんなことを言ってくる。

ポーッとしていた一夏は一瞬理解できなかった。

 

「ほら、遠慮しないで」

 

シャルロットは正座になって自分の膝の上をポンポンと叩く。

 

「で、でも俺もう起きちゃったし、眠くないぞ?」

 

「いいから。僕が一夏にそうしてあげたいの。ね?」

 

「・・・・。本当に、いいのか?」

 

「うん、いいよ!」

 

「じゃ、じゃあ、お願いします」

 

押しの強いシャルロットの提案に一夏は根負けしてしまう。

かくいう一夏ももうちょっと膝枕をして欲しいと思っていたのでこの提案はありがたかった。

ただやっぱりちょっと恥ずかしい。

 

「じゃあ、頭乗せるぞ?」

 

「うん」

 

ゴロンと横になって再び膝枕状態になる。

 

「辛くなったらすぐ言えよ」

 

「大丈夫。心配いらないよ。何ならまた寝ちゃってもいいよ」

 

「そ、それはさすがに・・・」

 

とは言ったもののシャルロットの膝枕はふかふかで本当に睡魔が戻ってきそうなほど心地良い。

良い匂いがするし何故かわからないが凄く落ち着く。

一夏はシャルロットの膝枕にすっかり魅了されていた。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

暫し無言の時が流れた。それは決して居心地の悪い沈黙ではなく落ち着いた心地良い静寂だった。

一夏はポーッと天井を見つめていてシャルロットも窓の外に視線をやっている。

傍から見ると新婚の2人がゆったりとした休日を過ごしていると言った感じに見えなくもない。

それほどまでに心地良い空間がこの部屋を支配していた。

 

ふと一夏はシャルロットに目をやる。

穏やかな顔で窓の外を眺めるシャルロットの顔はとても魅力的で母性を感じさせるほど美しかった。

一夏の視線に気付いたシャルロットは目で「何かな?」と言って顔を覗き込んでくる。

一夏も目で「なんでもない」と言って視線を元に戻す。

シャルロットもにっこりと笑って再び視線を窓の外に移した。

 

そんな心地良い空間を満喫しながら2人は暫くの間膝枕状態を続けていたのだった。

この不思議と落ち着く空気に身を委ねながら。

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