一夏は1年生のクラス分けが掲示された掲示板のところにやってきた。苗字の最初が「お」なので比較的に名前は上の方に書かれている事が多いので見つけやすい苗字なのだが一夏はそれさえも確認できなかった。
「うわ・・・、何この人だかりは」
掲示板の前は一夏と同じ新入生で溢れかえっていた。ざっと見渡しても100人以上はいそうだった。自分は何というタイミングでここに来てしまったのだろうと一夏は思った。別に人ごみを掻き分けて行くのは一夏にとっては苦にはならないがもうちょっと空くのを待った方が利口なのではないかとも思っていた。
「さて、どうしたものかね」
「ホント、どうしようね?」
「ん?」
突然自分の独り言に応答するように声を掛けられて一夏はそちらを見る。
そこには1人の少女がいた。
人懐っこそうな顔で瞳はアメジスト。髪は濃い金髪で黄金色のそれを首の後ろで丁寧に束ねている。日本人離れした容姿のその少女は一夏にとっては特別な少女であった。
「シャルじゃないか!」
「うん!」
にこっっと少女は微笑む。彼女の名は『シャルロット・デュノア』といい名前や容姿でわかるように日本人ではない。彼女はフランス人で一夏の幼馴染の1人だ。ちなみに一夏は彼女を『シャル』という愛称で呼んでいる。
「久しぶりだなシャル!」
「うん、前に会ったのは3年くらい前だったよね」
「そっか、もうそんなになるか」
「でもすぐに僕だってわかってくれたね」
「そりゃわかるさ、シャルの事ならな」
「う、うん」
「ところで何でここにシャルが?何時日本に来たんだ?ってゆーか何で藍越学園の制服着てるんだ?」
「一夏、そんなに一度に質問されても困るんだけど」
「ああ、すまん」
「うん、まずは質問の答えだけど僕は留学生として日本に来たんだ。日本に着いたのは2日前かな。何で藍越学園の制服を着ているのかは今日から僕も此処の生徒だからだよ」
「そうなのか?」
「驚いた?」
「ああ、驚いた」
「僕の計画成功だね♪」
「それにしてもよく藍越に入れたな」
「留学の話が来てね、どうしようか迷ったんだけど学校の名前聞いたら一夏がメールで言ってた学校だったから留学決めたんだ」
「ってゆーか言ってくれれば空港まで迎えに行ったのに」
「それじゃサプライズにならないよね?」
「その演出はいるのか?」
「僕が一夏を驚かせたかったからね」
「はいはい。お、掲示板の前かなり空いたな。見に行くか」
「うん」
「日本に来るの久しぶりだろ?何か困ったことあったら言えよ?協力するからな」
「ありがとう、一夏!」
またしてもにこっとシャルロットは笑顔を見せる。その無防備な笑顔に一夏はドキッとしてしまうが彼女の笑顔につられて一夏も笑顔を見せる。傍からみれば仲睦まじいカップルに見えなくもない。実際一夏はシャルロットの笑顔が大好きだしシャルロットは自分を笑顔にしてくれる一夏の事が大好きなのだ。
そして一夏は思った。
(この笑顔はあのときと同じだ)
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アイキャッチしりとり
シャル「ねぇ、こっちを向いてよ♪」
一夏「よ、4秒経ったらな!」
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一夏とシャルロットの出会いはまだ一夏が小学校に上がる直前の春休みだった。まだ健在だった織斑家の両親が仕事でフランスに行くことになりそれに子供である一夏達が付いていったときだった。
両親が公務を終えて一夏達を連れてフランス観光に繰り出したときに訪れた公園で一夏は1人ブラブラと公園内を探検していた。そんなとき公園の入り口で泣いている女の子を見つけた。
その少女こそシャルロットだった。一夏はフランス語がほとんどわからないにもかかわらずその泣いている女の子に話しかけたのだ。突然話しかけられてシャルロットは困惑と怯えた表情をしていたが一夏は泣いていた彼女を放っておくことができなかったのでちょっとだけ両親に教えられていたフランス語で彼女を泣き止ませようとした。このときに一夏が知っていたフランス語は簡単な会話や挨拶と自己紹介くらいしかなかったが拙いフランス語で彼女を笑顔にしようと必死だった。シャルロットも自分を泣き止ませようとしていると感じたのか徐々に泣き止んでいった。
そこに四季が一夏を呼びにきて見知らぬ少女がいることに気付いた。四季はフランス語でシャルロットに事情を聞いてくれた。どうやらシャルロットは母親と逸れてしまって泣いていたようだった。
一夏は四季と一緒に彼女の母親を探してあげることにした。公園内にいた父親と姉達に断りを入れてから一夏達はシャルロットの母親を探し始めた。その間一夏はずっとシャルロットの手を握っていた。シャルロットは恥ずかしそうに頬を赤く染めて俯いていたがその手を振り解こうとはしなかった。
それから数分後にシャルロットの母親は見つかった。シャルロットは母親に抱きつきながらまた泣き始め彼女の母も安堵の顔を浮かべて彼女を抱きしめていた。一夏も安心の笑みを浮かべてシャルロット母子の抱擁を見ていた。
すると四季は何やらフランス語でシャルロットに耳打ちをした。そしたらシャルロットは顔を真っ赤にして狼狽していた。母親達はそれを見て笑っている。一夏だけが訳がわからずに首をかしげていたが母親に背中を押されてシャルロットは一夏の目の前にやって来た。シャルロットはモジモジしていて一夏はまた首をかしげたが意を決したようにシャルロットは顔をあげてこう言った。
「アリガトウ、イチカ!」
シャルロットは拙い日本語であったがとびきりの笑顔で一夏にお礼を言った。
(ドキッ!)
そして一夏は初めて見せてくれた彼女の笑顔に胸を撃たれたような感じがした。
彼女の笑顔から目が離せなかった。
この事が縁となり一夏とシャルロットは幼馴染となった。
両親も共に親しくなり手紙を遣り取りするようになった。長い休みになれば一夏がフランスに遊びに行ったりシャルロットが日本に遊びに来たりもした。
一夏は彼女を愛称で呼ぶようになりシャルロットも日本語を学んで一夏と日本語で話せるようになった。
シャルロットが自分の事を『僕』と呼ぶのも当時の一夏の一人称が『僕』だったからそれを真似したのが始まりなのだ。いつしか一夏の一人称は『俺』になったがシャルロットは『僕』と呼ぶのをやめなかった。あの頃の思い出が色褪せてしまわないようにとシャルロットは思っていた。そんな思いを知ってか一夏もそのことには反対はしなかった。一夏もその想いは一緒であった。
「お、俺は1組だな」
クラス発表の掲示板に一夏は自分の名前を見つけた。
「あ!僕も1組だよ!」
シャルロットも1組のところに名前があった。これではれて2人は同じクラスなった。
「よろしくね、一夏」
「ああ、よろしく」
握手を交わす2人は互いに微笑む。
「よし、教室行くぞ」
一夏はシャルロットの手を握り直して彼女の手を引いて歩き出す。
一夏はふっと空を見上げた。雲一つ無い快晴で絶好の入学式日和だ。
そして再会した幼馴染にあの台詞を言いたくなった。
「シャル!」
「何?」
「ようこそ藍越学園へ!!」