ようこそ藍越学園へ   作:TAKUMAKI?

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第十九話 シャルロットの膝枕 後編

時間は一夏が部屋で眠りこけてしまった時間まで遡る。

 

(ピンポ~ン)

 

「は~い。あら、シャルロットちゃん」

 

「こんにちは、十秋さん」

 

お昼を過ぎた13時ごろ、シャルロットが織斑家を訪ねてきた。

 

「一夏に会いに来たの?お約束?」

 

「いえ、別に約束してたというわけじゃないんですけど、せっかくのお休みですので遊びに来ました」

 

「そうなの。まぁとりあえず上がって」

 

「はい、お邪魔します」

 

織斑家に上がったシャルロットは十秋に連れられて一度リビングへ移動した。

 

「こんにちは、百春さん」

 

「シャルロットか。よお」

 

リビングでテレビを見ていた百春にも挨拶する。

 

「一夏に会いに来たのか?」

 

「それもあるんですけど、せっかくのお休みですからね。織斑家の皆さんと一緒に過ごそうかと思いまして」

 

「そうか。まあ、ゆっくりしていけ」

 

「はい」

 

相変わらずぶっきらぼうな百春だがシャルロットは気の許せる相手なので自然体で接している。これが百春の地なのだ。

 

「それで、一夏はどこに?」

 

「一夏なら自分の部屋にいるぞ」

 

「わかりました」

 

「シャルロットちゃん、ゆっくりしていってね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

十秋と百春にお礼を言ってからシャルロットは2階へと上がっていった。

 

 

「ICHIKA」と書かれたネームプレートの掛けられているドアの前でシャルロットはドキドキしながらそのネームプレートを見つめていた。

 

(考えてみれば一夏の部屋にお邪魔するのって子供の頃以来なんだよね・・・)

 

これまでに何度も織斑家にお邪魔した事はあるシャルロットだが一夏の部屋を訪ねるというのはあまりしたことがない。

子供の頃は遊ぶなら基本外だったし、寝るのも客室か千冬か十秋の部屋だったので一夏の部屋を訪れる経験が数えるほどしかないのだ。

ましてや今はお互いに15歳。年ごろでしかも意中の異性の部屋。緊張してしまうのも仕方がないことであろう。

 

 

「大丈夫、大丈夫・・・。一夏は迷惑がったりしない・・・よね、たぶん。あ、でもいきなり押しかけちゃうのもやっぱりよくないかな?部屋に見られたくないものとかあるかもしれないし・・・」

 

心を落ち着かせようと自分に言い聞かせていたのだが、いきなり押しかけるのはよくないかという考えてしまう。が、見られたくないものという思考に達したときにシャルロットは目を見開いてハッとなった。

 

(男の子の見られたくないものって、やっぱりそのぉ、え、ええ、えええ、エッチな本とかなのかな!?だ、駄目だよ一夏そんなの!!年ごろの男の子ならしょうがないのかもしれないけど・・・、と、とにかくそんなの駄目!!で、で、でも、一夏が言ってくれれば僕が見せてあげても・・・。って僕は何を考えて!!で、でも一夏がちゃんと望んでくれれば僕は別に・・・)

 

突如ピンクな妄想をし始めるシャルロット。

心は落ち着くどころか逆にオーバーヒートしてしまいそうなほどに暴れてしまっている。

ちょっとの間、シャルロットは一夏の部屋の前で顔を赤らめながらブツブツとつぶやいていた。

 

「そんなところで何をブツブツ言っている」

 

(べしっ)

 

「はうっ!?」

 

脳天に軽い衝撃が走った。

振り返ると寝起きなのかラフな格好をした千冬が立っていた。先ほどの衝撃は千冬がシャルロットの脳天にチョップをかましたからであった。

 

「ち、千冬さん!?こ、こんにちは!」

 

「まったく、何をしているか馬鹿者が」

 

「す、すみません・・・」

 

呆れたようにため息をつく千冬にぺこりと頭を下げるシャルロット。

人の家で何を考えていたんだとちょっと自己嫌悪に陥ってしゅんっとなる。

 

「では、私は下に降りる」

 

「は、はい」

 

千冬はくるりと背中を向けて廊下を歩いて階段の方へ歩いていった。シャルロットは千冬の姿が見えなくなるまでその背中を見送った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アイキャッチしりとり

 

千冬「楽にしてやる」

 

 

 

シャル「留守番電話サービスに接続しまーす♪」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「ええっと。じゃあ、改めて」

 

(コンコンッ)

 

ドアをノックする。

 

「一夏、僕だよ。今平気かな?」

 

なるべく自然に声を掛ける。変なことは考えずに平常心。これがシャルロットの結論だった。

 

(し~ん)

 

「?」

 

ノックもして声も掛けたのだが部屋の中から一夏の返事がなかった。

 

(コンコンコンッ)

 

「一夏~?いないの~?」

 

もう一度ノックして呼びかけるがやはり返事はない。

 

「一夏?入るよ?」

 

ちょっと悪いとは思ったがシャルロットは一夏の部屋のドアを開けた。

部屋に入ると絨毯の上でゴロンと横になっている一夏を見つける。

 

「一夏?」

 

側に寄ってみると一夏は頭の下にクッションを敷いて寝息をたてていた。

 

「ね、寝てる・・・」

 

ちょっとがっかりとするシャルロット。

そういえば部屋の前でちょっと騒いでいたのに一夏の部屋から反応がなかったのはこのためだったのかとシャルロットは今気付いた。

 

「ま、まったく一夏ってば僕の気も知らないで」

 

呆れたように言葉を漏らす。

これでは部屋に入る事に緊張していた自分がバカみたいだった。

そう思うとほんのちょっとだけ腹が立った。

 

「そんな一夏には、こうしちゃうからね!」

 

シャルロットは一夏の頬に指を当てて突っつく。

 

(ツンツン)

 

「ん~」

 

一夏が少しだけ顔をしかめて声を漏らす。

しかしまた何もなかったかのように寝息を立てる。

 

(ツンツンツンツン)

 

「ん~、ん~」

 

先ほどは2回突っついたので今度は4回突っつく。

そうすると一夏も先ほどは1回だった「ん~」を2回言った。

 

(ツンツンツンツンツンツン)

 

「ん~、ん~、ん~」

 

6回突っつくと一夏は3回「ん~」と言った。

シャルロットは一夏の反応が段々と面白くなってきたのでしばらく一夏の頬を突っついて遊んでいたのだった。

 

「ぷっ、あははっ!一夏ってばおかしいなぁ♪」

 

おもちゃみたいな反応を返してくる一夏に堪らず笑ってしまう。

その反応があまりにも面白いのでシャルロットも頬プニを30連射するまでに至った。

当然一夏は「ん~」と15回言ったのだった。

 

「さすがにそろそろかわいそうかな」

 

シャルロットは頬プニを止めて穏やかな笑みを浮かべる。

先ほどのちょっとしたご立腹は何処へやらだ。

しかし一夏が寝ていては特にする事がない。

一夏が起きるまで時間を持て余してしまうのでどうしたものかと思っていると

 

「あ」

 

何かが閃いたような声を出すシャルロット。その頭上で豆電球がパッと光った。

思い立ったが吉日。シャルロットは早速行動に移す。

 

「一夏、ちょっとゴメンね」

 

そう言って一夏の頭の下に敷いてあるクッションを取り除いて自分の足をその下に滑り込ませる。

膝枕状態の完成だ。

 

「えへへ。一夏が起きたら驚くかな♪」

 

満面の笑みを浮かべてシャルロットが一夏の顔を覗き込む。

 

「一夏の寝顔可愛いなぁ♪」

 

今にもポワポワと音が聞こえてきそうなハッピースマイルのシャルロット。

寝ている意中の相手に膝枕をする事がこんなにも幸せなことだとは思いもしなかった。

ハッピースマイルを浮かべたまま一夏の頭を撫でる。

 

「うにゅ・・・、シャルゥ・・・」

「え?」

 

ボソッとした声だったがシャルロットの耳には確かに聞こえた。今一夏が自分の名前を言ったのを。

 

「僕の夢を見てくれてるのかな?」

 

シャルロットは心なしか嬉しそうにした。

自分の好きな異性が自分の夢を見てくれているのだ。大多数の者は嬉しいだろう。

 

「・・・シャル、これからはそう呼ぶ・・・」

「あ、もしかして、あの時の・・・」

 

それは今から8年前の春。

一夏とシャルロットが知り合って1年が過ぎた頃。

お互いにすっかり打ち解けあって生まれたときから一緒にいるかのように仲良くなった2人。

シャルロットも拙いながらも日本語が少し喋れるようになり言葉の壁さえも問題が無くなってきた頃だ。

一夏が自分の事を愛称で呼びたいと言ってきたのだ。

そこで付けられた愛称が『シャル』だった。

この世界で唯1人、一夏だけが使っている自分の愛称。

他の織斑家の者や箒、鈴、ましてや両親でさえも使っていない。

そう呼ぶのは一夏だけ。

子供心にシャルロットは『自分は一夏にとって特別な存在』と感じられて凄く嬉しかった。

だからこそこの愛称は一夏しか使っていないのだ。

 

「ズルイよねぇ、一夏は。こんなにも僕の心を揺り動かすんだもん」

 

自分の膝の上で安らかに眠る一夏に愛しさがこみ上げてきてシャルロットの胸の高鳴りは一段と強くなる。

今もこうして膝枕をして彼の寝顔を独占している。

今はその事が彼女には何よりも幸せだった。

シャルロットは一夏を見つめ、そして、彼の顔に自分の顔を寄せ

 

(CHU)

 

寝ている彼の頬にそっとキスをした。

 

「大好きだよ、一夏・・・」

 

そして、一夏が起きるまでの暫くの間、シャルロットは彼の寝顔を見つめ続けたのだった。

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