ようこそ藍越学園へ   作:TAKUMAKI?

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第二十話 昔のように

「悪いなシャル。長時間膝枕させちまって」

 

「ううん、全然大丈夫だよ。僕がそうしたかっただけなんだから」

 

あれから1時間ほど膝枕状態が続き、一夏も悪いとは思っていたのだがシャルロットの膝枕があまりにも心地良かったためつい甘えてしまいちょっとうとうとしてしまったのだった。

今は2人は簡易テーブルの前に並んで座って十秋が入れてくれたダージリンのストレートティーを飲んでいる。

 

「それにしたって退屈だったんじゃないか?話をするわけでもなくただのんびりしてただけだったし」

 

「大丈夫だよ。あんな風に何もしないで静かにボーっとしてるのも結構好きだからね。それにいいもの見せてもらったしね」

 

「いいものって?」

 

「一夏の寝顔♪」

 

「ブッ!」

 

紅茶を噴出す一夏。

 

「一夏の寝顔すごーく可愛かったよ♪」

 

「で、できれば忘れてくれ・・・」

 

「寝言も言ってたけど聞きたい?」

 

「い、いや、いい!やめてくれ!!」

 

「うふふっ♪」

 

恥ずかしげにワタワタとする一夏が面白くてシャルロットは笑みを溢す。

 

「まったく、シャルには敵わないなぁ・・・」

 

頭をポリポリ掻く一夏。

こういうときに口ではシャルロットには勝てないのだった。

 

「そういえば、ちっちゃい頃はよく一緒にお昼寝とかしたよね」

 

「ああ、言われてみればそうだな。うちの縁側とかシャルの家のリビングとかでよく一緒に寝てたっけな」

 

「それを見てよくお父さん達が写真撮ってたんだよね」

 

「そうだったなぁ。あとで写真見せられて凄く恥ずかしかったのを思い出した」

 

「十秋さん達もその写真見てからかってきたりしたよね」

 

あの親達の意地の悪いニヤニヤした表情を2人は思い出して少し苦笑い。

ぴったり寄り添って手を握り合って寝ている2人の姿が親たちにはとても愛らしく見えたようでもう何十枚と写真を撮っていたくらいだった。

 

それから2人は子供の頃の思い出話に花を咲かせていた。

 

例えば、シャルロットが初めて日本の織斑家を訪れたときの話

 

『イチカ、ヒサシブリ、アイタカッタ!』

 

「そう言って僕は一夏に抱きついたんだよね」

 

「突然抱きつかれたから驚いたし凄く照れたぞ」

 

「でもちゃんと抱きとめてくれたよね?」

 

「ま、まぁ、俺もシャルに会えて嬉しかったし・・・」

 

「そうなんだ。えへへ♪」

 

例えば、春に桜が咲き誇る中でした花見の話

 

「桜をちゃんと見たのはあれが初めてだったかな」

 

「そういえばフランスって花見の習慣無いんだよな」

 

「桜自体は咲いてるんだけどね。あんな風に桜を見ながら食事をする事はしてなかったから結構新鮮だったよ。花もフランスの桜より綺麗だったし」

 

「そんな綺麗な桜の下で親達はドンチャン騒ぎしてたわけだけどな・・・」

 

「あはは、あれは凄かったね・・・。結局皆酔いつぶれちゃって千冬さんと百春さんが介抱してたし」

 

「おかげで帰るのが凄く遅くなったけどな」

 

例えば、夏に海水浴に行ったときの話

 

「母さんの水着姿を父さんは鼻の下伸ばしながら褒めちぎってたな。母さんもまんざらじゃなさそうにしてて、父さんの身体も格好良いって褒めてたし・・・」

 

「お互いに褒め殺し、と言うよりイチャついてるって感じだったよね。さすがにあれは僕も見てて苦笑い出ちゃったなぁ・・・」

 

「あの2人の周りだけは気温が5℃は上がっていただろうな」

 

「千冬さん達も呆れてたしね」

 

「万年新婚夫婦だったからなぁうちの両親は・・・」

 

「その後に一夏僕の水着姿ちゃんと褒めてくれたよね」

 

「まあ、その、なんだ。シャルの水着姿可愛かったし・・・」

 

「えへへ、ありがとう♪」

 

「散々十秋姉達にからかわれたけどな・・・」

 

例えば、秋の穏やかな空気の中でのピクニックの話

 

「僕が虫を怖がってたら一夏わざわざ捕まえて突きつけてくるし」

 

「あれはコミュニケーションだって。気にするなって」

 

「気にするよ。僕をいじめて楽しかったの?」

 

「だってシャルのリアクションが可愛くってさ。・・・いや、待てよ。確かその後千冬姉に殴られた覚えが・・・」

 

「『女の子の嫌がることをするな馬鹿者!』って拳骨貰ってたよね。でもその後に十秋さんが悪ノリして千冬さんの背中に虫入れたんだよね」

 

「千冬姉も虫が苦手だったけど十秋姉は平気な顔して虫に触ってたからな。あのとき千冬姉が珍しく大慌てして百春兄に虫を取ってって言ってたっけ」

 

「あははっ、そうだったね」

 

例えば、冬に雪が降り積もる中でのかまくら作りの話

 

「突然父さんがシャルに『日本の雪国のわびさびを教えてやろう』なんて言い出したんだよな」

 

「それでみんなでかまくら作り始めたんだよね」

 

「全員で張りきって作った結果、全員が余裕で入れるような巨大なかまくらが庭に出来上がったんだよな」

 

「初めて入ったかまくらの中は意外と暖かかったな。その後全員その中でお茶飲んだんだよね」

 

「あれこそ団欒って感じだったよな」

 

 

 

「こうやって子供の頃の話をするのって初めてだね」

 

「そうだな。3年間顔合わせてなかったってのもあるけど、やっぱりあれだな・・・。父さんと母さんの事思い出しちまうからな・・・」

 

一夏の顔に少し蔭りが映る。

 

「一夏・・・」

 

シャルロットもなんとも言えない顔をする。

 

「ゴメンね。僕はそんなつもりじゃ・・・」

 

「気にしないでくれ。確かに父さんと母さんの事はまだ思い出すと悲しくはなるけど、俺は独りじゃないからさ。千冬姉達家族がいる。箒や鈴のように友達がいる。そして何より、シャルがいてくれるだろ」

 

「うん、そうだね。一夏さえよければ僕は一夏の側にいるよ」

 

「シャルは覚えてるか?父さんと母さんが亡くなってから俺はしばらく塞ぎ込んでいた時期があっただろ?あのときシャルが必死で俺のこと慰めてくれたんだよな」

 

「僕にはそれぐらいしかできなかったから」

 

「それぐらいなんかじゃないさ。電話だって週に1回は必ずくれただろ?国際電話って凄く高いのに。手紙だって小まめにくれたし、うちに来たときはずっと俺の側にいてくれただろ?俺はそれが凄く嬉しかったんだ。俺が今こうしていられるのはシャルのおかげなんだ。感謝してもしきれないくらい助けてもらったさ。だから―――」

 

「あっ・・・」

 

一夏はシャルロットを優しく抱きしめた。

 

「ありがとう、シャル」

 

精一杯の感謝の気持ちを込めて一夏はシャルロットにお礼を言う。

シャルロットは顔を赤くして少し身体を強張らせていたが離れようとはしなかった。

 

「うん、僕が一夏の力になれたなら嬉しいよ」

 

シャルロットは手を一夏の背中に回して優しく抱きしめ返した。

その温かさに一夏は少しだけ涙をこぼしそうになる。

何故涙がこぼれそうになるのかは一夏自身にもわからなかった。

 

「一夏、大丈夫だよ・・・、大丈夫だから」

 

シャルロットが優しげに呟き、何度も背を叩く。

宥めるような感覚に一夏は身を委ね、抱きしめる腕に少しだけ力を込めた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アイキャッチしりとり

 

シャル「すっかり委ねちゃったな」

 

 

 

一夏「なんか恥ずかしい・・・」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

しばらくの間抱きしめあった2人は名残惜しむかのように身体を離した。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

互いに顔を赤く染めて視線を逸らす。

今になって抱きしめあった事が恥ずかしくなったらしくドギマギしてしまっている。

照れ臭さからか、暫しの静寂が部屋を支配していた。

 

(コンコンッ)

 

「「!?」」

 

「一夏ぁ~、そろそろ夕飯の準備するから手伝ってくれる~?」

 

十秋のノックと呼びかけに一瞬だけ身を竦ませる2人。

どうやら昔話や抱きしめあっているうちに結構な時間が経っていたらしくもう夕飯の準備をする時間になっていた。

 

「お、おう。わかった!今行くよ!」

 

「うん。ああ、シャルロットちゃんも今日は夕飯食べて行ってね」

 

「あ、はい!それじゃいただきます!」

 

「じゃあ、下に降りてるね~」

 

パタパタと十秋の足音が遠ざかっていった。

足音が聞こえなくなると2人は顔を見合わせて小さく笑う。

 

「行こうぜ」

 

「うん」

 

一夏が先に立ち上がりシャルロットの手を取り立たせる。

そして手を繋いだまま2人は部屋をあとにした。

 

 

 

 

夕食時の会話もそこそこにしていた時に十秋がこんな提案をした。

 

「そうだ!シャルロットちゃん、今日泊まっていったら?」

 

「え?」

 

「子供の頃みたいにうちに泊まっていって。ね?」

 

「で、でも寮はすぐ近くだから迷惑にならないように帰りますよ?」

 

「迷惑なんかじゃないよ。ね、皆」

 

「私は構わんぞ」

 

「俺も構わない。部屋は客間が空いているし、寝る所は困らんだろ」

 

「なんなら一夏の部屋にお布団用意するけど」

 

「な、何言ってんだよ!十秋姉!」

 

「馬鹿者!そんな事私が許さん!」

 

「あら、残念」

 

「ま、まったく何考えてんだよ・・・」

 

「あ、あははははっ・・・」

 

「客間が空いているんだからそこに寝てもらえばいいだろう」

 

「そうだね。あとで客間を整えておくよ」

 

「本当に、いいんですか?」

 

「そうさせてもらえよシャル。皆こう言ってる事だしさ」

 

「う、うん」

 

「決まりだな」

 

「大歓迎だよ♪」

 

「じゃあ、お世話になります!」

 

嬉しそうに微笑んだあとシャルロットはぺこりと頭を下げた。

織斑家の面々も顔を見合わせて笑みを浮かべた。

こうしていると何か昔に戻ったようでとても楽しくなってきた5人だった。

 

 

 

 

 

「シャルの番だぞ。・・・、シャル?」

 

「すぅ・・・、すぅ・・・」

 

夜も更けて、全員でトランプをしているとシャルロットが途中で寝息を立てて寝てしまっていた。

 

「あらら、シャルロットちゃん寝ちゃったね」

 

「そういえば昔から大体最初に寝落ちするのってシャルだったよな」

 

「もういい時間だ。俺たちもそろそろ寝るとしよう」

 

「そうだな。おい一夏、シャルロットを客間のベットに運んでやれ」

 

「え?お、おう」

 

千冬の指示で一夏はシャルロットを抱えて客間へと運ぶ。

抱き方はもちろんお姫様抱っこだ。

客間に着くとベットの上にシャルロットをそっと降ろす。

そして掛け布団を掛けようとすると

 

「いちか・・・」

 

「ん?」

 

名前を呼ばれてシャルロットの顔を見るがシャルロットは再び規則正しく寝息を立てていた。

 

「寝言か」

 

掛け布団を掛けてやりそれからシャルロットの顔を覗き込む。

 

「これでお互い寝顔を見られてあいこってとこだな」

 

一夏はシャルロットの寝顔を見ながら彼女の頭を撫でた。

 

「おやすみ、シャル」

 

寝ているシャルロットにそう告げると一夏は客間を後にした。

こうして織斑家のゴールデンウィーク初日は終わりを告げた。

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