ようこそ藍越学園へ   作:TAKUMAKI?

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第二十五話 デートには下調べが必須です。でも終わりよければ・・・

一夏とシャルロットが訪れたのは駅前通りにあるちょっとお洒落な感じのオープンカフェだった。

普段の一夏なら滅多に寄り付かないような店だが今日はデートということもあってこの店を選んだ。

この店は前に千冬と十秋の買い物に付き合わされた時に3人で入ったことがあり、そのときから洒落ていて良い店だなと一夏も思っていた。

「今度はデートの時にでもここに来るといい」と千冬に言われたのを思い出し、実際今デート中なので一夏はこの店に来ることにしたのだった。

 

「へぇ、お洒落だねここ。内装もすごく綺麗だし」

 

「綺麗だけじゃないぞ。うまくてリーズナブルだ」

 

「至れり尽くせりだね」

 

席に案内されてから注文までは結構スピーディに行われた。

もともと外食といえば弾の家の定食屋と鈴の家の中華料理店くらいしか行かないのだが、注文はなるべく迷わずにすらすらとするのが織斑家の決まりなのだ。

 

 

「ふぅ、食後の紅茶はうまい・・・」

 

ランチを済ませた2人は優雅に食後の紅茶を飲んでいた。

 

「すごく美味しかったね。生パスタってメニューに書いてあったよね」

 

2人が注文したのは本日のオススメランチの蟹クリームスパゲッティとデザートの梨のタルト。

それは2人を充分に満足させるものだった。

トマトクリームと蟹の身が絶妙に絡んで香りも良好。おまけに価格がデザートとアフタードリンク付きでお一人700円というカフェ飯としては破格の安さだ。

 

「あの安さでこれだけの料理が食べられるんだね。僕ここ気に入ったよ」

 

「雰囲気もいいからデートには最適だな」

 

「昼食ラッシュの時間帯なのに意外と空いてたのもラッキーだったね」

 

「そうだな。結構俺達運がいいのかもな」

 

「うん、そうだね」

 

シャルロットは嬉しそうに笑みを浮かべて紅茶の香りを楽しんでいた。

そんな彼女を一夏はじっと見つめる。

 

「ん?どうしたの一夏、じっと見て」

 

「ああ。なんかいいなって思って、シャルを見てた」

 

「そ、そう・・・、もう、ちょっと恥ずかしいよ」

 

「あはは、ゴメンな」

 

頬を赤く染めて少しモジモジするシャルロット。

ちょっとクサかったかなと頬を掻く一夏。

初々しいカップルのような雰囲気が2人を包んでいた。

それでいて幸せそうな表情で2人は昼下がりのランチを楽しんだのであった。

 

 

「さて。そろそろ時間もいいころだし、映画観に行こうぜ」

 

オープンカフェを出ると一夏は携帯の時計で時間を確認する。

 

「そうだね。行こうか」

 

時刻はPM13:03

チッケトに書かれた映画の時間は14時なのでもう映画館に向かってもいい頃合いだ。

自然と互いの手を取って2人は歩き出した。

 

「そういえば、結局映画は今何やってるのか調べてなかったんだけど、シャルは何やってるのか知ってるか?」

 

「実は僕も知らないんだ。このチケットも一昨日十秋さんが商店街の福引きで当てた物らしいから」

 

「一昨日福引きで当てて期限が今日までとは詐欺もいいとこだな」

 

「そうだね。だから十秋さんも用事があって行けないから僕にくれたらしいんだけど」

 

「調べてくればよかったな。変な映画やってないといいけど」

 

「行ってみればわかるし、大丈夫だと思うよ」

 

2人はレゾナンス内の映画館へ向かった。

 

しかし、2人は今ここの映画館で上映している映画を調べてこなかったのを若干後悔する事となるのである。

 

 

 

下調べ した‐しらべ[名](スル)

1 あらかじめ調査しておくこと。「ロケ地を―しに行く」

2 学習をする部分をあらかじめ勉強しておくこと。予習。

 

これが意味する通り事前に確認することはとても大事な事である。

例えば、今日向かう映画館ではどんな映画が上映されているのかなど。

 

 

映画館の掲示板に今上映されている映画のポスターがデカデカと張られていた。

タイトルにはこう書かれていた。

 

『死霊たちに捧げるゾンビの歌 ~恐怖と混沌の宴~』

 

簡単に言えば、ホラー映画だ。

 

「おいおい、これってメチャクチャ恐いって評判のやつじゃないか・・・。失神した客が何人もいるとか、上映禁止になった映画館があるとか・・・」

 

「・・・・・」

 

一夏は横目でシャルロットを見た。

青ざめた顔をしたまま固まっていた。

 

「なあシャル」

 

「な、何かな・・・?」

 

ブリキ人形みたいにギギギッとゆっくり一夏の方へと顔を向けるシャルロット。

 

「お前もしかしてホラー映画苦手なのか?」

 

「ななな、何を言ってるのかな!?べべべ、別に恐くなんてないんだからね!!」

 

「そう言いながら目が泳いでるぞ」

 

「幻覚だよ!錯覚だよ!気のせいだよ!」

 

「・・・・」

 

あからさまに恐がっているのを隠しているシャルロットに一夏は少し呆れる。

こんなときまで優等生にならなくてもいいと思うのだが。

 

「しかし今日上映してるのってこれしかないみたいだけど」

 

「そ、そうみたいだね・・・」

 

「本当にこれでいいのか?」

 

「うぅ・・・」

 

「なあ、映画はやっぱり止めるか?どっか別のところで」

 

「い、いや、せっかくのチケットが無駄になっちゃうし・・・、これを、観よう・・・」

 

「本当に大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫だよ。ほ、ほら行こう・・・」

 

シャルロットは顔を引きつらせながらぎこちない歩き方で映画館へ入っていった。

一夏も不安を覚えつつもあとに続いた。

 

「ほらシャル。ポップコーンとジュースだ」

 

「あ、ありがとう」

 

間接照明に照らされた、かすかなざわめきと熱気に満ちた館内に一夏とシャルロットはポップコーンと飲み物を手に上映時間が訪れるのを待っていた。

 

「あ、あのさ一夏」

 

「ん?」

 

「一夏は映画館にはよく来るの?」

 

「いや、俺はそんなに映画館には来ないぞ。観たいやつが公開されてもDVDとか出るの待つし。映画館に来るのも久しぶりだ」

 

「そうなんだ。前はいつ来たの?」

 

「中二の夏に箒や鈴達と来て以来かな。たしかあのときはアクション映画観たんだけど」

 

「ジャンルはアクションが好きなのかな?」

 

「そうだな、好きなジャンルはやっぱりアクションかな。ハリウッドヒーローが主人公のアクション映画とか見ててスカッとするからな」

 

「そうなんだ。アクション映画が好きなんてやっぱり男の子だね」

 

そこへ上演ブザーが鳴り響いた。

 

「あ・・・」

 

「始まるみたいだな」

 

「話していれば気が紛れると思ったのに・・・(ボソッ)」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「な、何でもないよ!ほら、始まるよ!」

 

「お、おう」

 

2人はスクリーンに目を向けて予告CMなどを観ながら本編が始まるのを待つのであった。

 

 

上映開始から30分ほどが経過した。

 

「思ってたより恐くないな」

 

「そ、そうだね」

 

「お、ゾンビが爆発した」

 

「そ、そうだね」

 

「嫌そうにしてた割りに結構冷静だな」

 

「そ、そうだね」

 

「って、シャルちゃんと聞いてるか?」

 

「そ、そうだね」

 

「おーい、シャル?」

 

「そ、そうだね」

 

「ダメだこりゃ」と肩を竦ませる一夏。

するとそのタイミングで

 

『ギャァァァァァァァァァァ!!!!!』

 

けたたましい悲鳴とスプラッターな展開が不意打ち気味に流れる。

 

「ひゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

耐えられなくなったシャルロットは悲鳴を上げて一夏に抱き付いた。

 

「お、おい、シャル!?」

 

「だだだだだだだだ、大丈夫だよ一夏!あ、足元にゴキブリが居ただけだから!」

 

「こんな暗いのにゴキブリなんか見つけられるのか?」

 

「ぼ、僕は目がいいからね・・・あははは・・・」

 

「声が震えてるぞ」

 

「ふ、震えてないよ!」

 

「いや、凄く震えて―――」

 

『グギャャァァァァァァァァァァ!!!!!』

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

シャルロットはさらに一夏に強く抱き付く。

 

「お、おいちょっとシャル!く、苦しいって!」

 

「うぐぅ・・・やっぱりこういうのは苦手だよぉ・・・」

 

こうして映画館での時間は過ぎていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アイキャッチしりとり

 

シャル「ダメぇ、こんなところじゃ・・・」

 

 

 

一夏「じゃあ、どこならいいの?」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

映画館を出た一夏とシャルロットはレゾナンス内部のフードコートにあるテーブル席に腰掛けていた。

 

「大丈夫かシャル?」

 

「う、うん。結構落ち着いた・・・」

 

あのあとフラフラになって一人で歩く事もままならなくなったシャルロットを一夏が支えながら今居るフードコートまでやってきたのであった。

 

「ホラーが苦手ならあんなに無理しなくてよかったんじゃないのか?」

 

「だって、誘ったのは僕だしチケットも勿体無いから。それにこれはデートだから一夏と一緒に映画を観たかったんだよ・・・」

 

半分涙目になりながらも真摯に気持ちを口にするシャルロットに一夏も何も言えなくなってしまう。

なので、少し身を乗り出してシャルロットの頭に手を伸ばす。

 

(なでなで)

 

「はわっ!?一夏!?」

 

(なでなで)

 

「え~っと・・・」

 

(なでなで)

 

「なんで僕頭撫でられてるのかな?」

 

「いや、なんか今のシャルを見てたらこうしてやりたくなって」

 

(なでなで)

 

「あうぅ・・・」

 

シャルロットの髪は中々に触り心地の良く一夏は撫でいて悪くない気分だった。

見ればシャルロットも恥ずかしそうにはしているが気持ちよさそう目を細めて大人しく撫でられている。

 

「落ち着いたか?」

 

「うん、もう平気だよ」

 

少しの間、シャルロットの頭を撫でた一夏は気遣うように聞くとシャルロットも笑顔で答える。

本当はホラー映画の時のドキドキとは違い、一夏に頭を撫でられたドキドキが今のシャルロットを支配していた。

もっと撫でていて欲しいと言いたかったが人目もあるのでその言葉は飲み込んだシャルロットであった。

 

(やっぱり一夏はズルイなぁ。この状況でそんな事されたら僕はますます一夏の事が―――)

 

一夏の行動はシャルロットの胸を一杯にしていた。

胸に抱いた淡い想いと嬉しさがシャルロットの胸をときめかせていた。

 

「さて、もう時間も夕方になるな。シャル、この後はどうする?またどっか適当にぶらつくか?」

 

「うん、そうだね。まだ一夏とのデート終わらせたくないかな」

 

「そうだな。せっかくのデートだしな」

 

「うん!」

 

シャルロットはいつもの明るい笑顔で一夏に微笑んだ。

一夏も彼女の手を取ってフードコートをあとにしたのであった。

 

デートの最後に2人が訪れたのは駅前から少し足を伸ばした所にある城址公園だった。

この城址公園は春は桜が咲き誇り、夏は海が見渡せ、秋は紅葉に彩られ、冬は雪化粧した街並みを見る事ができるのでカップルには人気のスポットだ。

 

「着いたぞ」

 

「いい眺め」

 

「だろ?」

 

城址公園内の小高い丘の上にある何の変哲もない踊り場のような場所。

そこから見渡す海の景色がよく映える。

う~んと背伸びをしてみせるシャルロット。

風でシャルロットの髪がゆれる。

彼女は手を添えて抑えていた。

 

「風、気持ちいいね」

 

「ああ」

 

海辺はすでに赤く染まり、太陽が水平線に差し掛かろうとしていた。

その光はまぶしく、空を、雲を、そして大地を綺麗な橙色へ染めて上げてゆく。

 

「シャル、今日は楽しかったか?」

 

「うん、凄く楽しかったよ。何より一夏と2人でデート出来たことがよかったよ」

 

笑顔で答えるシャルに一夏は満足そうにうなずく。

 

「ねえ、一夏はどうだった? 僕と一緒に今日一日いろいろなところ回ってデートして楽しかった?」

 

「ああ、俺も今日シャルとデート出来て楽しかったよ」

 

そういうとシャルロットはこそばゆそうに笑った。

それからしばらくの間、2人は水平線に沈んでいく夕日を手を繋いで寄り添いながら静かに眺めていたのだった。

 

 

 

「今日はありがとう、一夏」

 

「いや、こちらこそ。楽しかったよ、シャル」

 

途中で映画の内容がホラーだったというちょっとしたハプニングも起こったが、それも含めて充分に楽しい一日だったと言えるだろう。

夕日が沈み空が藍色に染まる頃、一夏とシャルロットは家路につき今は織斑家の前だ。

十字路の対角線上にシャルロットが暮らす藍越学園の寮がある。

ここまで来れば今日のデートはもう終了だ。

後はそれぞれ家や寮の部屋に戻るだけ。

ちょっとした寂しさを一夏もシャルロットも感じていた。

 

「あっ、そうだ。シャル、コレ・・・」

 

一夏が思い出したようにポケットから包みを取り出す。

 

「え?」

 

「開けてみて」

 

「う、うん・・・」

 

シャルロットは緊張に胸をドキドキさせながら包みを解いていく。

 

「あっ、これって・・・」

 

手に収まるぐらいの四角い箱から出てきたのは銀色に輝くブレスレットだった。

 

「シャルに似合うと思ってな」

 

「僕のために?」

 

「そういうことになる」

 

照れ臭さそうに一夏は笑う。

 

「あんま高い物じゃないけどな。ほら今日のデート記念ってことで、貰ってくれないか?」

 

一夏いつこれを買ったのかといえば、デート開始直後に入ったあの雑貨屋の事であった。

2人が入ったあの雑貨屋は変なアンティークがこれでもかと陳列された店だったのだが、一夏はあの雑貨屋の中で希少ともいえるまともなアクセサリーを偶然見つけたのだ。

「シャルに似合うかも」と思ったら即決して購入した。

もちろん彼女にはこっそり内緒で買った代物だ。

 

シャルロットは正直、「やっぱり一夏ってズルイ」と思っていた。

デート出来ただけでも嬉しかったのに別れ際でのこのサプライズ。

今のシャルロットの心は嬉しさで溢れていた。

こんなことをされたら嬉しくないハズがない。

だから、その感情がそのまま表に出てしまった。

 

「ありがとう、一夏!」

 

嬉しげな満面の、シャルロットが今日一番の笑顔を見せたのだった

 

「え・・・あっ・・・う、うん」

 

シャルロットの笑顔に完全に見惚れていた一夏であった。

 

 

 

 

 

「~~~♪」

 

寮のシャルロットの部屋。

シャルロットはベットに横になりながら左の手首にはめられたそれをにこにこしながら眺めていた。

 

「えへへ♪」

 

見つめる先には一夏からプレゼントされた銀色に輝くブレスレット。

彼女はそれを愛しそうに眺めるのであった。

 

「2人のデート記念かぁ。ふふふっ♪」

 

彼女の上機嫌は一晩中続いたのであった。

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