第二十六話 英国からの風
「おはよう、シャル」
「おはよう、一夏」
GW最終日のデートから一夜が明けた。
朝の登校時に顔を合わせた2人はいつものように挨拶を交わす。
「行こうか」
「おう」
肩を並べて歩き出す。
入学してから約1ヶ月通った道をゆっくり歩いていく。
「・・・・・」
「・・・・・」
2人の間に会話はなかった。
昨日デートしたという事もあり互いを意識してしまっているのだ。
「え~っと・・・だな」
「う、うん・・・」
意識を極力しないようにしながら話をしだす。
「デート、楽しかったな」
「う、うん。楽しかったね。あ、プレゼントも凄く嬉しかったよ。ありがとう」
「俺が贈りたかっただけだから。気に入ってくれたなら嬉しい」
「うん、凄く気に入ったよ!今日だって学校がなかったら1日中着けていたいくらいだよ!」
「藍越学園はアクセサリーの着用禁止だもんな」
徐々にではあるが2人は意識せずに他愛のない話に花を咲かせていった。
「そこで千冬姉と十秋姉が店に押し入ってきた強盗を2人でボコボコしてさ」
「凄いね。何か話だけ聞いてると映画とかドラマみたいだね」
「だよなぁ。犯人達は銃とか持ってたらしいぜ」
話しているのは千冬と十秋の武勇伝。
1年ほど前に千冬と十秋が2人でとある喫茶店でお茶を満喫していた時の事。
そこに銀行を襲撃してきた後の強盗が逃亡途中に乱入。店に立て篭もって客を人質にしたのだ。
人質として店の中にいた千冬と十秋であったが大人しく人質になっている2人ではなかった。
犯人達の隙を突いて大立ち回り、そのまま合計5人の強盗犯を見事に撃退したのだった。
この事は新聞にも掲載されて『美人姉妹!強盗犯を見事撃退!!』と一面にデカデカと載せられていたほどだ。
「あの事件のあと家にマスコミが押し寄せてきて凄ぇ大変だったんだぜ」
「そうなんだ。大変だったね」
そうこう話しているうちに箒と鈴といつも合流する路地に差し掛かる。
「おっはよー!一夏、シャルロット!」
鈴が手を大きく振りながら挨拶をする。
今日も鈴は元気いっぱいだ。
「おっす」
「おはよう」
一夏とシャルロットも挨拶を交わす。
「箒もおはよう」
「うむ、おはよう」
鈴の後ろに控えていた箒に気付き挨拶をするシャルロット。
「おっす、箒」
一夏も続いて挨拶をする
が
「・・・・・(ギロリ)」
何故か睨まれる。
いきなり睨まれたので一夏も困惑する。
「え~っとっ・・・」
「何だ!?」
「え?いや、おはよう・・・」
「ふんっ!」
「?」
普通に挨拶しようとしただけなのに箒のこの態度に一夏はハテナ顔だ。
「さっさと行くぞ」
そういうと箒は1人でスタスタと歩いていってしまった。
「あ、おい、待てよ。1人で行くなって」
慌てて箒の後を追う一夏。
鈴とシャルロットもそれに従って歩き出す。
そんな2人を見て鈴はやれやれという感じでため息を漏らし、シャルロットは苦笑いしていた。
「なぁ、箒・・・」
「・・・・・」
一夏は歩きながら箒に話しかけてみるが箒はただ不機嫌そうにしているだけだった。
「なぁって、何でそんなに怒ってるんだよ・・・」
「怒ってなどいない」
「顔が不機嫌そうじゃん」
「生まれつきだ」
にべもなく言われる。
箒がここまで不機嫌な理由がわからない一夏はただ首を傾げるのみだ。
「―――うは、―――しかったか」
「え?何だって?」
「昨日は楽しかったかと聞いている」
「昨日って・・・?ああ、シャルとのデートの事―――」
「わぁ!一夏っ!!」
「むぐっ!!」
恥ずかしさと今の箒の状態を見てこの発言はマズイと悟ったシャルロットが慌てて一夏の口を塞ごうとするがデートという単語はしっかりと箒の耳に届いてしまった。
「ほう、デートか。さぞ楽しかったろうな」
「まあ、楽しかったぞ。なあ、シャル」
「え!?あ~、その、うん・・・」
「そうか、よかったな!」
ケンカを売るかのように刺々しい口調で箒は嫌味を言ってくる。
そしてまたスタスタと1人で歩いていってしまう。
「?何なんだよ・・・」
訳がわからないと言いたげな顔をする一夏。
「てゆーか、何で箒が俺とシャルが昨日デートしてたの知ってるんだ?」
「それは昨日あたしと箒が駅前で買い物してたらアンタらを見かけたからよ」
見かねた鈴が口を挟んでくる。
「何だよ、それなら声ぐらいかけろよ」
「デート中にそんなことするのも無粋でしょ」
「別に気にしないぞ。なあシャル」
「え!?う、うん・・・」
「ん?どうしたんだ、暗い顔して?」
「何でもないよ・・・」
「はぁ・・・・、唐変木(ボソッ)」
「?」
訳がわからないと以下同文。
「とにかく、早いトコ箒のご機嫌取りなさいよ。ああピリピリされてたらこっちが気疲れしちゃうから」
「お、おう」
鈴に促されて一夏は数m先を行く箒に歩み寄っていった。
「あの様子から察するに、アンタ達はまだ付き合ってる訳じゃなさそうね」
「う、うん。まだそういうのじゃないね」
そのまま鈴はシャルロットと話しはじめる。その会話は前を行く一夏達には聞こえてはいない。
「でも、何だか箒に悪い事しちゃった気が・・・」
「平気よ。恋愛に卑怯もへったくれもないし、シャルロットを責める気は全然無いわよ。むしろ箒ももっと素直になったらいいのにとは思うけど・・・」
「そうだね・・・」
「まあ、一夏も一夏だけどねぇ・・・」
「あははっ・・・」
苦笑いして数m先を行く箒と一夏に視線をやる鈴とシャルロット。
どうやらまだ箒のご機嫌取りは成功していないらしい。
「・・・・」
「・・・・」
沈黙が一夏と箒の間に流れる。
(い、いかん。何か間が持たない・・・。ご機嫌を取れったってどうすりゃいいんだ?)
いざご機嫌を取ろうにもどうしたらいいのかわからずに四苦八苦していた一夏だった。
箒も仏頂面でスタスタと歩いているのみだ。
(少しきつく言い過ぎただろうか・・・)
仏頂面の裏で箒は先ほどの自分の態度を少し後悔していた。
意中の相手が他の女とデートをしたという事実に腹を立てるあまりに冷淡な態度をとってしまったが素直になれない箒はただ仏頂面でいるしかなかった。
今は自分のこの性格が恨めしい箒であったがどうにも素直にはなれない。
「なあ、箒・・・」
「何だ・・・」
頭ではダメだとわかっているのに口調がどうにも刺々しくなってしまう。
「えーとっ、今日してるそのリボンって新しいやつか?」
「えっ!?」
一夏の指摘に箒の足が止まった。
「な、何だ?もしかして違ったか?」
「い、いや、そうではない。確かにこれは新しいやつだが」
今箒がしているリボンは昨日一夏とシャルロットを見失った後に鈴と約束通り夏服を見に行った際に購入したものでせっかく新しいのを買ったので今日着けていくことにしたやつなのだ。
「よ、よく気付いたな」
着けているリボンを少し弄りながら箒が言う。
「いや、色も模様も見たことないやつだし、箒の事は毎日のように見てるからな」
さっきまでの刺々しさが無くなったような気がした一夏は首を傾げながらもそう告げた。
「そ、そうか。私を見ている・・・か。そうかそうか」
うんうんと上機嫌で頷いてみせる箒。
先ほどの仏頂面はどこへやら。
「よし!では学園へ行くとしよう!」
「お、おう」
急にテンションの上がった箒に一夏は置いてけぼりになる。
(よくわからないけど、ご機嫌取りには成功したっぽいな)
安堵の息を漏らす一夏であった。
(じーっ)
「ん?」
なにやら視線を感じて振り向くとそこにはシャルロットがいた。
「にこっ」
「に、にこっ」
笑顔で微笑むシャルロットにつられて一夏もにこっと笑って見せる。
が、何故だか背中に一筋の汗が通った。
「毎日のように箒を見てるんだ。へえ~」
「え?シャル、もしかしてなんか怒ってるか?」
「どうして?そんなことないよ。僕は全然怒ってないよ」
確かに顔は笑っている。
しかし、シャルロットの背後には絶対零度の冷気が放たれていた。
まるで十秋が見せる「ブリザードスマイル」のようであった。
「ほら、早く行かないと遅刻しちゃうよ」
「あ、ああ」
(何だぁ!?今度は急にシャルがこんな状態に!?何故だ!?何故なんだシャル!?)
箒の次はシャルロットが機嫌を損ねてしまっていた。
原因が自分であることを理解していない一夏は狼狽するばかりだった。
「あー・・・」
やれやれといた様子で鈴は腕を広げる。
「一夏」
「なんだ?」
「・・・、唐変木」
「何でだよ!」
今度はシャルロットのご機嫌取りに必死になる一夏であった。
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アイキャッチしりとり
箒「のぼせてしまうではないか・・・」
シャル「カリカリなんてしてないもん!!べーっだ!!」
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教室に着いた一行はそれぞれ席へ向かった。
「あー、シャルロット。ちょっといいか?」
箒がシャルロットを呼び止めた。
「何、箒?」
「いや、あのな・・・」
何やら言い難そうにおどおどしている箒。
しかし、意を決したように口を開く。
「さっきはすまなかった」
登校中の態度の事で謝ってきたのであろうとシャルロットは理解した。
謝る相手は自分ではなくて一夏にではないかと思ったがここは素直に謝罪を受け取っておく。
「大丈夫だよ。気にしてないから」
先ほどの絶対零度の冷気を感じさせない太陽のような笑みでシャルロットは箒に答える。
箒も何処か安心したように表情を和らげる。
「あ、あと、もうひとつ・・・」
「ん?」
「い、一夏の事。・・・ま、負けないからな!」
少しきょとんとするシャルロットだったがすぐに笑顔に戻って
「うん。僕も負けないよ」
笑ってお互いにライバル宣言する2人に遠目から見守るように笑みを零す鈴であった。
「うーっす、一夏!」
教室に入って席に着いた一夏を迎えたのは弾の元気のいい声であった。
「・・・・・」
「ん?どうした一夏」
(げしっ)
「あでっ!」
一夏は問答無用で弾に蹴りを入れた。
「何でいきなり蹴るんだよ!?」
「いや、目の前に敵が現れたら攻撃するのが定石だろ」
「俺はRPGの敵キャラか!?」
「いや、お前って倒せば薬草くらいは落としてくれそうじゃん」
「しかも雑魚かよ!?」
「わかったよ。薬草2つにしといてやるよ」
「薬草の数の問題じゃねぇよ!!」
「わかったわかった。3つにしといてやるから落ち着け」
「お前は朝から俺にケンカを売ってるのか・・・」
「まぁまぁ2人とも、とりあえず落ち着け」
そこに数馬が入ってきた。
いつもの男子3人がこれで集合である。
「で、お前らは何があって揉めてたんだ?」
「一夏がいきなり俺に蹴りを入れやがったんだよ・・・」
「だって倒せば薬草が手に入るんだぜ」
「だから落とさねぇよ!」
「そうだぞ。弾は薬草を落とすほどのキャラでもないだろ」
「そっちかよ!ってかお前も敵か!」
「冗談だよ、冗談」
「そうだぞ。冗談だって」
「まったく朝から俺で遊ぶなよなぁ・・・」
男3人で朝からバカをする。
これも学園生活の醍醐味であろう。
「ね、ね、ねぇー。おりむ~達~」
3人でバカをしているととろ~んとした声で話しかけてくる女子がいた。
話しかけてきたのは「布仏本音」という女子で3人のクラスメイトだ。
制服の袖がダボダボでいつも眠そうな顔をしているのが特徴だ。
ちなみに「おりむ~」というのは彼女が使っている一夏の渾名だ。補足だが弾の事は「ごったん」、数馬のことは「みったん」呼んでいる。
その彼女に連れられて数名の女子も会話に参加する。
入学から1ヶ月経つのでクラスメイトの顔と名前も一致してもうお互いに気軽に話せる時期だ。
「ねぇ聞いた?何か今日うちのクラスに新しい留学生が転入してくるらしいよ!」
二つに縛った明るい色の髪が特徴の谷本癒子が明るい調子で言う。
「留学生?今の時期に?」
「うん。なんでも女の子らしいよ」
クラスのしっかり者で1年1組の女子のクラス委員でもある「鷹月静寐」が一夏の疑問に答える。
「留学生ということはデュノアさんみたい日本語も上手なのかな?」
ショートカットの活発そうな女子、「相川清香」が答える。
「そりゃ日本の学校に来るくらいだし、日本語は話せるんじゃないか」
「それしたって時期が入学してから1ヶ月で転入とは変わってるな」
弾と数馬も違和感無く会話に参加する。
この2人も人当たりはいい方なので普通に女子とは話せるのだ。
「どこの国から来てぇ~、どんな娘だろうねぇ~?」
のほほんとした口調で本音が喋る。
彼女のクラス内の愛称は「のほほんさん」である。
正にピッタリの愛称だ。
(キーンコーンカーンコーン)
「諸君、おはよう!」
「「「「「おはようございます!」」」」」
本鈴と同時に担任の千冬が教室に入ってくる。
「席に着け。朝のSHRを開始する」
バタバタと席に着く生徒達。
一切の無駄の無い統率は担任である千冬の業の成せるところだ。
「今日のSHRは留学生としてこのクラスに転入する事になった生徒を紹介する」
おお~とクラスから声が漏れる。
入学から1ヶ月というこんな時期に転入してくるのだ。
興味をそそられるのも不思議ではない。
「では転入生、入って来い!」
「はい」
透き通るようなソプラノボイスがクラスに響いて教室のドアが開いた。
ざわめきがぴたりと止まる。
「あ」
一夏はその転入生を見て声を漏らす。
それはそうであろう。
教室に入ってきた転入生は一夏の知っている顔で、『フォース幼馴染』だったのだから。