「お~いシャル~、セシリア~」
談笑をしながら昇降口に向かっていたシャルロットとセシリアを呼ぶ声が廊下に響いた。
「あ、一夏っ♪」
声の主は一夏だった。
手を振っている一夏にシャルロットも手を振って彼の元へ駆け寄る。
今のシャルロットには犬耳と尻尾が生えていても不思議ではないかもしれない。
現に隣を歩いていたセシリアにはシャルロットに犬のような耳と尻尾が生えていたように見えた。
「セシリア、体調はもう平気か?」
「ええ。保健室にはシャルロットが同行してくれましたし。保健室でも百春様が付いていてくれましたしね」
「そっか。百春兄とも会えたんだよな。で、どうだった?久しぶりに会ってみて」
「っ」
セシリアは顔を少し赤くしてモジモジする。
一夏もセシリアが百春に恋心を抱いている事は知っているので久しぶりに会ってどうだったかを聞きたいらしい。
「す、素敵な男性になっていましたわ。無愛想なのは相変わらずでしたけど」
「あれが百春兄の地だからな。あれはもう直んないだろうな。まあでも、百春兄はあれでいて優しいときもあるからな。そんな百春兄だから好きになったんだろ?」
「え、ええ」
さらに顔を赤くしてモジモジする。
その純情さが見てて微笑ましく感じて一夏もシャルロットも顔が綻ぶ。
「そういえば一夏、ずっと待っててくれたの?」
「ああ。箒と弾と数馬は部活で鈴は家の手伝いがあるって先に帰っちまったけど、俺は特に用事もないから2人を待とうと思ってな」
「一夏って本当に優しいよね」
「そんなことないだろ。ただ幼馴染と一緒に帰ろうと思って待ってただけだぜ?」
「そういう気遣いができるところが一夏さんの優しいところですわね。少なくともわたくしとシャルロットさんはそう思っていますわよ」
一夏としては別段特別なことをしているわけではないのだが幼馴染2人は熱心に一夏が優しいと褒めてくるので少し照れてしまう。
「まあそれはもういいよ。とりあえず帰ろうぜ」
照れ隠しか一夏はそそくさと昇降口を出て行ってしまう。
シャルロットとセシリアは顔を見合わせて笑うと一夏のあとを追いかけた。
帰り道、3人は並んで談笑しながら家路へとついていた。
「そういえばセシリアってこっちでの住まいはどうしてるんだ?やっぱ寮に入ってるのか?」
「ええ。お父様達が日本での住まいの都合をつけてくれるという話もありましたけど留学生は基本寮で生活することになっていますし、わたくしも一度親元を離れて生活する事に挑戦してみようと思いましたの。だからこっちでは寮に住まわせてもらっていますわ」
「そういえば、新しい寮生が来るって寮内で噂になってたんだけどセシリアのことだったんだね」
「昨日まではホテルに宿泊していましたけど今日からは寮で生活する予定ですわ。荷物ももう寮に届いているはずですし」
「それなら部屋の整理手伝ってあげようか?ひとりだと大変でしょ?僕も寮に住んでるから遠慮なく頼ってくれていいからね」
「まあ、よろしいんですの?」
「うん」
荷解きの手伝いを買って出たシャルロットにセシリアは感謝の言葉と改めて荷解きの手伝いのお願いをした。
シャルロットも快く了承する。
場所は変わって藍越学園寮前。
一夏、シャルロット、セシリアの3人は寮の前にいた。
が、一夏とシャルロットは口を開けて唖然としていた。
文字で表すとしたらポカーンというのが最適であろう。
何故なら寮の前には白いロールスロイスが1台とトラックが3台ほど止まっていてそのトラックの中にはこれでもかというほどの高級家具などが並んでいたからだ。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
白いロールスロイスからメイドの格好をした女性が姿を見せる。
丁寧で一切の無駄がないお辞儀をするそのメイド姿の女性は「チェルシー・ブランケット」といい、セシリアの専属メイドで彼女はセシリアの姉のような存在である。
「ご苦労様ですチェルシー。申し訳ありませんね。あなたにこのような事をお願いしてしまって」
「いえ、私はお嬢様に仕える者ですのでどのような事も喜んでお受けいたします」
優しい微笑みを浮かべながらチェルシーが頭を垂れる。
18歳という年齢ながらチェルシーのその微笑みはとても大人っぽく見えるものであった。
そんなチェルシーはセシリアにとって姉のような存在であると同時に憧れであり、目標でもある。
「えっと、チェルシーさんお久しぶりです」
唖然状態から復活した一夏がチェルシーに軽く会釈しながら挨拶をする。
彼もイギリスに赴いた際に何度かチェルシーとは顔を合わせているので顔見知りだ。
チェルシーもメイド服のスカートの裾を軽く持ち上げお辞儀をする。
「お久しぶりです一夏様。一夏様も壮健そうで何よりです」
「まあ、これでも剣道で鍛えてますからね」
「そのようですね。久しぶりにお会いして少々驚きました。一夏様が想像していたより男らしくなられていましたので」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
「はい」
にっこりと柔らかな笑みを向けるチェルシーに一夏は照れながら頭をポリポリ掻く。
「・・・・・」
(ぎりっ)
「痛ぇ!な、何だよシャル!?いきなり腕抓って!?」
「一夏、デレデレしてた」
嫉妬心が湧いたシャルロットは、一夏の腕を思いっきり抓った。
好意を持つ異性が自分の目の前で他の女性にデレデレしているのは見ていて面白くないのであった。
「別にデレデレなんてしてねぇって」
「ふんっ、どうだか」
ぷいっと横を向いてしまうシャルロットに一夏は困惑する。
何故彼女がそのような態度を取るのかまるでわかっていないのであった。
「うふふっ。お2人とも仲が良ろしいのですね」
愉快そうにチェルシーが微笑んでいる。
そこにはほんの少しだけ茶目っ気が見え隠れしていた。
「そちらのお方は初めてお会いしますね。お初にお目にかかります。セシリアお嬢様にお仕えするメイドで、チェルシー・ブランケットと申します。以後、お見知りおきを」
チェルシーがシャルロットに丁寧にお辞儀して自己紹介する。
「初めまして、シャルロット・デュノアです。よろしくお願いします」
シャルロットもお辞儀を返す。
嫉妬心に駆られていたとはいえこういうところは律儀なのがシャルロットなのであった。
「つかぬことをお聞きしますが、一夏様とシャルロット様は恋人同士でいらっしゃいますか?」
「「えっ!?」」
唐突な質問に一夏とシャルロットは素っ頓狂な声を上げる。
「お2人ともとても仲が良さそうなのでもしかしたら恋人同士なのではないかと思いまして」
「チェ、チェルシーさん!俺とシャルは幼馴染であって『まだ』恋人というわけじゃ!!」
「そ、そうですよ!僕と一夏は『まだ』そういうのじゃなくて!!」
「『まだ』ですか。うふふっ♪」
イタズラっぽい笑みを浮かべてチェルシー微笑む。
俯いてモジモジするシャルロットに顔を逸らして頬をポリポリかく一夏。
確か前にも2度ほどこんなことがあったなぁと思う一夏とシャルロットであった。
「チェルシー、もうそのへんにしておいてあげなさい」
「わかりました。それでは、お荷物の方は私がお部屋まで運んでおきますので」
「わかりましたわ。ありがとうチェルシー」
荷物を受け取りぺこりとお辞儀をしてチェルシーは去っていった。
「お2人とも申し訳ありません。チェルシーはちょっとからかいが過ぎたようですわね」
「いや、いいって。俺は気にしてないから」
「う、うん、僕も気にしてないから大丈夫だよ」
一夏もシャルロットもまだ若干顔が赤いが気を取り直したようであった。
「しかし、こりゃ凄いな・・・。これ全部イギリスから持って来たのか?」
トラックに積まれた特注の調度品の数々に一夏は驚嘆の声を漏らす。
「はい。やはり家具などは気に入ったものを置いておきたいので」
「で、でもこれ全部は寮の部屋には入らないと思うんだけど・・・」
寮に住んでいるシャルロットは部屋の広さを知っているのでこの調度品の家具達がすべて部屋の中に納まるとは到底思えなかった。
「その点は問題ありませんわ。昼間の間にお部屋を増改築してもらっておりますのでこれは全部部屋に入りますわ」
「はぁ!?」
凄いことをのたまうセシリアに驚いてしまう。
「それではお嬢様。搬入を開始いたします」
「はい。お願いしますわ」
「では、取り掛かってください」
チェルシーの号令とともに調度品の家具達の搬入が開始された。
業者さんのテキパキとした動きで次々と搬入されていき10分もしないうちに搬入は終了した。
「お疲れさまでした~」
仕事を終えた業者さん達は素早く撤収していった。
まるで一陣の風が通り過ぎたようにすべての作業は終わったようだ。
「お嬢様、すべて滞りなく終わりました」
「わかりましたわ。では、部屋に参りましょう。あ、よろしければ一夏さんとシャルロットさんもいらしてください。お茶をお出ししますわ」
「お、おう。じゃあお邪魔しようかな?」
「うん。僕もお邪魔するね」
「はい。皆さんで優雅なアフタヌーン・ティーと参りましょう♪」
ウキウキとと言った状態でセシリアはチェルシーと共に寮内へ入っていった。
一夏とシャルロットもそれに続いた。
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アイキャッチしりとり
チェルシー「なせば成るはず」
セシリア「ズッキーニ」
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「さあさあ、上がってくださいませ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
『呆然ってどんな状態の事?』っと言われたら今の一夏とシャルロットみたいな状態を指すのかもしれない。
それはそうだ。
間取りが明らかにおかしい。
どう考えても一室分の間取りじゃないのだ。
明らかに一軒家に近い間取りだった。
どう見ても上と両隣の部屋をぶち抜いているとしか思えない構造で、高い天井にはゴージャスなシャンデリアが吊るされていた。
部屋の奥にはキングサイズのベッドがどかっと置いてあり、洋服棚や化粧台のドレッサーもとにかくデカイ。
というより一夏達が学校に言っている間にここまで増改築できるものなのかと疑問が湧き出てくる。
こんな短時間に劇的ビフォーアフターをしでかすとんでもない財力を持っているのがオルコット家なのである。
まあ、それを容認しているセシリアの父親が一番の問題かもしれないが。
『ジェームズ・オルコット』。それがオルコット家の現当主でセシリアの父である。
妻である『レイチェル・オルコット』と共にオルコット家を一代で築き上げた男。
何せ『セシリアのセシリアによるセシリアのための財力』と公言しているほどの親ばかっぷりだ。
そんな親が何故セシリアが百春を好きでいる事を容認しているのかは謎である。
「お2人とも何をボーっとしていらっしゃいますの?早く上がってくださいな」
「お、おう」
「お、お邪魔します」
上がるのを少し躊躇ってしまうがセシリアに促されるままに部屋に上がる2人。
部屋の構造にただただ驚かされてばかりの2人だった。
その後はチェルシーが用意した紅茶とクッキーを楽しみながら一夏達はアフタヌーン・ティーを優雅に満喫したのであった。
おまけ
それは一夏とシャルロットとの楽しいお茶会も終わり2人が帰ったあとの事であった。
「お嬢様、少しよろしいでしょうか?」
「どうしましたのチェルシー?」
「実は、一つ確認しておくことを恥ずかしながら失念しておりまして」
「まあ、何ですの?」
「あの白いレースの下着は百春様用ですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・、え?」
「お嬢様、派手すぎる下着は却って逆効果と思われます」
「えっ、えぇっ!?あ、あ、あれはー!?」
「では、これで」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
日本行きが決まったときに両親にも内緒でこっそり買っておいて二重底のスーツケースに隠しておいたのに何故かバレていたのだった。
「―――――――――ッ!!!」
声にならない叫びを上げながら顔を真っ赤に燃え上がらせるセシリア。
その日の彼女は恥ずかしさのあまり落ち着く事が出来なかったとさ。