第三十一話 五反田さんち
「うおぉぉっ!いきなり俺の目の前にリオレ○スがぁ!!」
「ああ、俺は秘境からスタートだからちょっとピッケルしてから行くわ」
「俺もエリア10からスタートだからピッケルで掘ってるわ。弾、しばらくひとりで相手よろしく」
「ふざけんなっ!俺の装備は火に弱いんだよ!!ブレス食らったらヤバイんだって!!」
5月も中盤に差し掛かったとある休日のお昼時。場所は五反田弾の家。
一夏、弾、数馬の3人はたまには男同士で遊ぼうという事になり、弾の家に集まり携帯ゲームで絶賛狩り中だった。
「あ、俺報酬で紅玉出たわ」
「俺も逆鱗と紅玉1個ずつ出たぜ」
「マジかよ!?何で俺だけ逆鱗も紅玉も出ないんだよ!?」
「「弾だからだろ?」」
「理由になってねぇよ!!」
1クエスト終了し、報酬画面を見ながら一喜一憂する。
このゲームをプレイした事のある読者の方々も経験された方は多いのではなかろうか。
ちなみにそれぞれの武器だが一夏は太刀、弾はハンマー、数馬は狩猟笛だ。
「俺ちょっとトイレ行ってくるわ。次のクエストはお前らで適当に決めてくれ」
「「おう」」
数馬はトイレに行くために部屋を出て行った。
「次は2頭クエ行こうぜ。何かターゲットが単体だと物足りない」
「俺はレ○スの紅玉が欲しいからレ○スがいればいい」
次に行くクエストを考えているといきなり部屋のドアが大きな音を立てて開いた。
「お兄ぃっ!さっきからお昼出来たって言ってるじゃんっ!さっさと食べに―――」
ドアを蹴破って入ってきたのは弾の妹の「五反田蘭」だった。年齢は一夏達より1個下で中学3年生だ。
「よお、蘭。邪魔してる」
一夏は携帯ゲーム機から目を離して手を上げて気さくに挨拶する。
「い、一夏さん・・・・っ!!」
驚きの声を上げる蘭。
そして自分が髪をヘアクリップで纏め上げタンクトップとショートパンツというラフな姿をしている事に気付きドアの影に隠れる。
「い、いらしてたんですか・・・・っ?」
「おう。数馬と一緒に遊びに来た。今はちょっと狩りしてたんだ」
恥ずかしそうにドアの影から顔を出している蘭に一夏は携帯ゲーム機を掲げてみせる。
一夏は千冬や十秋のおかげでラフな格好の女性を見慣れているので大した動揺もしない。
「蘭、お前なぁ、ノックぐらいしろよ。恥知らずな女だと思われ―――」
蘭の
にらみつける 攻撃!
(キッ!!)
弾は萎縮した!
「・・・・なんで言わないのよ・・・」
「い、いや、言ってなかったか?そうか、そりゃ悪かった。ハハハ・・・」
この兄妹の力関係は見ていて実に分かりやすい。
「あ、あのよかったら一夏さん達もお昼どうぞ・・・まだでしたよね・・・・?」
「ああ、頂こうかな。ありがとう」
「い、いえ・・・ではこれで・・・」
蘭はそそくさと部屋を出て行った。
「んじゃ、数馬が戻ってきたら一階に下りるか」
「そうだな」
そういって2人は携帯ゲーム機の電源をオフにした。
「しかしあれだな。蘭と知り合ってからもう3年になるけどまだ俺に対して妙にたどたどしいんだよな。俺的にはもうちょっと懐いてくれてもいいんだけどなぁ」
「は?」
そんなことをのたまう一夏に弾は呆れた声を上げてしまう。
「いや、だってさ、蘭って数馬とは結構くだけて話してるじゃん。でも俺の時はなんか余所余所しさを感じるんだよ。ちょっと寂しいぜ。もしかして俺って嫌われてる?」
「ん?何の話だ?」
そこへ数馬がトイレから戻ってきた。
「いやな、今蘭が一緒に昼飯でもどうかって誘ってきたんだけどさ、何か未だに俺への態度が余所余所しいからちょっと寂しいなぁって」
「・・・、一夏ってわざとやっているのかと思う時があるよな」
「言うな。これが一夏だ。お前も分かるだろ?」
「そうだな。これが一夏だよな」
「ん?俺が何?」
「気にすんな。俺もこんな年の近い弟はいらん」
「は?オトウト?」
「まあまあ。とりあえず下降りようぜ」
「ああ、そうだな。昼飯サンキュ」
「気にするな。どうせ売れ残った定食だろうし」
3人は部屋を出て1階の「五反田食堂」へ向かった。
「げ」
食堂に着くと同時に弾がそんな声を漏らして立ち止まる。
「なに?何か問題でもあるの?あるならお兄ひとりで外で食べてもいいよ」
「聞いたか2人とも。今の優しさに溢れた言葉。泣けてきちまうぜ」
どうやら先客として蘭が居た所為らしい。
「みんなで食べればいいだろ。とにかく座ろうぜ」
「数馬さんの言う通りよ。さっさと座れバカ兄」
「へいへい・・・」
渋々といった感じで弾が席に着く。
ちなみに席順は数馬が気を遣ったおかげで一夏の隣に蘭が座り、向かい側に弾と数馬が座った。
4人掛けテーブルの上に4人前の定食が置かれていた。この五反田食堂ではいつも売れ残ることで有名な「かぼちゃ煮定食」だ。かぼちゃ煮が甘すぎてご飯に合うかと聞かれたら首を捻るような定食なのでいつも売れ残るのだ。かぼちゃ煮自体はうまいのだが。
「なぁ、蘭」
「は、はひっ!?」
出された定食を食べながら一夏が蘭に声を掛けると蘭はちょっと驚いた様子で返事をする。
「声を掛けたくらいでそんなに驚かなくても」と内心傷付く一夏だった。
「着替えたんだ?どっか出かける予定?」
「あっ、いえ、これは、その、ですねっ」
蘭は先ほど部屋を訪ねてきたときと格好が違いオシャレな服装に着替えていた。
「凄くいいじゃん。似合ってるぞ」
「ほ、ホントですか!?」
目を輝かせて一夏に詰め寄る。
いきなりの事に一夏はちょっとビックリする。
「お、おう。可愛いと思うぞ」
そういってニコッと微笑む一夏に、蘭は顔を赤くする。
「か、かわいい・・・、一夏さんに可愛いって言われた・・・。えへへへ♪」
蘭は嬉しそうにはにかんで笑った。
「懐いてない相手に褒められても嬉しくないかなぁ?」と思っていた一夏だったが蘭は喜んでくれたようなのでよしとした。
「・・・、このスケコマシ」
弾がそんな事を小声で言ったのは一夏は知る由もない。
「しかし、出かける予定もないのにおしゃれするなんてやっぱ女の子だな。やっぱり男とは違うわ」
「こ、これは・・・、その・・・」
「もしかしたらデートかと思ったくらいだぞ」
「ち、違いますっ!!い、今はそういう相手はいませんよ・・・」
「ふーん、そうなんだ?それはスマン。悪かったよ」
「い、一夏さんと以外はする気もないですし・・・・(ボソッ)」
「え?何だって?」
「な、何でもないですっ!!」
「まあ、兄としてはデートであって欲しいけどな。何せこいつがこんな気合入ったオシャレするとか実に数ヶ月ぶ―――」
(ドゴォッ!!)
「ぶわっ!!」
蘭の
マッハパンチ!
効果はバツグンだ!!
「あ、お兄の事は気にしないでください」
「お、おう」
人中にパンチを見舞われてのたうち回っている弾を尻目にこれも五反田兄妹間のコミュニケーションの一種なのだろうと一夏は割り切ることにした。
「賑やかだなぁ~」
ひとりセルフの水を飲みながら数馬がそんなことを呟いていた。
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アイキャッチしりとり
蘭「二進も三進もいかないよ~」
弾「よ、弱気・・・」
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それからは食べながらもうるさくならない程度に雑談を交わす。
あまり騒ぐと五反田食堂の大将をしている弾と蘭の祖父である『五反田厳』によって制裁が下される(蘭以外に)。
「あ、あのぉ一夏さん。藍越学園に通ってみてどうですか?」
蘭は一夏に藍越学園についての質問をしてみた。
まずは当たり障りの無い話で一夏との距離を縮めようという作戦である。
「ああ、藍越はいいところだぞ。進学校の割りに結構自由な校風だしな。入学式の後にあった部活勧誘なんかちょっとした文化祭みたいな騒ぎだったぞ」
「そうなんですか。藍越の部活勧誘の噂はよく耳にしますけど本当だったんですね」
「俺達も中学時代から噂は聞いてたけど、あれは正直予想以上だったな」
「なんか藍越って楽しそうですよね。私も高校は藍越に行こうかなぁ」
ふっとそんな事を漏らす蘭に弾が反応した。
「な、何言ってんだ蘭!何そんな勝手な――――!!」
蘭は
こわいかお をした!
(キッっ!!)
弾は口を閉ざした!
「蘭のところって大学までエスカレーター式だろ?面接だけで進学できるんだからもったいないじゃないか?それに藍越は一応進学校だぞ?」
「大丈夫です。私の成績なら余裕です。その気になれば推薦だって取れます」
蘭はこの地域では有名な私立女子校で生徒会長を務めるほどの優等生なので藍越の偏差値にも余裕で手が届く。さらには自分の想い人が通っているともなればエスカレーター式の学校を蹴ってでも行く価値は蘭自身にはあるのだ。
「そうか。受験頑張ってな。蘭が後輩になるの楽しみにしてるぞ」
「は、はい!入学した折には是非先輩としてご指導をお願いします!!」
「まあ、俺が何をしてやれるかはわからないけどな。箒や鈴に数馬もいるし、存分に俺たちを頼ってくれ」
「はいっ!!」
この遣り取りの裏では弾がものすごい勢いで反論を投じていたのだが、祖父の厳と五反田兄妹の母親である蓮にバッサリと切り捨てられていたのであった。
「そ、そういえば一夏!この間のGWなんだけどよぉ!」
反論を諦めた弾が少し自棄っぱちに一夏に言葉を投げる。
「GWがどうした?」
「お前、最終日にデュノアとデートしてたろ?」
「な――――!?」
「デ、デートォッ!!」
一夏が驚いた声を出すがそれは一夏の隣の人物によって遮られた。
「うおぉ!?どうした蘭!?いきなり大声出して!?」
「へ?い、いや、何でもないです・・・」
一夏が蘭の大声に驚いていると蘭は気まずそうに首を横に振った。
「一夏、ネタは挙がってるんだぞ。GW最終日にお前とデュノアが仲良く手を繋いで駅前を歩いてるのを俺は見たんだからな!」
「ってゆーか見てたなら声くらい掛けろよ・・・」
「んなこたぁどーでもいいんだよ!それで、デートしてたってことはお前もうデュノアと付き合ってるんだろ!?」
「はぁ!?ちょ、ちょっと待てよ!?俺とシャルは『まだ』そういう関係じゃ―――」
「『まだ』だとぉ!ならすぐに付き合え!なぁ!!」
「なんでだよ!?ってか話が見えないんだけど・・・」
「なんでもいいから! 今月中・・・いや、今週中に付き合え!! そうすれば全て解決だ!!ってゆーかなんでお前ばっかりそんなにモテるんだよ!中学時代からお前ばっかりモテやがってこのモテスリム野郎が!!」
「意味が分からんことを言うな!ってゆーかお前何でキレてんだよ!?」
「キレてねえよ!!」
「キレてるじゃねぇか!!」
「だからキレてねえよ!!!!」
(キュピーンッ!)
「はっ!」
突如、何かを感じ取った一夏は某ロボットアニメの人の革新と呼ばれる人種ばりの反応速度で頭を伏せる。
(ギュンッ!!)
その瞬間、今まで一夏の頭があったところを高速で 何か(・・)が通り過ぎた。
(ゴォンッ!!)
「ぶへらっ!」
弾の頭に何か(・・)が直撃した。
「おいガキども!静かにしねぇとこっから追い出すぞ!!」
それは大将の厳が投げたものであった。ちなみに一夏にはおたま、弾には鍋を投擲したのである。
「す、すみません・・・」
一夏は理不尽だと思いながらも項垂れてながら謝った。
弾は頭に鍋が直撃したおかげでのびてしまっていた。
「すみません一夏さん。うちのお兄がご迷惑を・・・」
「蘭が謝ることじゃないだろ。気にしないでいい」
「わかりました。あとでお兄にはキツーく言っておきますので」
「ま、まあほどほどにな」
「はい。あ、あのぉところで一夏さん・・・」
「ん?」
「その、GWにデートをしたというのは本当なんですか・・・?」
「あ、ああ、本当だけど」
「そ、その方とは、お、お付き合いを・・・?」
「え?いや、俺とシャルは付き合ってるわけではないけど」
「ほ、本当ですか!?」
「お、おう」
「そっか。ならまだ私にもチャンスが・・・(ボソッ)」
「ん?何だって?」
「何でもないですぅ!では、私はお兄を家に置いてくるのでこれで失礼しますね!一夏さんはどうぞごゆっくり!!」
「おほほほ・・・」と笑って弾を引きずりながら蘭は去っていったのだった。
「ふぃー、食後のお茶が美味い」
我関せずとしていた数馬の声が食堂内に響いたのであった。