ようこそ藍越学園へ   作:TAKUMAKI?

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第三十二話 ある日の生徒会長

「ずっとあなたが好きでした!」

 

夕暮れの放課後。

屋上に呼び出された藍越学園生徒会長、織斑十秋は今年度通算5回目の告白を今まさにひとりの男子生徒からされていた。

告白してきた相手は校内でも結構人気がある男子で十秋も何度か話したことがある生徒だった。

が、十秋自身は相手の事はそこまではよく知らないのであった。

 

 

 

 

告白された次の日

 

「・・・・ふぁ~、ねむ・・・ん・・・」

 

欠伸をひとつして布団から抜けだした十秋は寝惚け眼のまま部屋を出て1階へと降りていく。

危なっかしい足取りとその怠惰な姿は学園で生徒会長を務める姿とは懸け離れたものであった。

 

 

「おはよう、十秋」

 

「おはよう、十秋姉」

 

ダイニングに出ると兄の百春と弟の一夏が朝の挨拶をしながらお出迎えだ。

キッチンでは織斑家の末弟である一夏が朝食の用意をしている。

 

「おはよ~」

 

まだ寝惚け状態の十秋はふらふらっと心許ない足取りで洗面所に向かう。

冷たい水で顔を洗えば目も覚めるであろう。

 

顔を洗い終えた十秋が戻ってくるといつの間にか起きてきていた千冬が席に着いていた。しかし、起き抜けのせいか顔は先ほどの十秋と同様にだらしない。

 

「だらしないな・・・、仮にもこの家の家長なんだから、しゃんとしたらどうなんだ」

 

だらしなく机に突っ伏していた千冬にコーヒーを飲んでいた百春が苦言を呈す。

 

「家の中でくらいリラックスしてもいいだろう・・・。それにこの方が下の者がしっかりするだろう・・・」

 

『親がだらしない方が子供がしっかりする』的なことを千冬は言いたいらしい。

 

「あんたはそういう意図があってだらしないわけじゃないだろうが」

 

その意見を百春が突っぱねる。

 

「相変わらず細かい男だな・・・」

 

鬱陶しげに再びテーブルに突っ伏す千冬。

 

「はいはい。千冬姉も百春兄も朝から喧嘩しないの」

 

この2人は嫌い合っているわけではないのだがちょっとしたことがキッカケで口論になることが多いのでその度に一夏と十秋が仲裁に入るのである。

 

「ほら、朝飯できたから。早く食べないと遅れるよ」

 

「うむ。では頂こう」

 

「ああ。いただきます」

 

「あたしもいただきますっと」

 

「おう。召し上がれ」

 

織斑家4人のいつもの朝がそこにはあった。

 

いつも通り一夏の作った朝食を食べて学校へ向かう。

十秋は基本的にひとりで学校へ向かうことが多い。

一緒の学校なのだし十秋もかわいい弟である一夏と一緒に学校へ向かうのも吝かではないのだが、恋する乙女達の邪魔をするのも気が引けるということで十秋は一夏よりも数分早く家を出ているのである。

 

「おはようございます、会長!」

「織斑さん、おはよう!」

 

が、文武両道で才色兼備と言われる十秋には絶えず人の輪があり登校途中であっても声を掛けてくる生徒は大勢いる。

 

「うん。おはようございます」

 

十秋も笑顔で生徒一人一人に対応する。これこそが新聞部調査によってわかった現生徒会の生徒からの支持率90%以上という結果を叩き出した理由である。現在の内閣よりよっぽど支持率は高いのだ。

 

「あ、虚ちゃん。おはよう」

 

登校中に見慣れた後姿を見つけ声を掛ける。

 

「おはようございます。十秋さん」

 

十秋が声を掛けた相手は「布仏(のほとけ) 虚(うつほ)」。

藍越学園の3年生で十秋とは同じクラス。眼鏡に三つ編みといういかにもお堅い感じのしっかり者で生徒会副会長を務めている。

ちなみに一夏のクラスメイトである布仏本音の実姉である。

 

「相変わらず生真面目だね。もうちょっと和やかにしてても罰は当たらないんじゃない?」

 

「する理由がありませんから」

 

「またそんなこと言って。人生損するよ」

 

「私は損をするとは思っていませんので」

 

「あれれ、何を言っても無駄かぁ」

 

くすくすと笑う十秋とクールに微笑む虚。この2人のコンビは藍越学園では有名だ。性格が真反対に近いこの2人だが仲は良好で「学年主席と次席」、「生徒会長と副会長」、「藍越学園3年の二大美女」と云われてる2人なのだ。

 

「あ、あの、織斑さん!」

 

校門付近にたどり着いた十秋達を出迎えるひとりの男子生徒がいた。

3年のネクタイをして緊張した面持ちをしていた。

 

「おはよう、二宮くん」

 

「あ、うん、おはよう」

 

その3年生は「二宮修吾」といってこの日の前日に十秋に告白した男子生徒である。

 

「昨日はゴメン。驚かせちゃったよね・・・」

 

「ううん。そんなことはないよ」

 

「そ、そう?それならよかった・・・。そ、それじゃ!」

 

安心したそしてどこか気恥ずかしそうな様子で二宮は去って行った。

十秋もその姿を黙って見送った。

 

「二宮さんと何かありましたね?」

 

眼鏡をくいっと上げて虚が聞いてくる。

 

「まあね。昨日の放課後に・・・」

 

少し苦笑い気味に十秋は答えた。

虚も十秋との付き合いは長いので今の反応で何があったかは大体想像が付いていた。

 

 

 

二宮修吾。藍越学園3年生。身長は180cmを越える長身で、学力も定期テストの学年順位が常に50位以内で、顔もイケメンといっていい。サッカー部所属でキャプテンを務めている。背番号は9番。ポジションはセンターフォワード。身体能力が高くリーダーシップがあり、2年生時には藍越学園サッカー部を全国3位へと導いた存在。3年生になった今年はプロからスカウトの話が来ているという噂もある。

だもんで、彼は藍越学園3年の1、2位を争うほどのモテ男なのだ。

 

「で、どうするのですか?」

 

「ん?どうって?」

 

昼休みの生徒会室。十秋は一夏の手作り弁当を、虚は自作の弁当を広げて昼食を取っていた。

話題はやはり十秋に告白してきた彼、「二宮修吾」の事だ。

 

「二宮さんの事です。もう学校中の噂になってますよ。あの色んな女子に言い寄られても靡かなかった二宮修吾が才色兼備で名高い生徒会長、織斑十秋に告白したと」

 

「うーん。でもさ、告白されたあとに返事は少し経ってからでいいからって言ってさっさと帰っちゃったんだよね」

 

「彼も女子に騒がれている割には案外ヘタレですね。言った後で臆病風に吹かれたというか」

 

「まあまあ、そう言わないで。あ、このだし巻き貰っていい?」

 

「ええ、どうぞ。そのかわり唐揚げを1個貰います」

 

おかずを交換しながらいつしか話題は逸れていき、十秋の頭からは二宮修吾の話は抜けていった。

 

 

時間は過ぎて放課後。

十秋はこの日も生徒会のお仕事だ。

 

「予算報告は以上です。理事会への報告書はできていますか?」

 

「それならこれだよ」

 

「確かに。では会長、私は委員会の視察に行って参ります」

 

「わかった。よろしくね」

 

「はい。では」

 

「いってらっしゃーい♪」

 

出て行く虚を明るく見送って十秋は山と積まれた書類との格闘に戻る。

 

「あのぉー、会長。ちょっといいですか?」

 

「どうしたの?」

 

役員の1人が声を掛けてきた。

 

「この資料なんですけど、どこに返したらいいですか?」

 

「ああこれは職員室に返さなきゃいけないやつだね。わかった、あたしが返してくるよ」

 

「ええ!?でも会長はまだ他の仕事が、それに結構量もありますし・・・」

 

「大丈夫大丈夫。あたしは結構鍛えてるからね。これぐらいなら余裕だよ」

 

「でも・・・」

 

「ほらほら、あなたも早く自分の仕事に戻りなさい。あんまり作業が遅れると虚ちゃんが怒っちゃうからね」

 

「わかりました。すみません、お願いします・・・」

 

「うん。じゃあ行ってくるね~」

 

資料の入ったダンボールを2つ抱えて十秋は生徒会室をあとにした。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アイキャッチしりとり

 

二宮「君が好きだと叫びたい」

 

 

 

虚「一度頭を冷やしましょうか?」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「失礼しましたー」

 

資料を届け終えた十秋は職員室を出る。

ぎっしりと書類が詰まったダンボール2箱を苦もなく運び終え、少し伸びをする。

 

「ん~。さて、早く戻らなくちゃ虚ちゃんに怒られちゃうかな」

 

「あ、あの!織斑さん!」

 

「え?」

 

生徒会室に戻ろうとした十秋だったが、それを呼び止めるひとりの男子生徒。

 

「あ、二宮くん。こんにちは」

 

「え?あ、ああ、こんにちは」

 

そこには二宮修吾がいた。

放課後なのでサッカーユニフォームを着ているかと思えば二宮は制服姿であった。

 

「今日はサッカー部は部活ないのかな?」

 

「あ、いや、今日はミーティングだけだったんだ。一応、終わったって顧問の先生に報告をしに来たんだ」

 

「そうなんだ。これからお帰りかな?」

 

「ま、まあね・・・」

 

相変わらず二宮は十秋と話すときはどこか気恥ずかしそうにしている。

校内でも随一の人気を誇るモテ男も好きな女子の前では初心な少年なのであった。

 

 

 

場所は変わって屋上。

夕焼けに彩られたそこは二宮が十秋に告白したときと同じで、時間帯もほほ同じだった。

よって十秋も二宮が何を話そうとしているのかもわかっていた。

 

「ゴメンな。忙しいのに・・・」

 

「ううん。気にしないで。書類の山と格闘しててうんざりしてたところだったし」

 

ちょっとおどけてみせる十秋に二宮も少しだけ笑顔を見せる。

 

「それで・・・、話なんだけど・・・」

 

「わかってる。返事でしょ?」

 

「う、うん!」

 

十秋の言葉に二宮は覚悟を決めたように顔を引き締める。

 

「その前にひとつ訊いていいかな?」

 

「え?な、何だい?」

 

「どうして、二宮くんはあたしの事を好きになったの?」

 

「あ、ああ、それは・・・」

 

質問の内容に少し戸惑いながらも二宮は語った。

二宮は小学校の頃からサッカー一筋の少年であったという。中学時代も周りの男子が異性に興味を持ち始める頃になっても二宮の頭にはサッカーしかなかった。言い寄ってくる女子がいても自分にはサッカーがあるから付き合えないとさえ言ったほどの男であったという。

そんな二宮が十秋に好きになったのは2年の全国大会が終わってすぐの事。全国3位は藍越学園サッカー部創設以来の快挙であると全校集会で発表され、そのときにある選手が代表して表彰を受けた。その選手が二宮で表彰を行ったのが生徒会長である十秋であった。表彰の際に十秋と二宮は握手をした。今までサッカー一筋の生活で女子と手を握ったことすらなかった二宮はその時身体中に電気が走ったような感覚に襲われたという。握手をしながら笑いかけてくれる十秋に顔が紅潮するのを感じた。気付けばその日以来、十秋を目で追うようになり、気が付けば好きになっていたという。

 

「我ながら単純な惚れ方だと思ったけど、俺は本気だよ。織斑さん、俺はあなたのことが好きです!俺と付き合ってください!!」

 

覚悟を決めた瞳で十秋を見つめながら二宮は今一度想いをぶつけた。

十秋も彼から目を逸らすことなく見つめる。

そして十秋はその告白に答えを出す。

 

「ごめんなさい」

 

頭(こうべ)を垂れてたった一言、シンプルかつ丁寧に十秋は二宮に告げた。

 

「・・・・」

 

二宮の顔がほんの少し俯く。

生まれて初めての告白の返事は「NO」だったのだ。

胸中は悲しみでいっぱいであろう。

 

「その気持ちは凄く嬉しいよ。二宮くん事だって嫌いじゃない。でもね、あたしは二宮くんのことはあまりよくは知らない。酷い事言うようだけど好きになる理由もあたしには無いんだ。そんな状態で付き合っても絶対上手くはいかないと思うし、あたし自身がそんなのは嫌だから」

 

それが十秋の正直な気持ちだった。

今まで男子から告白はされることは何度もあった。

が、そのほとんどが自分はよく知らない人ばかりで十秋の外見や生徒会長としての顔や学年主席という付属物に釣れて告白してくる男子も多かった。

十秋は恋愛はどちらかといえば外見より内面を重視するタイプでまだ会って間もない人やよく知らない人から告白されてもOKは出せない人なのだ。

何故二宮にこんな話をしたのかは十秋にもわからない。しかし、何故か自然と二宮には喋れたのであった。

 

「それは・・・、俺のことをよくは知らないから付き合えないって事・・・?」

 

「一言で言えばそうね。だから、ごめんなさい」

 

十秋は振り返って屋上を出ようと扉の方へと歩き出す。

二宮の方へは振り返らずにただ真っ直ぐと出口へ歩を進めていき、とうとう二宮の方へ振り返る事はなく屋上を去っていった。

 

 

翌日。

二宮と屋上で話した後に生徒会室に戻ると虚から帰りが遅かった事の小言とさらに増えた書類の山に辟易とした十秋はさすがに疲れを見せながら登校していた。

完璧超人だの何だのと言われている十秋も疲れない訳ではないのだ。

 

「はぁ~」

 

自然とため息が漏れる。

肩もちょっと下がり気味だ。

そうして校門を抜けようとすると

 

「おはよう、織斑さん」

 

「に、二宮くん!?」

 

そこには二宮が待っていた。

昨日フった相手が普通に話しかけてきたので十秋も面食らう。

 

「ちょっと時間いいかな?」

 

「え、う、うん」

 

 

朝のSHR前。場所は屋上。

そこに十秋と二宮の姿はあった。

 

「それで話なんだけどさ・・・」

 

「うん」

 

「俺、諦めないから!」

 

「え?」

 

「俺の事をよく知らないから付き合えないって言ったよね。よーするに、これから俺の事を知ってもらえば可能性はあるって事だよね?」

 

「え、あ、う、うん、そーなるのかなぁ?」

 

「なら諦めたくないんだ。まだロスタイムが残ってる。その時間がどれだけ残ってるかはわからないけど試合終了がまだなら精一杯足掻きたいんだ!だから俺に君の事を好きでいさせて欲しい!」

 

「えーっと・・・」

 

「話はそれだけだから!じゃあ!!」

 

それだけ告げると二宮は物凄い勢いで屋上を出ていった。

屋上には少し呆気に取られたような十秋だけが残されていた。

 

 

「―――――――うふふっ」

 

十秋は少しだけ声を出して笑った。

 

(告白したと思ったら返事も聞かずに去って、そのくせ次の日になったら返事を聞かせてくれと言ってきて、フった翌日に勝手に好きでいると一方的に宣言だけして顔を真っ赤にして去る。まったく、臆病なんだか強引なんだかよくわからないんだから)

 

二宮の陳腐とも思える行動に妙な可笑しさが込み上げてきて十秋は笑ってしまった。

 

(でも、なんだろう?不思議と嫌な感じはしなかったなぁ。何だろうこの気持ちは)

 

十秋の中に二宮に対する「ある感情」が少しだけ芽生えていた。

 

その感情が何を意味するのかはまだ十秋自身にもわからないのであった。

 

数日後、十秋と二宮が仲良さそうに2人で話しているのを目撃した生徒が続出したという。

 

 

 

おまけ

十秋が二宮から最初に告白された次の日。

 

「一夏ぁっ!と、十秋さんが3年のモテ男で有名な二宮修吾に告白されたって本当か!!?まさか十秋さんはOKをしたのかぁぁぁ!!?」

 

皆さんお忘れかもしれませんが一夏の悪友の1人の御手洗数馬は十秋に惚れています。

 

「か、数馬落ち着け!告白されたって噂は流れてるけどフラれたって噂も流れてるんだよ」

 

一夏は胸倉を掴んでガクガクとしてくる数馬を落ち着かせようと必死で宥める。

 

「本当か!?嘘じゃないよな!?嘘だったらぶっ殺すぞ!!」

 

「本当だって!さっき谷本さん達が話してたんだよ!今朝の十秋姉だって普通にしてたし!!」

 

「そ、そうか。なら大丈夫なのかもな・・・」

 

「お、落ち着いたか?」

 

「ああ、すまん一夏。ちょっと取り乱した」

 

「わかってくれたらいいよ・・・」

 

 

おまけ2

二宮が十秋に勝手に好きでいる宣言をしてから数日後。

 

「いぃぃぃぃちぃぃぃぃかぁぁぁぁ!!!どういうことだ!!?十秋さんと二宮が仲良さそうに2人で話していたのを見た奴が続出しているという噂が流れているぞぉぉぉ!!!詳細を説明しろぉぉぉぉ!!!」

 

「い、いや、俺も全然知らない!!知らないんだって!!!」

 

「嘘だっ!!嘘だと言ってよバ○ニィ!!!!!!!」

 

「意味わかんねぇって!!ってかバ○ニィって誰だよ!!?」

 

それからしばらく数馬は人目もはばからず喚き散らしていたという。

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