ようこそ藍越学園へ   作:TAKUMAKI?

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この回から人物視点を取り入れています


第三十三話 小っちゃいって事は便利だねっ 前編

side 一夏

 

この世の中にいい冗談と悪い冗談があるとすれば、これは100%悪い冗談だと俺は思う。

 

いつものように朝は6時半に起きて家族の朝食を用意しようと思っていた俺はある事情により驚嘆と困惑に支配されてしまっていた。

 

それはそうだ。

 

何故なら、澄んだ朝の空気の中にある窓に映った俺の姿はまるで――――――。

 

「ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!」

 

そんな俺の叫び声が家の中に木霊した。

 

side out

 

 

 

 

『ピピピピ、ピピピピ』

 

「う~ん・・・、朝かぁ・・・・」

 

モゾモゾと布団が動きそこから目覚まし時計を止めようと手が伸びる。

 

(スカッ)

 

「あれ?」

 

いつもの感覚で目覚まし時計に手を伸ばした一夏だったがその手は目覚まし時計に触れる事もなく空振りした。

また手を伸ばすがその手は空振りを続ける。

 

(昨日の夜にいつもの場所に置いたよな?こんなに遠くに置いてないはずだけど・・・)

 

仕方なく一夏はベッドに手をついて起き上がってから目覚まし時計を止めようと再び手を伸ばそうとしたがその手がピタッと止まる。

 

「な、なんだこれ!?」

 

一夏は自分の手を見るとパジャマの袖から手が出ておらずダボダボだった。

反対の手を見てみるとこっちもダボダボで、足にも目をやるとやはりダボダボ状態だった。

 

(何だこれ!?俺こんなサイズの合ってないパジャマなんて着た憶えないぞ!!?)

 

困惑の色を隠せない一夏はとにかく着替えようとベッドから降りようとする。

 

が、

 

「おわっ!!」

 

(バタンッ!)

 

一夏はダボダボのパジャマの裾が足に引っかかってコケてしまう。

 

「いててっ」

 

痛さに耐えながらも起き上がろうと一夏は顔を上げた。

すると視線の先には窓が映る。

朝の澄んだ空気のお蔭か窓は一夏の姿をハッキリと映していた。

そう今(・)の一夏の姿を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ?」

 

 

 

 

そこには6~7歳くらいの子供が映っていた。

 

そして冒頭のシーンへ。

 

 

 

 

side 一夏

 

朝起きると6~7歳くらいの姿になっていた。・・・なんていうのはいい冗談とは言えないであろう。言える奴がいたらすぐに言ってくれ。代わってやるから。

 

「な、何で!?何コレ!?もしかして何か変な病気か!!?」

 

窓に手をついて自分の姿を今一度確認する。

そこには俺が映っているのだがその姿は高校1年生の自分ではなく、明らかに小学校低学年くらいの子供が映っていた。

 

「いやいやいやいやいやいや!!朝起きたら6~7歳になっていたってどんな奇病だよ!?事実は小説より奇なりとか言うけど実際ありえないだろ!!どうなんだ、どうする俺!?」

 

もうパニック状態に陥っている俺はあるはずも無いのに胸ポケット探ってライ○カードを出そうとするなどもう意味不明な行動を取ってしまっていた。ちなみに俺が着ているパジャマには胸ポケットは無い。

 

「一夏、朝から何を大声で騒いでいる?近所迷惑だろう」

 

俺がパニック状態のスパイラルから抜け出せないでいると百春兄が部屋に入ってきた。この家では俺の次に寝起きがいいので恐らくさっきの大声を聞いて何事かと思って俺の部屋に入ってきたのであろう。

 

「も、百春兄ぃ・・・」

 

「っ!?」

 

珍しく、というか今まで15年間兄弟をやってきたけど一度も見たことないほど百春兄が驚いた顔をしていた。

 

「い、一夏、か?」

 

呆然とした感じで言葉を搾り出したように百春兄が聞いてくる。

後々になって思い出すと百春兄の表情は普段の無愛想な顔とは違って凄く間抜けな顔をしていたのだがこの時の俺はそれどころじゃなかった。

 

「そ、そうだよ!一夏だよ!何か朝起きたらこんな事になってたんだ!!どうしよう百春兄!!」

 

今は学園の保険医をしているとはいえ百春兄は医者だ。これがもし変な病気とかだったら百春兄が何とかしてくれるかもしれない。俺は縋る様に百春兄に助けを求めた。

 

「・・・・・・・」

 

しかし、百春兄は絶句してしまっていてとてもじゃないけど解決策を見つけてくれるようには見えなかった。

 

「ふぁ~、何ぃ?どうしたのぉ?朝からあんな大声出してぇ?」

 

百春兄に続いて寝惚け眼の十秋姉が部屋に入ってくる。

その胸には枕が抱かれていて十秋姉の腕の中で窮屈そうに潰れていた。

 

「十秋姉ぇ!」

 

「ふぁいぃ?」

 

まだ寝惚けている十秋姉が俺の姿を捉える。

 

「聞いてくれよ!何か朝起きたら縮んでたんだよ!!」

 

「縮むぅ?一夏ぁ、それはお姉さん感心しないなぁ。いくら姉弟とはいえ男性の朝の生理現しょ――――」

 

「縮んだってのはそういう意味じゃねぇよ!!ってゆーかそんな報告するかぁ!!ちゃんと目を覚まして俺の姿を見てくれよ!!」

 

「んぅ~?」

 

目をゴシゴシと擦る十秋姉。

擦るのは目に良くないんだぞといつもなら言うのだがやっぱり今の俺にはそれどころじゃなかった。

やがて覚醒してきたのか十秋姉の目がハッキリとしてきた。

 

「あれ?一夏随分と背が小さくない?それに何か声もいつもより高いような・・・」

 

「そうなんだよ!朝起きたら何かこんな状態になってたんだよ!!どうしよう百春兄!十秋姉!」

 

俺はほとんど涙声に近い声で十秋姉と未だに呆然としている百春兄に訴えかける。

 

「十秋、とりあえずお前は姉を起こして来い。一夏、とりあえず下に降りるぞ。話はそれからだ」

 

いつの間にか復活した百春兄の指示で十秋姉が千冬姉を起こしに行き、俺は百春兄と一緒に1階に降りることとなった。

どうしたらいいのかわからない俺は黙ってそれに従うしかなかった。

 

side out

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アイキャッチしりとり

 

一夏(幼少化)「代わってくれ!!」

 

 

 

???「レッツゴー陰陽師~♪」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「うむ、しかしこれはまた随分と懐かしい姿になったものだな」

 

織斑家が全員集合したリビング。

長女の千冬はボサボサのままの髪とタンクトップにショートパンツというラフな格好で腕を組んで一夏を見やる。

最初こそ少し動揺を見せた千冬であったが今は落ち着きを払っている。

 

「なぁ、ひとつ聞いていいか?」

 

「何だ?」

 

「何で俺こんな格好してるんだ?」

 

一夏は今身体が小さくなった事もあってサイズの合う服が無い状態だったのだが千冬が何処からか子供用の服を持ってきて、今の一夏は白のTシャツに黒の半ズボンという身体に合った服を着ている。

 

「安心しろ。それはお前が子供の頃に着ていた服だ。懐かしいだろう?」

 

「いや、確かに見覚えもあるし懐かしいんだけどさ、何でこんなもの取ってあったんだ?」

 

「それは私にもわからん。大方、母さんあたりが取っておいたのだろう」

 

何か納得できないものもあるが一夏はとりあえず納得することにした。

 

「朝ごはんできたよ~♪」

 

今日の朝食は一夏の身体のことと十秋が起きているということもあって十秋が準備をした。

トーストにベーコンエッグに簡単なサラダと洋食で揃えられていた。

 

「まさか、朝飯に十秋の用意したものを食うときが来るとはな」

 

「まあ、一夏がこの状態じゃな」

 

「うぅ・・・、ゴメン・・・」

 

「一夏が謝ることじゃないよ。気にしない気にしない」

 

ニコニコしながら十秋は少し申し訳なさそうな顔をした一夏の頭を撫でる。

 

「十秋姉、俺はもう子供じゃないんだから頭撫でるのやめてくれって」

 

「あれれ?今の一夏は子供の姿じゃない?」

 

「ぐぅ・・・」

 

十秋に弄ばれてる感が否めない一夏は自棄気味にコーヒーカップを手にとってぐいっとコーヒーを飲み込む。

 

がしかし

 

「むぅ!!」

 

一夏の顔が歪んだ。

 

「どうした一夏?」

 

同じくコーヒーを飲んでいた百春が訊いてくる。

 

「に、に、に・・・」

 

「二?」(←十秋)

 

「荷?」(←千冬)

 

「2人とも、そのボケは文字にせんとわからんぞ」

 

女性陣のわかりにくいボケ?に的確にツッコミを入れる百春だった。

 

「苦い・・・。凄く苦い・・・。」

 

それを尻目に一夏はコーヒーの苦味に悶絶していた。

 

「苦い?いつも入れてるコーヒーと変わらないよ?」

 

試しに十秋が一夏のカップのコーヒーに口を付けるがいつも入れているコーヒーと変わらなかった。

付け加えて言うなら、織斑家の面々は皆コーヒーは結構苦めにブレンドする。これはいつも寝起きが悪い女性陣が苦いコーヒーを飲む事によって目を覚まさせるという要因があるからだ。

 

「とりあえず一夏、ほれ」

 

悶絶している一夏に千冬がコップに入った牛乳を差し出す。一夏はバッとそれを取るとグビグビと飲み干す。がぶ飲みはしない主義の一夏にしては珍しい事だった。

 

「ふぅ・・・」

 

「どうやら味覚まで子供に戻っているようだな」

 

「マジかよ・・・。これぐらいの時にコーヒー飲むとこんなに苦く感じるのか・・・」

 

「激辛カレーとか食べたらどうなるかな?」

 

「よし、今晩はカレーだな」

 

「ちょ、待ってくれよ!なんでそうなるんだよ!?ってゆーか何2人結託して俺を苛めるんだよ!?」

 

「いや、何か今のお前を見ているとな」

 

「何か苛めたくなっちゃって♪」

 

千冬は真顔で、十秋はてへっという感じでそんなことをのたまう。

 

「も、百春兄ぃ~」

 

最後の砦である百春に泣きつく一夏。

 

「2人とも、その辺にしておいてやれ・・・」

 

結局解決策も出ないまま朝食の時間は過ぎていった。

 

 

「さて、朝食も食べ終えたし、そろそろ肝心な話をするか」

 

「まるで今まで真剣に考えてなかったみたいな言い分だな・・・」

 

「細かい事は気にするな」

 

家長の千冬がきりっとした表情でこの場を鎮める。

一夏も渋々とそれに従った。

 

「一夏がこうなってしまった原因だが、私にひとつ心当たりがある」

 

「ほ、本当か千冬姉!?」

 

「と言うより、こんな馬鹿げた事をしでかす人物が我々の身近にひとりいるだろう」

 

「誰の事だよ?」

 

「本人に直接聞いてみるか?」

 

「へ?」

 

「束!いるのはわかっているぞ!出て来い!」

 

「いや~、やっぱりちーちゃんにはバレちゃったね~♪」

 

突如、織斑家のリビングに底抜けに明るい声が響いた。

 

「やあやあ!お久しぶりに登場の束さんだよ~ん。ぶいぶいっ♪」

 

声の発生源は天井から。

上を見ると部屋の真ん中の天井から束の頭がにょきっと生えていた。

 

「た、束さん・・・?」

 

いつからそこに居たのかとか、どうやって家に入ったのかとか、何でそんなところにいるのかとか色々ツッコミドコロがあり過ぎて一夏はたた束の名前を言うことしかできなかった。

 

「束、いいから降りて来い」

 

「お~けい~ちーちゃん♪とうっ★」

 

千冬に降りて来い言われた束は素直に了解の返事をする。

くるりんと空中で一回転して見事に着地――――。

 

「ふぎゃっ」

 

――――とはいかずに顔面からリビングに敷かれた絨毯に落ちた。

 

「てへへ・・・、失敗しちゃった・・・」

 

鼻っ柱を赤くしながらも束は何事も無かったように起き上がった。

 

「ほら、絆創膏貼るから大人しくしてください」

 

百春がすかさず束の鼻に絆創膏を貼る。

 

「お~!さすがもっくん!!お医者様志望は違うね~。私のお婿さんにならない?」

 

「なりません」

 

「ツレナイなぁ。でもそこがもっくんらしい。そこにシビれる!あこがれるゥ!」

 

(ベシッ!)

 

「いい加減話を進めたいんだが」

 

「マジゲンコツはやめてよ~。ちーちゃんの愛が痛い・・・」

 

「その台詞は前にも聞いた。それと愛など無いと言っているだろう」

 

「そんな・・・、酷いちーちゃん、あの深く愛し合った夜は何だったの!!?」

 

「そんな夜など一度も過ごしとらん」

 

「あれは中学校の修学旅行の時、寝惚けたちーちゃんが私の布団に潜り込んできてそれから――――」

 

「死ね」

 

(パァーンッ)

 

「ちょ!いつの間にハリセンなんて用意してたの!?今ので束さんの脳細胞は1万個は死んだよ~!?」

 

「安心しろ。お前は馬鹿だから脳細胞も死んだと気付かずに活動しているだろう」

 

「おお!そっか!!ちーちゃん相変わらず頭いい~!!」

 

「だからいちいち抱きついてこようとするな、暑苦しい」

 

「も~、ちーちゃんったら照れ屋さん★」

 

「いい加減にせんと本気で地獄みせるぞ」

 

相変わらず息の合った漫才を披露する千冬と束。

百春は無言でコーヒーを飲み、十秋はニコニコしながら漫才を眺め、一夏はただ唖然とするのみだった。

 

side 一夏

 

千冬姉と束さんの漫才も終わり、束さんをリビングのソファーに着席させて話を進めることになった。

 

「で、束さん。どういうことなんですか?何で俺は突然子供の姿に?」

 

俺は恐る恐るといった風に束さん尋ねる。

それを聞いて束さんの目がキラーンと光った・・・ような気がする。

 

「うっふっふっ。よくぞ聞いてくれました。さあ、これを見よ!」

 

すると束さんはポケットをまさぐってその中からあるものを取り出した。

それは薬を入れるようなビンで中にはカプセルが入っていた。

 

「じゃじゃ~ん!これこそ束さんが夜も寝て昼寝もして暇潰しに作った特製内服薬。その名もアポ○キシン48――――」

 

「ストーップ束さん!それ以上言っちゃダメです!!」

 

それ以上言うとこの作品の作者が色んな大人から怒られます。

というより暇潰しでそれ作ったのかよ・・・――――――って、ちょっと待てよ?

 

「その薬があの某名探偵の漫画の毒薬と同じものだとしたら俺はずっとこのままって事ですか!?」

 

そんなのは冗談じゃない。

俺はれっきとした高校1年生でシャルや箒達と同じ学校に通う15歳だ。

今さら小学生には戻りたくはない。

 

「その点はこの天才である束さんにぬかりはないよ。この薬は1日経てば効果が切れるから明日の朝にはいっくんは元の姿に戻ってるよ」

 

「そ、そうですか。それはよかった」

 

本気でよかったと思う。名前を偽って小学生からやり直すとかしないで済む。

 

「ってゆーか何で俺にその薬飲ませたんですか?」

 

「いやね、せっかく作ったんだから誰かに試そうと思ってね。そこでいっくんに白羽の矢を立てたのです」

 

俺は実験動物ですか・・・。

 

「でもぉ、いっくんは優しいから束さんのこと怒らないよね?ね?うるうる」

 

うぐっ。

束さんが上目遣いでうるうるとしながら俺を見つめてくるので若干たじろいでしまう。

というよりあなたの歳を考えてください。

千冬姉と同じ歳だから今にじゅう――――

 

(パァーンッ)

 

「貴様今失礼な事を考えていただろう」

 

いきなりハリセンでどつかれた・・・。

ってゆーかお姉さん、まだそのハリセン持ってたんですね・・・。

 

「おぉーっとぉっ!!それじゃ用も済んだしそろそろ束さんはお暇させてもらうよ~。じゃあねばいばいき~ん★」

 

「あっ、ちょっと束さん」

 

止める間もなく束さんは織斑家から姿を消してしまった。

毎度の事ながら本当に台風みたいな人だ。

 

「どうしろってんだよ・・・」

 

俺は今一度自分の身体を見回す。

やっぱり身体は7歳くらいの身体だ。

身体は7歳、頭脳は15歳、その名も名探偵イチカ!――――ってさぶっ!!ってゆーか俺別に名探偵じゃないし語呂も少し悪い気が!!

 

(パァーンッ)

 

「何をくだらん事を考えている」

 

またハリセンでどつかれた・・・。

っつーか何で俺の考えてることわかるんだよ?

千冬姉って実はエスパーなんじゃ・・・?

 

「まあまあ、一夏のくだらない考えは置いておいて」

 

十秋姉さん、あなたも敵ですか・・・。

 

「1日経てば元に戻るらしいし、今日はこのまま過ごすしかないんじゃないかな?」

 

「それしかあるまい」

 

「そうだな。一夏、今日1日は我慢しろ」

 

「わ、わかったよ・・・。今日は我慢してこの姿でいるよ・・・」

 

もうどうにでもなれと思いながらも俺のこの日の一日は始まったのだった。

 

side out

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