ようこそ藍越学園へ   作:TAKUMAKI?

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第三十五話 小っちゃいって事は便利だねっ 後編

side 一夏

 

「あはは、ゴメンね一夏」

 

「い、いや、気にするな。俺は気にしない・・・」

 

昼飯を済ませた俺達は縁側に座りながらほのぼのしているとシャルが先ほどの強制ベアハッグの話題に触れてくる。

シャルも少しやり過ぎたと思ったのか謝ってきたので俺は気にするなと言っておいた。

しかしあれだな・・・。く、苦しかったけどそれとは別に凄くいい思いもした気がする・・・。

今は身体が縮んで7歳くらいの容姿だが俺だって15歳の思春期真っ只中の男子高校生だ。

人並みに異性に興味があるし、女子の胸に顔を埋める事なんて人生で初だったしあの柔らかさは正直気持ちよかった・・・。

うぅ、いかん・・・。何かあの柔らかさを思い出すと顔がニヤケてしまいそうになる!

頭では必死に考えないように押さえ込もうとしているのに勝手に思い出してしまう!

ああ!これが悲しい男の佐賀・・・もとい、性か!!

 

「ねぇ、一夏」

 

(どきぃっ!)

 

「な、何だシャル!?」

 

い、いかん!

このニヤケ顔をシャルに見られるわけにはいかん!

俺は必死にポーカーフェイスを作ろうとしてからシャルの方へ顔を向けたが正直変な顔であったことであろう。

 

「・・・・・」

 

あ、あのぉ、シャルロットさん?何でそんなちょっと胸を隠すように身体を抱いて抗議の眼差しを俺に向けているのでございますか?

 

「・・・えっち」

 

「なあっ!?」

 

ええっ!?お前が勝手に自分で俺の顔をその胸に抱いたんだろうが!!

なのに俺が悪者か!?

なんという不条理!なんという冤罪!

そ、そりゃあ、ちょっとは役得かも・・・とか思ったけどさぁ!

仕方ないだろう、俺だって男なんだよ!!

 

「ふふっ♪」

 

可笑しそうにシャルが笑った。

なんだろうか?シャルの表情がほんの少し恥ずかしそうでそのくせどこか嬉しそうにも見える。

さっきはあんな抗議の眼差しを俺に向けてたのにどういう心境の変化だろうか?

 

「許してあげるよ」

 

「え?」

 

「えっちな目してたけど、一夏だから許してあげる」

 

「あ、ああ・・・」

 

なんか思わずそんな返事をしてしまう。

俺が悪者扱いになるのは些か心外なのだがにっこり笑うシャルを見ていたらそんなことは気にならなくなってしまった。

まあ、俺とシャルも10年近い付き合いだ。これくらいでわだかまりが残るようならもう疎遠になっているだろう。

俺にとってもシャルは大事な存在だ。こんな事でギクシャクはできればしたくない。それはシャルも同じだと思う。

だからこそこの話題は切り上げる事にした。

 

「そういえばシャル」

 

「ん?なぁに一夏?」

 

「付けてくれてるんだな、それ」

 

俺はシャルの左手首にしているブレスレットを指差した。

それはGWに2人でデートした時に俺がプレゼントしたブレスレットだった。

 

「えっ、あ、うん、まあ、ね。えへへ」

 

シャルは銀色のそれをにこにこしながら愛しそうに優しく撫でる。

 

「それ、そんなに気に入ったのか?」

 

「うん!だって一夏が僕の為にプレゼントしてくれたものだから!」

 

臆面もなくそんな事を言ってくるシャルに俺は照れてしまう。

 

「せっかく一夏に貰ったものだし身に着けていられるときはいつも着けてるんだ」

 

「そうなのか?」

 

「うん。一夏だってプレゼントしたものをいつも身に着けてもらった方が嬉しいでしょ?」

 

「ま、まあな」

 

それにしても、こんなに気に入ってくれるとは思っていなかったな。

あまり高いものでもないし、あんな訳のわからん雑貨屋で買ったものだし。

まあ、気に入ってくれたのはこっちもプレゼントした甲斐もあって嬉しいんだけど。

 

「ねえ、一夏」

 

「ん?」

 

「また2人で一緒にデートしようねっ♪」

 

満面の笑みでシャルはそう言ってきた。

その笑顔があまりにも輝いていた為に俺は変にドキドキしてしまう。

顔も痛いくらい熱を放っているので恐らく赤いだろう。

 

「そうだな。また2人で行くか。俺達2人なら絶対に楽しいよな」

 

「だ、だったら、来週の日曜日はどうかな?」

 

「おう、いいぜ。来週の日曜な」

 

「うん!じゃあ、やくそく!」

 

そう言って、はいとシャルは小指を差し出す。

子供の頃に指切りを教えてからというもの、シャルはこれがお気に入りらしく約束をするときはよく2人で指切りをする。

「高校生にもなって指きりなんて恥ずかしい!」なんて男子が多いかもしれないが生憎とそんな感情は俺には無いので普通にシャルと小指を絡める。

 

「指きりげんまん、ウソついたら廃油10kgのーますっ♪」

 

そして毎回、子供の頃からのこの決まり文句が非常に怖い・・・。廃油以前に一度に油を10kgも摂取したら死んでしまう・・・。とゆうか絶対無理・・・飲めません・・・。

これのおかげで俺はシャルとの約束は絶対に破らないようにしようと心に誓っていた。

 

「指切ったっ♪」

 

「おう」

 

「えへへ。楽しみだなぁ」

 

まだ1週間も先の話だというのに、気の早いことだ。

まあ、俺も今から楽しみである事は間違いない。

シャルと2人でいるのは楽しいからな。

早く来週にならないかなぁ。

あ、俺もシャルの事は言えないな。

 

side out

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アイキャッチしりとり

 

一夏(幼少化)「ストップ!廃油は無理!!」

 

 

 

シャル「理屈はいいいからさっさと飲め!!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「それでね、山田先生がそこでコケちゃってね。食材ばら撒いちゃったんだよ」

 

「それは何というか、あの人らしいな」

 

縁側に座りながら他愛ない会話をする一夏とシャルロット。

今の話題は前にあった料理部の活動中に顧問の真耶が食材を運んでいる時にコケて食材をばら撒いたという話題である。

他にも鷹月さんが読んでいた意外な文庫本の話や谷本さんが言っていたお得なダイエット法の話などクラスメイトについての会話。

そんな日常的なことが、今の2人には楽しかった。

そんなことを話しながら時間は過ぎていき、空はほんの少しだけ朱色に染まり始めていた。

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

不意に話が途切れて、2人は縁側に並んで座りながら朱色に染まりつつある空をボーっと眺めていた。

 

(とさっ)

 

「一夏?」

 

ふと左半身に重みを感じたシャルロットが視線を向けると、そこには安らかな寝息を立てて身を預けるように寄りかかっている一夏の顔があった。

 

「疲れてたのかな。今日は色々あったみたいだし」

 

「すー・・・くー・・・」

 

無防備に寝息を立てる一夏の姿は幼少化してる事もあってかシャルロットの目には非常に愛らしいものに見えた。

 

「一夏、かわいいな~♪」

 

シャルロットはまた抱きしめたくなる衝動が湧き上がるが、一夏の寝顔を見ているとどうにも起こさないように気を配りたくもなった。

 

「仕方ないなぁ♪」

 

シャルロットはそっと起こさないように体勢を立て直した。

足を一夏とは反対方向に向け横にする。そしてゆっくりと一夏の頭を自分の膝の上に移動させた。

前にもやった膝枕だ。

 

「うふふっ♪」

 

自分の膝の上で安心するように眠る一夏の髪をそっと撫でる。

まるでそうすることが自然のような気持ちになった。

音はなく、声もなく、感じるのは一夏の温かさと微かに髪を揺らすそよ風。

まるで一夏ではなく、自分が優しい揺り籠の中にいるようだ。

そんなことを思いながら、シャルロットもその心地良い空気に身を委ねてそっと目を閉じた。

 

 

side 千冬

 

「おーいお前達。そろそろ夕飯の準備を・・・、お?」

 

時間も夕方になり腹も空いてきた私は一夏達に夕飯の準備を促すために自室から1階に降りてきてあいつらの側に寄ったのだが、私が見たものはシャルロットの膝枕の上で横たわる一夏という構図だった。

だが寝ているのは一夏だけでなくシャルロットもだった。

2人揃って縁側の心地良い空気の中でまるで安心しきったかのように眠っている。

その光景を見て私はちょっとため息をついてから微笑を浮かべた。

なんというかこれは恋人というより……仲の良い姉弟を見ているかのような気持ちになるではないか。

今は一夏が幼少化しているせいか余計にそう見える。

 

「まったく、世話が焼ける」

 

叩き起こして飯の準備をさせたかったが、なんだか今のこいつらを見ているとその気も削がれてしまった。

私はたまには姉らしい事をしてやろうと手近な部屋から毛布を2枚持ってくると、1枚をシャルロットの膝の上で無防備に寝息を立てる一夏に、もう1枚をシャルロットの肩にそっとかけてやった。

 

「馬鹿者共が」

 

そう言って私は2人の頭を撫でた。

こいつらは傍から見ていると実にじれったい。

お互いに意識しているくせして関係の進展は全然だ。

明らかにシャルロットの方は好意が丸分かりなのにそれに気付かない鈍感な一夏も我が弟ながら呆れる。

一夏もシャルロットにはそれなりの想いも持っているようだがまだ自覚は無いようだし、さっさと自覚して欲しいものだ。

まあ、自覚したらしたでまた一騒動起こりそうだがな。

 

「お、そうだ」

 

いい事を思いつき、私の頭上に豆電球が光った。

ちょっと悪戯心が湧いた私はこいつらのこの姿を写真に撮っておいてやろうと思った。

私は昔から写真を撮るのが結構好きだったりする。

両親が亡くなってからはそれもあまりできなかったが今日はその意欲が湧いたのでバッチリこいつらの姿を収めて後でからかってやろう。

うん、私はいい姉だ。

 

(カシャッ)

 

さて、いい絵が撮れたところで飯の用意をせねばな。

生憎私は料理はできないし、料理担当の一夏はあの様だし、十秋も外で夕飯を済ませてくると言っていたから飯の用意は自分でせねばならない。

ちなみに百春のやつも今日は外で済ますらしい。

 

「仕方ない。コンビニでも行って来るか」

 

私は自室で外出着に着替えて財布を取って玄関に下りた。

 

「自分を磨けよ、ガキども」

 

聞こえるはずもないのに私はそう言い残して家を出た。

 

side out

 

 

「はあ、まったく千冬姉ときたら・・・」

 

夜も10時に差し掛かった時間に一夏は自室に戻ってため息をついた。

先ほど縁側でついつい居眠りをしてしまい、いつの間にか彼に膝枕して一緒に眠りこけていたシャルロットとのツーショット写真を見せられて今まで散々からかわれていた。

夕飯の準備もせずに居眠りしていたのは一夏も悪かったと思っているが、酒も進んで酔った千冬の相手はいつも以上にしんどかった。

途中で帰ってきた百春と十秋にもからかわれて心も疲弊しきっていた。

 

「風呂入ってもう寝よ・・・」

 

色々あった1日だったため彼はもう疲労が頂点に達していたためさっさと寝てしまおうと考えた。

先ほどまで居眠りをしていたのだが身体が幼少化しているせいか睡眠欲はまだ旺盛だった。

手早く風呂を済ませた一夏は いつもの(・・・・)パジャマを着込んでから布団に入った。

 

(朝に身体が戻ってるならこの方がいいしな)

 

それが理由だ。

幾分、寝心地は悪いが我慢して一夏は目を閉じて夢の中へと旅立っていった。

 

 

補足だが、この日千冬の撮った2人の居眠りツーショット写真は焼き増しして1枚は織斑家のアルバムに、もう1枚はシャルロットの部屋のフォトフレームに飾られたのであった。

 

 

 

 

翌朝

 

『ピピピピ、ピピピピ』

 

「う~ん・・・、朝かぁ・・・・」

 

モゾモゾと布団が動きそこから目覚まし時計を止めようと手が伸びる。

 

(カチッ)

 

「手が届いた・・・。ってことは!!」

 

一夏は飛び起きて自分の身体を確認する。

パジャマの袖から手は出ていて裾からも足が出ている。

窓に目を映すと朝の澄んだ空気のお蔭か窓は一夏の姿をハッキリと映していた。

そう今(・)の一夏の姿を。

 

「元に戻った!よかったぁ~!!」

 

朝っぱらから歓喜の声を上げる一夏。

まあ、昨日彼の身に起こった事を考えれば大目に見てやって欲しいところである。

 

「さて、朝飯作るか♪」

 

気分も上々に一夏の今日の1日が始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「ふっふっふ~、まだこの薬は手を加える必要がありそうだねぇ♪次はどう手を加えようかなぁ~★」

 

今回の騒ぎの元凶がまた何かを企んでいた。

 

それもいつかきっと語る日が来るであろう。

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