「ええっ!!何で千冬姉がここに!?」
(パァンッ!)
「いっ―――――!?」
「学校では織斑先生だ」
素っ頓狂な声を上げていきなり頭を叩かれる一夏。
黒のスーツにタイトスカート、すらりとした長身、よく鍛えられているが決して過肉厚ではないボディライン。長く伸びた黒髪は首の後ろで束ねている。腕を組んで狼を思わせる鋭い吊り目で一夏を睨んでいるのは間違いなく一夏の実姉である織斑千冬だった。
「1年1組の諸君、おはよう。今日から君達の担任となった織斑千冬だ。担当科目は世界史だ。これからの1年間君達を受け持つことになる。よろしく頼む」
痛がる一夏を無視して千冬は教壇の前に立って挨拶をする千冬。その挨拶は女とは思えないほどに男前だ。一切余計なことは喋らずに凛とした出で立ちで生徒を見ている。
(今まで職業不詳だったけど、千冬姉って教師をしてたのか?しかも俺の担任?あれ?千冬姉って教員免許持ってるのか?家の事情で大学には行ってなかったはずなのに?え?え?何がどうなってるの?)
しかし一夏はこの状況をちゃんと理解できないでいた。それはそうだ。今まで姉の職業を知らずにいてその姉がいきなり自分の担任として現れたのだ。両親が亡くなったとき千冬は19歳で、両親の死後は大学に通わずに働いていたのだが、その頃から一夏は千冬が何の仕事をしているか知らなかった。そしていつどうやって教師となったのかも一夏には一切合切わからないのである。
※ちなみに普通は教師と生徒が親族や家族だった場合は受け持つクラスは別となるのが一般的だが気にしないでください。大学行っていないのに教師をしているのも気にしないでください。
「そろそろ入学式の時間になるので出席番号順に廊下に並べ。もたもたせずに速やかに行動しろ」
千冬の一声で生徒達は席を立って廊下に出て行く。
「一夏、大丈夫?」
「え?あ、ああ・・・」
未だに状況を飲み込めないで呆けていた一夏だったがシャルロットが声を掛けてきて我に返る。
「千冬姉が俺達の担任になるとはねぇ」
「僕もちょっとビックリしたよ。一夏も知らなかったの?」
「ってゆーか教師なんてやってたの今さっき知ったよ」
「え?そうなんだ?叩かれたところは大丈夫?」
そう言ってシャルロットは先ほど千冬に叩かれた頭を撫でてくる。
「大丈夫だって。それより早く廊下に並ぼうぜ」
「うん」
頭を撫でられて照れ臭そうにした一夏はそれをやめさせて席を立つ。シャルロットもそれに従って廊下に出る。すでに2人以外の生徒は出席番号順に並んでいる。
「さっさと並べ馬鹿者共」
「「はい・・・」」
千冬のお叱りを受けてそそくさと列に入る一夏とシャルロット。それを見ていた鈴、弾、数馬はニヤニヤしていた。箒だけはまた不機嫌そうにしていたのだった。
入学式のために体育館へとやってきた一夏達1年生。
入学式事態はどこの高校でも似たよなものなのだがそこでも一夏には驚きが待っていたのだった。プログラムも進み少し退屈になってきたところでそれは起こった。
「続きまして生徒会長歓迎の言葉になります」
司会の先生がそう言うと1人の女子生徒が壇上に姿を現す。制服に3年生の証の赤いリボン。髪は色の薄い紫で頭の後ろで結っている。その姿はまたしても一夏の見覚えがある人だった。ってゆーか今朝一緒に登校してきたのだ。
「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。そして、ようこそ藍越学園へ!私はこの学園の生徒会長の織斑十秋といいます。よろしくお願いします」
ぺこりとお辞儀をひとつしてから愛想のいい笑顔を見せる一夏のもうひとりの実姉である織斑十秋。
(十秋姉が生徒会長?いや、十秋姉は昔から器用だし頭もいいし人望もあったから生徒会長やってても不思議じゃないけど、また俺知らなかったよ?)
また身内の知らなかった事実を知らされて呆ける一夏。
十秋は一言で言えばマイペース。周囲の人間は彼女のペースに知らず知らずのうちに巻き込まれ毒気を抜かれてしまう事がある。だからこそ指導者というか大勢を引っ張っていくような生徒会長というポジションが似合うんだろうと一夏は思うのであった。あの千冬でさえ十秋には手玉を取られるほどだ。姉妹喧嘩をしても勝つのはいつも十秋の方なのだ。百春も十秋にはちょっと甘いとこある。実際織斑家の家事の類は7割近くを十秋が担当しているほどだ。一夏も家事は好きなので担当してはいるがやはり十秋には敵わないのだ。織斑家の財布は十秋が握っているのでもはや織斑家の生殺与奪は十秋に握られていると言ってもいいかもしれない。もしも織斑家にヒエラルキーというものがあるなら天辺は間違いなく十秋のものだろう。
「最後に、学校生活が楽しく充実したものになるかは、あなた達次第です。私たちと一緒に、楽しい学校生活を作りましょう!」
思考に浸っている間に十秋の挨拶は終わりとなった。どうやら一夏は随分長い間思考に浸っていたらしい。
壇上から十秋が去っていった。その後は恙無く入学式は終わりを告げた。
入学式が終わり次に待っているのは帰りのSHR。プリントとか何枚か配られたりしたが生徒達の意識はもう別のところにある。
「配れたプリントは各自で読んでおくように。これより学園は部活勧誘の時間となる。興味がある者は参加してみるといい。参加は強制ではないので帰りたい者はもう帰っても構わない。ではSHRを終わりにする。日直はまだいないので号令はいい。では、解散!」
「「「「「はいっ!!!!」」」」」
男前にSHRを終わらせる千冬。それに礼儀正しく返事をする1年1組生徒一同。
千冬が教室を出て行ったあとは皆席を立ち親しくなった者と駄弁る者、帰る者などそれぞれの行動に移る。一夏もシャルロット、箒、鈴、弾、数馬と共に部活勧誘へと繰り出すのであった。
藍越学園の新入生の部活勧誘はなかなかに壮大である。料理部、茶道部なんかは惣菜の出店やお茶点ての体験学習を催しているし、美術部は絵の展示、手芸部は小物の出展、吹奏楽部、軽音楽部は体育館で演奏をしているし、運動部もちょっとしたゲームや新入生を交えた簡易試合などを行っている。
「これってちょっとした文化祭並みの騒ぎになってるよな」
「そうよね。入学前から噂は聞いてたけどね」
「ああ、藍越学園はやたら行事に力を入れるって事らしいからなぁ」
「しかし部活勧誘でここまでするものかねぇ」
「いいんじゃないかな?楽しそうで僕はいいと思うよ」
「そうだな、こういうのも悪くはない」
6人がそれぞれに感想を漏らす。その顔はどこか楽しそうである。入学式が終わってすぐにちょっとした祭りが始まったようなものだ。テンションも上がろうというものだ。
6人は手始めに運動系の部活から回る事にした。
グラウンドで野球部が催している的当てに全員で挑戦。持ち球4球で抜いた枚数に応じて景品が貰えるというシステムだ。2枚抜けばジュース1本、3枚で2本、4枚でジュースとお菓子を詰め合わせた大袋1つといった感じだ。
ちなみにそれぞれの結果は一夏が2枚、シャルロットが1枚、箒が3枚、鈴が4枚、弾が0枚、数馬が1枚だ。
「くそぉ、フレームに邪魔をされなければ俺もジュース貰えたのに!!」
「男子はもっとしっかりしなさいよね。あたしと箒が1位2位ってゆーのはどうなのよ」
「男子たるものこれぐらいできないでどうする!」
「お前らの運動神経がずば抜けてんだよ。ってゆーか俺と数馬だけ何も無しか?デュノアさんは篠ノ之が取ったジュース貰ってるし」
「箒ありがとうね。次何か景品取ったらお返しするね」
「気にするな、2本もいらなかったしな」
「シャルも惜しかったよな。もう少し力籠めて投げればいけたんじゃないか?」
「そうだね。最後は的の前で落ちちゃったし」
「でも0枚の弾よりマシね」
「弾はノーコン過ぎだろ?何であんな1m近くも的から外れるんだ?」
「あれには思わず笑っちまったなw」
「お前は何で名前が『弾』なんだ?」
「名前は関係ねぇーだろ!?」
「投げる前に自信満々でこれからは『藍越の赤い弾丸』と呼んでくれって言ってたよなw」
「やめてくれ!それはもう黒歴史だ!!」
「「「「「あははははははっ」」」」」
鈴がゲットしたお菓子を全員で分け合って食べながら先ほどの戦果を話す6人。その表情は楽しげだ。弾を除いて。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アイキャッチしりとり
千冬「鉄の女と呼ばないで」
百春「でっていうって何語だ?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その後サッカー部で男子3人と鈴がサッカー部のレギュラーキーパーを相手にPK勝負、男子3人は止められてしまったが鈴だけはゴールを奪う。景品であるアイスをゲットした。女子に負けてしまってキーパーはもちろん男子3人もショックを受けていた。ちなみにシャルロットと箒はスカート気にして参加せず。鈴は下にスパッツを穿いていたので参加しました。
次に訪れたのはバスケ部。ここではハーフコートを使って5分間の3オン3の簡易試合。参加するのは一夏、鈴、数馬だ。シャルロットと箒は先ほどと同じ理由で不参加。弾はさっきから良い所無しで自信をなくしてしまい不参加。勝てば全員分のリンゴ飴をゲットできる。何故リンゴ飴なのかはツッコまないで。
「一夏、行ったぞ!」
「鈴、パス!」
「任せて!」
先ほどから大活躍の鈴。鮮やかなシュートを決める。一夏も負けじと3ポイントラインの外からシュートを決め、数馬も相手の攻撃からうまくボールを奪っている。相手はレギュラーではないがバスケ部の部員だ。それを相手に3人は善戦している。残り時間はあと僅かで10対7で一夏達がリード。しかしここでちょっとした事故が起こった。
相手チームのシュートが外れてリバウンドに行った一夏だったが相手の競り合いに負けてバランスを崩し倒れてしまう。そこで思わず手を床につけたときに痛みが走った。どうやらついた角度が悪かったらしく突き指をしてしまったのだ。
「一夏、大丈夫!?」
「ああ、平気だって。ほっときゃそのうち治る」
「ダメだよ!ちゃんと治療しなきゃ!!保健室行こう!!」
「そんなに騒ぐほどのモンじゃ・・・」
「いいから行ってきなさいよ。悪化させたら元も子もないでしょ」
「そうだな、行っとけ一夏。試合はもう俺達の勝ちだ」
「そうだな、そうしようかな?」
「心配するな一夏!お前の分のリンゴ飴は俺がちゃんと貰っておくから!!」
「何だ弾、いたのか?」
「ひどっ!!」
「ああゴメン『藍越の赤い弾丸』」
「お願い!もう忘れてそれ!!」
「うるさいわよ『藍越の赤い弾丸』」
「黙れ『藍越の赤い弾丸』」
「周りに迷惑だぞ『藍越の赤い弾丸』」
「えっと・・・、落ち着いて『藍越の赤い弾丸』」
「だからやめろぉぉ!!!そんな馬鹿な男はもう死んだんだぁぁ!!!!!」
突き指も忘れて馬鹿話をする6人。
結局一夏はシャルロットと共に保健室に行くことになり鈴達はもう少し運動系の部活を見ていき後で合流することになった。箒もついていくと言ってきたが一夏はシャルロットだけでいいと断ったら箒はまた不機嫌そうになって『フンッ!』と言って去っていった。一夏はまた訳がわからずにため息を漏らす。それをシャルロットは苦笑いで見ていた。
一夏とシャルロットは保健室の前にやってきた。シャルロットがドアをコンコンとノックする。
「入っていいぞ」
と男性の声。一夏はこの声に聞き覚えがあった。
(ん?今の声って何か百春兄に似てたような・・・)
「失礼しまーす」
シャルロットがドアを開ける。
するとそこには白衣を着て椅子に座っている1人の男性がいた。髪は色の少し色の抜けた茶髪。眼鏡を掛けていてその奥にある目つきは鋭い。
「何だ一夏にシャルロットか、どうした?」
ぶっきらぼうな物言いで対応してきたのは一夏の実兄である織斑百春だった。
「百春さん?」
「百春兄、何でここにいるの?」
「何でも何も、俺はこの学園の保健医だぞ。保健室にいてもおかしくはないだろ」
さらっと言ってのける百春。
(え?百春兄が保健医?確か医者になるために大学に行って去年卒業したらしいけどそのあとの事は俺も聞かされてなかったんだよな?いつも朝はスーツ着て家を出て行ってたからちゃんと仕事はしていると思ってたけどここで保健医なんかやってたのか?)
百春は小さい頃から医者になるのを夢見ていた。しかし17歳のときに親は事故で他界。一時期はその夢を断念していたが千冬が説得して大学に入って医学の勉強をしていたのだ。学費は千冬の稼ぎと百春自身がバイトをして稼いだ金で賄っていた。去年に大学を出て4月からはスーツを着て仕事に行っていたので一夏は普通に就職したのかと思っていたのだ。
上の姉は自分の担任で下の姉は生徒会長、兄は保健医と一夏にとって本日3度目の身内の知られざる事実だ。シャルロットも百春を見て驚いている。
「で、どうしたんだ?怪我でもしたからここに来たんだろ?」
「あ、はいバスケの簡易試合してるときに突き指してしまったらしいです」
一夏の代わりにシャルロットが答える。
「そうか。どれ、指を見せろ」
突き指した指を診察する百春。
(しかし昔からそうだけど百春兄って言葉がぶっきらぼうすぎるんだよなぁ。目つきも結構するどいし医者としてはもうちょっと表情を和らげた方がいい気がするけどなぁ。あ、でもニコニコしてる百春兄もそれはそれで恐いかも)
「何を考えてるかは知らんが、医者を敵に回すような事は考えん方がいいぞ」
「べ、別に何も考えてねぇよ百春兄!」
「そうか?ならいい。あと学校では織斑先生と呼べ」
「はい・・・。あ、でもそれだと千冬姉と被るんだけど・・・」
「そのときは下の名前でいい。公私の区別はちゃんとつけろ。いいな織斑」
「わかりました、百春先生」
「うむ。突き指は大した事はないな。冷やしてテーピングをすれば大丈夫だろ」
言い方は相変わらずぶっきらぼうではあるがテキパキと治療を行う百春。よく言う『口は悪いけど腕は立つ』というやつである。
「ほら、終わったぞ」
「あ、ありがとう百春兄」
「学校では先生を付けろと言っただろ」
「はい、百春先生」
「よし。部活勧誘まだ見て回るなら運動系はやめておけ。今日はあまり無茶はするな」
「わかってるって」
そう言って保健室を出ようとする一夏とシャルロット。
「ちょっと待て、一夏」
「ん?」
急に百春に呼び止められる。振り返ると先ほどまで無愛想な顔をしていた百春が少し表情を和らげていた。
「この学園はどうだ?楽しめそうか?」
いきなり突飛な質問をされて一夏はキョトンとするが返事は決まっていた。
「ああ、楽しいよ。やっぱあのときに就職選ばないでよかったよ」
「そうか。ここは俺の母校でもあるからお前にも気に入って貰えるならそれでいい」
「珍しいな、百春兄がそんな事言うなんて」
「ただの気まぐれだ。生意気な弟だがお前は大事な家族だからな」
「あれ?公私の区別は?」
「お前らが黙っていればそれで済む」
「そうだな、ははははっ!」
「話は終わりだ。俺は仕事に戻る」
「わかった。シャル行こうぜ」
「うん」
保健室をあとにする一夏とシャルロット。
「ねぇ、一夏」
「ん?どうしたシャル?」
「この学園は楽しい?」
百春と同じ質問をしてくるシャルロットに首を傾げつつも答える。
「ああ、楽しいよ。箒に鈴、弾や数馬もいるし。そして何より」
シャルロットの手を握る一夏。
「お前がいるからな」
笑顔でシャルロットに答える一夏。
「うんっ!!」
そしてシャルロットも笑顔で一夏に答える。
「よし、鈴たちと合流しようぜ!」
「そうだね!」
一夏とシャルロットは手を繋いだまま歩き出した。そして鈴達と合流し2人はこのお祭りを楽しむのであった。