ようこそ藍越学園へ   作:TAKUMAKI?

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第三十九話 訪れたカフェで 後編

「なあ、本当にやらなきゃダメなのか?」

 

「ダメだよ一夏。僕のお願いを聞いてくれるって約束したでしょ」

 

「い、いや、でもさぁ・・・」

 

「一夏~」(ニッコリ)

 

「うっ(何だこのプレッシャーは・・・)」

 

「男に二言は無いんだよね」

 

「わ、わかりました・・・。従います・・・」

 

「うん♪」

 

「は、はぁ・・・。(何でこうなってしまったのか・・・)」

 

それを説明するには少しだけ時間を遡ります。

 

 

 

side 一夏

 

「ふぅ、食った食った。美味かったなぁ」

 

「もう、一夏ったらなんかおじさんくさいよ」

 

「え?マジで!?」

 

まだ華の高校生だぞ俺は。

アレ?でも華のって何か女っぽいか?

まあそれはいいとして、俺もまだ15歳の高校生なのだからおじさんくさいはさすがにちょっと嫌だなぁ・・・。

気をつけよう。

しかし、本当にあのチキンカツの卸し大根ソースって料理はマジで美味かった。

チキンカツと卸し大根のソースが絶妙に絡み合って、その上に乗せられた紫蘇がまた良いアクセントになっていた。

やっぱり決めてはあのソースだな。

結構分析してみたけど隠し味に何が使われているかは分からずじまいだった。

う~む、この店なかなかやりおるわ。

でも客は今俺とシャルだけしかいないな。

料理も美味かったし結構流行りそうなんだけどなぁ。

まあ、立地条件とか流行らない原因は他にあるのかもな。

 

「・・・・・・・」

 

ん?あれ?何かシャルがふくれっ面になってる。

効果音があるとすれば、ぷく~~~~という感じだ。

 

「えっと、シャルどうかしたか?」

 

恐る恐るといった感じで俺は訊ねてみた。

 

「一夏、今は僕とデート中だよね」

 

「お、おう」

 

だから今日はこうして千羽谷まで来たというのにシャル何を言っているのだろうか?

 

「そのデートの相手をほったらかして考え事するのはちょっと失礼じゃないかな」

 

「うっ・・・」

 

しまったなぁ。

つい料理の味を分析するのに夢中になりすぎてしまったらしい。

そりゃ、デート中に相手が自分の事忘れて何か別の事に夢中になってたら誰でもいい気はしないよなぁ。

ってゆーか、何か今日俺ってシャルを怒らせてばかりのような気が・・・。

マジで気をつけないとな・・・。

 

「ゴメン、シャル!もうしないから機嫌直してくれよ。な?」

 

「本当にもうしない?」

 

「しないしない」

 

これは完全に俺の落ち度だ。

せっかくシャルとデートしてるのに俺がシャルをほったらかして考え事してたのが悪い。

本当に反省しなきゃいけない。

 

「じゃあ、今回は許してあげるよ」

 

「そ、そうか。ありがとう」

 

「――――でも!」

 

うわっ!

いきなりシャルが俺の頬をつねってきた。

いきなり何をするか!?

 

「ひゃ、ひゃるぅ!?(シャ、シャル!?)」

 

「次やったら僕も本気で怒っちゃうからね」

 

「ふぁ、ふぁはったぁ!ふぁはったぁはらはらひへふへ~!(わ、わかった!わかったからはなしてくれ~!)」

 

「あははははっ!一夏面白い顔してるよ~!!」

 

「ほれはおまへがほほをひっはへるはらだぁ~!(それはお前が頬を引っ張ってるからだ~!)」

 

「あはははははっ!!」

 

それからしばらくシャルは俺の頬をビロ~ンと引っ張って遊んでいるのだった。

俺に落ち度があるとはいえなんか納得できない・・・。

 

「君たち」

 

「「ひゃっ!!」」

 

突然声を掛けられてシャルが飛び引く。

俺も素っ頓狂な声をあげてしまう。

 

「他に客がいないからっといって、あまり騒がしくはしないでほしいんだけど」

 

いつの間にかあの男性店員がデザートを持って俺達の座っているテーブル席の近くに来ていた。

 

「「あ、すみません」」

 

シャルと2人で謝る。

もしかしてコレも俺のせいになるのか・・・。

 

「まあ、そういうのも若い者の特権なのかもね。俺も脱サラしてこの店を始めたときは若かったからなぁ。はっはっはっはっ!」

 

「「は、はぁ・・・」」

 

俺とシャルはつい口を揃えて同じ言葉を漏らす。

 

「はい、デザートね」

 

俺とシャルの前にデザートのヨーグルトムースを置く店員。

なんだろうか。

多分、良い人なんだろうけどちょっと遠慮なさ過ぎなのではないかこの人。

 

「あの、今脱サラしてこの店始めたって言いましたよね。ということはあなたはこのお店の責任者なんですか?」

 

シャルが店員にそんな質問を投げかけた。

確かに今そんなこと言ってたな。

というか、いくら日本に馴染んでるからって脱サラなんて言葉よく知ってるなぁシャル。

 

「ああ、俺はこの店のモンだよ。常連からは『テンチョー』って呼ばれてるよ。まあ、オーナー兼店長だから君たちもよかったらそう呼んでよ」

 

そうだったんだ。

オーナー兼店長ねぇ。

20代後半くらいに見えるけどひょっとしたらもうちょっと年齢上なのかもしれない。

 

「あ、はい、テンチョー・・・さん」

 

「はははっ!さんは付けなくていいよ。その方がこっちもラクだからさ」

 

「は、はい、テンチョー」

 

「うんうん。それでいいよ。じゃあ、デザートを楽しんでね」

 

そう言うとテンチョーはまたカウンターのところに戻っていった。

う~む、やはりマイペースな人だ。

 

「さて、じゃあデザートいただこうか」

 

「うん。――――あっ」

 

「ん?どうしたシャル?」

 

急に「あっ」という声を上げるシャル。

 

「ねぇ一夏。2つ目のお願い今言っていい?」

 

「えっ?ここでって何をお願いするんだ?」

 

「うふふっ♪それはねぇ―――」

 

シャルは何やらウキウキといった感じでヨーグルトムースをスプーンで掬ってみせて。

 

「はい、あ~ん♪」

 

「・・・・・・・・・・、へ?」

 

あまりに予想外の出来事に俺は呆けてしまう。

 

「え、えーっとっ・・・」

 

「はい、食べて一夏♪」

 

そういってスプーンを差し出してくるシャル顔は若干赤みがかかっているがどこか嬉しそうであった。

なんか前に似た様なことがあったような気がするんだけど・・・。

 

side out

 

 

そして冒頭のシーンへ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アイキャッチしりとり

 

テンチョー「……生きてる!オレ!生きてる!――生きてるよなあ!」

 

 

 

一夏「あ、あ~ん――――なところに空飛ぶペンギンがいる!!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

side シャルロット

 

運ばれてきたデザートを食べようとしたところで僕はあることを思いついて早速それを実行することにした。

それは一夏にあ~んしてあげること。

ちょっと恥ずかしいけどこうすれば僕と一夏も本当の恋人同士っぽくていいかなぁと思った。

やっぱり一夏も恥ずかしいみたいで最初はしぶっていたけどさっきの約束のことを持ち出したら一夏は断れないとふんで意を決したようにこっちに目を向けた。

一夏の気が変わらないうちにと僕はスプーンを差し出す。

 

「はい、あ~ん♪」

 

「ぐっ!・・・、あ、あ~ん」

 

(パクッ)

 

差し出したスプーンに乗ったヨーグルトムースを口入れて咀嚼する一夏。

 

「おいしい?」

 

「ああ、うまいよ・・・」

 

恥ずかしいのか一夏はそっぽ向きながら答える。

あははっ、やっぱり一夏恥ずかしいんだ。

まあ、僕もちょっと恥ずかしいんだけどね。

でもそれ以上に嬉しさが勝っているんだよね。

 

「じゃあ、次のお願い行こうかなぁ」

 

「えっ!?まだあるのか!!?」

 

「当然だよ♪」

 

せっかくこんなに一夏を独占できるんだもん。

これだけで終わらせたら勿体無いよね。

 

「じゃあ、今度は一夏が僕に食べさせて」

 

「うっ、・・・わかったよ。食べさせればいいんだろ?」

 

一夏はため息をつきながらも了承してくれた。

約束のこともあるけどこれだけ一夏を支配できるなんてちょっと面白いなぁ。

一夏はヨーグルトムースをスプーンで掬って僕の方に向けた。

 

「じゃ、じゃあ行くぞ。その、あ~ん」

 

「あ~ん」

 

僕は少し顔が赤くなるのを感じながらも一夏が差し出したスプーンを口に入れる。

 

(パクッ)

 

「ど、どうだ?」

 

「うん、美味しいね」

 

一夏が食べさせてくれたんだから美味しいに決まってるよね。

正直に言うと味はよくはわからなかったけど何故か凄く美味しく感じた。

あははっ、なんでかな?

 

「君たち」

 

「「ひゃっ!!」」

 

急に声を掛けられたと思ったらそこにはテンチョーがいた。

さっきからこの人変なタイミングで出てくるなぁ。

おまけに僕らも近づいてきたのに全く気付かないし。

もしかしてこの人日本でいうニンジャとかなのかな?

 

「仲が良いのは結構だし今度は騒がしくもないけど、ちょっと自重してもらえるかい?俺の店なのに俺が居辛くはやめて欲しいんだけど」

 

「「あ、すみません」」

 

僕と一夏と2人で頭を下げる。

なんか僕達謝ってばかりな気がする。

 

「まあ、デザートを楽しんでくれてるみたいだからよかったよ。それじゃ」

 

テンチョーがカウンターに戻っていく。

これでこの遣り取り今日何回目だろう?

 

「テンチョーにもああ言われたし、普通に食おうぜ」

 

「う、うん、そうだね」

 

興を削がれたかのように僕と一夏は普通にデザートを食べ始める。

 

「おお!これうまいな!」

 

「うん、美味しいね」

 

さっきはあまりわからなかった味も今は普通に感じられるようになったけど、このヨーグルトムースは絶品だった。

ふんわりした口どけにあわせたイチゴのソースがいい具合にマッチしていて程よい甘みがあって凄く美味しい。

さっきのランチもそうだけどここの料理って凄く良い。

何だかペロッと全部食べてしまえそうだよ。

 

「う~む、これもまた何か隠し味がありそうなんだけど、わからんなぁ・・・」

 

一夏がまた味を分析している。

一夏って美味しいもの食べるとその場で分析する癖があるみたいだなぁ。

10年近い付き合いだけど初めて知ったなぁ。

一夏の知らない一面が見れるのは僕にとっては嬉しい事だね。

夢中になり過ぎはちょっとどうかと思うけど。

 

「なあシャル。これって何が隠し味で使われてるのかなぁ?」

 

今度は僕に話を振ってきた。

さっきひとりで分析に夢中になってるのを咎めたから今度は2人で分析しようってことかな?

ここで分析をやめないのが一夏らしいよね。

まあ僕もこの味の正体は気になってはいるんだけどね。

 

「なんだろうね、程よい甘さだから普通にイチゴだけを使ってるわけじゃなさそうだけど」

 

「そうだよな。何か秘密があるはずだけど、それがわかんねぇ・・・」

 

「う~ん」

 

なんか一夏がフードジャーナリストみたいに見えてくるのは気のせいかなぁ?

あ、でも真剣に考えてる一夏の顔もカッコイイ―――――って、僕は何を考えてるんだ!!

 

「あっ、シャル、口にクリームが付いてるぞ」

 

「えっ!? ど、どこ!?」

 

僕は慌てて口元に手を当てる。

 

「ちょっと動くなよ」

 

一夏はナプキンを取ると、僕の口についていたクリームを拭ってくれた。

そのときに頬に一夏の指が少し触れる。

 

「よし、取れたぞ」

 

「あ、ありがとう」

 

「いえいえ」

 

一夏ってやっぱりズルイ・・・。

いきなりこんなことするなんて。

僕の心臓高鳴りっぱなしだよ。

また味がわかんなくなっちゃうよぉ・・・。

 

 

それからデザートも食べ終えて、あとはお会計を済ませるだけとなったんだけど一夏はやっぱりさっきのヨーグルトムースが気になるみたいで。

 

「ちょっとテイクアウトしてあとでじっくり分析しようかな。すみません、テンチョー」

 

ええ!?そこまでするの!?

一夏ってやっぱり変なところで凝り性だなぁ。

そこに呼ばれたテンチョーが僕らのいるテーブルまでやってきた。

 

「どうしたんだい?お会計かい?」

 

「それもあるんですけど、このヨーグルトムースをテイクアウト分に4つほど作ってくれませんか?」

 

ええ!?4つも!?

あ、千冬さん達の分かな?

 

「ああ、うちはテイクアウトはやっていないよ」

 

するとテンチョーの顔が少し真顔になった。

 

「えっ!?そうなんですか!?」

 

どうやらこのお店はテイクアウトはやっていないみたい。

藤川周辺のカフェだとテイクアウトできるお店が多いからその感覚でいたけどこのお店はダメみたいだね。

 

「そこをなんとか何とかお願いできません?」

 

「ダメ。湿度とか温度の違いで風味が損なわれるからね。それに、質を保ったままテイクアウトに対応できるほどの数は作れない。だから、うちはテイクアウトはやらないんだよ」

 

「どうしてもダメですか?ほら、こういう言い方はなんですけど、『お客様は神様だ』って言うじゃないですか。1回だけ大目に見てもらえません?」

 

一夏も結構食い下がってる。

よっぽどここのデザートを千冬さん達にも食べて欲しいみたいです。

 

「もし、神がいるんだとしたらここじゃそれはオレだよ。いい? この店のルールはオレなんだから。だから食べさせたい人がいるならここに連れて来てよ」

 

なんかテンチョーも凄いこと言ってるような・・・。

 

「これは俺のポリシーなんだけど。ここは美味しいものを探そうと努力した人だけがたどり着ける場所なんだから。日常のちょっとした幸運。嬉しくない?」

 

テンチョーの言葉には何かハッキリとした意思を感じた。

何故かはわからないけど何だか僕もその言葉には凄い共感できた。

それに気圧されたのか一夏も食い下がっていたのに黙ってしまっていました。

 

「まあ、君たちは運がいいよ。こうしてこの店にたどり着けたわけだし。そうまで言ってテイクアウトをさせてくれって言う事はうちの菓子を気に入ってくれたってことでしょ?それは感謝するよ」

 

「あ、はい・・・わかりました」

 

「うん、わかってくれて何よりだよ。じゃ、お会計ね。レジへどうぞ」

 

促されるままに僕と一夏は店を出る準備を始めてレジへ向かった。

値段も2人で1600円くらいですんだからリーズナブルだった。

 

「千羽谷に来ることがあったらまた来てよ。そのときは歓迎するからさ」

 

「はい、また来ますね」

 

「俺も、また来ます」

 

「ああ、よろしく。そうだ。せっかくだから名前を聞いてもいいかい?」

 

テンチョーが名前を訊ねてきた。

 

「あ、織斑一夏です」

 

「シャルロット・デュノアです」

 

僕たちも気兼ねなく名前を言った。

何だかこのテンチョーには名前を教えてもいいと思えてしまっていた。

 

「・・・、織斑?」

 

「え?どうしました?」

 

何かテンチョーが一夏をじっと見てる。

 

「いや、なんでもないよ。じゃあ、一夏、シャルロット、また来てね」

 

「ご馳走様でした」

 

「失礼します」

 

僕達はキュービックカフェをあとにした。

 

side out

 

 

 

「結構いい店だったな」

 

「うん、そうだね」

 

キュービックカフェをあとにした一夏とシャルロットは歩きながらキュービックカフェについて話していた。

 

「テンチョーもちょっと変わってたけど、料理は美味かったしな」

 

「経営理念っていうのかな。それがあっていいと僕は思うよ」

 

「そうだな。次に千羽谷に来ることがあったらまた行ってみようぜ」

 

「うん」

 

「さて、次はどこ行くか?」

 

「そうだねぇ、それじゃ―――」

 

一夏とシャルロットは千羽谷の目抜き通りに出て人ごみの中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

一夏達が帰って少ししてからのキュービックカフェでテンチョーが電話をしていた。

 

「おう、俺だ。久しぶりだな。今日、前にお前が言ってた奴が来たよ。うちで『学ラン』食っていった。フランス人の彼女連れてたぞ。織斑って苗字は結構珍しいからな。なかなか面白いやつだったな。うちの菓子をテイクアウトさせてくれって頼んできたくらいだしな。また千羽谷に来る事があったら寄っていってよって言ったからまた来るかもな。お前も久しぶりにこっちに顔見せに来い。そん時は歓迎してやるからさ。じゃ、俺は忙しいんで切るぞ。じゃあな」

 

テンチョーが電話で話していた相手は誰なのか。

それはそのうち語られるであろう。

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