「うむ。こうして見るとこの学園は大きいな」
ラウラはまずこの学園の全景をを見ようとグラウンドの隅にやって来ていた。
藍越学園は校舎そのものは5階建てで教室は1階につき20個ほどある。
2階は職員室など主に教員が使う部屋が多くあるが、それでも1学年でクラスが10クラスを超えるマンモス校だ。
他にも第一、第二部活棟などもある。
以前にも述べたように、この部活棟は運動部と文化部の両方に与えられた最高の施設でもある。
体育館や格技場といった施設も一般の学校と比べるとかなり大きい。
そして、中でも圧巻なのは学園のどこからでも見える巨大な時計塔。
学園の敷地の最奥に聳え立つそれは見事の一言だろう。
「ふむ。全景を見ると言ってもこう大きくてはな。まあいい、とりあえず、建物に入って見て回るか」
ラウラは本校舎に向かって歩き出した。
side 千冬
テストが終わったとはいえ、教師は忙しい。
それは何故かと言えば、回収された答案用紙に丸やらペケやらを入れる作業が教師には残されているからだ。
ハッキリ言って私はこの作業が嫌いだ。
こんな担当生徒の答案用紙を何十枚も丸やらペケやらを入れて点数を割り出すという作業は面倒この上ない。
「何か白紙回答が目立つな。今回のテストそれほど難しくした覚えはないんだがな」
おまけに生徒の成績が悪いと学年主任やら教頭やらの小言を聞かなければならなかったりする。
学生であったときはテストを受けることは少なからず憂鬱であったが、まさか教員側に立ってもこうしてテストに悩まされるとはな。
あー、クソ忌々しい・・・。
「あー、織斑センセー!ちょっとよろしいですか!?」
職員室にどたばたと事務員の榊原菜月(さかきばらなつき)先生が入ってきた。
彼女は確か今年で29歳になったはずだ。
生徒に優しく品行方正、容姿のほども悪くなく、男性教員からの人気も高い。
が、彼女は男運が悪いらしい。
まあ、それは今はどうでもいいので割愛する。
「どうしました榊原先生?そんなに慌てて?」
慌てた様子の彼女は最初に目に付いた私に話し掛けてきたようだ。
私の席は入り口から程近いところにあるからな。
「それが、先ほど新しくこの学園に転入する留学生が手続きに来たんです」
「ほう、こんな朝早くにですか?」
こんな朝早くから来るとはよほどの暇人なのかその留学生は?
「それで、朝のHRまでまだ少し時間があるのでちょっと学園を見て回ってはどうかと言ったんです」
「ほう、それで?」
「許可証を渡すのと朝のHR前の時間までには戻ってくるようにと説明しようとしたらすでにいなくなっていまして」
「そういうことですか」
それは少し面倒な事態だな。
この学園はバカみたいに広いから探すのも一苦労しそうだな。
「他の先生達にも連絡して探してもらいましょう。私も辺りを探してみますので」
「は、はい!お願いします!!私は他の先生達にも知らせてきますので!!」
ちょっと涙目になりながら榊原先生は去っていった。
なんかああいう姿は真耶と似ているな。
まあ、何かあったら首が飛ぶのは榊原先生だろうしな。
この時世に職を失うのは悲惨だからな。
「やれやれ、採点も途中だというのに・・・」
朝の職員会議までには終わらせておきたかったんだがな。
まあ、考えても仕方ないので私はその留学生とやらを探しに職員室をあとにした。
数分後、私はその留学生の名前を聞くのを忘れていた事に気が付いた。
このときに名前を知っていれば私もちょっとは慌てて探していたかもしれない。
side out
「ふぁ~、日直面倒くせぇ~」
実に18話ぶりに登場の御手洗数馬は学園の廊下を歩いていた。
彼は今日日直であるために早めに登校しなければならなかったので眠い目を擦りながら廊下を歩いていた。
今はトイレに用を足しに行って教室に帰る途中だ。
もう少し時間が経てば他の生徒も登校してくるだろう。
「ふぁ~」
大きく欠伸をしながら曲がり角を曲がろうとする。
(ドンッ)
「おわっ」
「わっ」
出会い頭に誰かとぶつかった。
「な、なんだ?」
ぶつかった相手を見るとぶつかったときに鼻を打ったのか鼻を押さえていた。
「えっと、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。ちょっと余所見をしてしまっていた。すまない」
「ううん、俺もぼんやりしてたから。ゴメンな」
謝りながらも数馬はぶつかった少女の姿を見た。
輝くような長い銀髪に服装は私服だった。
といっても服装は白いYシャツに黒のスラックスとどちらかと言うと男のような格好をしていた。
そして、数馬の目を一番引いたのは少女の左目に付けられた眼帯だった。
医療用ではないガチの黒眼帯。
少女の容姿も相まってか不思議な雰囲気を醸し出していた。
「ではな」
「う、うん・・・」
少女はそう言うと静かに歩き去っていった。
「何だあの子?うちの学園の生徒じゃなさそうだけど」
数馬は少女が去って行った方を少しの間眺めていた。
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アイキャッチしりとり
数馬「なんか俺、忘れられてたんじゃねぇの?」
ラウラ「のんびりゆったり」
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side 一夏
いつものように途中で箒と鈴の2人と合流した俺とシャルは4人揃って学園に向かう。
シャルとの間にももう気まずい空気はなく、普通に談笑している。
「あ~っ、ようやくテストも終わったし、これでしばらくはのんびりできるわね~」
大きく伸びをしながら鈴が言う。
そういえば随分と鈴の顔を見るの久しぶりのような気がする。
テスト期間中にも顔を合わせてたのに何でだ?
※それは20話近く登場してなかったからです。セカン党の皆様すみません・・・。
ん?何かヘンな電波のようなものを受信したような・・・。
ま、いっか。
「一夏、あんたどうだったのテスト?」
「ん?俺か?」
藍越学園は国内でもレベルの高い進学校ということもあり、入試のレベルもやたら高くもちろん生徒のレベルも尋常ではない。
必然的にテストの内容も難しい。
俺や箒や鈴もそのレベルの高い藍越に入学するのを許された存在なので頭はそれなりに良い方だろう。
十秋姉曰く、この学園の生徒は基本的にスポーツ推薦組以外はかなり高い成績で纏まっているらしい。
もちろんスポーツ推薦組にも頭の良い人間はいるし、入試組でも入ってからどんどん成績が落ちている奴もいるらしいけど。
鈴はどちらかと言えば後者で、入学してからちょっと授業に付いて行けなくなって来たらしく試験前はドタバタしていたらしい。
「そうだなぁ、まあまあくらいかな?多分平均で90点くらいは取れると思うぞ?」
「へぇ~、あんた相変わらず頭良いわね~。あたしなんか平均で60点取れるのかも微妙よ・・・。」
両手を広げて肩を竦める鈴。
平均60点ねぇ。
普通の学校行ってたならそれくらいが普通なんだろうけど、如何せんここは藍越だ。
「箒。あんたはどうだった?」
「私か?私は今回は自信があるぞ。平均も85点は堅いハズだ」
箒は剣道のスポーツ推薦で入学した側の人間だが頭は良い方だ。
これでも箒は『あの』束さんの妹だ。
頭の良さも姉妹なので引けを取らない。
昔からよく箒とはテストの点数を競ったものだ。
「へぇ~、そうなんだ。ねぇ、シャルロットは?」
「僕?僕はちょっと自信ないかなぁ・・・。日本の学校にに来て初めてのテストだったし・・・」
シャル自身も頭は良い方だ。
何でも留学生は適性試験を受けてそこで高得点を出さないといけないらしいのだがシャルはそれを突破したので頭は良い。
しかし、やはりいくら日本贔屓であるとはいえ日本の学校でのテストは初めてだったわけだ。
留学生は他所の学校ならテストの時は別室で自習とかになるケースが多いらしいけど、藍越では留学生も普通にテストを受けさせられる。
慣れとかもあるだろうし大変だっただろうな。
まあ、持ち前の器用さで何とかしたようだけどな。
ちなみにセシリアも試験の出来はよかったらしい。
彼女はスタートが他の奴とちょっと違うから大変だったらしいけど持ち前の真面目さと努力で突破したらしい。
うん、そこがセシリアの美点だよな。
まあ、セシリアも適性試験を突破するだけの実力があるから心配はいらなかったようだけど。
あと、セシリアは朝の登校時は迎えの車で通学しているので俺達とは別行動をしている。
シャルと同じで寮に住んでるから前に「せっかくだから一緒に行こうぜ」と誘ってみたんだけど、「わたくしはシャルロットさんの邪魔はしません事よ♪」と言って断ってきた。
邪魔って何の事だ?
それにしても、朝はロールスロイスに乗って通学なんて凄いことだよなぁ。
オルコット家恐るべしだぜ。
そうこう談笑しているうちに教室に着いていた。
クラスメイト達に手を上げて挨拶をしながら自分の席に向かう。
「や~、おりむ~。おはよ~♪」
「おう、おはようのほほんさん」
クラスメイトののほほんさん(本名:布仏本音)がいつものように眠たそうな顔で話し掛けてきた。
「ね~ね~。おりむーはテストどうだった~?」
のほほんさんもテストどうだったと聞いてきた。
まあ、テストの直後なんて大体その話題になるだろうな。
「俺はまあまあだな。のほほんさんは?」
「私は~、今回自信あるよ~♪張ったヤマがズバリ当たっちゃたんだ~♪」
「お~、よかったじゃん」
「てひひ。イェーイ♪」
はにかんだ顔でピースサインを出すのほほんさん。
さすがクラス一の癒し系。
話しているだけでこっちまでのほほ~んとしてくる。
名は体を表すというのは本当だな。
「あ~、かなりんだ~。じゃあおりむ~、またね~」
「おう」
手をブンブンと振ってのほほんさんが別の友達の所に向かって行った。
俺も手を振り返してのほほんさんを見送る。
さて、いつもならここで弾と数馬が話し掛けてくるんだけど、弾はまだ来てないみたいだな。
数馬は日直か。
ま、適当にのんびりしてればいっか。
このときの俺は学園で起こっているちょっとした騒動にまだ気が付いてはいなかった。
side out
一方、教員達は連絡を受けて朝の職員会議を中止してラウラの捜索に駆り出ていた。
が、まだ肝心のラウラを見つけることができないでいた。
「織斑センセー!そちらには居ましたか?」
「いや、こちらには居ませんでした。榊原先生の方は?」
「いえ、こちらもまだ・・・。他の先生方にも探してもらっているんですけど。今、山田先生と佐藤先生がグラウンドの方を見に行きました。他の先生方にはもう一度校舎内を見て回ってもらっています」
「そうですか。しかし、マズイですね。もうすぐ予鈴が鳴ってしまいます」
「え、ええ・・・。担当クラスがある先生達は一度職員室に戻るようにと連絡を受けています。織斑先生は担当クラスがありましたよね?あとは手の空いている先生達が探しますので朝のHRに行ってください」
「わかりました。では私は一度職員室に戻ります」
と、千冬は職員室に戻ろうとする。
「あ、そういえば榊原先生。私はまだその行方知れずの留学生の名前をまだ聞いていませんでしたので、名前を教えていただけますか?」
「へっ?そ、そうでしたか!?すみません私うっかりしてて!!」
「いえ、私も聞きそびれていましたから。それで名前は?」
「あ、はい。ドイツから留学生で『ラウラ・ボーデヴィッヒ』という女の子です」
「な、何?」
この時の千冬を一言で表すなら「キョトン」であろう。
その名前には聞き覚えがあるからだ。
「どうかしました?」
「い、いえ。では、私はこれで・・・」
千冬は榊原先生になんでもないと手を振ってから職員室に向かって歩き出した。
「チッ、まったく世話の焼ける奴だ・・・」
その表情には呆れの色が見えていた。