ようこそ藍越学園へ   作:TAKUMAKI?

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第四十八話 兎捜索開始

side 一夏

 

「ふぉぉぉぉ」

 

俺は欠伸をしながら腕を天井に向けて突き出し、身体全体で大きく伸びをした。

 

「何してんだ一夏?」

 

すると今し方登校してきた弾が話し掛けてきた。

 

「おう弾。久しぶり」

 

「おう、久しぶ――――って、何だよ久しぶりって!?ずっと学校で顔合わせてただろうが!!」

 

「ん?そういえばそうだな?何で久しぶりなんて言ったんだ?」

 

「俺に聞くなよ」

 

う~む。鈴の時もそうだったが、何か弾とも顔合わすの久しぶりな気がするんだよなぁ。

何でだろう?

 

※それは登場するのがかなり久しぶりだからです。でも弾だし。いいよね?

 

ん?また妙な電波が?

ま、いっか。

 

「で、お前何してんの?」

 

「ん?これはだな、俺の魂が風に乗って飛んでいくのに必要な儀式なんだ」

 

「は?」

 

弾が「何言ってのお前?」みたいな顔で俺を凝視する。

う~む。俺はただ単純に伸びをしていただけなんだけどな。

何となく咄嗟に適当な事言ったけど、さすがに今のは苦しかったか。

 

「な~に朝からバカな事言ってるのよあんたは」

 

誰かに軽く頭を叩かれた。

大して痛くはないが頭を押さえて振り向くとそこには鈴がいた。

まあ、こんな事してくるのってこいつくらいしかいないよな。

 

「鈴、人の頭を叩くなよ」

 

「あんたがバカな事してるからでしょ。傍から見てたらかなりアヤシイわよ今の」

 

「う、うるさいなぁ・・・。それよりどうしたんだ?お前が朝にこっちに来るなんて珍しいじゃないか」

 

鈴はいつも教室に着くと自分の席の周りの連中と話す事が多いので朝のHR前に俺達の輪に入ってくるのは珍しい。

 

「まあその、アレね・・・」

 

ん?

鈴にしては歯切れが悪い返事だな?

 

「こっちに加わった方が出番が増えそうだからさ」

 

「ん?出番?」

 

「いや、何でもないわ。そういえば数馬はどうしたのよ?」

 

「あいつなら今日日直だから今は教室にいないぜ」

 

鈴が黒板の方に目を向ける。

日直の所にはちゃんと御手洗と書いてある。

 

「ま、もうちょいで予鈴も鳴るしそろそろ来るだろ」

 

弾の言うとおり、予鈴がもうすぐ鳴る時間だ。

遅れようものなら担任の千冬姉から出席簿アタックを喰らう羽目になるから絶対に遅刻してはならないのがこのクラスの鉄則だ。

それは数馬も重々承知のはずだ。

現にこのクラスの遅刻者数は1年生の全クラスの中で一番少ないらしい。

 

「うぃーす。おはようさん」

 

おっと、噂をすればなんとやらだ。

 

「おっす数馬」

 

「おはようさん」

 

「お疲れ数馬」

 

「おう。ふぁ~、日直ってホントだりぃなぁ・・・」

 

数馬は欠伸をしながら俺達のそばに寄って来た。

 

「そういやさ、聞いてくれよ。なんかさっき不思議な感じの子に会ってさぁ」

 

「不思議な感じの子?」

 

数馬の言葉に首を傾げてしまう。

弾と鈴も首を傾げていた。

 

「いやな、さっき廊下の曲がり角でぶつかったんだよ。長い銀髪で私服姿だったから多分その子日本人じゃないと思うんだよ」

 

「ふ~ん。新しい留学生かなんかかな?」

 

弾の言うとおり、このクラスにもシャルやセシリアという例がある。

新しい留学生が来たとしても不思議じゃない。

 

「で、その新しい留学生とやらは何でこんな時間に私服で校内をうろついてるのよ?」

 

「いや、俺が聞かれてもわからねぇよ」

 

鈴の問いに数馬は困ったように首を振った。

 

「あーそうそう。さっき不思議な感じって言ったろ?その子さ、なんか左目に―――――」

 

(キーンコーンカーンコーン)

 

「諸君、おはよう!」

 

「「「「「おはようございます!」」」」」

 

チャイムが鳴ると同時に千冬姉が教室に入って来た。

 

「席に着け。朝のSHRを開始する」

 

弾、鈴、数馬も慌てて自分の席に戻って行った。

まあ、数馬の話は後でも聞けるからいいけど。

 

「諸君、テストはご苦労であった。採点結果は今週中にも出る。結果によっては補習を受ける者も出てくるだろうが、まあひとまず中間テストも終わりだ。来月の後半には期末テストも控えている。各人、気を引き締めていくように」

 

教壇の前に立っている千冬姉からのありがたいお言葉だ。

口調は少し乱暴だが、そこはクラスのボスたる織斑先生だ。

指摘する者や咎める者は存在しない。

 

「それと、来月の頭には林間学校もある。近いうちにこれに関する連絡事項が発表される。各人、きちんと確認するようにな」

 

そう。来月には1年生は林間学校がある。

この学園は海が近場にあるということで行き先は山らしい。

まあ、海はガキの頃から近場にあっていつでも行けたから俺も山の方が新鮮でいい。

結構俺も楽しみにしている行事だ。

 

「では、朝のSHRを終わる。今日もしっかりと勉学に励めよ」

 

HRも終わりのようだ。

千冬姉の言うとおり、今日もはりきって勉強しようかね。

さて、1限目の授業の準備をするとしよう。

 

「織斑、ちょっと来い」

 

「はい?」

 

準備を始めようとしたらいきなり千冬姉に呼ばれた。

え?俺何かしたっけ?

 

「早くしろ」

 

「は、はい」

 

促されるままに廊下に出る。

う~ん、何の用だろう?

 

「あのぉ、何の用ですか?」

 

「そう身構えるな。一夏、ちょっとお前に伝えておきたい事がある」

 

ん?今、一夏って言ったよな?

ということは家族の事かな?

 

「実は、今ラウラがこの学園に来ているらしい」

 

「えっ!?ラウラが!?」

 

今朝も話題に上ったラウラ。

近いうちに顔を見せに来るって事は今朝千冬姉に聞いてたけど、もう日本に来てたのか?

ちょっとびっくりだ。

 

「でも、何でラウラがこの学園に?しかも今、来ている らしい(・・・)って?」

 

「詳しくは私もわからんが、あいつは今度この学園に留学生として編入するらしい」

 

という事は、ラウラもこの学園に通うのか?

シャルにセシリアと続いて今度はラウラか?

う~む、これはまた不思議な縁だ。

 

「あいつは今日の朝に編入の手続きに来たらしい。そこで事務員の榊原先生に少し学園を見て回る事を薦められたそうだ。榊原先生が許可証と見て回る際の注意点を説明しようとしたら、あいつはもうその場にはいなかったらしい」

 

「え~っと、ということは・・・?」

 

「あいつは許可証も持たずに学園内を闊歩しているらしいということだ。今は手の空いている教員があいつを探している」

 

おいおい、何やってんだよラウラのやつ・・・。

 

「お前も時間がある時はあいつを探すのを手伝え。見つけたらすぐに教員に知らせろ。いいな」

 

「わかったよ千冬姉」

 

(パァンッ!)

 

「いっ―――――!?」

 

「学校では織斑先生だ」

 

出席簿アタックが俺の頭にヒットした。

 

「先に一夏って言ったのはそっちだろうに・・・」(ボソッ)

 

(パァンッ!)

 

「でっ―――――!?」

 

「何か言ったか?」

 

また出席簿で頭を叩かれた。

あのぉ、超痛いんですけど・・・。

 

「何も言ってません・・・。わかりました、織斑先生」

 

「うむ。ではな」

 

くるりと背を向けて千冬姉が去っていった。

 

「あ~、痛ぇ~・・・」

 

千冬姉の姿が見えなくなると、俺は頭を押さえた。

あの出席簿一体何でできてるんだ?

絶対にただの紙とかじゃないだろう・・・。

 

「そういや、さっき数馬が言ってた不思議な感じの子ってラウラのことだったのか」

 

日本人じゃなくて長い銀髪だったって言ってたし、あと「左目に――――」とか言いかけてたから多分眼帯の事だろう。それならラウラに当てはまるな。

 

「あとで数馬にその時の詳しいことを聞いておくか」

 

まだ痛む頭を擦りながら俺は教室に戻った。

 

side out

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アイキャッチしりとり

 

弾「リオのカーニバル」

 

 

 

鈴「留守録のやり方がわからない・・・」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「うむ。どうやら授業が始まっているらしいな。この辺りは人気も無くて静かだな」

 

1限目の授業が各教室で進められる時間の中、騒ぎの元凶であるラウラは中庭を歩いていた。

藍越学園の中庭は結構広めで、少なくとも所々に生えている木と植え込みを取り除けば野球ができるくらいの広さがある。

まあ、ここでそんなことをすれば「ホームラン=窓ガラスを割る」という事になってしまうが。

 

「ここは特に見るべきものはなさそうだな。別の場所に行くか」

 

ラウラは踵を返して中庭を後にしようとすると

 

「ピーピーピー」

 

「ん?」

 

何か鳴き声のような声がラウラの耳に届いた。

辺りをキョロキョロと見回す。

視界には今ほど聞こえた鳴き声の主と思しき姿は見えない。

 

(気のせいだったか?)

 

ラウラがそう思っていると

 

「ピーピーピー」

 

今度ははっきり聞こえた。

 

「こっちか?」

 

その声はラウラの居た場所のすぐ脇にある植え込みの奥からだった。

ラウラは植え込みを分け入って進んだ。

 

「ピーピーピー」

 

「お?」

 

そこには1匹のひな鳥が居た。

まだ生まれたばかりなのか小さな身体で弱々しく鳴き声を上げていた。

 

「なんでひな鳥が地に居て泣いているのだ?」

 

ラウラはそう言うと視線をひな鳥から上へ向ける。

近くに大きめの木が生えていてその枝のところに巣が見えた。

 

「あそこから落ちたのか?」

 

ラウラはひな鳥を手で拾い上げて訪ねるようにそう言った。

 

「ピーピーピー」

 

すると、ラウラの言葉に返事をするかのようにひな鳥が鳴いた。

 

「「「ピーピーピー」」」

 

再び巣に目を向けるとひな鳥の兄弟達であろうか。

数匹のひな鳥が落ちてしまったひな鳥を心配するかのように鳴いていた。

 

「お前の兄弟達か?」

 

「ピーピーピー」

 

ラウラが訪ねるとひな鳥はまだ未発達な翼をパタパタと動かして巣の方を見上げる。

しかし、まだ赤ん坊なのでその翼で飛ぶことはできないのであった。

 

「よし、待ってろ!今戻してやるからな!」

 

ラウラはそう言ってひな鳥を胸に抱いて巣がある木を登り始める。

ちょっと巣まで高さがあるがラウラは小柄故に身軽なので器用に木を登って行く。

 

「もうちょっとだ」

 

もう少しで巣のある枝までたどり着ける。

そうして少し太めの枝に手を伸ばそうとする。

すると

 

(バキッ)

 

「うわっ!」

 

突然、足場にしていた枝が折れてラウラはバランスを崩した。

 

「くそっ!」

 

必死で右手を伸ばして別の枝を掴む。

何とか枝に右手が届き、ラウラは左手でひな鳥を抱えたまま枝にぶら下がっている状態になった。

 

「ピーピーピー」

 

「すまないな。驚かせてしまったか」

 

ひな鳥に一言謝ってからラウラは体勢を立て直して再び木を登り始める。

そしてようやく巣のある枝までたどり着いた。

 

「よし。ほら、巣に着いたぞ」

 

「「「ピーピーピー!」」」

 

左手に乗せていたひな鳥を巣に戻してやるとひな鳥の兄弟達が嬉しさを表すかのように鳴き始めた。

 

「よかったな」

 

「「「「ピーピーピー!」」」」

 

今度はラウラにお礼を言うかのようにひな鳥が鳴いた。

それを見てラウラも穏やかな笑顔を浮かべる。

 

「もう落ちるんじゃないぞ」

 

「ピーピーピー」

 

ラウラはそう告げるとひな鳥も今度は返事をするように鳴いた。

ひな鳥を無事巣に戻したラウラは木を降りていった。

 

「よっ、と!」

 

ある程度までの高さまで降りたらそのまま枝からジャンプして地面に着地した。

着地したラウラは再び巣の方へ目を向ける。

 

「「「「ピーピーピー」」」」

 

ひな鳥達は無邪気に鳴いていた。

ラウラもそれを確認すると再び穏やかな笑顔を浮かべた。

 

「さて、では改めて次の場所に行くか」

 

ラウラはひな鳥達の巣がある木に背を向けて中庭を後にした。

 

 

 

 

「ダメです。中庭にもいませんね」

 

「そうですか。仕方ない。他の場所を探しましょう」

 

ほんの数分後に教員が中庭に来たのだが、ラウラと鉢合わせすることはなかった。

奇跡のような確率でラウラは無自覚に教員の目を掻い潜っていたのでだった。

 

 

(キーンコーンカーンコーン)

 

一限目が終了した事を告げるチャイムが鳴り響き、各生徒達は休み時間を思い思いに過ごしている。

 

「一夏、ちょっといいか――――――む?一夏は?」

 

箒が一夏の席の近くまでやってきたが一夏の席は空席だった。

 

「あ、織斑くんだったら休み時間になってからすぐに教室を出て行ったよ」

 

「そ、そうなのか?」

 

一夏の席の近くに座る相川清香が箒に告げる。

 

「何か随分急いで出て行ったみたいだったけど、何だろうね?」

 

清香が首を傾げながら教室の扉に目を向ける。

箒も目を扉に向けるがそこに一夏の姿はない。

 

「仕方ない。次の休み時間にまた来るとしよう。すまなかったな相川」

 

「いえいえ~」

 

ちょっと休み時間を利用して一夏と話でもしようと思っていたのだが、肝心の一夏がいないのでは仕方が無いので箒は次の授業の準備でもしようと清香に一言告げてから自分の席に戻って行った。

 

 

で、一夏はというと

 

「休み時間は10分しかないから俺が探すには限度があるよなぁ・・・」

 

千冬の言いつけを守ってラウラの捜索に出掛けていた。

 

「先生達も探してるって言うけど、まだ見つかってないのかな?」

 

まずはそれを確認しなければ探しようがない。

仮に見つかっていれば一夏も探し回る必要はないのだ。

 

「お?あれは」

 

一夏はひとりの教師を見つけた。

その後姿は一夏も見覚えのある姿だった。

 

「山田センセー」

 

「あ、織斑くん」

 

見つけたのは真耶だった。

相変わらず童顔で、『子供が背伸びをしてスーツを着ている』という感じで廊下を歩いていた。

プライベートで幾らか親交があるふたりだがここは学校で今は先生と生徒なので一夏は真耶を「山田先生」と、真耶は一夏を「織斑くん」と呼んでいる。

 

「織斑先生から話は聞いてます。その、ドイツの留学生はまだ?」

 

「は、はい。まだ見つかっていません。あちこち探してはいるんですが・・・」

 

どうやらラウラはまだ見つかっていないらしい。

 

(ラウラは小柄ですばしっこいからなぁ・・・。こりゃ見つけるのに難儀しそうだなぁ)

 

「俺も探すの手伝いますので、見つけたらすぐに教師の誰かに伝えますんで」

 

「わかりました。お願いしますね」

 

そう言って真耶は一夏に背を見せて去って行った。

 

「さて、俺もラウラを探しに行くとしよう」

 

一夏も短い時間を無駄にせんと兎捜索に乗り出した。

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