ようこそ藍越学園へ   作:TAKUMAKI?

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第五十一話 フィフス幼馴染

side 一夏

 

朝、学校へ行くため家を出る前に持ち物の確認をする。

ハンカチ、ティッシュ、生徒手帳、弁当、今日の授業で使う教科書やノート。

 

「よし、忘れ物は無いな」

 

忘れ物が無いことを確認し、俺ひとりだけとなった家を出る。

千冬姉と百春兄は社会人なので当然、家を出るのは早い。

十秋姉はいつも俺よりは早く家を出て学校に向かうので必然的に家を最後に出るのは俺になる訳だ。

戸締まりを確認し、最後に玄関の施錠をする。

 

「よし、戸締まりOKっと」

 

さて、もうシャルが待ってるかもしれないから早く行かないとな。

そう思って家の門を潜ったその瞬間―――――

 

「一夏兄様っ!!」

 

「わぁっ!!」

 

誰かが抱き付いて来た。

まあ、誰かっつっても分かりきってるんだけど。

 

「ラ、ラウラ、おはよう」

 

「うむ、おはようだ兄様」

 

「前にも言ったが、ビックリするからいきなり抱き付いて来るな」

 

「む、兄様は私に抱き付かれるのが嫌なのか・・・」

 

「う・・・」

 

そんなちょっと上目遣いの悲しそうな顔で見つめないでくれ・・・。

罪悪感が出てきてしまう。

 

「そんな事はないけどさ・・・」

 

「だったらいいではないか♪」

 

「まったく、しょうがないな。あ、制服似合ってるぞ」

 

今日は編入初日ということもあってラウラは藍越学園の制服を見に纏っていた。

藍越の制服はその「藍」の字が通り、藍色を主体とした色使いの制服だ。

ラウラのシルバーブロンドの髪も相まってか抜群に制服姿が映えていた。

 

「ほ、本当か兄様?」

 

「おう。似合ってて可愛いぞ」

 

「兄様に褒めてもらえて嬉しいぞ!」

 

そう言うとラウラはむぎゅ~っとより強く抱き付いて来る

まあ、こうして嬉しそうなラウラを見ると、少しくらいは良いかと思えてしまうわけで。

これくらいは許してやってもいいかもな。

そうして頭を撫でてやろうと手を伸ばすと―――――

 

「――――――で、いつになったら僕に気付いてくれるのかなぁ?」

 

ビクゥと肩が跳ね上がった。

凍えてしまうような絶対零度の怨嗟の声。

その声音に俺はそーっと視線を向ける。

そこには、『ブリザードスマイル』を貼り付けたシャルがいた。

 

「お、おはよう、シャル・・・」

 

「うん♪おはよう♪」

 

俺が挨拶をするとニッコリと笑って挨拶を返してくるシャル。

いい笑顔だった。いい笑顔なんだけど・・・。

 

「え~っと・・・、いつからそこに・・・?」

 

「最初からずっと居たけど?」

 

「う・・・」

 

笑ってはいるけどシャルはご機嫌ナナメだ。

長年の付き合い故か、なんとなくわかった。

 

「あ~・・・、ラウラ、とりあえず離れてくれ」

 

俺は抱きついたままのラウラを引き離した。

 

「むぅ・・・」

 

少し頬を膨らませながらもラウラは俺から離れた。

すまんラウラ、これ以上シャルを怒らせると非常に厄介なんだ・・・。

 

「仲が良いのはいいけど僕に気付いてくれないのはちょっとヒドイと思うよ」

 

「悪かったよ、ゴメン」

 

「もう」

 

プイッっと顔を横に逸らすシャル。

ああ、どうやら少し機嫌を損ねてしまったようだ。

う~ん、シャルとはギクシャクするのはイヤだからなんとか機嫌とらないとなぁ。

 

「では、そろそろ学園へ行くとしよう」

 

ラウラが学園に向かおうと提案してきた。

ここは素直に従っておこう。

 

「あ、ああ、そうだな」

 

「うん」

 

そして学園に向けて歩みを進めようとしたら 

 

(ギュッ)

 

いきなりラウラが手を握ってきた。

 

「ラウラ、なにしてるの?」

 

「見ればわかるだろう。兄様と手を繋いでいるのだ」

 

「登校中に手を繋ぐ意味があるの?」

 

「私と兄様が仲の良い兄妹だと一目でわかるだろう」

 

「むぅ・・・」

 

「何だ?羨ましいのか?」

 

「べ、別にそんなんじゃないよ!」

 

「まあ、私と兄様の兄妹愛に羨望するも無理はないな」

 

「むぅ・・・」

 

あのぉ~・・・、俺を挟んで口論するは止めて欲しいんですけど・・・。

まあ、ラウラも編入初日ということで気分も高揚しているのだろう。

そのうち満足するだろうから今は好きにさせておくか。

 

「まあまあシャル、ちょっと落ち着けって」

 

ちょっとふくれっ面になっているシャルを宥めようとするとジト目で睨まれた。

 

「もう、一夏はラウラに甘いんだから」

 

う~ん、まあ確かに言われてみればそうかもしれないけど。

信じたくはないが俺ってちょっとシスコンの気があるのかもしれない。

でも俺は末っ子だからラウラみたいに俺の事を「兄様」と懐いてくれるのは正直嬉しかったりする。

何か本当に妹ができたみたいなんだよなぁ。まあ、ラウラは同じ歳だけど。

 

「はぁ・・・、ほら、早く学校行こう」

 

呆れたようにシャルがため息を付きながらそう言った。

確かにそろそろ行かないと時間がヤバイ。

箒と鈴も待ってるだろうし、何よりラウラは編入初日だ。

初日から遅刻はさすがにマズイ。

そんなことになれば千冬姉にどんな目に合わされるかわかったもんじゃないしな・・・。

ここはラウラの為にも早く学園に向かわなければならないだろう。

 

「じゃ、行くぞ」

 

「うむ」

 

促すとラウラも学園に向けて歩き出した。

手は、相変わらず握ったままだったが。

 

「ラウラ、寮の生活はどうだ?」

 

歩きながら俺はふと思ったことを質問した。

セシリアとは違ってラウラはメイドも付けずにたったひとりで日本にやってきての寮生活だ。

ちゃんと生活できるのかちょっと不安があった。

 

「うむ。その点は問題ないぞ。自室の設備もちゃんと確認した。水道、電気、ガス、避難経路からベッドのスプリング具合も完璧に調べたからな」

 

「スプリングは関係ないんじゃないかな・・・」

 

シャルがちょっと苦笑いしながらそう言った。

まあ、いいホテルとかに泊まると絶対やるよなそれ。

状態のいいベッドって尋常なないほどぼよんぼよんしてるしある意味通過儀礼みたいなもんだよな。

 

「それにシャルロットが何かと世話を焼いてくれているのでな。少々甘えさせてもらっている」

 

「そうか。ありがとなシャル。ラウラの世話してくれて」

 

「ううん、全然構わないよ。部屋も隣だし、せっかく友達になったんだし」

 

そう、シャルとラウラの寮部屋は隣同士になったらしい。

そのこともあってかシャルはラウラの面倒を見てくれている。

この間の食事会でも打ち解けていたみたいだし仲も良好みたいだな。

それなら俺の財布が軽くなるまで奢った甲斐もあったってものだ。

 

「昨日はセシリアとチェルシーも交えて四人で食事を楽しんだりもしたぞ」

 

「おお、そうか」

 

国は違えど同じ欧州出身の四人だ。

結構打ち解けているみたいだな。

ちょっと安心した。

 

「シャル、これからもラウラの面倒見てもらってもいいかな?シャルだったら何かと頼りになるしさ」

 

「うん、いいよ。僕もラウラの助けになりたいからね」

 

「サンキューな、シャル」

 

「シャルロットは何かと気が利くし友人としても付き合いやすい。頼りにさせてもらうぞ」

 

「うん、僕でよければ任せてよ」

 

そう言ってシャルが微笑みを浮かべた。

うん、どうやら機嫌を直してくれたようだ。

 

「よい、では早く行くとしよう」

 

「うわっと、お、おい!」

 

ラウラがいきなり俺の手を握ったまま走り出した。

つんのめりそうになりながら俺はその後に続く。

 

「あ、待ってよ~」

 

慌ててシャルも付いて来る。

俺の手を引くラウラは本当に楽しそうな顔をしていた。

 

 

 

ちなみに箒と鈴と合流したときも箒が俺とラウラが手を繋いでいることに怒ってきた。

もう凄い剣幕で宥めるのに苦労したよ・・・。

鈴は呆れ顔で見ているだけで助けてくれないし、シャルもまだちょっと不機嫌なのか助けてはくれなかった。

ああ、友情って何?幼馴染って何?

 

side out

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アイキャッチしりとり

 

シャル「うつけ者!」

 

 

 

ラウラ「ノーザンライツ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ドイツから留学生として編入する事になったラウラ・ボーデヴィッヒだ。よろしく頼む」

 

時間は朝のSHR。

ラウラは一年一組の教室で簡単な自己紹介を済ませていた。

一年一組ということは当然一夏達と同じクラスである。

 

「デュノア、オルコットに続き、我がクラスに三人目の留学生が来ることになった。ボーデヴィッヒは日本語は問題無く話せるがまだ日本には不慣れな部分もある。何かあった場合は手を貸してやれ」

 

担任の千冬が簡潔にラウラの紹介と何かあった場合は手を貸してやれと伝える。

 

「席は後ろに空いている所がある。そこに座れ」

 

「わかりました千冬姉様!」

 

(パァンッ!)

 

「だっ―――――!?」

 

「学校では織斑先生だ」

 

出席簿アタックがラウラの頭にヒットした。

今日初登校の転入生といえども容赦無しの千冬だった。

 

「わ、わかりました織斑先生・・・」

 

「わかったらさっさと座れ」

 

有無を言わさぬ発言でラウラはそそくさと席に着いた。

 

「では、朝のSHRを終わる。各人、今日もしっかりと勉学に励めよ」

 

そう言い残して千冬は教室を後にした。

 

 

HR終了後、転入生の宿命の時間が訪れようとしていた。

それは質問攻めだ。

現にGW明けにセシリアが転入してきた時もそうであったし、シャルロットも入学初日の自己紹介の時にちょっと質問攻めにあった。

クラスで三人目の留学生の到来は思春期男女の好奇心を擽る要因になるのである。

千冬が教室を出るのを確認すると早速ラウラに質問攻めをしようとクラスメイト達が席を立とうとする。

 

「兄様!!」

 

が、クラスメイトが殺到する前にラウラは疾風のごとく一夏の元へ向かった。

 

「うおぉ!?」

 

椅子に座って授業の準備をしていた一夏にラウラは後ろから抱きつく。

 

「一緒のクラスだな。担任も千冬姉様だしもう言う事無しだな」

 

そう。

ラウラは一夏と一緒のクラスになれたのが嬉しいのだ。

担任も千冬なので大好きな織斑家の人間がふたりもこのクラスにはいるのだ。

ラウラのテンションも最高潮に近いと言ってもいい。

その喜びを表現するために一夏に抱きついているのだ。

 

「こ、こらラウラ、教室ではこういうのは少し自重しろ」

 

「いいではないか。私と兄様が仲の良い兄妹であるとたっぷり見せてやればいい」

 

周りのクラスメイトはラウラの態度に呆気に取られていた。

先ほどの自己紹介時は少し無愛想気味だったのでちょっと近寄りがたい雰囲気が少なからずあったのだが、一夏に対する態度はまるで主人に懐く犬のような印象を与えていた。

一夏も「はぁ・・・・・・」と小さく溜め息を吐くも振りほどこうとはしなかった。

 

「え~っと、織斑くん・・・?」

 

一夏の席の近場にいた相川清香がおずおずと訊ねる。

 

「どうした相川さん?」

 

「織斑くんとボーデヴィッヒさんって知り合いなの?」

 

ここで一夏はふと気付く。

そういえばこの前ラウラ探しを手伝ってくれたメンバー以外は一夏とラウラの関係を知らないのだ。

一夏自身がそのことを失念していた。

 

「ああ、ラウラはシャルやセシリアと同じで俺の幼馴染だよ。まあいわゆる『フィフス幼馴染』ってやつだな」

 

その言葉に少し教室内がざわめいた。

ただでさえすでクラスに在籍する留学生ふたりが一夏の幼馴染なのに、更にそこにラウラまでもが加わったのだ。

一夏の交友関係の広さに驚きもするだろう。

 

「そういえば、さっき織斑先生のこと『姉様』って呼んでたよね?」

 

続いて谷本癒子が話しかけてきた。

癒子は清香と仲が良いので清香の質問に便乗するような形で会話に入ってきた。

 

「まあ、俺達織斑家は皆ラウラからは『兄様』と『姉様』って呼ばれてるけど」

 

「うむ。私と兄様達は生まれた時は違えど死す時は一緒と誓い合った仲なのだ!」

 

「「「「「桃園の誓い!?」」」」」

 

「いやいや、そんな三国志の某三兄弟みたいな誓いはしてないんだが・・・」

 

「冗談だ。こういうときにはこの手の冗談がウケが良いとメイドのクラリッサから教わった」

 

「クラリッサさん、あの人またそんなことを・・・」

 

ラウラの言うクラリッサとは本名『クラリッサ・ハルフォーフ』といってボーデヴィッヒ家でラウラの専属メイドをしている人物だ。

日本のサブカルチャーに詳しく、いわゆる「海の向こうのオタク」なのだ。

ちなみに桃園の誓いは日本ではなく中国で行われたものなのだがクラリッサはそのことは知らない。

この事を鈴が知ったら怒るかもしれないが。

 

「織斑くんとボーデヴィッヒさんてどうやって知り合ったの?」

 

今度は夜竹さゆかが質問をしてきた。

黒いストレートヘアにヘアピンをしているのが特徴的な女子だ。

 

「ああ、うちの親は外交官だったから小さい頃から両親に連れられてよく海外に行ってたんだよ。シャルやセシリアに出会ったのもそのおかげだしラウラも同じようなものだな。うちの親とラウラの親が懇意の関係にあったてのが大きな要因かな」

 

織斑家とボーデヴィッヒ家の懇意関係は一夏が生まれる以前からあったものだと一夏は聞いている。

あまり詳しいことを一夏は知らないが生前の両親はそう言っていた。

 

「さっきメイドさんがどうとかって言ってたけど、ボーデヴィッヒさんの家って結構大きな家なのかな?」

 

続いての質問は鏡ナギからだ。

赤いカチューシャとメガネが特徴的な女子である。

 

「それは・・・」

 

その質問の答えに少し一夏が躊躇う。

この話題はラウラには少しデリケートな問題なのだ。

一夏はチラリとラウラの様子を伺うと

 

「いい兄様。自分で話す」

 

どうやら自分で話すようだ。

若干不安を拭いきれなかったがラウラが自分で言うと言っているので任せることにした。

 

「私の家は代々軍事家系でな。父はドイツ軍最高司令官を務めている。言わば、父はドイツ全軍の長とい訳だ」

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

クラスの刻(とき)が止まった。

その言葉の意味を飲み込むのにしばらく時間がかかった。

そして

 

「「「「「ええええぇぇっ!!!!」」」」」

 

割れんばかりの叫び声が一年一組に響いた。

それはそうであろう。

ドイツ軍最高司令官なんて超VIPの令嬢がクラスメイトになったのだから驚きもする。

 

「・・・・・」

 

ラウラの表情が少し沈む。

この事を言うと大半の人間は今のようなリアクションをとるのだが、ラウラにはそれが少し心痛いのだ。

 

「なあ皆、この事はあんまり気にしないでやってくれないか?ラウラはその立場上小さい頃からそういう色眼鏡で見られてきたからさ。この事は気にしないでラウラと接してやって欲しい。お願いだ」

 

ラウラを守るように一夏がクラスメイトを説得した。

その説得には真摯な響きがあった。

 

「そうよね。ごめんなさい。大丈夫、皆ちょっと驚いちゃっただけだから。ボーデヴィッヒさんを色眼鏡で見たりはしないわ。皆のもそうでしょ?」

 

クラス委員の鷹月静寐がクラス全体を見回すようにそう言った。

一夏の説得と静寐の言葉に納得したのかクラスメイト達は先ほどの態度を改めてまたラウラに笑顔を向け始める。

 

「これからよろしくねボーデヴィッヒさん」

「何かわからないことがあったら遠慮なく言ってね」

「ドイツってどんな所なのかとか聞かせてよ」

 

あっという間にラウラの周りに人だかりができてしまった。

最初はラウラも困惑の表情を浮かべていたが、やがてそれは輝く笑顔に変わっていった。

 

「ふぅ、どうやらラウラもクラスに溶け込めたみたいだな」

 

人だかりとなったラウラの方を見ながら一夏は安堵の表情を浮かべていた。

ラウラ自身はあまり社交的な性格ではないのでクラスに馴染むのには時間が掛かると思ったのだが、予想以上に早くクラスに溶け込めたようだ。

 

「一夏、何だか嬉しそうだね」

 

「おお、シャル」

 

いつの間にかそばにシャルロットが来ていた。

 

「まあ、ラウラがちゃんとクラスに馴染むかちょっと不安だったからな。でも、もうその心配はいらないみたいだな」

 

ラウラの方を見る一夏の顔は嬉しそうだった。

それは家族を見守るような温かさのある表情だった。

 

「本当に一夏ってラウラのお兄さんみたいだね」

 

「ん?そうだな。生まれた国は違うけど本当に妹みたいなやつだなラウラは」

 

クラスメイトに囲まれるラウラを遠くに見つめながら一夏とシャルロットは顔を見合わせて笑い合った。

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