第六話 織斑家の休日 前編
「ん・・・、んん・・・」
眩しい感覚に一夏は目が覚める。
入学式から3日が経ち今日は日曜日だ。
基本的に、彼は寝起きが良い。織斑家で寝起きの良さは彼がトップである。
ちなみに2位は百春で3位が十秋、最下位は千冬である。
一夏は枕もとに置いてある目覚まし時計を手元に持ってくる。
只今の時刻はAM6:30。
休日なのに偉い早起きだ。
「習慣ってやつかな」
ポリポリと頭を掻きつつ嘆く。とはいえ、起きてしまったものは仕方ないのでベッドから起き上がって窓を開ける。
入学式の日と同じで天気も雲一つ無い快晴で春独特の風がそよそよと一夏の髪を撫でた。
「さて、着替えて朝飯作るか」
一夏は自室をあとにした。
歯を磨き、寝癖を直し、いつものようにスッキリしたところで一夏は朝食を用意する。
今日の朝食はご飯にわかめと油揚げの味噌汁に焼鮭と和食の王道と呼べるメニューだ。
「おはよう一夏」
「おはよ~、ふあ~」
「おはよう百春兄、十秋姉」
百春と十秋が起きてきた。
百春はもう顔も洗って寝癖も直して普段着に着替えているが十秋はまだ半覚醒状態らしくまだパジャマで顔も洗っていない状態だ。
生徒会長らしからぬその怠慢な態度は学校の生徒達には見せられない程である。
「ほら十秋、顔を洗ってスッキリして来い。少しだらけ過ぎだぞ」
「う~・・・」
なにやら唸りながら廊下をぺたぺたと歩いていく。
「十秋」
「あい~?」
「転ぶなよ」
「うぃ~」
本当に分かっているのかと思う返事をして洗面所へ向かう十秋。
百春はそんな十秋を心配してか声をかけた。普段はぶっきらぼうだが十秋には甘いのである。
「百春兄、朝飯できてるよ」
「ああ、いただこう」
席に着いて朝食を食べ始める。
そこに顔を洗い終わった十秋もテーブルに着く。
「いただきます」
「おう、召し上がれ」
「うむ」
只今の時刻AM7:23
十秋も朝食を口にする。
ここで一夏も食べ始める。
しばし兄弟3人の会話。
「しかし、たまには手抜きでもしたらどうだ?これを用意するのは面倒じゃないか?」
「別に苦じゃないし、朝飯はちゃんと摂った方がいいだろ?」
「まぁな。保健医という立場から言わせて貰えば朝食はちゃんと摂るべきだな」
「そうそう、おいしいものを朝から食べると1日元気が出るよね~♪」
「十秋姉の方がもっと美味いもの作れそうだけど?」
「あたしは一夏みたいに朝すんなり起きれないからね」
「この家の女2人は寝起きが悪いからな」
「でも、あたしは千冬姉さんほどじゃないから」
「確かに千冬姉は・・・」
天井を見上げる3人。きっと千冬はまだ夢の中。休日なのでまだ許される時間であろう。
「あと何時間で起きてくるかな?」
「昼まで起きてこんだろ?」
「さすがにそこまでは・・・、でもそうなると千冬姉の分の朝食が勿体無い事に」
「9時くらいには起きてくると思うよ。ご飯はレンジで温めれば済むよね」
「そうだな。それより百春兄と十秋姉は今日は何か予定あるの?」
「あたしは特にないかな。ちょっと宿題多く出てるからそれを済ませちゃわないといけないし」
「俺はちょっと片付けておきたい仕事がある。だから15時くらいまでは部屋にいる」
「そっか。じゃあ、昼飯は十秋姉に頼んでいいか?俺は昼ごろに弾の家に遊びに行くから昼飯もあいつの家の店で食ってくるからさ」
「うん、わかったよ」
食事中の適度な会話が進み3人とも優雅に朝食を取るのであった。
只今の時刻AM8:07
朝食を食べ終えてから百春は部屋に戻り、十秋も一度部屋に戻って着替えるとの事。
3人分の食器を洗い終えて一夏はちょっと一息つく。
「ふぅ、やっぱ食後は緑茶だな。はー、落ち着く」
目を細めてお茶を啜るその姿はかなり爺くさい。
それでいいのか15歳。
「いちか~。あたしお洗濯済ませちゃうからお掃除やってくれるー?」
遠くから十秋が一夏に呼びかける。どうやら着替え終えて洗濯を始めるようだ。
「はいよー」
掃除を任された一夏はまず1階から掃除を開始する。
家事の昔から一夏と十秋が担当してきたのでこの辺りのコンビネーションはかなりのものだ。
自分が洗濯ならもう1人は掃除。姉弟の阿吽の呼吸だ。
1階はリビングに両親の寝室だった部屋に書斎に客間があってそれなりの時間を要する。
両親の寝室は定期的に掃除をしているので5年たった今でも綺麗なままである。
その部屋は和室なのでそこに仏壇も置いてある。
「♪~~♪~~」
鼻歌を歌いながら掃除機をかける一夏。
その姿はさっきのお茶を啜っていた爺くさい姿とは違い何やら主婦然としている。
本当に15歳の男子高校生なのかと思うほどだ。
でも一夏自身は家事が趣味なのでこれはこれで本人が楽しんでいるのだからいいことなのである。
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アイキャッチしりとり
一夏「全開で換気だぁーーー!!」
十秋「あんぱん、食パン、カレーパン、あなたはどれが好み?」
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只今の時刻AM9:00
1階をたっぷり時間をかけて掃除をした一夏は2階へ上がってくる。
2階には兄弟4人の各部屋があって各々がそこで生活をしている。
百春は自分の部屋は掃除は今度でいいと言われ、千冬はまだおそらく睡眠中なので邪魔はできない、十秋はあとで自分でするから掃除機だけ部屋の前に置いておいてとのことだ。
なので一夏は自室と廊下を掃除する事にする。
「♪~~♪~~」
今度は口笛を吹きながら掃除機をかける。
自室はいつもまめに片付けをしていたので掃除機をかけただけで終わりあとは廊下だけだ。
千冬の部屋の前を掃除していると千冬の部屋のドアが開いた。
「ん~・・・」
唸り声を上げて出来たのはもちろん千冬だ。
見た目は明らかに寝起きで虚ろな目をして髪の毛はボサボサ、着ているのもタンクトップにショートパンツとかなりラフである。
「おはよう、千冬姉」
「お~・・・」
「ごめん、掃除機煩かった?」
「ん~・・・」
「起きたなら朝飯食っちゃってくれる?リビングのテーブルにラップして置いてあるから冷めてたらチンして食ってくれ」
「お~・・・」
フラフラとした足取りで1階へ下りていく千冬。
やはりその姿は学園の生徒や教師には見せられないほどにだらしない。
しかしそれほど千冬が気を抜ける場所なのであるこの織斑家という場所は。
「さて、千冬姉の部屋はっと」
掃除をしているついでに千冬の部屋も掃除が必要か確認するために開けっ放しになったドア越しに千冬の部屋を覗き見る一夏。
「うわぁっ」
部屋はかなり汚かった。
乱雑に散らばった衣服に中には下着まで放り出してある。
部屋の真ん中にには小さいテーブルがありその上にはビールの空き缶に一夏が作ったつまみの皿が置きっぱなしになっていた。
ちらほらと本も床に投げ捨てられるかのように転がっている。
「この前掃除したばっかなのにもうこの有様とは・・・。仕方ない千冬姉には悪いけどこのまま片付けするか」
そのまま部屋の片付けを始める一夏。
勝手に部屋に入るとあとで千冬に怒られたりするが掃除という名目を盾にすれば千冬あまり強くは言ってこない。
家ではだらしない千冬なのでよく一夏がこうやって部屋を掃除したりすのはよくあること。
下着とかも一夏はもう見慣れてるので気にせずに拾う。
散らばった衣服はそのまま洗濯機のところにいる十秋のもとへ届ける。
「十秋姉、これも洗濯してくれ」
「あら?これって千冬姉さんの?」
「ああ、またこんなに溜め込んでたみたいで」
「ふふ、しょうがないなぁ」
「頼んだよ。それと今日天気いいから布団も干しちゃおうかと思うんだが」
「そうだね。じゃあ、お願いできる?」
「おう」
十秋は洗濯を再開し一夏は2階へ戻って掃除を再開する。
只今の時刻AM10:11
十秋と一夏は洗濯と掃除を終えてちょっと一息。
「一夏、お疲れ様」
「十秋姉もお疲れ」
ハイタッチを交わして2人はリビングのソファーに座る。
一夏はまた緑茶を飲んでいて爺くさい姿に逆戻りしていた。
「十秋、一夏、ご苦労だったな」
完全に目が覚めたのか千冬が2人に労いの言葉をかけてきた。
格好も普段着に着替えていて起きたときの寝惚け姿は嘘のようである。
「ああ、千冬姉。部屋のドアが開けっぱなしになってたから部屋の中見ちゃったんだけど凄い散らかってたから掃除しておいたよ」
「う、そうか。わ、悪いな」
「勝手に部屋に入ったのはゴメン。でもさぁ、せめて脱いだ衣服は洗濯機に入れて開けた缶はゴミ箱に入れて空いたつまみの皿は台所に戻しておいて欲しいんだけど。そうすればあんなに散らからないよ?」
「う・・・、わかってはいるのだが」
バツが悪そうな顔をする千冬。
普段は厳しい態度しか見せないが、織斑家で気を抜いているときはいろいろな表情を見せる。
ギャップがあり過ぎて笑ってしまうことも一夏には少なくない。
しかしあまりそれを顔に出しすぎると千冬は照れ隠しに色々と技をかけてきたりするので注意がいる。
「あたしとしては千冬姉さんはもっと女らしくなって欲しいんだけどな」
「む、その言い方は私が女らしくないみたいではないか?」
ちょっとムッとする千冬。
しかし十秋は涼しげな顔で
「ちょっとだらしなさ過ぎるよ。それじゃお嫁には行けないと思うよ?」
「余計なお世話だ。それに私はまだ気を遣われるような歳でもない」
「はいはい」
「馬鹿にしているのか?」
「してないよ~」
ちょっと空気がピリッとするが一夏は気にせずにお茶を啜る。
この姉妹の遣り取りも見慣れているので気にはしていないのだ。
只今の時刻AM11:30
「じゃぁ、俺は弾の家に行ってくるから」
「おう、厳さんにもよろしく言っておいてくれ」
「あいよ。いってきます」
リビングでテレビを見ていた千冬に一言告げて一夏は家を出て行った。
ちなみに千冬が言った厳さんというのは弾の祖父の『五反田厳』の事だ。五反田食堂の大将をしている齢80を過ぎているが筋肉隆々のマッチョなお爺様だ。織斑家は家族でよく五反田食堂を利用するのでこの人にはお世話になっているのだ。
一夏が出て行くと千冬は再びテレビに顔を向ける。
百春は今朝から部屋に篭っているし、十秋も宿題を済ませると言って自室に戻っているのでひとりで時間を持て余している。
千冬はこれといって趣味があるわけではないので休日はだいたいこうやってテレビを眺めているのがお約束だ。
暇を持て余す千冬はこのあとはどうしたものかと考えながらボーっとテレビを見つめるのであった。
そんな織斑家にこのあと騒がしい来客が訪れるのをこのときの千冬はまだ知らなかったのであった。