ようこそ藍越学園へ   作:TAKUMAKI?

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第六十七話 カレーを作ろう

少しの間の自由時間が終わり、藍越学園一年生一同は再び集合し、校外学習として現地の風習などを大いに学ぶ事となったがそこは割愛して時間を夕方まで進めてみよう。

 

校外学習が終了し、これから夕食という事になるのだが、進学校である藍越学園も一般の学校と同じで定番の行事というものを用意している。

花月荘のそばには広大なキャンプ場があり、そこには飯盒炊爨やカレー作りの道具や材料が用意されている。

そのキャンプ場を借りてこれから飯盒炊爨とカレー作りを行い、自分達で作ったカレーライスを夕食にするという計画である。

 

 

side 一夏

 

「これより各班に分かれてカレー作りを開始する。くれぐれも怪我の無いように注意して取り組むようにしろ。各班長は作業分担を決めたら私の所まで来い。必要な材料を渡す。では、作業を開始しろ」

 

担任の千冬姉の合図により一組の生徒達は班ごとに分かれて作業分担を開始する。

俺の第一班も6人が集合して作業分担を決める事になったのだが・・・

 

「・・・・・・・・・」

 

無言でギロリと俺を睨みつけてくる箒がとても怖いです・・・。

校外学習の最中も暫しこんな様子だった。

他の連中もそんな箒に少し困惑気味だ。

まあ、鈴だけはため息をついてやれやれといった感じで肩をすくめている。

 

 

あのあと、痛む顔面を押さえて部屋に戻った俺を出迎えたのは呆れ顔の鈴だった。

「一夏、あんたちょっとそこに正座しなさい」と言われてその場に正座させられた。

「それで、どうしてこうなったの?」と聞かれて事情を説明。

説明が終わるとそのまま鈴の説教が始まった。

「女心がわかってない!」だの「あんたって本当にバカねっ!」だの言いたい放題言われた。

俺も箒と何とか話をしようとしてはみたんだけど禄に話もできずに夕食作りの時間になっちまったんだよなぁ・・・。

 

 

「それじゃ、カレーのルーを作る3人と米を炊く3人に分かれて作業しよう。俺は結構料理には自信があるからルー作りを担当する。あとは皆適当にどっちに入るか決めてくれ」

 

「了解した。俺は米炊きをする」

 

「ボクもそっちに入るよ。ルー作りには役に立てそうにないからね」

 

瀬戸と桐生は米炊き班に名乗りをあげた。

まあ、ルー作りに男手は俺ひとりがいればいいしな。

 

「じゃあ、あたしもそっちに行くわ。ルー作りはあんたと箒と本音でやってちょうだい」

 

鈴も米炊き班に参加表明した。

ということは必然的にルー作りは俺と箒とのほほんさんでやる事となる。

 

「あんたの腕は知ってるから心配はしてないけど、美味しいカレーを頼むわよ」

 

「おう、任せろ。渾身のカレー作ってやるぜ」

 

こういう場で料理の腕を振るうのは滅多に無いことなので気合も入るってもんだ。

 

「一夏、ちょっと」

 

鈴が手招きして俺を呼び寄せる。

それに従って俺は鈴に近寄った。

 

「何だよ?」

 

「ちゃんと箒と仲直りしなさいよ」

 

「別に俺はケンカをしてるつもりはないんだけどなぁ」

 

「いいからしっかり箒の機嫌取りなさい!いいわね!!」

 

「わかったよ・・・」

 

鈴が釘を刺して来なくてもちゃんとそのつもりではいた。

せっかくの林間学校だ。

ぶすっとしたままじゃ楽しめないだろうし、同じ班だしやっぱり箒にも楽しんでもらいたいしな。

 

「じゃ、頼んだわよ」

 

そう言って鈴は桐生と瀬戸を引き連れて米炊きへ向かった。

さて、こっちも作業を開始しよう。

米があるのにルーが無いのは寂しすぎるからな。

 

 

「ね、ね、ねぇ~おりむー。最初は何をすればいいのかな~?」

 

食材を持ってくるとのほほんさんが相変わらずの笑顔で訊いてくる。

そういえば、のほほんさんて普段料理するのかな?

その名の通りのほほ~んとした娘だから何か包丁とか持たせると危なっかしい気がしてならないんだが。

 

「まずは下準備からだ。野菜を洗ってから皮を剥こう。とりあえずこれを水道で洗ってこよう」

 

「りょ~かい~♪」

 

のほほんさんはトポトポと野菜の入った籠を持って水道の方へと歩いていく。

 

「おいおい、転ぶなよ」

 

「わかってるよ~」

 

本当にわかってるのかな?

何か見てて危なっかしい気がするんだよな・・・。

 

「さて、野菜も洗った事だ。まずは皮を剥くぞ」

 

「がってんだ~♪」

 

「ふん」

 

水道で洗った野菜を並べて皮を剥く作業から開始する。

3人がそれぞれ包丁を持って野菜を手にとって皮剥きを始める。

まずは俺はじゃがいもを取って皮を丁寧に剥いていく。

この辺りは家で料理を任されているので慣れたものだ。

 

「・・・・・・・」

 

箒は相変わらずぶすっとしているが実に手際が良い。

今も華麗に人参の皮を包丁で綺麗に剥いている。

普段から結構料理をしているみたいだし箒の方は問題はない。

 

「ふ~んふんふふ~ん~♪」

 

問題はのほほんさんの方だった。

見れば俺と同じでじゃがいもを剥いているのだが、包丁を持つ手付きはやはり危なっかしかった。

しかも皮と一緒に実も結構落としている。

おまけに芽を削ぎ落とさずにそのまま残しているという有様だ。

 

「おいおいのほほんさん、じゃがいもの芽はナチュラルに毒だから残さずに全部取ってくれ」

 

「そうなの~?わかった~、今やる~」

 

「ちょっと待て、その角度は自分の手を切るぞ。ここはこうして――――」

 

俺は自分の持っていたじゃがいもでのほほんさんにお手本を見せながら芽を取ってみせる。

 

「おりむーじょうず~」

 

「慣れればこれくらいは普通だって。じゃがいもは俺がやるからのほほんさんは玉ねぎの方を頼む」

 

「わかった~。玉ねぎ~玉ねぎ~、英語で言うとオリオン~♪」

 

玉ねぎは英語で言うとオニオンだ。

オリオンはトレミーの48星座の1つだろうに。

 

「よーし。全部剥き終わったら次は切るぞ」

 

「しょうちのすけだ~♪」

 

「ふん」

 

皮剥きを終え、次は切る作業だ。

ここでも先ほどのように役割分担を決めて野菜を切ることにしよう。

 

「じゃあ、俺がじゃがいもを切るから箒は人参、のほほんさんは玉ねぎを頼むな」

 

「いえっさ~♪それじゃあ、こいつをそうちゃく~♪」

 

どこからともなく本音が水中ゴーグルを取り出した。

待て待て、何で水中ゴーグルなんて持ってる!?

 

「こんな事もあろうかと用意していたのだ~♪」

 

まあ、深くツッコまない方がいいのかもな・・・。

 

「じゃあ、玉ねぎは頼むぞ。手を切らないように気を付けるんだぞ」

 

「だいじょーぶだいじょーぶ、本気を出せば私はできる子~」

 

本当かよ・・・。

何か見ててヒヤヒヤするんだよなぁ・・・。

俺は男だけど、初めて娘に料理教える母親の心境ってこんな感じなのかな?

ウチの場合、母さんは千冬姉というモンスターを相手にしてたから苦労も半端なかっただろうけど。

十秋姉はすんなり覚えていったから母さんも教え甲斐あっただろうな。

まあ、千冬姉は結局挫折したんだけど。

 

「一夏、こっちは終わったぞ」

 

箒が人参を切り終えたと報告してくる。

おっといけねっ!のほほんさんの面倒見てたから俺の方はまだだった。

 

「さっさとしろ。カレーは時間が掛かる料理なのはお前も知ってるだろう」

 

「わかってるって」

 

「ふん」

 

箒の急かされながらも俺は迅速にじゃがいもを刻んでいった。

しかし、話しかけてくれたのはいいが、箒はまだ機嫌は悪い。

まあ、校外学習の最中は禄に口も利いてくれなかったから一歩前進かもしれない。

はてさて、どうやって機嫌を取ったものかね・・・。

 

side out

 

 

(くそっ!なんなのだ一夏の奴っ!!)

 

食材を切り終え作業を調理へと移行していたが、箒は見た目は冷静さを装っているが内心はそんな悪態をついていた。

先ほどの自由時間の事もあって一夏への態度が刺々しいものになっている箒だが、今は一夏が本音の面倒ばかり見ている事が苛立ちを加速させている。

まあ、危なっかしい手付きで包丁を使う本音を見ていられなくてつい面倒を見てしまうのもわからなくはないのだが、そこは複雑な乙女心というやつで、一夏が自分に構わずに他の女子の面倒を見ていることにイライラしてしまうのであった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アイキャッチしりとり

 

本音「ネギちょ~だい~♪」

 

 

 

一夏「いくら言われても無いものは無いんだ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「鍋に入れるのは火の通り難いものから入れるんだ。そうしないと生煮えのものが出てきたりするからな」

 

「そっかぁ~」

 

「いいか?ここはこうしてな―――――」

 

今も一夏は本音にアドバイスを送りながらカレー作りを行っている。

傍から見るとそれはそれは仲睦まじい男女に見えて、それが箒の心を余計に苛立たせる。

 

(私に謝るどころか布仏の面倒ばかり見おって!)

 

苛立ちの加速は増す一方だった。

 

「なあ、箒」

 

「・・・、何だ?」

 

一夏に声を掛けられても、箒は不機嫌さを隠そうともせずに一夏を一睨みする。

 

「いや、カレーなんだけどさ、お前はスパイシーなのと甘いのどっちがいい?のほほんさんは甘いのがいいって言ってるんだけど」

 

一夏も少したじろぎながらも質問を箒に投げかける。

 

「どっちでもいい。好きにしろ」

 

「お、おう。じゃあ、鈴達にも聞いてくるから」

 

素っ気無く答える箒に一夏も困惑気味に返事をして飯盒炊爨をしている鈴達の方へ向かっていった。

 

「ね、ね、ねぇ~しののん~?」

 

「それはもしかして私の事か?」

 

聞きなれぬ呼称に箒が少し目を吊り上げながら本音を見やる。

 

「おりむーと何があったの~?」

 

ぽわぽわした笑顔で直球で訊いてくる。

しかし、この笑顔が箒には少し鬱陶しく感じた。

 

「お前には関係ない」

 

つい悪態をついてぷいっと顔を背けて地面に転がっていた小石を蹴っ飛ばす。

 

「関係はあるよ~。しののんとおりむーがこのまま険悪なままだと班の空気が悪くなるし~」

 

「・・・・・・・・」

 

「それに~、せっかくの林間学校なんだから~、やっぱり楽しく過ごした方が良いと思うよ~」

 

そんな事は箒だって百も承知だ。

だが、頭では理解できても心が納得しない。

 

「ねぇ~、しののん~」

 

本音はトポトポと箒の正面に回りこんで来た。

その表情はいつもののほほ~んとした雰囲気ではなく、どこか母性のようなものを感じさせる表情だった。

 

「何があったのかはわからないけど~、おりむーとちゃんと仲直りしてね~?しののんだってこのままおりむーと険悪なままじゃ嫌でしょ~?」

 

「むぅ・・・・」

 

それは本音なりの気遣いだったのかもしれない。

箒は少し顔を俯かせて再び顔を本音から逸らす。

箒もずっとこのままの状態でいたい訳ではない。

だからと言って、このやりきれない気持ちが無くなるわけでもない。

 

「戻ったぞ~」

 

「あ、おりむーおかえり~」

 

「・・・・・・・・」

 

そこに一夏が戻ってきた。

本音の表情もいつもののほほ~んとした表情に戻っている。。

 

「カレーだけど、意見が割れたから間を取って中辛くらいにするつもりなんだけどそれでいいか?」

 

「私はそれでもいいよ~。しののんもいいよね~?」

 

「私もそれでいい」

 

「よし、じゃあ早いトコカレーを完成させちまおうぜ」

 

「ら~じゃ~♪」

 

「・・・・・・・・」

 

3人はそのままカレーの仕上げに取り掛かった。

 

 

 

「よーし、あとはじっくり煮込めば完成だな」

 

カレーの仕上げは順調に進み、あとはじっくりとカレーを煮込めば完成となる。

 

「じゃあ、私がお鍋を見てるからおりむーとしののんは休憩してきていいよ~」

 

本音が進んで鍋の見張りを申し出た。

 

「おう、のほほんさんに任せた」

 

「任されよう~♪」

 

そう言って一夏はおたまを本音に渡し、本音も快くそれを受け取った。

 

「焦げないようにじっくりとかき回してくれよ」

 

「あいあいさ~♪ぐりぐり~、まぜまぜ~、ねるねるねるね~♪」

 

嬉々として鍋におたまを突っ込んでカレーをかき回す本音。

若干変な擬音が入った気もするが、かき回すだけの作業なら心配はいらないだろうと一夏は判断した。

あとは残りの問題を片付けなければならない。

 

「さて、箒。鍋はのほほんさんが見ててくれるし、俺達はちょっとそこら辺をぶらっとして来ようぜ」

 

手も空いたということで、一夏は箒を散歩に誘う。

基本カレー作りは班ごとに自由に作って食べる事を許されているので、作り終えた者や手の空いた者はキャンプ場を自由に散策していたりする。

 

「私はいい。ひとりで行ってこい」

 

まだ機嫌が完全に直っていない箒は一夏の申し出を断る。

しかし、それは一夏も予測済み。

 

「ほら、行こうぜ」

 

一夏は少し強引に箒の手を取る。

こうでもしなければ今の箒を動かすことはできないと判断したからである。

 

「な、なんだ、だから私は行かないと言って―――――」

 

「なんだ、歩きたくないのか?おんぶしてやろっか?」

 

「なぁっ!!?」

 

驚きと羞恥からか箒が顔をボッと赤くする。

まあ、突然こんな事を言われたら大多数の者が箒と同じ反応をするだろう。

 

「は、離せっ!」

 

「じゃあ、行こうぜ」

 

「だから人の話を―――――」

 

「箒」

 

取られた手を引き剥がそうとするも、一夏は箒の名前を呼んで遮った。

一夏の表情は真剣で箒はその表情を見て押し黙った。

 

「話があるんだ。いいから一緒に来いって」

 

「む・・・・・・・・」

 

そこで抵抗を諦めた箒は一夏に手を握られたまま歩き出した。

 

 

一夏と箒はキャンプ場内にある湖のほとりにやってきた。

夕刻の湖畔は夕陽に彩られて美しい情景を映していた。

 

「もういいだろう!逃げないから手を離せっ!」

 

「そうだな。悪い悪い、今離すよ」

 

逃げないようにしっかりと箒の手を掴んでいた一夏はその手を離す。

箒はその手が離れる事に若干の寂しさを覚えるも、すぐにむすっとした顔になる。

 

「そ、それで、話とはいったい何だ?」

 

先ほど一夏は「話がある」と言って箒をここまで引っ張ってきた。

ならば、その話とやらを聞かない訳にはいかないので早々に箒は自分をここまで連れ出した理由を訊ねた。

 

「話ってのは他でもない。昼間の事だ」

 

「やはりか」と箒は思った。

今の自分達の様子を考えれば話はそれ以外にないであろう事は箒にも想像がつく。

問題はその内容だ。

 

「まずは謝らせて欲しい。あの時は無神経な事を言って悪かった」

 

そう言って一夏は箒に頭を下げた。

謝罪から入るのが何とも一夏らしいと箒は思ったが、まだ肝心な所を聞けていないので表情はまだ少し強張ったままだ。

 

「そ、それで、昼間に私が聞きたかった事はわかったのか?」

 

強張った表情に少しだけ緊張の色が混ざる。

昼間は一夏の変な雑学のせいで話がこじれてしまい、結局誕生日の事は有耶無耶になってしまったので、改めて聞き直すと緊張する箒であった。

 

「あー、その事なんだけどさぁ。答えるの少し待ってくれないか?」

 

しかし、ここで一夏の口から発した言葉はまたしても箒の予想とは違うものであった。

 

「な、なにっ?」

 

予想外の言葉に箒は訝しんだ目で一夏を見る。

 

(まだ明日が私の誕生日であると気付いていないのか?)

 

そんな疑念が箒の頭を過り、もう一度怒りが湧いて来そうになる。

 

「それと、ちょっと箒に頼みがあるんだ」

 

「はぁ?た、頼み?」

 

「今日の23時45分くらいに旅館のロビーに来てくれないか?そこで答え合わせをしようと思うんだ」

 

「ちょ、ちょっと待て!答え合わせなら今ここでできるだろう!それになんだってそんな時間にロビーに行かないといけないんだ!?」

 

湧いてきそうになった怒りは困惑に変わっていた。

訳が分からないと言わんばかりの表情で、箒の頭には「?」が3つくらいは付いているかもしれない。

 

「なぁ、箒」

 

一夏は箒の両肩に手を置いて真剣な表情で箒を見つめた。

箒はドキンッと心臓が飛び跳ねるのを感じて顔を赤くする。

一夏の真剣な表情に思わず見とれかけた。

 

「説得力は無いとは思うけど、ここは俺を信じて頼みを聞いてくれないか?」

 

その言葉には真摯な響きが感じ取れた。

箒はまだ困惑と羞恥の最中にいたが、その言葉だけははっきりと伝わってきたのを感じた。

 

「わ、わかった・・・、今晩の23時45分にロビーに行けばいいんだな?」

 

自然と了承の返事をしていた。

何故かはわからないがその頼みを断る事ができなかった。

 

「ああ、それじゃあその時間にロビーで待ってるぞ。さて、そろそろ戻ろうぜ。飯もカレーももう出来上がってる頃だしな」

 

「あ、ああ」

 

一夏に促され、箒は一夏と一緒にキャンプ場へと戻って行った。

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