今夏はリアルでの多忙もありましたが、にじファンの閉鎖で執筆のモチベーションがどん底まで落ちていたので中々執筆作業に向かう気力が出なかったのでこんなに更新が遅れてしまいました。
感覚もあまり取り戻せていませんので今までのような執筆ができているか不安ではありますが、ご覧いただけたら幸いです。
あと、第六十七話の最後にあった一夏と箒の密会シーンを今回の最後に転載しました。時間軸的にこうした方がいい気がしたので。
「ふ~、さっぱりした~。やっぱり温泉はいいなぁ~」
浴衣姿で頭にタオルを乗せた一夏がひとり旅館の廊下を歩きながら満面の笑みでそう呟いた。
先ほどまで彼は数人のクラスメイト達と温泉を楽しんでいたのだが根っからの風呂好きである彼にとってみればこの旅館の温泉は天国そのもので、露天風呂はもちろんの事、ジャグジーや打たせ湯など温泉スパに匹敵する充実さに有頂天となり、他の男子達が上がっても一夏だけは温泉を堪能し続け、気付けば1時間半もの長風呂となっていたのだった。
「あ~、あのままふやけるまで湯に浸かっていたかったぜ~」
恍惚といった表情で一夏は顔を緩ませる。
傍から見ると非常に締まりの無い顔で整った彼の顔をだらしなく見せている。
「ねぇ、織斑く~ん」
「ん?」
声がした方を見ると、そこには谷本癒子、鏡ナギ、夜竹さゆかの三人がいた。
顔ぶれはから見るに第三班の女子ようだ。
一夏は誘われるままに三人の方へ歩み寄った。
「おう、どうした?」
「私達これから遊技室に行って遊ぼうと思うだけど織斑君も一緒にどう?」
一夏の問いに答えたのは先ほど一夏に声を掛けた癒子だ。
彼女は一夏と同じ班の本音と仲が良いので一夏も結構話した事がある女子だ。
「遊技室か?」
「そうそう。カレー作りの前の自由時間にちょっと覗いてみたんだけど、ここの遊技室って結構充実してるんだよ。だから織斑君も一緒にどうかなと思って」
癒子の誘いに一夏はあごに手を当てて考える。
一夏もこのまま癒子達の誘いを受けるのも悪くはないと思うのだが、一夏はこのあとちょっと行こうと思っているところがあるのだ。
「せっかく誘ってもらったのに悪いけど、今回はちょっと遠慮しておくよ。このあと夕飯の時に倒れたセシリアの見舞いに行くつもりだったからさ」
一夏はこのあと夕飯時に倒れたセシリアの見舞いに医療部屋に行こうと思っていたのだ。
「それなら私も聞いたよ。何かカレーにとんでもないもの入れてそれを味見したら倒れたんでしょ?」
「ああ、とりあえずそれほど心配はいらないらしいけど、幼馴染としてはやっぱ少し心配だから顔を見に行ってみようと思っているんだ」
「そっか。それじゃ仕方ないね」
「悪いな。せっかく誘ってもらったのに」
「いいよいいよ。セシリアによろしくね」
「おう。それじゃ」
癒子、ナギ、さゆかの三人に手を振って一夏はその場を立ち去った。
side 一夏
谷本さん達の誘いを断った俺はそのまま医療部屋へと向かっている。
聞いた話ではそれほど心配はいらないらしいんだけど、かつてセシリアの身体の弱さを知ってる身としてはやはり少し気になるのでちょっと顔を見に行こうと思い立ったわけだ。
幸い、この林間学校には養護教員として百春兄も同行しているのでセシリアにしてみれば不幸中の幸いかもしれない。
今頃は百春兄に看病されながら楽しく話でもしてるかもしれない。
「あれ?ということは俺が行ってもセシリアの邪魔になるだけか?」
それなら邪魔するのもちょっとセシリアに悪いなぁ・・・。
う~む・・・、これなら谷本さん達の誘いを受けた方がよかったかもしれない。
さて、どうしたもんかな・・・。
「こんな所でボーっと突っ立って何をしている?」
振り返るとそこには千冬姉がいた。
「ちふ・・・・、織斑先生」
名前で呼ぼうとしたら睨まれたので言い直す。
今は別に呼び方なんてそんなに気にするような事じゃないと思うんだけどなぁ。
「実は、セシリアの見舞いに行こうかと思ったんですけど」
「そうか、ちょうどいい。今から私も様子を見に行こうとしていたところだ。お前も来い」
「あ、はい」
千冬姉が行くなら俺が行っても大丈夫だろう。
「行くぞ」
千冬姉に促されて歩を進める。
ちなみに、千冬姉も温泉に行っていたようで、髪の毛がしっとり濡れていて肌も少し上気していた。
艶のかかった黒髪と上気して少し赤くなった肌は身内の贔屓目無しで見てもかなり色っぽい。
俺は弟だから別にドキドキしたりはしないが、別の男性はきっと今の千冬姉の姿を見ればそれはドキドキするだろう。
俺としてはこれで何で千冬姉に恋人がいないのかが不思議でしょうがない。
弟としてはそういった話をこれまでこれっぽっちも聞いたことないからそろそろ良い相手を見つけて欲しいんだけどな。
まあ、千冬姉の場合は嫁入り前に直さなきゃいけないところは多そうだけど。
「お前、今何か失礼なこと考えてただろう」
「い、いや、別に何も・・・」
出たよ、千冬姉の読心術・・・。
下手なこと考えてるとこっちを睨んで指摘してくるからこっちは結構ヒヤヒヤもんだ。
本当に千冬姉ってエスパーなんじゃないかと思うくらいだ。
「くだらん事を考えなくていい。ほら、着いたぞ」
気がつけば医療部屋に着いていた。
「入るぞ」
そう声をかけると千冬姉は無遠慮に入り口の襖を開けた。
せめて中から反応があってから開けた方がいい気がするんだけど・・・。
「ん?なんだ、お前たちか」
中にいた百春兄がこちらに顔を向けるとそう言って俺達を迎えた。
医療部屋と言っても部屋の中は他の部屋と大差があるわけじゃない。
旅館の一室に布団を引いて数点の薬を用意してあるという感じだ。
ここで手に負えない症状の生徒が出たらすぐに近くの病院に運ぶ手筈になっているはずだ。
「オルコットの様子はどうだ?」
「特に問題はない。あれから安静にしていて顔色も良くなっている。今は寝ているが目を覚ませば問題なく動けるだろう」
「そうなんだ。それは良かったよ」
百春兄がそう言うなら本当に問題ないんだろう。
これで一安心だな。
「なら、お前も温泉で汗を流して来い。オルコットの事は私が看ておこう」
「そうだな、俺も風呂に行きたかったところだ。ここは任せよう」
千冬姉に勧められて百春兄は風呂に行くことにしたらしい。
確かにここの風呂は入らないと損だ。
温泉スパ並みの充実っぷりに俺もたっぷりと堪能させてもらったからな。
あ、やべぇ、考えたらまた入りたくなってきたぜ・・・。
まあ、さっき上がったばっかだし、ここは我慢するとしよう。
湧き上がった温泉への欲求を抑えながら俺は枕元からセシリアの顔色を窺った。
「zzzzzz」
安らかな顔で静かに眠っていた。
百春兄の言っていた通りで顔色も悪くないようだ。
あとは目を覚ませば問題はないだろうな。
「女の寝顔をジロジロ見るのはあまりいい趣味とは言えんぞ」
「いやいや、俺にそんな趣味は無いって・・・。あ、ところでさ、千冬姉」
(ごすっ)
チョップを脳天に落とされた。
「織斑先生だ」
「まあ、それはいいじゃん。それより千冬姉、今日は引率で結構疲れたんじゃないか?」
チョップされた脳天を軽く押さえながら千冬姉にそう訊ねた。
「まあな。ガキ共のお守りは疲れるものだ」
「そっか。じゃあ、風呂上りだし、疲れてるならさ――――――」
疲れている千冬姉に俺はある提案をした。
side out
「なに?兄様はまだ戻っていないのか?」
「ああ、まだ戻っていない」
一夏が千冬にある提案をしていた頃、第一班の男子部屋にラウラが訪れていた。
そんなラウラを出迎えたのは一夏ではなく、一夏と同じ班の俊樹と悟史だった。
「ボク達もさっきまで織斑と一緒に風呂に行ってたんだけど、彼は風呂で随分とはしゃいでいてね。ついていけないからボクと瀬戸は先に上がらせてもらったんだ。ひょっとするとまだ風呂ではしゃいでいるかもしれないね」
「うむ・・・、そうか・・・」
悟史にそう言われるとラウラは少ししょんぼりとする。
今日一日一夏のそばにいられなくて不満が募ったので夜の自由時間を期に一夏と共に過ごそうと思っていたのだが、目論みはハズレとなった。
「あいつが戻ってきたらお前が探していたと伝えておこう」
「ああ、すまないがよろしく頼む」
俊樹と悟史に見送られてラウラは部屋をあとにした。
目論みもハズレてしまい、することもなくなってしまったラウラは仕方が無いので部屋に戻ることにした。
「あ、ラウラおかえり」
「うむ、ただいま。鷹月はどうしたんだ?」
ラウラが部屋に戻るとシャルロットがひとり寛いでおり、静寐の姿はなかった。
「鷹月さんなら他の友達と一緒にお土産見に行ってるよ。僕もこのあとセシリアの様子を見に行こうと思ってるんだけどラウラも来る?」
「そうだな。部屋でじっとしてるよりは友人の見舞いに行った方が建設的だろう」
「だね。じゃあ、早速行こうか」
「うむ」
ふたりはセシリアの見舞いのために医療部屋に向かった。
シャッルロットとラウラがセシリアのいる医療部屋に向かったころ、箒と鈴は本音を交えた三人で遊技室でビリヤードをしていた。
「そぉぉりゃぁぁぁ!!」
鈴が渾身の力で手球をショットする。
ショットした手球はきれいに的球に命中し、きれいな軌跡を描きながらポケットに吸いこまれていった。
「お~、りんりんじょうず~♪」
「なんか、手も足も出ずに負けてしまったな・・・」
本音が賞賛の言葉を鈴に贈ったが箒は少し面白くなさそうな顔をしていた。
それはナインボールで大半の的球は鈴が落としたというワンサイドゲームだった所以であろう。
「ん~、まあまあってところかしら♪」
勝利を収めたことで鈴はご機嫌といった感じでキュー・スティックの先端にチョークを塗りつけていた。
「あーっ、凰さん達ビリヤードやってるの?」
そこに先ほど一夏を遊技室に誘って断られた癒子、ナギ、さゆかの三人がやってきた。
「お~、ゆこっち、ナギやん、さゆぽん、三人とも遊びに来たの~?」
ナインボールで負けたのを何処吹く風っといった感じで本音がやってきた三人にじゃれつく。
「せっかくこんな面白そうな所があるんだし、遊ばない手はないかと思ってね」
「途中で織斑くんに会ったから『一緒に行かない?』って誘ったんだけど、行くところがあるって断られちゃったんだよね」
一夏の名前が出て箒がピクリと反応する。
真夜中に二人だけで待ち合わせの約束をしているので変に意識してしまっているのだ。
「い、一夏はどこに行くと言っていた?」
「織斑くん?織斑くんならオルコットさんのお見舞いに行くって医療部屋に向かったわよ」
「そ、そうか。なら、私もセシリアの見舞いに行く事にしよう。友人の安否も気になるしな」
そう言っている箒だが、実際は一夏に会うのが目的である。
「鈴、お前も来い」
しかし、箒は今の自分の精神状態では一夏の顔をまともに見れないかもしれないと思い鈴を誘った。
「あたしも?まあ、あたしはいいけどさ」
「そうかそうか。よし、じゃあすぐ行くぞ」
「えっ?ちょ、ちょっと!?」
箒は鈴の腕を掴んで強引に連れ出した。
癒子、ナギ、さゆかの三人は「いってらっしゃ~い」と手を振り、本音は「ドナドナド~ナ~♪」と歌いながら二人を見送った。
「まったく、ついて来て欲しいなら素直にそう言いなさいよね」
「す、すまん・・・」
医療部屋へ向かう廊下を歩きながら鈴は箒に苦言を呈す。
箒もばつが悪そうに鈴に謝罪する。
「それにしても、あんた夕食の時から少し様子が変よ。何かあった?」
「い、い、いや、別に何も・・・」
「ふ~ん、・・・・・まあ、そういうことにしておくわ。ほら、さっさと行くわよ」
「う、うむ・・・」
何かを察したような鈴だが、ここはあえて流すことにした。
鈴にせっつかれて箒も続いて医療部屋への道を歩き出した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アイキャッチしりとり
千冬「手荒くするんじゃないぞ」
一夏「存分に味あわせてあげるよ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
箒と鈴の二人は目的の場所へ辿り着いたのだが、そこには異様な光景があった。
「「・・・・・・・・・」」
部屋の前、入り口に張り付いている女子が二名いた。
その二人は箒と鈴もよく知る二名で、ひとりは濃い金髪を首の後ろで束ねていて、もうひとりは無造作に伸ばされた長い銀髪をしていた。
「シャ、シャルロットにラウラ・・・?」
その二人はシャルロットとラウラだった。
「あんた達一体そこで何して―――――」
「「シッ!!」」
慌てた様子でシャルロットとラウラは箒と鈴の口を塞ぐ。
「(な、なんなのだいったい!?)」
「(今すごく大変なんだよ~!)」
「(大変って何がよ?)」
「(いいから、聞いてみろ!)」
言われるがままに箒と鈴は耳を澄ます。
すると、部屋の中から一夏と千冬の声が聞こえてきた。
『んっ!ああっ!』
『千冬姉どう?気持ち良いか?』
『ま、まぁな・・・、んあっ!ば、馬鹿者、いきなりそんな強くする奴があるか・・・!』
『でもだいぶ溜まってたみたいだしさ、これぐらいの方がちょうどいいと思うけど』
『そ、それは、そうもしれないが・・・、くあっ!そ、そこは・・・やめっ、つぅっ!』
『じゃ、だいぶほぐれてきたみたいだし、そろそろ最後の仕上げと行こうか!』
『お、おい、待て、それは・・・、あぁぁっ!あぁぁぁっ!!』
「こ、ここ、これは・・・!?」
それを聞いた箒は顔をぼわっと真っ赤にさせる。
「い、いい、一体中でナニを・・・!?」
ひくひくと引きつった顔を浮かべる鈴。
「・・・・・・・・・(ず~ん)」
シャルロットはずーんと沈んだ表情をしている。
その表情はさながら通夜と呼べるものであった。
「・・・・・・・・・(ぽへ~)」
ラウラは中で行われているであろう光景を想像しているのかドアに張り付いたまま『ぽへ~』としていた。
十五歳という多感でお年頃の四人はいけないとはわかりつつもドアに張り付く。
もっと中の声を聞き取ろうと耳を襖に近づけて澄まそうと―――――。
「お前達何をしている?」
「「「「ひゃああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」」」」
突如、背後から声を掛けられて四人はみっともない悲鳴を上げた。
振り返るとそこには怪訝な顔で四人を見るひとりの男性がいた。
「も、百春さん・・・」
先ほど風呂に行った百春が入浴を終えて部屋に戻ってきたようだ。
戻ってきたわいいが、部屋の前に入り口に張り付く四名を怪しいと思いつつも声を掛けたと言う事らしい。
「で、お前達一体何をしていたんだ?」
「えっ、あ、いや、その~・・・」
「セ、セシリアのお見舞いに・・・」
「だったら入り口に張り付いていないで中に入ればいいだろう」
「そ、それはそうなんですけど・・・」
「ちょっと中に入れない事情が・・・」
「?」
四人がしどろもどろするのに対し、百春は訳がわからないといった顔をする。
「まぁ、その事情とやらは何だか知らんが、見舞いに来たならさっさと入れ。ここで騒ぐのは他の生徒にも旅館にも迷惑だ」
そう言って百春は部屋の襖を開けようとする。
「ああっ!ちょっと、今はっ!!」
今開けるのはマズイと思いシャルロットが止めようとするが間に合わず、百春は襖を開けた。
そこには、千冬と一夏の禁断の行為が―――――――――――――――――――
「戻ったぞ」
「あ、お帰り百春兄」
「何だ?随分と早風呂だったな。カラスでももう少し長く行水するんじゃないか?」
「俺は養護教員だからな。それが患者を放ったらかして長風呂なんかしてるわけにはいかないだろ。だからさっさと済ませてきた」
「えーっ!勿体無いっ!!ここの温泉施設並みの温泉スパより充実してるし、満喫した方が絶対にいいけどなぁ!!」
「俺はお前ほど風呂好きという訳でもない。汗を流せてリラックス効果得られればそれでいい」
「確かに、私から見ても一夏の風呂好きの方が少し異常だな」
「俺は日本人だぞ。日本人が風呂好きで何が悪いんだよ」
「悪いとは言わんが、ほどほどにしておけ。入浴は三十分した場合は長距離走を走ったのと同じくらいの体力を消耗する。水分も失われて血圧だって上がるから心臓にも良くない。日本でもこういうケースで年間一万人近い者が風呂で亡くなっている」
「まあ、俺はそうならないように気をつけるよ。何だって過剰摂取は良くないって事だろ?」
「細かく言えば違うが、まあ、そんなところだな」
百春が部屋に入ると一夏も寝転がっていた千冬も起き上がっていつもの調子で百春を迎えた。
そこだけ切り取ってみれば普通に三人の姉弟のいつもの会話だ。
「ところで、さっきから入り口でボケ~ッと突っ立ている小娘どもは何だ?」
「ああ、なんだか知らんが入り口に張り付いていたぞ」
「なるほど。道理で部屋の外が騒がしいと思ったら」
「シャルにラウラ、それに箒に鈴じゃないか。何だ、どうしたんだお前ら?」
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」
四人は部屋の中があまりにも想像と違っていたので絶句状態に陥っていた。
四人の想像では、一夏と千冬が禁断のアレコレを行っていると思っていたのだが、部屋の中はそんなことしていたような空気も形跡もまったく無く、一夏も千冬も平然と百春との会話を弾ませていた。
「え~っと、一夏と千冬さんは一体何を・・・?」
四人を代表してシャルロットが訊ねてみる。
「ん?俺は千冬姉にマッサージをしてたぞ」
「こいつが仕事で疲れた私を労いたいというのでな」
訊ねてみた結果、一夏は千冬にマッサージを行っていたというでであった。
「マ、マッサージ・・・、だったのか・・・?」
「な、な~んだ、そ、そうよね・・・」
「ん、それがどうかしたのか?」
「いや、てっきり兄様達が男と女の―――――むぐっ!!」
うっかり四人が考えていた事を言いそうになったラウラの口を残りの三人が慌てて塞ぐ。
「えっ?何だって?」
「べ、別に・・・」
「特に何という訳では・・・」
「あはははは・・・」
「?」
三人の必死の苦笑いに一夏はハテナ顔だ。
それから間もなく、セシリアも無事に目を覚まし、少々の雑談を交わしたあとにそれぞれの部屋へと戻っていった。
時は進んで時刻は23時30分。
現在は消灯の時間を迎えて旅館内は寝静まった空気に包まれている。
「そろそろ向かうか・・・」
窓から月明かりが少し差し込む中、箒が布団からモゾモゾと抜け出て少し乱れた浴衣を直す。
「むにゅ~、わ~い、おっきなケーキだ~、zzzzzz」←本音
「zzzzzz」←鈴
同室の本音と鈴を確認するともうすっかり寝入っているようで寝息と寝言が聞こえてくる。
ふたりを起こしてしまわないように注意を払いながら箒は部屋をあとにした。
「箒、頑張んなさいよ・・・」
箒が部屋をあとにしたあと、鈴がうっすらと目を開けてそう呟いた。
side 箒
静まり返った旅館の廊下を私は見回りの教師に見つからないように注意しながら待ち合わせの場所に向かっている。
こんな時間にうろついているのを見つかったら説教は確実であろう。
特にうちは担任が千冬さんだから見つかったときの事を考えると想像するだけで恐ろしい。
何でこんな時間にコソコソとロビーに向かわなくてはならないのか疑問に思えてくるが、一夏との待ち合わせをすっぽかす事もできないので仕方なくロビーに向かっている。
「しかし、一夏の奴、こんな時間に何だというのだ・・・」
向かう道中、最小限の音量で文句を言いながらも私はロビーに向かった。
「箒、こっちだ」
ロビーに到着するとすでに一夏がいた。
ロビーには幾つか並べられたソファーと自販機が並べられた休憩スペースがあり、一夏はその休憩スペースの自販機の陰に隠れていた。
「ここじゃちょっとマズイから場所を移すぞ」
「あ、ああ・・・」
そっと手を取られてその場を立ち去る。
あまりにも自然に手を取られたので心臓が飛び跳ねるのを感じたが振り払う事もできずに一夏の手の温もりを感じながら歩いていく。
「よし、ここら辺なら大丈夫かもな」
旅館を抜け出して外に出ると庭園の少し大きい池のそばに辿り着いた。
見回りの姿も見当たらないし、ここなら見つかる事は無いだろう。
「箒、見てみろよ。月がキレイに見えるぞ」
「あ、ああ、そうだな」
見上げるとキレイな満月が夜空に浮かんで見えた。
「やっぱり藤川とは違って月も星もキレイに見えるな」
「そうだな。遮蔽物や街の光も少ないしな。それに山は空気が澄んでいるからよく見えるのだろうな」
私と一夏はそのまま夜空に浮かぶ月と星を眺めた。
りぃんりぃんと響く虫の音、僅かに吹きつける風、夜空に浮かぶ満月、そして私の隣に立つ一夏の姿。
ちらりと横目で一夏の顔を盗み見る。
穏やかな表情で夜空に浮かぶ月を見つめている。
剣道をやっていたときのまだ幼さを残しながらもキリリと凛々しい真剣な表情もよかったが、今の少し大人びた穏やかの表情も私の目には格好良く見えて胸がキュンッとなった。
「ん?どうした?」
「い、いや!なんでもない!!」
私の視線に気付いた一夏がこちらを向いて訊ねてくる。
私は慌てて顔を逸らして手をブンブンと振るう。
「そ、それより、こんな時間に人をこんな所まで連れ出して、何の用なのだ?それにまだ答えも聞いてないぞ!」
紅潮する顔を誤魔化すように私は一夏に理由を問い詰める。
「ああ、そうだな。えっと、時間は・・・、あとちょっとだな」
一夏は腕時計で時間を確認している。
私は腕時計をしていないので今の時刻はわからない。
恐らくもうすぐ日付は変わるだろう。
そう、もうすぐ私は誕生日になる。
「10,9,8,7,6・・・・・」
一夏がカウントダウンを始めた。
多分それが終われば日付が変わるのだろう。
それが終われば私は十六歳になる。
「5,4,3,2,1、0」
日付が変わった。
これで私は晴れて私は十六歳だ。
「箒!誕生日おめでとう!!」
「えっ!?」
不意討ちだった。
カウントダウンが終了すると一夏は顔を上げて正面から私を見据えてそう言った。
「お、憶えていたのか?」
「まあ、幼馴染の誕生日だしな。一応毎年おめでとうって言ってちょっとしたプレゼントくらいは渡してたし」
「あ・・・・」
言われてみればそうだった。
毎年一夏は必ずおめでとうと言ってくれて、ちょっとしたプレゼントも用意してくれていた。
そういえば去年は手作りクッキーをくれたな。
バカだな、私は・・・。
去年は受験勉強で忙しかったとはいえそんな大事な事を忘れていたとは・・・。
「ほら、これプレゼント」
一夏はプレゼント用の小さな袋を私に差し出した。
「あ、ありがとう」
私はそれをゆっくりと受け取った。
「本当は明日・・・、てゆーかもう今日か?今日のうちにタイミングを見て渡そうかと思ってたんだけどさ、昼間に誕生日の事聞いてきただろ?驚かしてやりたかったからあの場は何とか誤魔化そうとしたんだけど、お前を怒らせちまったからさ。何なら日付が変わってすぐに渡してやろうと思ってこうやって連れ出したって訳だ」
「そうだったのか・・・」
だとしたら少し悪い事をしたな。
勝手に一夏が私の誕生日を忘れてると思って勝手に怒ってあの様だ・・・。
「あのあと鈴に散々怒られたぜ。『なんでもっと上手く誤魔化せなかったのよ!』ってさ」
と言うことは、鈴は一夏が誕生日プレゼントを用意しているのを前以て知っていたという訳か。
全く、人が悪い奴だ。
だが、今は鈴に感謝だな。
「開けてみて、いいか?」
「おう」
そうして私は袋を開けて中身を取り出した。
「これは、リボンか?」
出てきたのはシンプルなデザインだが透き通るような白いリボンだった。
「ああ、あんまり高い物じゃないけどな。俺なりに考えた結果それにしたんだ。箒はいつもポニーテールにしてるからさ、リボンがいいんじゃないかと思ってな。もし要らなかったら捨ててくれて構わないけど」
「い、いや、そんなことはない!凄く嬉しいぞ!あ、ありがとう・・・」
恥ずかしくて最後がちょっと小声になってしまったが、私は一夏に改めて御礼を言った。
一夏から貰ったプレゼントを要らない訳がないだろう。
「いえいえ。こっちも悪かったな。こんな時間に呼び出しちまって」
「それはいい。私は気にしてない」
「そっか。じゃあ、時間も時間だし、そろそろ部屋に戻って寝ようぜ。あんまり夜更かしすると明日に響くからな」
「あ、ああ」
一夏は私を促すと背を見せて旅館の方へ戻っていこうとする。
もう一夏とふたりだけのこの時間も終わってしまう。
そう考えると私の胸中に寂寥感のようなものが去来した。
普段は性格故か中々一夏に素直に接する事ができない私が掴んだせっかくのチャンスをこのまま終わらせたくない。
そう思うと私の身体は自然と一夏の背中に吸い込まれて行き――――
(とさっ)
――――気付けば私は一夏の背中に密着し縋りついていた。
普段の私だったら絶対にこんな事はできなかったであろう。
だが、今は後押しのようなものがあったからこそこうする事ができたのかもしれない。
「箒?」
「ちょっとだけ、このままで、いいか・・・?」
「あ、ああ・・・」
私は一夏の背中に身を預け、一夏黙って私を背中で受け止めてくれた。
どれくらいそうしていたのかはわからない。
しばらくしてから私は一夏の背中から離れ、ふたりで並んで部屋に戻っていった。
部屋に戻った私はそのまま布団に入ったが、自分がしてしまった事に恥ずかしさを覚えて中々寝付く事が出来なかったのだった。
side out
駄文にお付き合いくださってありがとうございます。
約2ヶ月ぶりの更新となりましたが、執筆感覚が完全に麻痺していて、おまけにリアルの多忙とにじファン閉鎖によるどん底まで落ちたモチベーションの回復にここまでの時間を要しました。
にじファン時代は週一更新を目標に執筆作業を行っていましたが、これからは無理せずにできる範囲で執筆作業を続けて行きたいと思います。
では、いつになるかはわかりませんが、また次回に。