ようこそ藍越学園へ   作:TAKUMAKI?

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第七話 織斑家の休日 中編

只今の時刻PM12:00

「お昼休みは ウ○ウ○ watching あっちこっち そっちどっち いい○も~♪」

一夏が家を出たあと千冬はひとり煎餅を齧ってお茶を飲みながらテレビを見ていた。その姿は一夏同様歳よりくさい。こういうところは姉弟なのでよく似ている。

見ている番組はお昼の定番のアレだ。

するとそこに

 

『ピンポ―「バタンッ!」

 

「ちーちゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!」

 

インターホンの音が鳴り止まぬうちに玄関のドアが開いて大声が織斑家に木霊した。

 

「やあやあ!会いたかったよ、ちーちゃん!さあ、ハグハグしよう!愛を確かめ―――」

 

(ガシッ!)

 

「ぶへっ」

 

やってきたのは篠ノ之束。箒の実姉で千冬の幼馴染だ。

リビングにいた千冬を見つけると飛び掛ってきたので千冬は面倒くさそうな顔をしながら束の顔面を掴む。

手加減一切なしの万力を込めた指が束の顔面に食い込む。

 

「煩いぞ、束」

 

「ぐぬぬぬ・・・、相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ」

 

そしてヒラリと身体を往なしてその拘束から抜け出す束。

シュタッと着地してから再び千冬の方を見て

 

「やあ、ちーちゃん」

 

「おう」

 

何もなかったかのように挨拶を交わす2人。

 

「え~とっ・・・、どうも。お邪魔します・・・」

 

続いてリビングに入ってきたのは箒だった。

どうやら姉妹2人で織斑家に来たようだ。

 

「姉さん、チャイムを鳴らしたら家の人が出てくるまで玄関先で待っていましょうよ」

 

「え~、だって早くちーちゃんに会いたかったんだもん」

「しかし、礼儀の問題が」

 

「いいじゃんそんなの~、箒ちゃんってば細かい~。そんなことじゃ大きくなれないよぉ。ああ!でももう充分大きくなってるか!特にオッパイが―――」

 

(ばちんっ!)

 

「殴りますよ」

 

「な、殴ってから言ったぁ~・・・。しかも竹刀で叩いたぁ~、箒ちゃんひど~い・・・、グスンッ」

 

涙目になって頭を押さえる束。箒もどこから取り出したのか竹刀を持っていた。

千冬はそんな2人の遣り取りを煎餅を齧って黙って見ていた。

 

「千冬姉さん、何か騒がしいけどどうかしたの?」

 

そこに十秋がリビングにやって来た。

 

「あっ」

 

「あ~~~~!とあちゃ~~~~ん、久しぶり!あれからオッパイは大きくなったかい!?よーし、束さんが直々に確かめてあげ――――」

 

(ガシッ!)

 

「ふごっ」

 

今度は十秋に飛び掛かり胸を鷲掴みにしようとした束だったがそれより先に十秋に咽喉輪を掴まれる。

 

「んふっ、束さん♪」

 

咽喉輪を掴んだまま凄いにこやかな笑顔で束に向かって言葉をかける十秋。

 

「ぶち殺します♪」

 

笑いながらそう言ってのける十秋。

いや、正確には顔は笑っているけど目が笑っていなかった。

物凄く怖かった。

これぞ正しく『ブリザードスマイル』だった

 

「ご、ごべんだじゃい・・・」

 

「わかればいいですよ」

 

首を掴まれながら謝罪をする束。

謝罪に満足したのか手を放す十秋。

胸に関しての話題は十秋の前では御法度なのだ。

ちなみにさきほど束が言った『とあちゃん』というのは束のみが使っている十秋の愛称である。千冬のことは『ちーちゃん』、百春は『もっくん』、一夏は『いっくん』と呼んでいる。

 

「え~とっ・・・、どうも。お邪魔してます・・・」

 

先ほど千冬にも言った挨拶を十秋にもする箒。顔はまだ少し引きつっている。

 

「あら、箒ちゃんもいたんだ。いらっしゃい」

 

「はい、こんにちは十秋さん」

 

先ほどの怖い笑顔は何処へやらといった感じににこやかに挨拶をする。

胸の話題さえ出さなければいつも十秋は穏やかなのを箒も長い付き合いで心得ていた。

それを知っていてなお十秋に胸の話題を持っていく束はある意味チャレンジャーなのかもしれない。

 

「それでお前達は何をしに来たんだ?」

 

「ああそうだった。目的を忘れるところだったよ」

 

「姉さんが話を逸らし過ぎなんですよ」

 

呆れたようにため息ををもらした箒が包みを取り出した。

 

「今日家でいなり寿司を作りましてね。たくさん作ったので織斑家の皆さんにも食べてもらおうと思いまして」

 

取り出したのは篠ノ之家特性のいなり寿司だった。

昔から織斑家と篠ノ之家は親交があったのでよく織斑家では篠ノ之家からこうやって御裾分けを貰っていたりしたのだ。

萬月と四季が亡くなったあとも何かと気遣ってくれていた篠ノ之家は今でもこうやって時々御裾分けを持ってくるのだ。

 

「そうそう、だから私と箒ちゃんで御裾分けに来たんだよ。まぁ私は久しぶりにちーちゃん達に会いたかったから来たんだけどねぇ~♪」

 

束は普段は家にいないので妹である箒ですら滅多に顔を合わせることはない。

束は自称天才科学者と言い放っていて普段はどこで何をしているのかは家族でさえもわかっていないらしいが箒も篠ノ之夫妻も束のこの奔放さは身に染みて理解しているのであまり気にはしていないらしい。

 

「で、あのぉ、い、一夏は?」

 

ちょっとモジモジして一夏の所在を聞いてくる箒。

 

「一夏なら先ほど出かけたぞ。五反田の家に遊びに行ったらしいが」

 

「そ、そうですか・・・」

 

残念そうな声を出す箒。その手には先ほど出したいなり寿司の入った包みとは違う包みが握られている。

 

「おやおや~、いっくん出かけちゃってるんだ~?箒ちゃん自分が作ったいなり寿司はいっくんに食べて欲しくて頑張って作ったのね~?」

 

「なっ!!ね、姉さん!!!何を言ってっ!!!!」

 

「だって作ってるときすご~い上機嫌だったじゃん。いっくんに『おいしい』って言われるの想像して作ってたんでしょ?」

 

「べ、別にそんなこと思ってなんかいません!!」

 

「ホントにぃ~?」

 

「姉さん!!」

 

「わぁ!竹刀出さないでよ!ゴメン、悪かったから!!」

 

再び竹刀を取り出して束を威嚇する箒。

 

「そういえば一夏は子供の頃からこのいなり寿司好きだったよね。剣道の稽古終わったあとによく嬉しそうに頬ばってたし」

 

篠ノ之家のいなり寿司は一夏の子供の頃からの大好物なのだ。厚めの揚げにしっかりと染みこませたそれは、ご飯の味付けを抑えめにすることでバランスを取っている。濃口醤油のインパクトとさっぱり酢飯の後味感がとてもいいので一夏はこのいなり寿司が大好物なのだ。

箒は母親直伝のこのいなり寿司を一夏に食べて欲しくて一夏の分は態々別の包みに入れて持ってきたのだ。

入学式の下校時に以前自分が作った肉じゃがを美味しかったと言われ、料理に対して意欲を燃やしていたのでいなり寿司を作って一夏に自分の女らしさと料理上手をさらにアピールしようという計画していたのだ。

緊張してドキドキしていたのに肝心の一夏は外出してしまっているので肩透かしを喰らってしまった箒であった。

 

「まぁ、ちょっと時間が空いてしまうが一夏の分はあいつが帰ってきたら食わせればいいだろう。その包みは置いていけ。私が預かっておこう」

 

「は、はい」

 

包みを千冬に手渡す箒。

 

「せっかくだからお昼ご飯はこれにしよっか?ちょうどお昼の用意しようと思って降りて来たんだ。たくさんあるから皆の分はあるよね?私は百春兄さん呼んでくるね」

 

十秋は百春を呼びに2階へ行った。

その間に千冬はお茶の用意をする。

これぐらいのことは千冬でもできるのだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アイキャッチしりとり

 

束「皆揃って大爆発!!」

 

 

 

箒「つまらない人生でしたね・・・」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

只今の時刻PM12:15

この日の織斑家の昼食は篠ノ之家のいなり寿司に織斑家自家製のお新香だ。

千冬、百春、十秋、束、箒の5人でテーブルを囲んでいなり寿司とお新香を食している。

束と箒も昼食はまだだったようなのでここで一緒に食べることにした。

 

「もっくんともだいぶお久だね~。前に会ったのって何時だったっけ?」

 

「恐らく正月に家に来たとき以来でしょう。それ以降、俺はあなたに会った記憶はない」

 

「そうだったね。それにしてももっくんは相変わらず無愛想だね~。もう長い付き合いなんだし、私のことはお姉ちゃんと呼んでくれてもいいんだよ♪」

 

「姉はもう1人いるので結構です」

 

「ツレナイなぁ。でもそこがもっくんらしい。そこにシビれる!あこがれるゥ!」

 

(ベシッ!)

 

「静かに食え」

 

「チョップしなくったていいじゃん~。ちーちゃんの愛が痛い・・・」

 

「何が愛だ」

 

「姉さん、これ以上篠ノ之家に恥をかかせないでください」

 

「恥とは失礼な。私は自分の欲望のままに行動しているだけだよ~」

 

「それが恥だと言ってるんです!!」

 

「こいつの奔放さは今に始まった事じゃないだろ」

 

「こいつとはひどいなぁ、らぶりぃ束さんと呼んでいいよ?」

 

「誰が呼ぶか」

 

「2人共、漫才なら他所でやってくれ」

 

「漫才などしていない」

 

「漫才かぁ。いいね!ちーちゃん、束さんとコンビを組んで一緒に漫才の頂点を目指さないかい!?」

 

「ひとりでやってろ」

 

「ちーちゃんがツッコミで私がボケだね。ネタはすべてこの私が考えるから大丈夫だよ」

 

「だからやらんと言っている」

 

「えー、やろうよ~。ちーちゃんの胸には野望というものが無いのかい?その88センチの―――」

 

「死ね」

 

(バコンッ!)

 

「ちょ!その一斗缶何処から出したの!?それに酷いよちーちゃん。束さんの脳は左右真っ二つに割れたよ~!?」

 

「そうか、よかったな。これからは左右で交代に考え事ができるぞ」

 

「おお!そっかぁ!ちーちゃん頭いい~!」

 

「抱きついてこようとするな、暑苦しい」

 

「愛情表現にハグは欠かせないよ~。ちーちゃんも照れてないで束さんとあつ~~~~く抱き合おう!そうしよう!」

 

「照れてないし暑苦しいと言っている」

 

「あ~ん、ちーちゃんのいけず~」

 

「いい加減にせんとその口を縫い付けるぞ」

 

息の合った漫才を披露する千冬と束。

正確には束が千冬にじゃれついてはしっぺ返しを受けていると言った感じだ。

百春は無視してお新香を食べ、十秋はニコニコしながら漫才を眺め、箒は姉の醜態を見て恥ずかしいのか居心地悪そうにしている。

 

「すいません千冬さん、姉がご迷惑を」

 

「お前が気に病む必要はない。悪いのはこいつだ」

 

「でも面白かったでしょ?ね~、とあちゃん面白かったよね?」

 

「ええ、面白かったですよ」

 

ニコニコ笑顔で感想を述べる十秋。

 

「胸の件以外は♪」

 

その一言でリビングが一瞬で絶対零度と化す。

 

「「「えっ!?」」」

 

見れば十秋は先ほどの顔は笑っているけど目が笑っていない表情をしていた。『ブリザードスマイル』再臨だ。

 

「そっかぁ。千冬姉さんは88センチかぁ。同じ姉妹なのにあたしはねぇ。食べてる物だってあまり変わらないのになぁ」

 

「あ、あのぉ・・・、十秋さん?」

 

何やらブツブツと言葉を口にする十秋に恐る恐る声をかける箒。

その後ろで束が怯えた表情をして、千冬は『しまった』と言いたげな顔をしていた。

 

「そういえば、最近箒ちゃんも発育いいよね?」

 

「え!?わ、私ですか!?」

 

いきなり自分に矛先が向いてきたので焦る箒。

しかし十秋はかまうことなく箒に詰め寄る。

 

「ねぇ、箒ちゃん?何食べたらそんなに大きくなったの?何か特別な事でもあるのかな?あたしに教えてくれない?」

 

「え、え~っと・・・」

 

「どうしたのかなぁ?あたしの質問に答えてくれないのかな?」

 

「いや・・・、あの・・・、え~っと・・・」

 

「ん?」

 

冷や汗ダラダラの箒。箒自身は特別何かをしていたわけではないしむしろこの胸を邪魔に思っているくらいなのだが今の十秋には通じないのは一目瞭然なので口には出来なかった。

助けを求めるように視線を巡らせるが束はリビングの隅でガクガク震えているし、千冬も遠くに離れてしまっている。百春はいつの間にか居なくなっていた。

 

「あー!そ、そろそろ私達はお暇しますね!いつまでもお邪魔してるのも迷惑ですし!じゃ、帰りますね!ほら姉さん行きますよ!お邪魔しました!!」

 

遂に耐え切れなくなった箒は逃亡を決め、隅っこで震えている束を抱えると脱兎のごとく織斑家から逃げ出した。

 

「んふふっ」

 

しばらくリビングには絶対零度の空気が充満していたのだった。

千冬もしばらくは自室に篭っていようとリビングを後にしたのだった。

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