ようこそ藍越学園へ   作:TAKUMAKI?

85 / 89
日常編に戻って参りました。

もっと早く投稿する予定だったんですけど、リアルの生活が邪魔をして・・・

今回は全部一夏視点で話を進めています。

では、どうぞ


七月の日常
第七十七話 帰ってきた日常


side 一夏

 

(ピピピピ、ピピピピ)

 

「ん、ん~・・・」

 

聞き慣れた目覚まし時計の音が俺の耳に飛び込んでくる。

それはもう五年以上は使用している目覚まし時計が俺の一日の始まりを告げる音だった。

耳に慣れたその音のおかげでこの音を聞くだけで俺はすんなりと起きることができる。

 

「ふぁ~あ」

 

一度大きな欠伸をしながら俺はベッドから抜け出して窓のそばに寄ってから部屋のカーテンを全開にする。

飛び込んできたまぶしい光に若干顔をしかめつつも軽く目をこする。

夏の朝日を目一杯浴びて意識もハッキリとしてきた所で、俺は自室の全体を軽く眺め回す。

 

「何だろうな?この部屋でこうして朝を迎えるのがとてつもなく久しぶりのような気がするぜ」

 

何だか随分と長い間林間学校に行っていたような変な感覚を俺は感じたんだが、これは俺の気のせいだろう。

二泊三日の林間学校から帰ってきたのは昨日の事で、実質この家から離れていたのは二日程度なんだ。

まだちょっとだけ寝ぼけているだけに違いない。

 

「さて、まずは顔を洗って、それから戦闘開始と行きましょうかね」

 

俺はいつものように朝食の用意をするために自室を後にした。

 

 

「うん、炊飯オーケー♪」

 

台所に入った俺が真っ先にする事は電子ジャーの蓋を開けてちゃんと米が炊けているかを確認する事だ。

この日も織斑家愛好の特産コシヒカリがまぶしいほどに美味そうな湯気を吹き上げている。

この特産コシヒカリの炊ける良い香りを感じる事が俺の朝の楽しみでもある。

嗚呼、米の炊ける臭い万歳だぜ。

 

「さ~て、材料はっと」

 

米の確認が終わったら今度は冷蔵庫を開けて朝食と弁当のおかずになるものを取り出す。

昨日は林間学校から帰ってきた俺、千冬姉、百春兄のために十秋姉が腕に()りを掛けたご馳走をたくさん作ってくれたので、昨日の夜の仕込みの時は若干材料不足を心配だったんだけど、そこはしっかりした十秋姉の事なのでちゃんと材料は残しておいてくれたから朝食と昼の弁当の分のおかずは事足りる。

夕食の分は放課後に買い物に行けば問題ないだろう。

 

「さて、お仕事お仕事♪」

 

材料を取り出した俺は鼻歌交じりで調理に取り掛かる。

それと平行して朝のコーヒーの準備もする。

 

「おはよう一夏」

 

ちょうど朝のコーヒーの用意が終わった頃に百春兄がキッチンに姿を見せた。

 

「おはよう百春兄。ちょうどコーヒー出来たところだぜ」

 

「うん、俺は朝刊を取ってくるから淹れておいてくれ」

 

「了解」

 

朝刊を取りに行く百春兄の背中を見送ってから俺はコーヒーを用意する。

その間にも織斑家特製ブレンドのコーヒーの良い香りがキッチンに漂っている。

 

「戻ったぞ」

 

「うん。はい、コーヒー」

 

「うむ」

 

朝刊を手に戻ってきた百春兄が席に着くと同時に俺はコーヒーが差し出す。

狙ったかのようにタイミングがバッチリなのは長年の経験の賜物だ。

コーヒーを一口啜ってから百春兄は新聞の記事に目を通していく。

その動作は人によっては親父臭さを感じさせるかもしれないが百春兄にはそんな感じは一切しない。

何でも「医学に関わる者なら時世のどこから難病が生まれるかわからないから情報は多い方が良い」って事らしい。

医者になる気がない俺にはさっぱりわからないが、知識欲的なものだと俺は解釈している。

まったく、医者になるってのも大変だねぇ。

 

「ぅあよ~、ふあ~」

 

謎の挨拶と共にキッチンに姿を見せたのは十秋姉だ。

パジャマ姿で相変わらず寝惚け眼でフラフラとしながら席に着いてテーブルに突っ伏す。

普段は藍越の生徒会長をやっている十秋姉も朝はこの通りダメダメだ。

まあ、人間誰しも弱点はあるって事だな。

 

「だらしないぞ十秋、早く顔洗って来い」

 

テーブルに突っ伏している十秋姉に百春兄が洗面を促す。

これも毎朝の光景のひとつだ。

 

「うぃ~・・・」

 

謎の呻き声上げてから十秋姉は席を立って洗面所の方へ向かう。

 

「あー」

 

「ん?」

 

洗面所に向かったと思っていた十秋姉がまだキッチンの出口に立っていた。

 

「あたし、一夏の作った玉子焼き好きー・・・」

 

「は?」

 

「てな訳で、よろしくー・・・」

 

十秋姉そう言ってからぽてぽてと再び洗面所のの方へ歩いて行った。

 

「あんなに寝惚けている状態でも要求を忘れないとは、アイツもちゃっかりしてるな」

 

新聞を読んでいた百春が苦笑いしていた。

どうやら朝飯に玉子焼きを付けてくれって事らしい。

まあ、昨日まで家を空けていた俺達の代わりにこの家を守ってくれていた訳だし、ここはリクエストに答えて玉子焼きを作るとしましょうかね。

元々、大して手間の掛かるモンでもないしな。

 

「♪~♪~」

 

鼻歌交じりに俺は朝食と昼の弁当の用意をする。

久しぶりに腕を揮うので今日の弁当はちょっと豪華に行ってみようと思う。

そのための仕込みは昨日のうちから完璧に用意してある。

 

~一夏の簡単料理講座~

 

1、まず、水で戻しておいた干し椎茸と長ネギとハムを細かく刻んでから、中華鍋にサラダ油を入れて強火で熱する。

 

2、そこに玉子を一気に流し入れてから半熟状態になるまでかき混ぜてから一度皿に逃がす。

 

3、再び鍋に油を引き、先ほどの干し椎茸と長ネギを入れて火を通し、更にハムも投入して軽く炒める。

 

4、間髪入れずにご飯を投入し、ほぐしながら更に炒める。

 

5、ご飯がいい感じにパラパラになってきたら、塩コショウと醤油で味付けをし、さっきの半熟玉子を入れてほぐしながら全体を混ぜて、手際良くご飯が焦げないようにさっと炒める。

 

6、良い色合いになってきたらそこで火を止めて鍋の中身を皿に移して、織斑一夏特製チャーハンの完成だ。

 

~一夏の料理講座終了~

 

さて、所要時間およそ三分の料理講座も終えて、次はおかずの用意に入る。

おかずも簡単に中華風に取り揃えてから弁当箱に詰めていき、チャーハンだけはタッパーに別盛りだ。

弁当の用意が終わったら今度は十秋姉ご要望の玉子焼き作りに取り掛かる。

他のおかず用意も十秋姉が洗面、歯磨き、髪の手入れなんかを済ませている間にも用意できるだろう。

 

「おっ、いい匂いしてるねっ♪」

 

朝飯の準備が大体終わった所で目もバッチリ覚めて制服姿の十秋姉が戻ってきた。

 

「今日のお弁当は中華なんだ。結構手が込んでるね」

 

「まあね。たまにはこういう弁当もいいんじゃないかと思ってさ。さすがに鳳凰(フォンファン)のチャーハンには負けるけどかなり良い感じに仕上がったよ。それにひとりで留守番してた十秋姉のために弁当も豪華にしようかと」

 

「うん、お姉さん感激だなぁ♪一夏はいい子いい子♪」

 

上機嫌に俺の頭を撫でてくる十秋姉。

子ども扱いされてるみたいなのでできれば止めて欲しいが、どうせ反撃しても手玉に取られるだけだろう。

十五年間この人と姉弟やってきた俺はすでに抵抗を諦めている。

 

「ほら、もう朝飯もそろそろ出来るから席に着いた着いた」

 

「は~い♪」

 

上機嫌の十秋姉を席に促してから俺は十秋姉のコーヒーを用意する。

コーヒーの香りが再びキッチンに広がり、朝食の時間がもうすぐだと告げていた。

 

 

さて、朝食の用意もあらかた済んで、あとは全員が席に着いて食べるだけなのだが―――――

 

「千冬姉はまだ?」

 

―――――千冬姉だけが相変わらず起きて来ていなかった。

 

「起きてきてないね」

 

「ふん、相変わらずだらしないな」

 

十秋姉はニコニコと、百春兄は新聞から目を逸らさずにそう言った。

 

「じゃ、俺が起こしてくるよ」

 

「うん」

 

「おう」

 

エプロンを外して俺は二階にのぼり、千冬姉の部屋に行く前に自室で制服に着替えを済ませる。

白の半袖Yシャツに袖を通し、藍色の夏用スラックスを穿き、ネクタイを締める。

うん、俺の準備もこれでバッチリだ。

さて、それじゃ千冬姉を起こしに行きますか。

 

(コンコンッ)

 

「千冬姉~、朝飯できたぞ~。そろそろ起きてくれ~」

 

俺は千冬姉の部屋のドアを控えめにノックしてから声を掛ける。

これで反応がなければもう少し強めのノックと大き目の声を掛けるのだがどうだろうか。

 

「ん~」

 

反応あり。

恐らく、目は覚めてたけど布団の魔力に屈していたところだったんだろう。

 

「起きた?早く準備して降りてきてくれよ~」

 

「お~」

 

まだ半覚醒状態の千冬姉だけど、昨日は酒も飲まずに寝たみたいだから二度寝の心配もいらないだろう。

俺はそのまま一階へ降りて行った。

数分後には千冬姉が降りてきて織斑家全員集合となって朝食の時間になる事だろう。

織斑家の朝は今日も平和だ。

廊下の窓から差し込む夏の朝日を見ながら俺はそう思った。

 

 

 

「「「「いただきます」」」」

 

四人で手を揃えてからいただきますを言って朝飯にありつく。

今日の朝飯はご飯に十秋姉ご要望の玉子焼き、漬けてあったお新香、焼き鮭、油揚げとわかめの味噌汁だ。

特に凝ったものはないが、これが朝飯にはもっとも最適だと思う。

シンプルイズベストって奴だな。

 

「そろそろ試験が近いが、二人とも勉強の方は大丈夫か?」

 

朝食も一通り取り終えた千冬姉が俺と十秋姉にそう言ってきた。

さすがは教師、その辺りの事はやはり気になるようだ。

 

「あたしはいつも通り問題ナッシング♪」

 

ニッコリとした笑みを浮かべて十秋姉はそう返した。

さすがは成績常にトップの生徒会長様だ。

今回もその座は誰にも譲らないだろう。

 

「まあ、俺の方も特に問題は無いかな。林間学校があったから直前にちょいっと予習をすれば大丈夫だよ」

 

今回の試験、一年生は直前の林間学校のおかげでかなり地獄を見る事になる生徒が多発すると予想される。

そもそも、何で試験が直前に迫った時期に林間学校なんて行事があるのかと言うと、『楽しい行事のすぐあとに試験を持ってくる事で藍越一年生の気の緩みを引き締め直す』とい事が目的らしい。

なお、これは毎年一年生の通過儀礼として学園では有名らしい。

そんな締め方をさせられる方はハッキリ言って迷惑なのだが、そこは学校の方針なので逆らうことは出来ない。

だいたい、そういうのを覚悟した上でほとんどの生徒は藍越を進路に選んだはずだからな。

 

「そうか。夏休みが目前で浮かれていないようで安心した。だが、赤点を取ったら容赦の無い補習が待っているから二人とも油断しないようにな」

 

「はーい♪」

 

「おう」

 

赤点を取る心配は無いだろうけど、少しでも良い点数取るためにはやはり勉強はしておくべきだろう。

良い成績を取ればそれだけ自分の将来の選択肢も増えるってモノだ。

そこから俺が目指す未来って奴を見つけていけばいい。

藍越学園に入学してから俺はそういう考えに至った。

やはり、中学を出てすぐに就職をしようと思っていたのは間違いだったな。

千冬姉達には感謝の気持ちで頭が上がらないよ。

 

「俺は先に行くぞ。林間学校に行っている間に溜めていた仕事を早めに片付けておきたいからな」

 

「私ももう行く。まったく、林間学校にテストにと、教師は忙しい・・・」

 

千冬姉と百春兄は揃って鞄を掴んで立ち上がる。

二人とも社会人という事でまだ学生の俺と十秋姉よりも朝家を出る時間は早い。

 

「二人とも、弁当は持ったか?」

 

玄関へ向かうふたりに俺は弁当を持ったか確認する

 

「俺はもう鞄に入れてある」

 

「私もだ」

 

「そっか。今日は結構豪華に作ったから昼飯は楽しみにしててくれ」

 

「わかった。期待しておこう」

 

「うむ。では俺は行くぞ」

 

「私も先に行く。ではな」

 

「おう。いってらっしゃい」

 

「いってらっしゃーい♪」

 

俺と十秋姉は千冬姉と百春兄の背中を見送り、ふたりはキッチンを出て玄関から外へ出て出勤して行った。

 

「さて、じゃあ片付けして学校行くとしますか」

 

「うん、そうだね」

 

残された俺達は片付けを済ませてから学校へと向かう事となる。

何でかはわからないが今日という日常が始まる事に俺は不思議とワクワクしていたのだった。

 

side out

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アイキャッチしりとり

 

千冬「姉さんと呼んでみろ」

百春「嫌だ」

 

 

 

十秋「大根は好き?」

一夏「突然なに?」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

side 一夏

 

「一夏、鍵閉めた?」

 

「ああ、ちゃんと閉めたぞ」

 

片付けも終わり、俺と十秋姉は玄関を出て戸締りを確認する。

上の二人は社会人という事で朝家を出る時間は早いので、専ら学生組の俺たち二人が家の戸締り担当だ。

 

「おーい!一夏兄様!十秋姉様!」

 

呼ばれた声に振り向くと、門の前でラウラが嬉しそうに手を振りながらピョンピョンと跳ねていた。

その姿は何やら兎を連想させて可愛らしく見える。

 

「おはよう、ラウラ」

 

「ラウラちゃん、おはよう」

 

「おはようなのだ!」

 

門を出てから互いに朝の挨拶を交わす。

 

「ラウラは今日も元気だな」

 

「うむ。私はいつも元気だぞ!」

 

ラウラは手を腰に当てて大きく胸を張ってみせる。

身体が小柄な分ちょっとおかしくもあり可愛らしくもある。

まあ、何ともラウラらしい―――――って、あれ?

 

「ラウラだけか?シャルとセシリアはどうした?」

 

いつもならラウラと一緒にシャルとセシリアも待っているはずなんだけど、今日はラウラだけしか姿が見えなかった。

 

「ああ、あの二人なら―――――」

 

「わああっ!ちょ、ちょっと、遅れちゃった・・・!」

 

ラウラが何か言いかけた瞬間、寮の中から誰かがバタバタと慌てて出てきた。

 

「おお、シャル。おはよう」

 

「ああ、い、一夏。お、おはよう!」

 

寮から出てきたのはシャルだった。

 

「どうした?いつも時間にしっかりしてるシャルが遅れてくるなんて、寝坊でもしたのか?」

 

「う、うん、ちょっとね・・・。林間学校ではしゃぎ過ぎて疲れてたのかも・・・」

 

なるほど、確かに昨日まで林間学校だったしな。

自分でも気付かないうちに疲れが溜まって起きれなかったって事だろうな。

そうじゃなきゃ時間にしっかりしてるシャルが遅れてくるなんてないだろうしな。

 

「おはようなのだ、シャルロット」

 

「ああ、おはようラウラ・・・。いつも一緒に出ようって約束してるのにひとりで先に行かないでよ・・・」

 

「私はいつもの時間にちゃんとロビーで待っていたぞ。約束の時間に来なかったお前が悪い」

 

「ならせめて部屋に来て一声掛けてくれても・・・」

 

「仕方ないだろう。お前は起きてこないし、私は一刻も早く兄様達に会いたかったんだ」

 

「もう、ラウラったら・・・」

 

寮の部屋が隣同士という事でシャルとラウラは何かと一緒に連れ立って行動する事が多く、よくお互いの部屋に寝泊りもしたりするらしい。

この二人はいつもならしっかりしてるシャルがお姉さん的な立場でラウラが無邪気な妹的な関係なのだが、今日は寝坊したシャルの方が何だかラウラよりもちょっとだけ幼く見えて少し可笑しかった。

 

「シャルロットちゃん、おはよう」

 

シャルとラウラの会話が一段落着いたところで十秋姉がシャルに朝の挨拶をする。

 

「十秋さん、おはようございます」

 

「はい、おはよう。ちょっと髪の毛乱れてるよ」

 

「ふえっ!?」

 

十秋姉がシャルの頭を指差す。

急いで来たせいか、確かにいつもは綺麗にしてあるシャルの髪が少し乱れていた。

 

「い、急いで出てきたからちょっと手入れが甘かったのかも・・・」

 

シャルは乱れた髪を見られて恥ずかしいのか、顔を赤くして頭を押さえている。

 

「ちょっとじっとしてて。今直してあげるから」

 

「あ、ど、どうも」

 

「いえいえ♪」

 

十秋姉は鞄からヘアブラシを取り出してシャルの髪を直してあげた。

しかし、そんな物を持ち歩いているとは、さすが十秋姉も女の子だ。

 

「み、みなさん・・・、すみません、ちょっと遅れてしまいましたわ・・・」

 

「おお、おはようセシリア」

 

「おはようだ、セシリア」

 

「おはようセシリアちゃん」

 

「お、おはようセシリア・・・」

 

十秋姉がシャルの髪を直していると、今度は寮の中からセシリアが姿を現した。

 

「シャルに続いてセシリアも遅れるなんて珍しいな。そっちも寝坊か?」

 

「い、いえ、チェルシーが起こしてくれましたのでそれほど遅れるような時間に起床したというわけではないのですが・・・。ただ、ちょっと今日は髪のセットに時間が掛かってしまいまして・・・」

 

綺麗にセットされた髪をぱさっと手で払いながらも少し恥ずかしそうな様子のセシリア。

う~む、確かにセシリアの煌びやかな髪はセットに凄く時間が掛かりそうだ。

 

「う~む、『髪は女の命』なんて言葉もあるくらいだし、やぱり髪のセットは女には重要な事なんだな。俺なんて朝洗面するついでにちょっとヘアウォーターを髪に掛けてセットするだけで五分も掛からないぞ」

 

そこは男女の違いってやつだろうか?

 

「うん?私は女だが髪に特別な事はしていないぞ?」

 

ラウラが事も無げにそうのたまった。

ラウラの髪は腰の辺りまで長くおろしてあるのだが、伸ばしっぱなしにしてるって感じで整えている感じは受けない。

まあ、それでも綺麗で頭を撫でてやる時も触り心地は良いんだけどな。

 

「ラウラってお風呂から出た後も髪のケアとか全然してないんだよ。それなのにそんな綺麗な髪で羨ましいよ・・・」

 

十秋姉に髪の毛をセットされていたシャルがラウラの髪を見ながら少しうな垂れる。

もうセットは完了したようでいつもの綺麗なシャルの髪型になっていた。

 

「まあ!ラウラさん髪の毛の手入れは大事ですわよ!わたくしなんか髪のセットに約一時間半は掛けますもの!」

 

「長っ!!」

 

あまりの長さに思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

確かにセシリアの髪はセットに時間は掛かりそうだけど、さすがに時間かけ過ぎじゃないのか?

それとも女って本当にそれぐらい髪に時間掛けるものなのか?

 

「いや・・・、普通はさすがにそこまでは時間掛からないよ・・・」

 

俺の考えを察してくれたのか、シャルがそう言ってきた。

まあ、それはそうだよな・・・。

セシリアが人一倍髪に時間掛けてるだけだよな・・・、多分・・・。

 

「それじゃ、あたしは先に行くね」

 

「ん?一緒に行かないのか十秋姉?」

 

シャルの髪をセットし終えた十秋姉がそう言って先に行こうとするのを俺はそう言って呼び止めた。

 

「そうですよ。一緒に行きましょう十秋姉様」

 

ラウラも十秋姉と一緒に登校したいのか、十秋姉に一緒に行こうと誘う。

 

「ゴメンね、あたしも朝にちょっと学校でする事があるから」

 

「そうですか・・・。じゃあ、我慢します・・・」

 

「うん、いい子いい子♪」

 

「あぅ~」

 

ラウラの頭を優しく撫でる十秋姉。

ラウラも目を細めて気持ち良さそうに撫でられている。

 

「それじゃあね♪」

 

軽く俺達に手を振って十秋姉は先に行ってしまった。

まあ、多分あれだ。例の二宮さん関連の事だろう。

追求するのは野暮ってものだ。

 

「じゃ、俺達も行くか」

 

十秋姉の背中を見送ってから俺達も四人並んで歩き出す。

今朝も思ったことだが、こうやって皆で一緒に登校するのがなんだか凄く久しぶりのような気がする。

 

「う~ん、何でかな?こうやって皆で一緒に登校するの凄く久しぶりのような気がするよ」

 

「そうですわね。なんだかずいぶんと長い間林間学校に行っていたような気がしますわ」

 

「奇遇だな。私もそう思っていたところだぞ」

 

「何だ、皆もそうなのか?俺も同じ事思ってたぞ」

 

知らない間に俺達は相互理解のスキルでも習得したのかな?

 

「ほら、早く行こうぜ。箒と鈴も待ってるだろうしな」

 

「うん」

 

「はい」

 

「うむ」

 

少し時間食っちまったからいつもの時間に遅れちまいそうだ。

箒と鈴がへそを曲げないうちに行くとしよう。

俺達は少し歩を速めて二人との合流地点へ急いだ。

 

 

 

 

「おはよう、箒、鈴」

 

「おはよう」

 

「おはようございます」

 

「おはようなのだ」

 

いつもの合流地点に着くと、やはり箒と鈴はすでに待っていた。

 

「遅い!罰金!!」

 

出会い頭に鈴にいきなりそう言われた。

お前は憂鬱になると閉鎖的な空間で青い大巨人を大暴れさせる某ラノベヒロインか?

 

「罰金は置いておくとして、珍しく遅いじゃないか。何かあったのか?」

 

箒が鈴の冗談を適当に流しつつ、遅れた理由を訊ねてくる。

 

「ゴメンね。僕とセシリアがちょっと待ち合わせに遅れちゃって・・・」

 

「へぇ、アンタ達が遅れるなんて珍しいじゃない。昨日まで林間学校だったし、知らないうちに疲れが溜まって寝坊したってところ?」

 

「う・・・、僕は、それが正解・・・」

 

鈴はシャルが寝坊した理由をズバリと言い当てた。

図星を指されたシャルは言葉を詰まらせながら恥ずかしそうに白状した。

 

「わたくしはちょっと今朝は髪のセットに思いの外時間が掛かってしまいまして・・・。それでちょっと遅れてしまいましたの・・・」

 

セシリアも少し気まずそうだ。

 

「セシリアは朝は髪にどれくらい時間を掛けているんだ?」

 

「わたくしはシャワーとスキンケア、それにセットも加えると約一時間半は掛けていますわ」

 

「「長っ!!」」

 

俺と同じリアクションをする箒と鈴。

やっぱり女子から見てもセシリアの髪のセット時間は長いらしいな。

 

「そういえば、箒と鈴は朝は髪はどうしてるんだ?」

 

ふっと素朴な疑問が湧いたので、俺はそれを素直に二人にぶつけてみた。

 

「ん?あたしは別に普通よ。朝起きたら梳かしてコレで纏めて終わりよ」

 

鈴はツインテールに纏めているリボンを指差した。

普段サバサバした鈴でも一応朝は髪を梳いているらしい。

まあ、鈴も女なんだし不思議ではないか。

 

「私も特にコレといった事はしていない。朝の素振りが終わったら風呂に入って髪を乾かしてからこの髪型にして終わりだ」

 

箒がポニーテールに纏めた髪をいじりながらそう言った。

ふむ、どうやらこの二人は朝髪に掛ける時間は割りと普通らしい。

お、そういえば、箒が今日付けてるリボン俺が林間学校中にあげたやつだ。

どうやら今日も付けてきてくれてようだ。

やっぱり気に入ってもらえたようだな。

プレゼントした側としては嬉しい事だ。

 

「でも、箒って朝入浴した後に髪を乾かしただけにしてはすっごくサラサラで綺麗だよね」

 

シャルが箒のポニーテールの先を手に取って眺めている。

言われてみれば、確かに箒の長い髪は艶やかで日本人特有の黒髪がとてつもなく栄えていて美しいと言えるだろう。

 

「シャンプーとかどうしてるの?」

 

「髪を洗うときは主に炭汁を使ったシャンプーを使用している」

 

「炭汁?」

 

「昔の日本人は髪を洗う際に炭汁、つまりは炭の入った液体を使って髪を洗っていたんだ。うちは神社故に、そういったちょっとした古流なものを愛用することが多くてな」

 

確かに古流といえば古流だな。

でも、それでこれだけの髪を保てるんだから炭の力も大したものだよな。

いや、むしろこれを発見した昔の日本人を褒めるべきか?

 

「しかしなんだ、こうしてお前達と肩を並べて登校するというのも随分久しぶりのような気がするな」

 

「あれ?箒もそう思う?実はあたしもさっきから同じ事思ってたのよね」

 

「奇遇だな。俺達もさっきまったく同じ話をしてたぞ」

 

「何か不思議だね。皆揃って同じ事を思うなんて」

 

「う~ん、何でなのでしょうか?」

 

「班は違っていたが、林間学校の間は顔も合わせていたのにな」

 

「「「「「「う~ん」」」」」」

 

俺達は揃って腕を組んで首を傾げながらそう言った。

それにしても、「う~ん」のタイミングが打ち合わせしたわけでもないのに六人共バッチリ合ってたな。

やっぱり俺達相互理解のスキル芽生えた?

 

「でもまあ、考えたところでわかるわけでもないし、そもそも、そんな事はどうでもいいだろう。大事なのはひとつだけだ」

 

ラウラが小走りで前に行って手を広げながらクルリと振り向きながらこちらを向く。

 

「私達が揃えば、これからも楽しい毎日が続くはずだ。そうであろう?」

 

微笑みながらそう言ったラウラの言葉は不思議と俺の心にすっと入ってきた。

考えてみれば、フランス、イギリス、中国、ドイツ、そして日本と、俺達六人で国籍が被るのは俺と箒のみだ。

人の縁とは不思議なもので、これだけ多国籍なメンバーがよく集まったもんだと思う。

 

「そうだな。ラウラの言うとおりだな」

 

俺達六人が揃うなら、これからの学園生活もきっと楽しいはずだ。

それだけは確信をを持って言える。

 

「うん、そうだね」

 

「当然だな」

 

「言われるまでもないわね」

 

「わたくしもそう思いますわ」

 

皆も同じ気持ちなのか、次々と肯定の意を表す。

何か青春学園ドラマみたいなノリになってる気がするけど、こういうのも悪くない。

こういうのを友情って言うのかもな。

 

「じゃ、俺達の絆を再認識したところで、早いとこ学園行くとしようぜ」

 

「そうだね。早く行かないと遅刻になっちゃうね」

 

「出るのが少し遅れてしまいましたからね」

 

「遅刻して、千冬さんの出席簿アタックは食らいたくはないな」

 

「あんなの食らったら脳みそがいくつあっても足りないわよ」

 

「しかし、あの威圧感たっぷりの千冬姉様も素敵だと私は思うぞ」

 

これから続いていく日常に楽しい予感を感じながら、俺達は学園への道を歩き出した。

 

side out




駄文にお付き合いくださってありがとうございます。

久しぶりの日常編をお送りしました。日常回は執筆ペース上がるかと思ったらそうでもなかったという罠が・・・。実はAパートは早いうちに仕上がったんですが、Bパートとアイキャッチしりとりはかなり苦戦しました・・・。髪の毛の話題を持ってきたのは「あいえすっ!」の漫画を見て思いついたからなのですが、思ってた以上に話が纏まらなかったので時間が掛かりました。締め方もなんかお粗末なものなってしまった感じが・・・。ちょっと箒と鈴の出番が少なめなのはご容赦ください。弾と数馬は出番すら無しですしw 彼らは・・・、まあ、そのうち出番があるでしょう・・・。

次回は間近に迫った期末試験のために勉強会をすることになったメンバーの話を描きたいと思います。

では、また次回に~
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。