ようこそ藍越学園へ   作:TAKUMAKI?

9 / 89
第八話 織斑家の休日 後編

只今の時刻PM15:35

 

 

百春は今日はずっと自室で前日から残っていた仕事をしていた。

書類の整理や医学に関するレポートの作成、備品の補充リストの作成などなど。

先ほどの昼食は思わぬ来客があり一騒動があったが百春は1人だけ騒動から見事に逃れていた。十秋の事に関しては鋭いところがある百春は束と千冬の漫才が終わったあとにニコニコしていた十秋に何か得体の知れないモノを感じたのでそのままトンズラを決めこんだのだ。

そのあとは途中であった仕事をするためにまた部屋に篭っていた。

 

「ふぅ。何とか片付いたな」

 

パソコンの前で椅子に座りながら首をコキコキ鳴らす。

作業はほぼパソコンを使った作業だったので目に疲れが溜まっていたから眼鏡を外して少し目を瞑って目を休ませる。

 

「下に行って紅茶でも入れるか」

 

百春は自室をあとにした。

 

 

 

 

織斑家には所持しているお茶の種類が結構多い。お茶は玉露をはじめにほうじ茶や玄米茶まであり、コーヒー豆もモカ、ブルーマウンテン、キリマンジャロと揃えてあり、紅茶もダージリン、ウヴァ、キームンと『世界三大紅茶』と呼ばれる紅茶を所持している。

何故こんなにも多くのお茶やコーヒー豆を所持しているかというと両親が健在だったころに両親にお世話になった人や親交があったという方々からよく贈られてくるからだ。

外交官の仕事をしていた織斑家の両親である萬月と四季はその仕事柄海外の知り合いが非常に多く、2人が亡くなった今もその知り合いからたくさんの贈り物が届くのだ。「あの2人の子供達なら自分達にとっても子供達だ」というメッセージが届いたこともあり両親に先立たれた織斑家4人兄弟には非常にありがたい心遣いであった。

 

百春は紅茶の葉の中からウヴァを選択した。

ウヴァはバラの花にたとえられるほのかな香りの上に、メンソールのような爽やかな芳香を伴うものが代表的な上質種とされるが、スモーキーな香りをもつものもありその特徴的な香りと渋みを含む強い味わいのために、好みの分かれやすい紅茶である。上級種はストレートティーとして香りを楽しむことが多いがウバ茶一般としては、ミルクとの相性が良くミルクティーとして楽しまれることも多い。

ストレートならダージリン、ミルクティーならウヴァ、どちらにも対応できるのがキームンといった感じである。

百春はこのウヴァの香りを気に入っていて紅茶を飲むときはウヴァを選ぶことが多い。

今日は疲れていることもありミルクティーを飲みたかったということもある。

 

「あっ、百春兄さん。紅茶入れるの?」

 

そこに十秋が現れた。昼間の騒動もどうやら鎮火したようでいつもの穏やかな表情をしている。

 

「ああ。仕事も一段落したからな。お前も飲むか?」

 

「うん。宿題も片付いたし、おやつにでもしようと思ったところだったんだ」

 

どうやら宿題も片付き時間も午後3時を過ぎているのでおやつにしようといったところであろう。

 

「そうか。そういえばこの前オルコットさんの家から届いたクッキーがあったな。あれを出そう」

 

「そうだね。じゃぁ、あたしがクッキー用意するから紅茶の方お願いね」

 

「わかった。お前もミルクティーでいいな?」

 

「いいよ~」

 

「そういえば、あの姉は何処に行った?」

 

「千冬姉さんならさっき何処かに出かけたよ~」

 

「なら、2人分でいいな」

 

十秋はクッキー、百春はミルクティーの準備に取り掛かった。

 

 

 

 

只今の時刻PM16:00

百春と十秋はアフタヌーン・ティーを満喫していた。

ウヴァの葉で入れたミルクティーに先日イギリスの知人である『オルコット家』から贈られて来たクッキーを食する。

 

オルコット家は織斑家のイギリスの知り合いで生前の両親とも親交があった家の一つだ。オルコット家はイギリスでは有名な名家でいくつもの会社を経営し、成功を収めている家だ。

何故両親がオルコット家と親交を持つことになったかといえば両親がイギリスに赴いた際にカフェでお茶をしていると隣の席にオルコット夫婦が座ったそうだ。突拍子間無く両親はその場でオルコット夫婦に話しかけたそうでそのまま会話をしていたら色々と話が弾んでそのまま仲良くなったそうだ。

先ほど言った「あの2人の子供達なら自分達にとっても子供達だ」というメッセージをくれたのもオルコット夫婦だったのだ。

他にもドイツの『ボーデヴィッヒ家』、アメリカの『ファイルス家』など海外との親交が深かった両親の知人は百春達のことを色々気にかけてくれているのだ。

 

「オルコット家といえば、セシリアちゃんは元気かな?」

 

セシリアとは、本名を『セシリア・オルコット』。オルコット夫婦のひとり娘だ。

歳は一夏と同じ歳で今年から高校生のはずだ。

 

「あの娘は賢い娘だからな。勉学も滞りなくしているだろう。それに、もう昔のように病床には着いてはいないだろう」

 

セシリアは幼少期は身体が弱い娘で入退院を繰り返していた経験があるのだ。

織斑4兄弟がセシリアに出会ったのも入院しているときであった。

オルコット夫婦から「どうか娘の話し相手になってあげて欲しい」とお願いされたからだ。

 

「確かもう元気になったんだよね?1年くらい前にオルコットさんから来た手紙に書いてあったし」

 

「ここ数年は目立った病気にもかかっていないし体力もついたそうだからな」

 

「イギリスに行ったときはよくあたし達がそばについて話し相手になってたよね」

 

「そうだったな。一夏は同じ歳だったしすぐに打ち解けたようだったしな。確か一夏は彼女のことはフォース幼馴染とか言ってたよな」

 

「シャルロットちゃん、箒ちゃん、鈴ちゃんの次にできた幼馴染だからね」

 

「幼馴染にファーストだのセカンドだのつけるやつはあいつくらいだろうな」

 

「しかも皆女の子だし」

 

「節操が無いというべきか」

 

「シャルロットちゃんと箒ちゃんはもう一夏に墜とされてるけど鈴ちゃんは違うみたいだよ。セシリアちゃんが熱を上げているのはむしろ・・・」

 

十秋は百春を見やる。

 

「ん、何だ?」

 

「別に。そういえばセシリアちゃん相手を一番してたのは百春兄さんだったなぁと思って」

 

「まぁな。あのころは俺はもう医者を目指していたからな。病人の心配をするのは当然だ」

 

「そうなんだ」

 

「?」

 

何やら含みのある笑いを見せる十秋に百春は首を傾げる。

しかし聞いても十秋は答えてくれなさそうだったので百春は聞かないことにした。

 

「ところで百春兄さん。お願いがあるんだけど」

 

「お願い?何だ?」

 

何やら上目使いで百春を見る十秋。

 

「ちょっとお買い物に行きたいんだけど車出してくれない」

 

「つまり運転手をしろと言うのか?」

 

「うん。千冬姉さんは出かけちゃってるから車を運転できるのは百春兄さんだけなの。だめ?」

 

織斑家で運転免許を所有しているのは18歳以上である千冬と百春の2人だけ。そして今この家にいる免許所有者は百春だけだ。

 

「・・・。わかった。付き合おう」

 

「本当に?」

 

「そうせんと俺には夕食が出なさそうだからな」

 

夕食担当で織斑家のヒエラルキートップの十秋のお願いだ。断れば百春の今日の夕食はお預けになってしまうだろう。まぁ基本的に百春は十秋には甘いので夕食抜きの脅しがなくても付き合っていたであろう。

こうして百春と十秋は買い物に出かけたのであった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アイキャッチしりとり

 

百春「ネーミングセンス悪いな」

 

 

 

十秋「涙そうそう」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

只今の時刻PM18:20

 

「あれ?千冬姉?」

 

場所は織斑家の前。

弾の家に遊びに出かけていた一夏は自宅に戻ってきた。そこで同じく外出していた千冬と家の前で遭遇したのだった。

 

「おお、一夏か。今帰りか」

 

「おう、ただいま」

 

挨拶を交わす2人。

すると一夏の後ろから1人の女子が顔を出す。

 

「こんばんわ、ちふ、織斑先生」

 

そこにいたのはシャルロットだった。

千冬のこと普通に名前で呼ぼうとしたが今は自分の担任教師なのでその呼び方はまずいと思ったのか織斑先生と呼びなおした。そういうところは律儀なシャルロット。

 

「シャルロットか。ここは学校ではないのだから普通に千冬さんでいい」

 

「あ、はい。すみません千冬さん」

 

学校で見せる態度とは違い表情も緩やかな千冬にシャルロットも顔を綻ばせる。

 

「千冬姉も出かけてたのか?」

 

「ああ。昼に束と箒が来てな。そのときにちょっと一悶着があって家に居ずらくなったから出かけていたんだ」

 

「へぇ、束さんと箒が来たんだ」

 

「お前の好物のいなり寿司を差し入れにな。お前の分は残してあるからあとで食べるといい」

 

「マジか!?じゃぁあとで頂こうかな」

 

「お前の分は箒が直々に作ったそうだぞ。感謝して味わって食えよ」

 

「そうなんだ?じゃぁ、今度箒にお礼言っとかないとな!」

 

「そうしろ」

 

一夏は嬉しそうな顔はしたものの箒が何故一夏の分だけ自分で作ったのかは理解していないようである。

せいぜい、「俺の分を手間隙かけて作ってくれるなんて箒っていいやつだなぁ」程度であろう。その手間隙の意味をまったく理解していないので箒も報われないなぁと千冬も内心苦笑いだ。

 

「ところで一悶着って何があったんですか?」

 

シャルロットは気になった一悶着について千冬に訪ねた。

すると千冬は顔を歪めた。

首を傾げるシャルロットだが一夏は何かを察したらしく

 

「もしかして束さん、また十秋姉にあの話題を?」

 

(コクッ)

 

千冬は頷いた。

十秋に胸の話題を出すのは御法度なのは一夏も知るところなので毎回十秋に会うとその話題を出す束には一夏も辟易としているのである。

 

「束さんって天才の割りに学習能力がないよな・・・」

 

「長い付き合いだがあいつの考えてることは私にもわからん」

 

「「ハァ~~・・・」」

 

「?」

 

千冬と一夏は揃ってため息をつく。

話題についていけないシャルロットだけはハテナ顔であった。

シャルロットは束とは箒を通じて面識はあるが十秋に関して胸の話題がご法度なのは知らないのでわからないのも当然なのだ。

 

「まぁさすがにもうほとぼりも冷めてるころだろうと思って戻ってきたということだ。ところで、何故お前達が一緒にいるんだ?一夏、今日は五反田の家で遊んでいたのではないのか?」

 

一夏と共に居たシャルロットに疑問を持った千冬は2人に問いた。

 

「ああ、15時くらいまでは弾の家で遊んでたんだけどそのあと数馬からゲーセン行こうって誘いがあったから街のゲーセン行ってたんだ。で、あの2人と解散したあとに街で偶然シャルに会ってさ。一緒に帰ってきたんだ」

 

一夏は長々とシャルロットを連れている理由を説明した。

 

「そういうことか。五反田の家に行くと嘘を言って実はお前ら2人でデートでもしていたのかと思ったぞ」

 

「「デ、デートッ!!」」

 

千冬の問われ顔をボッと顔を赤くする一夏とシャルロット。

 

「な、何言ってんだよ千冬姉!俺たちは『まだ』そういう関係じゃ!」

 

「そ、そうですよ千冬さん!僕達は『まだ』そういう関係ではないので!」

 

「『まだ』なぁ~」

 

意地の悪い笑みを浮かべて千冬は2人を見る。

俯いてモジモジするシャルロットに顔を逸らして頬をポリポリかく一夏。確か前にもこんなことがあったなぁと思う一夏とシャルロットであった。

 

「そうだシャルロット。久しぶりに家に上がっていけ。なんだったら夕飯も家で食っていけ」

 

「え!そんな悪いですよ!」

 

「今更気にするような間柄でもなかろう。一夏、お前も何とか言え」

 

「え!俺も!」

 

「そうだ。ほれ」

 

一夏の尻を叩く千冬。

 

「シャル、せっかくだから家で夕飯食っていけよ。千冬姉もああ言ってるし・・・」

 

「う、うん。じゃぁそうしようかな・・・」

 

「決まりだな。では、家に入るとしよう」

 

「お、おう」

 

「は、はい」

 

先に家に入っていく千冬。一夏とシャルロットもそれに続いて家に入っていった。

 

「帰ったぞ」

 

「ただいま」

 

「こ、こんばんわ」

 

「おかえりなさ~い。あらシャルロットちゃん、いらっしゃい」

 

「ど、どうも」

 

3人が織斑家に入ると十秋が出迎えてくれた。エプロンを身に着けたいるので恐らく夕食の準備をしていたのであろう。シャルロットに気付いた十秋は彼女にもにこやかにあいさつをする。

 

「十秋、いきなりで悪いが今日はシャルロットも家で夕飯をとることになったが準備は大丈夫か?」

 

「平気だよ。今日はカレーだから多めに作ってあるし、ご飯も多めに炊いてあるから」

 

「そうか、それなら問題ないな」

 

「え~と、本当に頂いちゃっていいんですか?」

 

「何言ってるの?そんなこと気にするような間柄じゃないでしょ?存分に甘えちゃって。ね!」

 

「そ、そうですね」

 

「まぁ玄関で立ち話も何だから上がっちゃって」

 

「あ、はい。お邪魔します」

 

十秋に促されてシャルロットは織斑家に上がりリビングのソファーに腰を下ろした。

一夏は荷物を置いてくると言って一度自室に戻っていき、千冬も自室に戻っていった。

ソファーに座ったはいいもののシャルロットは何やら落ち着かない様子でそわそわしていた。

そこにお茶を持ってきた十秋が声をかける。

 

「はい、お茶。番茶だけどシャルロットちゃん飲めたよね?」

 

「は、はい。いただきます」

 

ズズッと番茶を啜るシャルロット。やはりちょっと落ち着かない様子だ。

 

「何でそんなに緊張してるの?今まで何回も上がったことある家でしょ?」

 

「それは小さい頃の話ですし。この家で食事を頂くのも久しぶりですから」

 

「さっきも言ったけど気にしないでね。あたしは久しぶりにシャルロットちゃんと食事できて嬉しいよ」

 

「そ、そうですか。僕も久しぶりにここで皆さんと食事できて嬉しいですよ」

 

「そっかそっか。うんうん」

 

ニコニコと笑みを浮かべる十秋にシャルロットも次第に緊張が解けていった。そういえば十秋にはよくこうやってお世話になっていたなぁと思うシャルロットだった。

 

「と・こ・ろ・でぇ、聞きたいことがあるんだけどぉ?」

 

「は、はい?」

 

急ににやけた顔を近づけてくる十秋にシャルロットは困惑する。

 

「一夏とはうまくいってるの?」

 

「!!」

 

ブッっとお茶を噴出しそうになるシャルロット。こんなところを絶対に一夏には見られないであろう。

 

「な、ななな、十秋さん!いきなり何を!!」

 

「だってシャルロットちゃんって昔から一夏のこと好きなんでしょ?」

 

「そ、そそそ、それはその・・・」

 

「一夏って身内の贔屓目を無しにしても結構カッコイイとあたしは思うよ。シャルロットちゃんもそう思うでしょ?」

 

「そ、それは、え、え~っと・・・、は、はいっ」

 

「今のところの最大のライバルは箒ちゃんね。あの娘も可愛いからシャルロットちゃんも油断しちゃダメよ」

 

「え、あ、は、はいっ・・・」

 

「一夏は家事だってできるしマッサージだってうまいよ。結婚できる女性は間違いなく得ね。まさに超優良物件だね」

 

「け、けけけけ、結婚っ!!」

 

「一夏っていい旦那さんになりそうだよね?ねぇ?」

 

「そ、それは僕もそう思いますけどぉ・・・」

 

「でしょ。やっぱりシャルロットちゃんもそう思うんだ?で、で、もうキスはしたの?それとも、もうその先まで?」

 

「―――――――――ッ!!!」

 

突然にどこぞの噂好きのおばさんのように質問攻めをしてくる十秋に完熟トマトのように顔を真っ赤に染め上げて声にならない叫びをあげるシャルロット。

十秋が言ったその先とやらは読者のご想像にお任せします。ちなみにシャルロットはその先とやらを思いっきり想像してしまいました。

 

「あら、真っ赤になっちゃって。可愛いなぁシャルロットちゃんは」

 

「と、十秋さん!そもそも僕と一夏はまだそういう関係じゃ―――」

 

「俺がどうしたって?」

 

「ひゃぁぁ!!」

 

突然現れた一夏に驚いて可笑しな奇声を上げてしまうシャルロット。

そんなシャルロットに一夏も驚いてしまう。

 

「ど、どうしたシャル!?変な声出して!?」

 

「へ?い、いいいい、いや、何でもないよ、何でも、はははっ・・・」

 

「ん?シャル、何か顔赤くないか?熱でも出たか?」

 

「そ、そんなことないよ」

 

「そうか?どれ、ちょっとでこを出せ」

 

「ふえっ!!」

 

そう言って一夏はいきなりシャルロットのでこに手を当てて顔を覗き込む。ただ単に熱を測ろうしているのだがシャルロットはいきなり触られて心臓が飛び跳ねる。

 

(うわ、うわわ、い、一夏、いきなり触ってくるなんて・・・。そ、それに、か、顔も近い・・・。は、恥ずかしいけど、一夏の顔をこんなに近くで見るのも・・・。ああ、やっぱり一夏ってカッコイイなぁ・・・。いつか僕が一夏とさっき言ってたような関係になれたら・・・。って僕はいったい何を考えて!!あ~・・・、う~・・・)

 

只今シャルロットは嬉しさと恥ずかしさで頭が混乱状態に陥っていた。脳内のちっちゃなシャルロット達はもう大慌て動き回っている。しかし100人近くいるのちっちゃなシャルロット達は全員慌てるだけで何の役にも立ちそうにもなかった。

 

「熱はなさそうだけど本当に大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫だよ。そ、それより一夏、あのぉ・・・」

 

「ん?何だシャル?」

 

「そ、その、あのね、そのぉ・・・」

 

「?」

 

目をキョロキョロさせるシャルロットだが一夏は状況がわかっていないらしくハテナ顔をするばかりである。

 

「一夏、顔が近いからシャルロットちゃんは恥ずかしいんだと思うよ」

 

見かねた十秋が助け舟を出す。

 

「へ?・・・、あっ!!」

 

バッとシャルロットから離れる一夏。鼻先5cmほどの超至近距離でシャルロットの顔を覗き込んでいたのだが自覚はしていなかったらしい。

 

「いや、あのな、俺はお前を心配してだな・・・」

 

「う、うん。わかってるよ。その、あ、ありがとう・・・」

 

いたたまれない空気に一夏とシャルロットはどぎまぎしてしまう。お互いに顔から火が出そうなほど真っ赤にしていて心臓は早鐘を打っていてうるさいくらいだ。

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

お互い黙ってしまってさらにどぎまぎしてしまうがその目はお互いの目を見つめていた。

なにやら熱くそして甘ったるい空気がリビングに充満していたがそんな空気などお構い無しで2人は互いを見詰め合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、もうリビングに入ってもいいか?」

 

「ダメよ、百春兄さん。もうちょっと様子を見てから」

 

「まったく、あの2人は」

 

千冬と百春といつの間にかリビングから居なくなっていた十秋が部屋の外からリビングの様子を見ていた。今リビングは2人の世界で構成されてしまっていて立ち入ることができないのだ。

 

「俺は腹が減ってるんだがなぁ」

 

「もうカレーはできてるんだけどこれじゃ準備できないね。お鍋の火は止めてあるからカレー冷めちゃうかも・・・。あ、でもリビングに置いておいたら冷めないかもしれないよ」

 

「やめておけ、あの空気の中に置いておいたら激甘になってしまうだけだ。私はそんなもの食いたくないぞ」

 

「俺もそれは食いたくないぞ」

 

「だよね?あたしもそれはちょっと遠慮したいなぁ」

 

「しかし、私達はいつまでこうしてればいいんだ?」

 

「あいつらが元に戻るまでじゃないか?」

 

「2人がこのままハジメちゃったらどうする?」

 

「そのときは入って止めるぞ」

 

「やだ、千冬姉さんったら無粋ねぇ」

 

「やかましい」

 

「どうでもいいが早く終わってくれ・・・」

 

 

 

 

2人が正気に戻ったのはそれから10分近くも後のことで、結局カレーも少し冷めてしまっていて5人が夕食にありついたのはそれから30分も後のことであった。その日のカレーは何やらいつもより甘かったと5人とも思ったそうだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。