頭ベレトかよ   作:ザマーメダロット

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 この作品……作品? もとうとう完結です。


新作発表記念最終話 ベレト先生と学ぶ道徳

 他の学級に比べてカリキュラムの進行ペースが圧倒的に速い黒鷲の学級(アドラークラッセ)といえど、兎のように居眠りをしてよいという法はなかった。

 セテスに睨まれるまでもなく、ベレトは独断で訓練や応用講義を実施し、その内容は誰にも文句を言わせないだけの質を保っていた。

 

 この日の午後も、その類の応用講義の予定だった。

 

「――が、予定を変更して、道徳の講義を行う」

 

 エーデルガルトは早くも嫌な予感がしてきた。

 

「えー、何でだよ? オレせっかくそこの範囲復習してきたのに」

「どんなに周到な準備をしても、いざ戦場に出てみれば戦略レベルで意表を突かれることもある。その時はその時の状況が全てだ」

「なるほど……!」

「いや、"なるほど……!"じゃないと思うんですけど……」

 

 ベルナデッタからカスパルへの小さなツッコミは誰にも届くことはなく、ベレトは教卓の下から一振りの剣を取り出す。全体が金色で、柄にぽっかりと穴が空いた剣だ。

 

「天帝の剣……?」

 

 どうするつもりかと、フェルディナントが眉をひそめた。

 

「これと同じく英雄の遺産である"破裂の槍"に関する騒動は記憶に新しいだろう。そうだな、リンハルト。あの一件を振り返って、何か思ったことはないか?」

「え? そりゃ、まあ……紋章のない人が触れると危険なんだな、とは思いましたけど」

「そうだな、それも一つだ。他には……ペトラ、どうだ?」

「紋章ある人、もっと危険、思います」

「その心は?」

「紋章ある、悪い人。英雄の遺産、手にする、してはいけません」

「そう、そこなんだ」

 

 ベレトが、パン、と手を打った。

 

「英雄の遺産というのは、どうあがいても危険な代物だ。人が手にした時の危険性はリンハルトの言った通りだが、かといって、人の目に触れないようにするにも限度があるということも、この間の一件でわかったと思う」

 

 見回せば、生徒の目つきは一様に真剣だった。エーデルガルトやヒューベルトも、現状問題がないことと、題材が題材だけに、ベレトへの疑いなどは霧散していた。

 

「では、我々は英雄の遺産をどう扱い、どう向き合えばいいのか? 今日はそれを、みんなに考えてみて欲しい」

 

 教室は(ベルナデッタを除き)すぐさま騒がしくなった。この手のことに関心の深くなかったドロテアなども、英雄の遺産がもたらす災いを一度は目の当たりにしたためか、他に劣らないだけの積極性を見せていた。

 英雄の遺産を放棄するべきか、保持するべきか。放棄するならどのような手段をもって行うのか、保持するならどのように危険を排除するのか。話し合いが継続するにつれ、生徒たちは自主的に黒板の方へ集まり、あれこれと書き込んでいった。

 

 

……

 

 

 やがてリーダーシップのあるエーデルガルトとフェルディナントが中心となり、意見は大まかに2つにまとまった。

 エーデルガルトが推進するのは、実現性を重視し、教会の管理下ではなく有力家門への再分配によって相互の抑止力とする意見。

 対してフェルディナントが打ち出したのは、理想を重視し、"英雄の遺産の意味を失わせる"という意見。

 ここから更なる発展の様子がないと見て、ベレトは生徒たちを席へと戻らせた。一番最後に席についたエーデルガルトは、若干の不服を隠そうともしていなかった。

 

「エーデルガルト。言いたいことはわかるが、これは政治でも紋章学でもなく、道徳の講義だ。問題について考える姿勢そのものが大事だということを忘れないでくれ」

 

 ベレトのいつになくまともな言葉を向けられ、エーデルガルトは内省した。

 

「さて、エーデルガルトの考える解決法は明らかだ。これも問題がないわけではないが、俺からみても、英雄の遺産を配るというやり方は理に適っていると思う。ひとつの正解だろう。

 しかし、フェルディナントの意見も、それと同じだけ尊重されるべきものだ。エーデルガルト側に乗っていたリンハルトやペトラでもいい。ほんの少しでも具体的なビジョンが浮かぶ者はいるか?」

 

 初めに手を挙げたのは、カスパルだった。

 

「カスパル」

「そもそも、英雄の遺産が取り合いになるのってさ、数が少ないせいだろ。同じだけすごくて副作用もない武器をたくさん作れば、英雄の遺産に拘ることもなくなるんじゃねえのか?」

「もう一声!」

「もう一声!?」

 

 ベレトの突然の合いの手に、カスパルが目に見えて狼狽すると、隣のリンハルトがため息をついた。

 

「同じだけ強力で紋章の有無を問わない武器って時点で要件は満たしてるけど、英雄の遺産より明らかに優れていれば、もっと確実に遺産の存在意義を破壊できる。そういうことですよね」

「その言葉が聞きたかった。褒美になんでも一つ願いを叶えてやろう」

「先生がそれ言うと洒落になりませんよ。槍の一件でもリシテアが光って歌ったらマイクランが元に戻ってましたよね? あれがなんだったのかはもう訊きませんけど」

「まあ今のは3割冗談として」

(残り7割は……?)

「俺はもっと追求できる点があると思う。他にはないのか?」

 

 さらに間をおいて、エーデルガルトとフェルディナントがそれを思いついたのは同時だった。手が挙がる。

 

「これは同時だな。フェルディナントから」

「紋章以外の方法で、武器の使用を制限する。この形なら悪用は難しいし、仮に英雄の遺産が悪用されても新たな武器で制圧できるだろう」

「エーデルガルト」

「……全くの同意見よ」

「ふっ」

「何がおかしいのかしら?」

「いいや、何も」

「あら、そう」

 

 対抗心を顕にしたエーデルガルトと、それを引き出せたことに満足げなフェルディナント。そして他の生徒も、ドン、という音がした教卓の上に注目した。

 ベレトが、天帝の剣とは別の剣を乗せた音だった。その剣は、柄どころか、収められた鞘までもが七色に輝いていた。

 

「というわけで、今朝実際に作ってみたのがこれだ」

 

 教室は凍りついた。

 

「1677万飛んで7216の紋章を搭載。英雄の遺産を遥かに凌ぐ威力はもちろん、悪用や事故を防ぐためのセーフティも完備した新世代型武器。その名も"アドラステアぶっ殺ソード"だ」

 

 そして、エーデルガルトの心の平穏もここまでだった。

 

「ネーミングから悪意が漏れてる!!」

 

 必然的な叫びが静寂を切り裂き、ベルナデッタが、ぴっ、と小さく声を上げのけぞった。

 

「何を言うんだ。これはみんなの考える最善の具現化だぞ」

(せんせい)の恣意が強すぎるのよ! 名前がどう考えてもおかしいでしょう!!」

「おかしいのは君の解釈だ。"アドラステアぶっ殺ソード"というのは、"一撃で制圧できる最大規模がおよそアドラステア程度である剣"という意味でだな」

「ウソ! 絶対ウソよ!」

「ウソじゃない。実際に試してみるわけにはいかないが――」

「そこじゃないわよ!!」

 

 座ったままバンバンと机を叩くエーデルガルト。カスパルの脳裏に"ヒス女"という単語がよぎったが、主張が至極正論であることも確かだったので頭を振った。

 

「困ったな……いや、そうか。そこまで言うなら、この剣はエーデルガルトに譲るとしよう」

「!?!?」

「なんだ、いらないのか?」

 

 急展開にエーデルガルトは目を白黒させたが、半ば我に返ると、おもむろに席を立った。七色の輝きに吸い寄せられるように、ふらふらと歩き出す。

 主に待ったをかけようとしたヒューベルトは、しかし"余計な口出しはするな"と釘を刺すベレトの視線に、口を噤まざるを得なかった。

 剣の柄に、エーデルガルトの手が触れた。七色の刀身が鞘から覗く。

 

(この剣があれば、私は――)

「ちなみに、1万人の同意を得ずにこの剣を抜いた者は精神を幻覚世界に囚われる」

 

 直後、エーデルガルトはその場に崩れ落ちた。既に意識はなかった。足元に転がるエーデルガルトを、ベレトが指差す。

 

「こうしてな。あと30分はこのままだ」

「……幻覚って、どんな?」

 

 怖いもの見たさでドロテアが尋ねると、想像してるようなものじゃないさ、とベレトは笑って首を振った。

 

「ちょっとネズミたちがじゃれてくるだけだ。事故防止機能でもあるから、あまり攻撃的にするわけにもいかないだろう?」

「あっ……」

 

 

……

 

 

 エーデルガルトは三日寝込み、しばらく虹を怖がるようになった。

 なお、アドラステアぶっ殺ソードへの言及は黒鷲の学級(アドラークラッセ)最大のタブーとなった。




 道徳的ですね。
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