頭ベレトかよ   作:ザマーメダロット

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最終話 ベレト、教師になる


深緑の髪の青年、ベレトは成り行き上仕方なく教壇に立っていた。席についている学級の生徒たち数名はこの無表情の青年が教師で、まず自己紹介するということしか聞いておらず、何を話し出すか待っていた。

 

「全員起立!」

 

ベレトが号令をかけると、その意図もよくわからぬまま、生徒たちが立ち上がる。

 

「紋章を持っていない者は座れ」

 

いよいよ生徒たちの表情に困惑の色が生まれた。が、まだ大人しく従う。

 

(傭兵って聞いてたけど、紋章のあるなしで区別するようなヤツなのか……?)

 

一人の少年はベレトの生い立ちと言動にギャップを感じながら座り、

 

(紋章の力を持って生まれ、どう振る舞っているかのテストだろうか?)

 

また一人の少年はそこに合理性を見出そうとしつつ立っていた。数名が着席すると、ベレトは立っている一人の方を向いた。

 

「ではフェルディナント。持っている紋章の名前を言え」

 

「キッホルの紋章だ」

 

やはりそういうことか、と思った少年――フェルディナントは、そう答えつつ次の質問は何かと予測したが、ベレトはフェルディナントから視線を外した。

 

「次、リンハルト。持っている紋章の名前を言え」

 

「セスリーンの小紋章ですけど」

 

ベレトより暗い緑色の髪の少年――リンハルトは、一切意図の読めない質問に、立っている中で最もこの質問を無意味と感じ、隠さず表情にも出ていたが、ベレトは構わずリンハルトから視線を外した。

 

「次、ベルナデッタ=フォン=ヴァーリ。持っている紋章の名前を言え」

 

「インデッハの小紋章です……」

 

やや明るめの紫色の髪の少女――ベルナデッタは、自分だけフルネームで呼ばれたことに恐怖(いつもの被害妄想)を感じつつ答えた。ベレトは、やはりなんでもない様子で、次の質問をすべく口を開いた。

 

「次、ベルナデッタ=フォン=ヴァーリ。持っている紋章の名前を言え」

 

「……えっ?」

 

それはベルナデッタの声であり、生徒の総意だった。

 

「次、ベルナデッタ=フォン=ヴァーリ。持っている紋章の名前を言え」

 

「い、インデッハの小紋章です……」

 

「次、ベルナデッタ=フォン=ヴァーリ。持っている紋章の名前を言え」

 

「インデッハの小紋章です……」

 

「次、ベルナデッタ=フォン=ヴァーリ。持っている紋章の名前を言え」

 

「あの、先生?聞こえてますか?」

 

「次、ベルナデッタ=フォン=ヴァーリ。持っている紋章の名前を言え」

 

「ちょっと、(せんせい)!いくら教師でも、何の説明もなくこんなことをしていいはずはないでしょう!」

 

耐えかねて抗議したのは、同じく立っていたうち最後の一人、白い長髪の少女――エーデルガルトである。彼女はベレトの行動に意味がないと判断し、抗議したのだった。ベレトは目だけ動かしてエーデルガルトを見て、ふっと鼻で笑った。

 

「ならエーデルガルト。お前は自分の紋章の名前を言えるのか?」

 

「ええ。セイロスの小紋章よ」

 

小馬鹿にしたように問うベレトに、エーデルガルトは()()とした様子で返答した。

 

「……」

 

エーデルガルトが返答しても、ベレトは何も言わず、微動だにせず、そのまま数秒が経った。

 

(せんせい)?こちらは質問に答えたのだから、そちらも次にすべきことがあるのではなくて?」

 

「お前、今なんて言った?」

 

「え?……だから、質問したのは貴方でしょう?それに答えたのだから――」

 

話を進めるのはそちらだろう、と続けようとした時、ベレトの言葉がそれを遮った。

 

「お前、"質問に答えた"と言ったよな?なぜウソをつく?」

 

「!?」

 

エーデルガルトは目を見開き、座っているうち少年とは言いがたい風貌の男子生徒、ヒューベルトが眉根を寄せた。

 

「もういい。自分の持っている紋章の名前すら覚えていないようなやつは他の生徒の邪魔になる。出ていけ」

 

「せ、(せんせい)?何を言っているの……かしら?私は確かに"セイロスの小紋章"と」

 

「もう一つの紋章の名前を忘れたんだろう。ダメだ、出ていけ」

 

ガタンという音が後方からし、前列に座っていた空色の髪の少年――カスパルは思わず振り向くと、立ち上がったヒューベルトの手のひらが光に包まれるのを見た。それは、魔法の発動だった。並の人間なら致命傷もしくは即死であろう威力の闇魔法が放たれていた。

 

ベレトが飛来する魔法に向かって腕を振り、手のひらを叩きつけると、魔法は来た方向をそのまま逆戻りしていき、ヒューベルトの体に突き刺さった。ヒューベルトは数メートル後方に吹き飛ばされて教室の壁にぶつかり、地面に転がって気を失った。往復した魔法を見て、ヒューベルトが吹き飛ばされ壁にぶつかる音を聞き、生徒たちは一斉にざわめきだした。

 

「全員前を向け!命に別状はない、今リブローで傷も治した。気を失っているだけだ。ヒューベルトには後で事情聴取を行う。……エーデルガルト。呆けている暇があったら早く出ていけ」

 

「あ、あ……」

 

エーデルガルトは、ヒューベルトの行動の理由を分かっていた。そして、ベレトの行動原理と、その力の底が見えなかった。自分が士官学校に入学し、その後も継続して遂行すべき計画ががらがらと崩れ去っていく音を心中に響かせながら、エーデルガルトは立ち尽くしたまま何も言えず、何もできなかった。

 

「……いいか、全員よく聞け。そして、一度で覚えろ」

 

エーデルガルトを除き、ベレトの言葉に――疑念を残しつつではあるが――落ち着きを取り戻し始めた生徒たちに向かって、再びベレトが口を開く。生徒たちは、今度は何が起こるのだろうかと、ある者は冷や汗をかきながら、ある者はエーデルガルトの心配をしながらその言葉を聞いた。

 

 

「エーデルガルトの趣味は野外でごろごろすることで、ネズミのことが怖くてたまらない。これから学級を去るエーデルガルトのことを、きちんと覚えておいてやれ。今日はここまでにしておく」

 

 

エーデルガルトは泣いた。




地の文を三人称にして書いたらどんな感じになるかのテストみたいなもんです。
本業の「メダロット5? すすたけ村の転生者」をよろしくお願いいたします。

ちなみに、原作は皇帝ルートしかクリアしていません。
ないとは思いますが、感想欄にネタバレを書くのはやめてください。

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