頭ベレトかよ   作:ザマーメダロット

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究極最終話 星々の煌き

時はリシテアが壊れる前まで遡る。新任教師のベレトは、同僚となったハンネマンに呼び出され、大広間の2階にある紋章学者の部屋へ来た。部屋の中ではハンネマンが待ち構えており、ベレトの姿を認めると、こちらに来てくれと手招きした。ベレトがそれに応じ、呼び出しのわけを訊くと、室内の床に設置された紋章器具でベレトの持つ紋章を検査するために呼び出したのだという。

 

「俺は自分の持つ紋章をきちんと把握している。不要だ」

 

「まあまあそう言わずに。ジェラルト殿からは結局、君について何も聞けなかったものでな。どのような秘密があるのか、直接調べたくなったのだ」

 

「秘密などない。言いふらす必要がないことはそうしていないというだけだ」

 

「では君は、私が訊けば素直に教えてくれるのかね?」

 

ベレトは顎に手を添え、数秒思案した後、口を開いた。

 

「まあいいか」

 

無表情で放たれる気の抜けた返事に、ハンネマンも脱力した。

 

「私が言うことでもないが、いいのかねそれで?」

 

「自分のしたことが原因で何か問題が起きれば自分で後始末をする。少なくとも戦場ではそうしてきた」

 

「傭兵としての言葉か。頼もしいことだ」

 

ハンネマンは感心したように頷いた。

 

「では訊こう。君の持っている紋章は何かね?」

 

ハンネマンがそう質問すると、ベレトは、"あれっ?"という顔をした。

 

「本当にその質問でいいのか?」

 

「なに?それは……どういう意味だね?」

 

疑問を口にするハンネマンに対し、ベレトも一度首を傾げるが、"そういえばこれも知らないのだったか"と思い当たり、その質問に答えた。

 

「口頭では回答に時間がかかってしまうからだ。俺の紋章は100飛んで8つある」

 

荒唐無稽なその答えに、ハンネマンは()()()と笑う。

 

「ベレトくん、秘密を隠したいなら素直にそう言えばいい。私とて、確かに教えてもらえないのは非常に残念ではあるが、だからといって無理強いするつもりなどないのだよ」

 

「俺はウソをつかない。この紋章器具はどうやって動かす?」

 

「む?」

 

ハンネマンには、会話の前後が繋がっていないように思えた。が、一旦は訊かれたことに答えることにした。

 

「そこに自分の血を少し垂らせば紋章が浮かぶようになっているが……見せてくれる気になったのかね?」

 

「"まあいいか"と言った。よく見ておけ」

 

ハンネマンが――ベレトにそう言われるまでもなく――非常に興味深そうに覗き込んでいる中、ベレトは右の腕甲を外して袖をまくり、腰に佩いていたナイフを抜いて、そっと前腕に傷をつけた。切り傷から血がひと滴垂れ、足元の紋章器具へ()()()と落ちる。

すると紋章器具から光の洪水が生まれ、それが紋章学者の部屋を埋め尽くし、溢れ出た光が廊下を眩く照らした。

 

紋章器具を凝視していたハンネマンは失神し、ベレトは窓から逃げた。

 

 

……

 

 

ハンネマンが目を覚ましたのは、翌朝のことだった。復帰したハンネマンは最初に、紋章学者の部屋に行って紋章器具に異常がないかを調べることにした。疑り深く、数回にわたって調べ直したが、結局異常は見つからなかった。ハンネマンはため息をひとつついてから、質のいい座椅子に腰掛け、思案した。

 

(これだけ調べて異常は見当たらなかった……とすると、あの時私が見た光はなんだったのだ?彼の言ったことが本当だったとでもいうのだろうか?)

 

思案するハンネマンの耳に、小さな足音が聞こえた。その足音は紋章学者の部屋に向かってきて、足音の主は部屋の前を通りすぎず、中に声をかけてきた。

 

「ハンネマン先生、ちょっといいですか?」

 

銀髪の背が低い少女。金鹿の学級に所属する生徒、リシテアだった。リシテアは才能のある努力家として知られ、教師であるハンネマンはよく課外でも質問されることがあり、この部屋へ来ることも珍しくない。なのでハンネマンは、今回もそうなのだろうと思った。

 

「リシテアくんか。今日は何についての質問かね?」

 

「その……紋章器具を使わせて欲しいんですけど、いいですか?」

 

「紋章器具を?君の紋章についてはとうにはっきりしているはずだろう。君が入学した当初、私が立ち会って検査もしている」

 

「そうですけど、ちょっと気になることがあって」

 

リシテアは2つの紋章を持っていることを公にしていないし、その紋章で苦しんでいるために、ハンネマンから紋章の研究対象として見られることを嫌っていた。この先絆を深めていけば相互理解も進み、研究に協力する可能性もあるのだが、とかく今はそうではない。つまり、リシテアが自ら自分の紋章について調べようとしているのは、ハンネマンから見て不自然の極みだった。

 

「君がそうしたいなら、私は別に構わないが……」

 

「じゃあ、お借りしますね」

 

リシテアはすたすたと紋章器具の前に立ち、持っていたナイフで腕を切った。傷口から紋章器具へ、血が滴り落ちた。そして、何も起こらなかった。傷口を塞いでじっと変化を待つリシテアの心臓が早鐘を打つ。ハンネマンも、今しがた調べ尽くしたはずの紋章器具が正しく動作していないことに動揺していた。紋章器具は、十数秒経過しても紋章を映し出す様子を見せない。

 

「……うそ……」

 

呆然とした様子で呟くリシテア。怪物に触れられた時の感覚、目を覚ました後の喪失感。それらの答えが出てしまった。これまで散々方法を探し、どうしても諦めるしかなかった、その身にかけられた呪いが、突然に、そして呆気なく、解けたことを知ってしまった。リシテアの心中に、困惑と、これが現実かを疑う気持ちが去来し、小さな喜びが徐々に大きく強くなっていく。最終的に、その喜びは溢れた。

 

「……やったああああーーーー!!」

 

リシテアは、満面の笑顔で、両手を挙げて叫びながら、どこへともなく走り去っていった。後に残されたハンネマンは、額に手を添えて呻いていた。

 

「う、ううむ……」

 

 

……

 

 

その後、講義が始まらないことを不審に思った青獅子の学級の生徒によって、椅子に座ったまま失神しているハンネマンが発見された。




体験版はここまでになります。続きが読みたい場合はメダロット5(バージョンは不問)をクリアしてください(クラシックスや、最悪動画視聴でも可)。
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