頭ベレトかよ 作:ザマーメダロット
光が収まったとき、召喚されたエーデルガルトの視界に映った風景は、薄暗いロビーだった。石の床と同化した、くすんだ絨毯に気付かなければ、これが城とはわからないであろうほどに質素。照明はなく、日光の余りがどこからか入り込んでいるのみ。
そのような光景なので、目立たない色のローブを着た人物が目の前にいることにも、気付くのが遅れてしまった。その人物は腕を組んだまま黙っていて、被ったフードの陰に隠れ、表情は伺えない。だが、感覚的に、その人物が召喚士であることはわかった。
エーデルガルトは、その人物が自分の言葉を待っているように見えたので、人造遺産の斧"アイムール"の石突をコンと鳴らし、自己紹介を始める。
「私はフォドラを統べる皇帝エーデルガルト。貴方が望むものが何であれ……それに応えられるだけの力を、私は持っている」
「お前を消す方法」
召喚士はエーデルガルトの自己紹介の後、すかさずそう答えた。
「えっ……?」
エーデルガルトの皇帝ポイントが下がった。
戦争からしばらく経ち、学友だろうと容赦なくその手で首を落とすような冷たさは、エーデルガルトから失われつつあった。
相手が自分に対して一定の支配力を持つ召喚士であることも手伝って、召喚士に対する心の動きは困惑寄りであった。
「俺の望みはお前を消す方法だ。さあ応えてみろ」
「応えてみろ、と言われても……貴方が召喚士ならば、その方法を手にしているのも貴方ではなくて?」
「口答えするんじゃない!!!」
召喚士は容赦なく右手でエーデルガルトの頬を張った。乾いた音がし、エーデルガルトは数メートルふっ飛ばされて床を転がった。アイムールは手放さず、素早く受け身を取って立ち上がる。召喚士の支配によって武器を向けることはできないが、召喚士に対して身構えた。
「どういうつもり?」
「どうもこうもない。俺はお前を消す方法を望んでいる」
「自害しろとでも言うのかしら?」
「人の話を聞いていないのか?聞いた上で理解できていないのか?それでよく士官学校を卒業できたな?」
理解の外から連続して浴びせられる口撃は、止まない。
「それになんだその髪の毛は?ふざけているのか?ふざけた性根で俺の召喚に応じたのか?髪飾りと同じ色だとどこまで髪でどこから飾りなのかわからんだろうが」
「武器を持って出てきたのもそうだ。口答えもしたな?お前は召喚士に対する礼を欠いている」
エーデルガルトの武器を握る手には、不思議と力が入らない。だが、理不尽への怒りは十分に高まっていた。
「だったら送り返せばいいでしょう!」
「口答えするんじゃない!!!!!!」
目の前に瞬間移動したエクラの左手がエーデルガルトの頬を張った。召喚士の支配を差し引いても、反応できない速度だった。エーデルガルトは数メートルふっ飛ばされて床を転がった。目立ったダメージはないが、皇帝ポイントが下がった。
「私に、どうしろというの……」
反抗の気勢も削がれ、ゆっくり起き上がったエーデルガルトは、呟くように言う。
「お前を消す方法」
「知らないわよ、そんなもの」
「嘘をついたな」
「えっ?」
「"望むものが何であれ、それに応えられる"と自分で言っただろう。すごいな、お前は自分の言葉に責任が持てない皇帝なのか?」
言い返せず、悔しさその他の感情が入り混じり、顔を赤くして俯く。
「だがそれでもいい。お前にチャンスをやろう」
「チャンス……?」
「俺の故郷には、子供向けのとある罰が大昔から伝わっていてな。それを課す。終わったら、お前を一人前の皇帝と認めるし、この城、この軍で重用してやる。なんなら、戦いが終わった暁には一番いい土産を持たせてやっても構わん」
落としてから不自然なまで上げる召喚士の口ぶりに、エーデルガルトも少しは疑いを持ったが、"子供向けの罰"という部分は本当だろうと感じられた。
褒賞はなくてもよかった。この状況、位置から解放されることが最大の望みだった。
「わかったわ。すぐにでも始めて頂戴」
エーデルガルトは、希望と対抗心を持って、不敵な笑みを浮かべてみせた。
……
アスク王国、王城の近く。夏なら泳いで遊べるような、広く澄んだ川の岸辺で、エーデルガルトはへたり込んでいた。
涙目のまま、河原の石をひとつひとつ集めて積み上げる。召喚士の男――エクラが、積み上げられた石を蹴り飛ばした。水面でトプンと音がする。
「うあ……」
エーデルガルトが意味のある言葉を発さなくなってから、数日が経っていた。
終わらないという罰の終わりを、心の半分で渇望し、心の半分で諦めながら、エーデルガルトは泣いていた。
FEHの皇帝バージョン実装記念です。