頭ベレトかよ   作:ザマーメダロット

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 あなたのベレトです。責任を持ってお持ち帰りください。なにせ最終話ですので。


ハロウィン記念最終話V-MAX 紋章を賭けて

 3週間に短縮された謹慎が謎の力で1日まで追短縮された後のある日。

 

「本日は午後の授業は無し。代わりにレクリエーションを行う」

 

 午後の授業開始間もなくにそう言いながらベレトが教室内の生徒に配布したプリントには、以下の文言が記されていた。

 

『第一回・頑丈自慢借り人選手権大会

 終業の鐘までに修道院敷地内より当人の承諾を得て訓練場まで同行させ、その人物がベレトの徒手(武器・魔法を使用しない)による攻撃1回を受けて耐えられた場合、連れてきた者と借り人を合格とする。

 判定実施は一括して終業時より開始する。

 耐えられたと判断する基準は、地面に立った状態で攻撃を受けてから3秒間、足を1歩も動かさないこと。

 防具・道具の使用は認めるが、武器・魔法の直接攻撃による迎撃・反撃は認めない。

 借り人となる人物の所属・年齢等は問わないが、依頼の際に迷惑をかけないこと。』

 

 ペトラとカスパルが手を挙げた。

 

「ペトラが早かった。どうぞ」

「所属、問わない、書かれます。他の学級の生徒、参加する、できますか?」

「いや、話は通してあるんだ。同意さえ得られるなら誰でもいい。次、カスパル」

「これ、自分を借り人にするのってアリなのか?」

「認めるが、恐らく不利だぞ」

 

 ベレトが言い終わる前、カスパルの机を前にいるエーデルガルトがトントンと叩き、"それだけはダメだ"とでも言うように忙しなく首を横に振ってみせた。その必死さに対してのニュアンスも含めて、カスパルは眉根を寄せた。

 

「なんでだよ? 少なくともエーデルガルトは結構有利じゃね?」

「は?」

 

 突如エーデルガルトとすり替わった覇王の無表情の眼光に射竦められ、カスパルは黙り込んだ。それを確認した覇王はエーデルガルトを残して現世を去った。

 

「先生、いいだろうか」

 

 フェルディナントがもう一度手を挙げた。

 

「どうぞ」

「ここには大会とか合格とか書かれているが、褒賞の類はあるのだろうか? 連れてくるにしても、タダで首を縦に振る人間はそういないだろう」

 

 言われて、ベレトは思い出したように手を打った。

 

「あっ、すまない。そういえば書き忘れていたな。合格者には豪華なおやつ――」

 

 今日はどんな奇天烈が襲い来るかと身構えていたエーデルガルトは、どうやら比較的マシな日らしいと内心ホッとした。

 

「――か、紋章1つの希望する方を贈呈する」

 

 そして椅子から転げ落ちた。

 びっくりしたベルナデッタも転げ落ちた。

 

「先生、わたしも参加していいんですよね!」

「ダメだ」

(……っていうか、ツッコミが追いつかないんだけど。何これ?)

 

 リシテアがとぼとぼと自分の教室に帰る様子を見送りながら、リンハルトは思った。

 

 

……

 

 

 午後2時過ぎ、ハンネマンが路上で失神し、医務室に運ばれた。

 事情を訊かれたフェルディナントは"世間話がレクリエーションの話になって、そうしたら急に倒れた。私は何もしていない"と供述していた。

 

 

……

 

 

 終業の鐘が鳴り、訓練場。

 珍しく一般利用者がいないのは、"授業にて使用中、間もなくの終了まで関係者以外の立入禁止"の張り紙によるものだった。

 1名を除いて黒鷲の学級(アドラークラッセ)生徒は勢揃いしており、そのさらに1名を除いた全員が借り人を連れてきていた。

 

「カスパルがいないみたいだが」

「レア様を連れてこようとしてセテスさんに連れて行かれたそうだ。何を考えていたんだか……」

 

 頭を抑えながらそう説明したのは、エーデルガルトの借り人となったディミトリ。以前ベレトが度を越した訓練を課したと知るエーデルガルトならではの人選だった。

 

「そうか、残念だ。じゃあ、順番に人選の理由と、借り人は意気込みを語ってくれ。右端のペトラから」

「はい。シャミアさん、戦場、選ぶ、選びません。生き残る、耐える、得意、思います」

「別に自分がタフだと思っているわけじゃないんだが、防具ありで拳か蹴り一発だろう? 流石にそのくらいは余裕だ」

「鉄の盾持参な辺り、勝ちに来ているのが伺えるな」

「当然だ。油断した、なんてのは負けた言い訳にならないからな」

 

 腕を組み、短い黒髪の女性・シャミアは、言葉通り余裕の笑みを浮かべた。女だてら傭兵上がりの教師であり、現セイロス騎士団員。弓の腕では修道院中探しても右に出る者はない。

 

「次、フェルディナント」

「語弊を恐れずに言うと、本命はアロイス殿だったのだが、先を越されてしまったのでな。"豪華なおやつ"は肉料理も可だと先生に確認が取れたので、めでたくラファエルに来てもらった」

「オデの筋肉と、先生の筋肉、どっちが強いか勝負だ!」

「受けて立とう。どちらが勝っても恨みっこはなしだぞ」

「おう!」

 

 両拳を握り、屈託のない笑顔の眩しい金髪の巨漢、ラファエル。これでも金鹿の学級の生徒であり、同時に指折りの肉体派である。

 

「次、ドロテア」

「ええと、私はそんなつもりで話したんじゃないんだけど、グリットちゃんどうしてもって聞かないから……」

「立派な騎士になろうという人間が、たとえ先生でも徒手の相手を怖がってなんていられませんから」

「よだれ」

「えっ!?」

「嘘だ」

「えっ……もう!」

 

 ベレトに言われるまま口元を拭ってしまった、長い金髪を緩く1つに編み纏めた女生徒がイングリットは、兄に憧れ騎士を志しており、それが参加の動機に繋がっていた。

 大食らいとして知られる人物でもあるが、それについてはドロテアには語られなかった。

 その1つ横から、エーデルガルトは親近感を帯びた視線をイングリットに注いでいた。

 

「次、エーデルガルト……は飛ばして」

 

 そしてずっこけた。

 隣でディミトリが少し残念そうに息を吐いた。

 

「ヒューベルト」

「英雄の遺産持ち以上の適役はいないかと存じましてね」

「シャミアがいるんならちょうどいいや。鎧は着てるけど、盾がない分こっちの方が条件は悪いし、両方合格でもこっちが一本ってことで」

 

 続く金髪に浅黒い肌の女性が、修道院卒業生にして騎士団員のカトリーヌ。シャミアとはコンビを組むことが多く、時々対抗意識を燃やすところも見られていた。

 

「気が早いな」

「そっちこそ、アタシを舐めてねえだろうな?」

「ご想像にお任せして、次、リンハルト……は意外にも自力の申告があった」

「何、辞退ではないのか!?」

 

 言ったフェルディナントのみならず、参加者一同にどよめきが走った。

 

「静かに。本人が借り人扱いとのことなので、理由と意気込みを述べてくれ」

「向いてそうな人が誰も彼も引き抜かれてたんじゃ、こうするしかないでしょう。歩いて修道院を回らなきゃいけないんだから、その時点で僕が不利だったんですよ。ダメ元でルールについて確認してみたら、なんとかなりそうにはなりましたけど」

「リンハルト、悪いことは言わないから辞退しなさい。命が惜しくないの?」

「先生はちゃんと加減するって言ってたよ」

「え……そうなの?」

「そうだぞ」

 

 拍子抜けした顔のエーデルガルトに向かってベレトが頷いた。

 

「な、なんだ……」

(じゃあ私が自分で出ても……いやそれはやっぱりダメそうね)

 

 ベレトの自分への謎の当たりの強さを思い出し、エーデルガルトは思い直した。

 

「持参した鉄の盾の使い方については事前に聞いた通りにしてもらって構わない。健闘を祈る」

「お手柔らかにお願いしますよ」

 

 何も返さず、ベレトは次へ視線を動かした。

 

「次、最後。ベルナデッタ」

「は、はい」

「ベルナデッタ」

「はいっ」

「ベルナデッタ!!1」

「ぴいっ!」

 

 ベレトの急な大声に耐えかねてベルナデッタが隠れたのは、人の良さそうな、見るからに騎士らしい格好で、体格のいい壮年の男――アロイスの背中だった。

 

「むう……先生、選ばれた理由についても私から説明していいだろうか?」

「ダメだ」

 

 にべもなく首を横に振るベレトの反応に、アロイスが背後を見た。

 

「ベルナデッタ殿、先生がそれほど恐ろしいのか?」

「は、はい……たまに……」

「よくわからんが……どうしてもダメなのか?」

「……」

 

 ベルナデッタ呼吸を整えた。

 

「も、もう大丈夫です、多分……」

 

 そうしてアロイスの前に出たベルナデッタの名を、ベレトが呼んだ。その顔を、ベルナデッタは真っ直ぐ見た。

 

「はい!」

 

 幾分威勢のいい返事に、アロイスは関心して、ベレトは認めるようにして、頷いた。

 

「よし。人選の理由を述べよ」

「ペトラさんに譲ってもらいました!! あっ」

 

 列の端でペトラが目を覆い、途端、ベルナデッタは普段の弱々しさを取り戻した。

 

「ご、ごめんなさい……今のなかったことに……秘密って約束で……」

「問題は当事者同士で解決するように。アロイス、意気込みをどうぞ」

「なんだかそういう空気ではない気もするが……とにかく! たとえジェラルト殿の息子であろうと、私は決して膝を折るつもりはないぞ! 覚悟しておけ!」

「ありがとう。ここでルールの確認だが、1歩動いた時点で失格判定だ。各々勘違いのないよう気をつけてくれ」

 

 一呼吸置き、ベレトは参加者全体を見回した。

 

「では、第一回・頑丈自慢借り人選手権大会を開始する。質問はあるだろうか?」

「もちろんあるぜ」

 

 真っ先に切り出したのはカトリーヌだった。

 

「優勝……じゃなくて合格か。豪華なおやつか紋章1個とか言ってたらしいけど、実際は紋章がどうこうはジョークなんだよな? ヒューベルトがいやにマジだったんだが」

「俺は嘘はつかないが、確認しておこう。冗談だと思っていた者は手を挙げてくれ」

 

 きょとんとした顔のベルナデッタを含め、エーデルガルトとヒューベルト以外の全員が手を挙げ、互いを見合わせた。

 

「ディミトリ、貴方まで!?」

「いや、紋章は受け渡せるものではないだろう」

「ああ……あれほどの目に遭って、どうしてわからないの……」

 

 真顔で返したエーデルガルトはディミトリを心配し、ディミトリはエーデルガルトの頭を心配した。この場にいるうちの何人かが、エーデルガルトやヒューベルトを見る目を変えた。

 

「手を下ろして。何であれ、俺は嘘はつかない。回答は以上だ」

「……もしかして、"誰にも合格させないから何言ってもいい"ってことか?」

 

 カトリーヌのこめかみに薄っすら青筋が浮き出た。

 

(上等じゃねえか……!)

「他に質問は? ……ないようなので、これで打ち切る。借り人は訓練場中央に両手がぶつからない程度に間隔を空けて並ぶように。借り人以外は可能な限り俺から離れて見ていること」

 

 エーデルガルトとヒューベルトに戦慄が走り、ディミトリはいつかベレトの魔法を受けた際味わった奇妙な感覚を想起し、いずれも冷や汗を額に滲ませた。

 

 

……

 

 

 借り人が指示通り列に並んだ後、ベレトはその列の中央から垂直方向に5、6メートルは離れた位置に立った。

 

「攻撃を開始する!」

 

 訓練場全体に響くよく通る声が放たれ、その場にいる全員が困惑し、あるいは未知の恐怖に覚悟しようとした。

 借り人たちはそれぞれ、これから何が起こるのか理解できないながらも、油断なく耐える構えを取った。

 

 中でもリンハルトは"武器・魔法での直接攻撃は禁止だが防具は持ち込める、よって風魔法で盾を飛ばして拳の威力を殺すのは可"と事前確認を取っていた。

 そのプランが恐らく崩壊することを察知してなお冷静に頭を回転させた結果、重心を低くしようと膝と腰を曲げ、盾を立てて地面につけて杖とした。

 

 

 ベレトは足幅を広く取って視線は斜め前下にして腕を振り上げ、その拳からは大岩同士が押し付けられて互いを削り合うような音が響き、それを聞いたもの全員の生存本能が"逃げろ"と大音声で叫び始めた。

 訓練場の端で誰かに許しを請いながら固く閉ざされた入り口を掻きむしるエーデルガルトを、ヒューベルト他数名が必死に抑え込んでいた。

 

 そしてとうとうベレトの拳が瞬く間に地面に叩きつけられれば波紋のように広がる爆風を生み出し、更には訓練場に留まらず大地全てを揺るがした。

 この揺れで医務室のハンネマンが目を覚まし、何かの始まりと終わりを予感した。特に事件が起きたわけではなかったが、強いて言えば訓練場が終わり、ベレトの謹慎が再び始まった。

 

 

 

 

 第一回・頑丈自慢借り人選手権大会

 

 合格者――0名

 死傷者――0名(ベレトにより瞬間的に完全治療済)

 次回開催――無期限凍結

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